厳しさ増す雇用情勢:第38回労働政策フォーラム
雇用問題を考える —雇用の安定と創出に向けて
(2009年3月6日)

経済情勢と雇用

藤井 宏一   JILPT統括研究員

厳しさ増す雇用情勢

資料の図表1は経済成長率の推移です。ご案内のとおり、景気が非常に悪化しており、実質GDPが3四半期連続で減少しており、とくに昨年の10~12月期は年率10%以上の大幅な減少になっています。

図表1

今回の景気拡大期は、輸出を中心に企業側の投資、つまり外需、企業中心の景気拡大であり、個人消費とか内需が弱かった。そういった中での世界金融危機で、世界経済全体が非常に落ち込んだことから、輸出生産が大幅に落ち込んでしまった。そういうなかで今、雇用情勢も大変厳しさが増してきた状況です。

図表2をみれば、直近になって生産指数が大幅に減少していることがわかります。この落ち方をみると、過去に比べて昨年年末から一気に影響が出てきていて、残業時間もここで大きく落ちています。新規求人は景気に先行して動きますが、今はすでに減少しています。

図表2

過去は大体、生産や求人、残業時間が落ち込んできますと雇用の伸びも鈍化・減少する状況が起こっています。これから、雇用面の厳しさが一層増すことが見込まれます。

ところが、雇用と就業の増減をみると、とても厳しい分野がある一方で、比較的堅調な分野もあることがわかります。全体の就業者、雇用者はかなり減少していますが、業種でいうと医療・福祉関係とかサービス関係は比較的まだ堅調です。とくに医療・福祉はかなり大幅な増加が続いているわけです。規模別では、とくに中小企業が非常に厳しい状況になっていますし、自営業者もかなり大幅に減っています。

一方、雇用形態別にみると、非正規社員も雇用情勢が厳しくなってきてはいますが、これまでのところ、まだそれほど大きな減少にはなっていません。片や、倒産の増加などで正社員の減少はみてとれます。ただ、今後につきましては、両方とも動きが厳しくなってくるのではないかと見ております(図表3)。

図表3

さらなる悪化が懸念される失業情勢

図表4に完全失業率と有効求人倍率の推移がありますが、それをみると、求人倍率が大きく下がってくる中で失業率も昨年から上がってきているのですが、まだ過去最高のところまでは達していません。ただし、先ほどの経済情勢の動きからしますと、失業率が一段と上がっていくことが非常に懸念されているところです。

図表4

失業者の中身を正社員と非正社員別にみて、雇用者に占める失業者の割合がどれくらいになっているかをみたのが図表5です。失業者数自体は、正規社員の失業者が非常に多いのですが、失業者割合の上がり方をみると、派遣労働者が昨年に比べて上がってきていることがわかります。正社員は分母の人数が多いこともあって、失業者割合の上がり方も緩やかです。派遣社員の雇用問題がかなり議論されていることが、数字としても現れてきているのではないかと思われます。

図表5

地域の雇用情勢も非常に厳しくなっています。1年前は求人倍率が1倍を超えている地域も結構ありましたが、今は各地域とも1倍を下回っています。とくに東海地域の動きが顕著です。ここはトヨタとか自動車関連が非常に好調だったのですが、ご案内のとおり、自動車不況でこの1年に大幅に求人倍率が低下してきています。昨年は製造業関連で調子がよかったところの雇用が堅調だったのですが、逆に今は輸出が厳しくなったことで製造業が大変厳しくなり、そういう地域を中心に求人倍率の低下が目立っています(図表6)。

図表6

地域雇用創出の類型

地域雇用については、私どもの別のセクションで地域の雇用創出の類型についての整理をしています(図表7)。一番量が多くてスピードも速いのが「企業誘致型」といって大規模な工場とかを誘致してくるもの。そのためのインフラや環境整備を整えるということです。このタイプの代表的なケースは三重県のシャープの誘致です。また、例えば福岡県も自動車を誘致していますが、最近の自動車不況とか半導体、電気機器の調子が悪いため、逆にこういう地域の求人倍率は下がっています。

図表7

雇用創出が大きいもう一つのパターンとして「クラスター型」があります。これは産業界、大学、役所といった産官学が協働して研究開発を進めていくタイプで、成功するとかなり雇用創出が期待できる半面、効果が現れるまでに時間がかかるパターンです。

こういったところは、財政的な面とか環境・インフラの整備とか、かなり大変なところがあるので、むしろ地域の実情にあった小規模的な雇用創出パターンも幾つかあって、そういう取り組みも各地域で試みられています。「ベンチャービジネス型」と呼ばれるもので、こちらは北海道・札幌のIT関係が成功例としてあげられます。例えば、札幌では大学のIT関係にもともと基盤のようなものがあって、自治体が支援を行いました。

あとは、「第三セクター型」とか「コミュニティービジネス型」と言って、地元の地域の資源とかを生かしつつ半官半民のような支援基盤をつくり、そういうもので支援を図っていくことで成功している事例も出てきています。

今回の景気拡大期には、企業誘致型など結構雇用は増えましたが、逆に今ご説明した状況もあるので、身の丈にあった地域の実情にあったリソースを見つけて、それをいかにコーディネートして企画に結びつけるか。そして、そのための人材をどう育てていくかとかが、地域雇用の課題だと思います。もちろん、こういう産業や雇用について戦略を立てることも重要だと思います。そういったことについて、私どもの地域研究では、ある程度議論が出されております。

ビジネス・レーバー・モニターでの業況判断

経済環境が非常に変わってくる中で、私どもはモニター調査を企業あるいは業界について行っています。四半期ごとにモニターに対し、適時、業況の動きとかをウォッチしています。モニター調査は比較的短期間に結果がまとまるので、今回、2月に行った調査の概要をご紹介させていただきます。

図表8

まず、図表8はモニターで見た業況判断です。「雨」とか「本曇り」は景気が悪いことを指しますが、一昨年から悪化が目立っており、モニターに協力いただいた会社および業界の8割以上が景気状況を「本曇り」あるいは「雨」とみています。

業種別ごとに見た景気判断の動きですが、図表9にあるとおり、「晴れ」というか、いい業種は全然ないのですが、そういった中で「薄曇り」という相対的にみて比較的ましな業種が結構あります。情報通信関係とかサービス関係、シルバー、医療・福祉関係といった業種では、相対的に落ち込みが少ないということです。逆に、自動車といった機械関係中心の業種はかなり厳しい状況ですし、消費関係をみても小売とか百貨店は厳しくなっています。

図表9

注視が必要な正規社員の過不足状況

モニター調査では雇用の先行きも見ていて、雇用判断についても尋ねています。従業員全体で正規社員、非正規社員に分けてみると、昨年末時点ではまだ全体的にみて不足と過剰が同程度の割合だったのですが、今回は過剰超に転じてきています。

正規・非正規別にみると、正規社員も昨年末はまだ不足が多かったのですが、2月になると過剰に転じてきています。一方、非正規社員は、前回も過剰でしたが今回はさらに過剰感が高まった。ただし、正規社員も厳しさが増してきていますので、これから先は非正規社員だけではなく、正規社員も注視していく必要があります(図表10)。

図表10

雇用者の増減をみると、非正規社員の減少は大変多く、正規社員も増加と減少がほぼ同じですが、増えたとの回答がほとんどないために、こちらもやや減少の動きに転じてきています。年度末に向けて、かなり厳しさがうかがえるところです(図表11)。

図表11

目立つ一時帰休の増加

では、企業が実際にどういった雇用調整を実施もしくは予定しているかをみると、昨年末時点に比べ、各項目で比率が高まっています。一番多いのは残業規制、配置転換ですが、三番目には契約社員、臨時・パートの雇止めが多くなっています。今回は、とくに一時帰休の増加が目立っています。

また、量的な面だけではなく、賃下げとか一時金カットもある程度の回答があることから、さまざまな手段の雇用調整がとられている、もしくは予定されていることがわかります(図表12)。

図表12