報告2:現下の雇用失業情勢と雇用対策について
雇用問題を考える —雇用の安定と創出に向けて
第38回労働政策フォーラム(2009年3月6日)

現下の雇用失業情勢と雇用対策について

小川 誠  厚生労働省職業安定局雇用政策課長

本日は、現下の雇用失業情勢と雇用対策について、まず昨年のリーマンショック以降、雇用失業情勢が非常に悪化しているという現状の話を申し上げた後、そのために現在、厚生労働省がどういう施策を実施しているかについて、ご説明しようと思います。

厳しさ増す現下の雇用失業情勢

図表1は現下の雇用失業情勢を示す際によく使われる情勢グラフです。この図の網かけ部分が、内閣府が景気後退期と判断した時期になります。また、太い実線は有効求人倍率、細い実線は完全失業率を示しています。

図表1

この図をご覧になると大体わかるとおり、有効求人倍率は景気の一致指標ということで、今までは、ピークから下がったときに雇用が網かけになっています。一方、完全失業率は、過去の景気後退期においては、景気後退の底を打ってから若干遅れてピークを迎えています。遅行指標として、景気よりやや遅れてピークを迎える形になっています。

そこで現状を見ますと、今年1月の完全失業率は 4.1%、有効求人倍率が0.67倍となっていて、特に有効求人倍率は対前年同月で0.06ポイント低下と、ここ1年間で大幅に下っています。完全失業率は若干のでこぼこがあって、今年1月は昨年12月より0.2ポイント下がって改善しましたが、それでも基本的には上昇トレンドにあると考えられております。とくにハローワークにおける事業主都合離職者を見ると、1月は対前年同月比で129%の増加となっています。事業主の都合で離職されてハローワークに来られている方が、去年の倍以上になっているわけです。

日銀短観を見ても雇用過剰感が高まっていますし、1月の倒産件数も増えているなど、全般的に言えば雇用失業情勢は厳しい。そして、過去の経験によれば、おそらくこれらが下げ止まらないと景気も下げ止まらない。完全失業率もしばらくは上がり続けることが予測されますので、今後も非常に厳しい状況が続くと考えています。

非正規労働者の雇止め・解雇状況

今回、とくに雇用景気後退期の特徴として、新聞・テレビなどでクローズアップされている問題に、いわゆる非正規労働者の雇止めの問題があります。

非正規労働者は、ここ5年、10年でとても増えています。とくに、製造業で派遣労働が解禁されて以来、製造分野においても非正規の人の割合が高まっています。そういった中での景気後退の結果として、各労働局から報告を受けたところによると、昨年10月から今年2月、3月において、期間満了等において雇用調整を実施もしくは実施予定は15万7,806人でした。1月段階の数字は約12万5,000人でしたので、約3万3,000人増えています。これを就業形態別でみると、やはり派遣が一番多く、その次に期間工での契約になっています。ただし、雇用保険については、多くの人が加入しているようです。

これを産業別でみると、製造業が大半を占めています。そして、さらに細かく見れば、派遣などにおいては期間満了で契約を解除される人よりも中途解除が多いとか、期間工については期間満了での雇い止めが多いといった特徴がありました(図表2)。

図表2

雇用安定と生活支援対策

こういう非正規労働者の方は、いわゆる派遣会社とか業務請負会社などが、いわゆる社宅、給与住宅を提供しているケースが多いので、雇い止めなどによって離職された場合は住居も同時に失ってしまうことが多く、職も住居も一挙に失うことが大きな社会問題になっています。そこで、私どもとしても昨年来、雇用の安定と生活支援対策として一次補正、二次補正、またその一部は21年度からの本予算ということで、さまざまな施策を考えているわけです(図表3)。

図表3

まず、住居・生活の支援では、例えば、雇用促進住宅の入居あっせんとか資金貸付を行っていくということで、12月15日から全国のハローワークに特別相談窓口を設置し、離職に伴い、住まいにお困りの方の相談を受け付けています。

また、雇用促進住宅に入居あっせんをしているということで、22日からは労働金庫経由で最大186万円、雇用保険を受給していたら60万円程度の貸付を行っています。

事業主に対しては、離職しても、会社の用意する寮とか社宅に住まわせ続ける場合について、4~6万円程度の助成をすることによって生活・住宅支援を行ってもいます。雇用維持への助成では、とくに中小企業の場合、手当等の5分の4を助成することで、解雇せずに休業とか教育訓練・出向で雇用を維持した場合については、支払われた賃金・手当の中小企業は5分の4、大企業では3分の2を補助する雇用調整助成金制度を拡充するとともに、また、対象労働者を拡大して、雇用期間が6カ月未満の労働者も対象とする。

この雇用調整助成金の支給は、支給事務の簡素化や要件緩和を行っていくこともあって、非常に伸びています。1月は80万件を超える申し込みがありますし、昨年12月も10万件で、前年比で100倍以上に急増しています。これによって、一定の雇用の下支えはできている状況にあります。他方で、内定取消しも増えていますので、取消にあった方については学生職業センターに窓口を設置して相談を行っていくとともに、1月に省令を改正して、企業名を公表できるようにしています。

雇用創出のための基金を創設

雇用創出については、二つの基金を創設するということで、単年度では過去最大の4,000億円の基金を今つくっているところです。一つは地域で自発的に資源をうまく生かして継続的な雇用を可能にするような「ふるさと雇用再生特別交付金」で2,500億円。もう一つ、つなぎ雇用的なものとしては、「緊急雇用創出事業」で1,500億円を考えています。

図表4が今回つくった二つの基金の概要です。「ふるさと雇用再生特別交付金」はどちらかというと長くできるようなことで、基本的には1年以上の雇用が前提になっています。労働者と原則1年以上の雇用契約を結んで必要に応じて更新を可能とする。一方、「緊急雇用創出事業」は、どちらかというと短期のつなぎ雇用的な事業です。基本的には、雇用期間は6カ月未満で、自治体などが直接雇うことも可能といった事業を考えています。

図表4
図表5

他にも、中小企業に対する雇い入れの助成、例えばフリーター等を正規雇用した場合や派遣労働者を直接雇用した場合に、大企業で50万円、中小企業で100万円の助成をすることを、離職者訓練の助成に関しても、規模の拡大や期間の延長、訓練期間中の生活保障給付制度の拡大を行っていきます。

それから現在、雇用保険法が国会でご審議いただいておりますが、雇用保険法の改正などの中で適用範囲の拡大とか給付日数を特例的に60日間増やすなどのセーフティネットの拡充を盛り込むことを考えています。図表6は雇用保険法の改正の概要です()。図表7は、こういった雇調金制度の見直しなどの施策によって、今年度のはじめから現在までにどれぐらい条件が緩和したり助成度が高まったかの資料です。労金系の貸付が3,793件、雇用促進住宅は4,524件が入居しているということです。

図表6
図表7

離職者訓練の拡充も実施

離職者訓練の拡充については、一つはパイを増やすということで緊急に3万5,000人を増やす。平成21年度は全体で4万人増やす計画で、とくに長期訓練を実施します。今までは原則3カ月の訓練でしたが、例えば介護分野などは2年間訓練すれば介護福祉士の資格が取れるし、6カ月訓練すればホームヘルパー1級の資格が取得できるといった長い訓練を導入する。また、IT関連も6カ月やればJavaのプログラミングができるということがあります。同時に3カ月訓練も拡充することも行っていきます(図表8)。現在、こうしたさまざまな雇用対策を実施して、雇用の下支え、セーフティネットの強化などを行っていくことに取り組んでいるところです。

図表8

(注)改正雇用保険法は3月27日、参院本会議で可決、成立した。施行日は3月31日。