報告:第37回労働政策フォーラム
総合的職業情報データべース
『キャリアマトリックス』の新展開
~若年のキャリア形成と企業における人材活用の支援に向けて~
(2009年 2月13日)

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

報告:「新キャリアマトリックス 」~研究開発とその機能~

松本 真作 JILPT 副統括研究員

労働政策研究・研修機構の松本です。よろしくお願いいたします。

お手元に配付の資料と、パワーポイントを使って、新版キャリアマトリックスについてご説明していこうと思います。

まず「キャリアマトリックスとは」というところですが、一言で申し上げますと、インターネットで一般公開している職業情報のサイトです。毎月200万程度のページビューがあります。大学のキャリアセンター、各種の相談機関、求人サイトなどに多数のリンクが置かれています。機構としまして、これまでは、「職業ハンドブック」というような冊子ですとかCD−ROMのような媒体を出していました。また、若者向けのより分かりやすく、絵などを多用した「OHBY」といったものを作ってまいりました。

キャリアマトリックスの主な機能は、職業情報の提供とこれに関係するツールです。関係ツールには、適職を探索するもの、あるいはキャリアを分析するものなどがあります。キャリアマトリックスについて詳しい方もいらっしゃると思いますが、初めてご覧になるという方もいるかもしれませんので、全体としてどういうものかということもご説明しようと思います。

開発の方法としまして、日本初、世界初、というような方法も使っており、使う方も、どのように作られているかというところが分かりますと、使い方の応用がきくというところもあると思いますので、そのような意味も含めて、まず、開発の経緯というところをお話ししようと思います。続いて2008年の9月から公開中の「新版キャリアマトリックス」の特徴を紹介した上で、最後に、キャリアマトリックスの基本的な役割と今後の課題についてお話ししようと思っています。

キャリアマトリックス開発の経緯

2000年当時は、諸外国政府による職業情報サイトに関する事例研究をしておりました。ドイツ、フランス、北欧などの国々の中で特に参考にしたのが、アメリカ労働省のO*NETというシステムです。

03年3月、厚生労働省の職業情報データベース検討会議において開発方針が決定をされたことを受け、03年度からシステム・プログラムの開発、中身である情報の収集、編集を開始しました。06年9月には前の版での一般公開を開始し、08年9月からは新版キャリアマトリックスということで、機能、内容をバージョンアップしたものを公開しています。

システム・プログラムの開発は、まず開発委員会において、大きな方針や方向性を決定・検討しました。そしてJILPTの研究員、開発会社の技術者などで構成されたプロジェクトメンバーで詳細な検討をほぼ毎週、のべ200回以上行い、細かい仕様を決定していきました。

次に行った専門機関によるユーザビリティ・テストでは、実験室のような形で、色々な人に自由に使っていただき、細かく観察し、記録していきました。スムーズに使えるか、間違った使い方をしていないか、誤解はないか、見てもらいたい機能や内容を見ないというようなことがないか、といったことをチェックし、問題があれば、開発の過程で見直していきました。

公開前にはベータ版という形で公開し、ハローワーク職員の方、あるいは職業相談機関の方、大学の方にモニターになっていただき、試しに使っていただくなど、ご協力をいただきました。

システム・プログラムについては、今お話ししたような形で開発をしたのですけれども、中に入れる情報をどのように収集してきたか、ということについて次にお話します。

情報の収集には3つの方法がありました。まず「職業ハンドブック」等の作成の過程で収集してきた、既存の膨大な資料を使いました。二つ目に、職業別の団体等を600カ所程度訪問し、最新の情報を収集しました。三つ目に、Webモニターを使った調査(Web職務免許資格調査)を行いました。

このWeb職務免許資格調査については、少し詳しくパワーポイントのスライドで説明していますが、日本にはインターネットのWebモニターという方が膨大な数おられます。300万人近くのモニターの方に対して、Step1として、「どういう仕事についていますか」と聞きます。そして情報収集をした700の職業に就いている方の内、50名の方に次のStep2に進んでもらいます。

Step2では、職業の情報を細かく聞くということをしております。まず職業毎に作成した課業リストを選択してもらい、選択肢にない場合は記述してもらいます。それからスキルとか知識とか仕事環境を5段階で評価してもらいます。この評定値によって職業を多面的に数値化することができるようになっています。そして、免許や資格、基本的な属性といったものを聞きます。このようにして情報を収集しました。

新版キャリアマトリックスの特徴

(1)利用者別メニュー

今回の新マトリックスの大きな特徴の一つに「利用者別メニュー」を用意したことがあります。これについては実際の画面を見ていただき紹介をしていきたいと思います。当機構のホームページにキャリアマトリックスのバナーが置いてあります。こちらをクリックしていただきますと、トップ画面が出てきます。「一般の求職者、在職者向け」、「生徒・学生・若者向け」、「教育とキャリア相談担当、専門家向け」、「企業の人事担当者向け」と、利用者別の4つのメニューがあります。

このうち、「生徒・学生・若者向け」を見ますと、まず「職業検索」とあります。これはフリーワードや分類、あるいはテーマで職業を検索するという機能です。

次の「職業ギャラリー」は写真が出てきて、興味を持った写真から職業を見つけるというものです。

次の「ジョブタウン」には仮想の街並みの画面が出てきます。幾つかのエリアに分かれており、エリアの中で、駅前商店街というのを選びますと、お店が出てきて、その中の一つをクリックすると、そこで働いている職業が出てくるというものです。今、レストランをクリックしましたので、レストランに関係する職業が出てきております。

「適職探索ナビ」というツールも用意してあります。これは06年版からあったものですけれども、興味とか価値観、あるいはスキルに関する、簡易な自己診断のテストが入っています。テストに回答すると、こういう興味や価値観であれば、あなたにはこういうような仕事が向いてそうです、という結果が出てくるものです。

これらのツールはその利用者が使う順番に並んでおります。将来的には、メニュー毎に機能を特化させ、たとえば「生徒・学生・若者向け」であれば、さらに易しく親しみやすいというような形に進化させたいと思っています。

(2)職業情報の内容

キャリアマトリックスは、約500の職業情報を網羅して提供しており、世の中の職業のかなりの部分をカバーしています。トップページには、アクセスランキングというものがあります。これはアクセスがあった職業を集計し、多いものから順番に表示するものです。今回は、7番目にあります看護師を例にして、職業ごとの情報内容、構成を見ていこうと思います。

最初は「どんな職業か」です。ここには、職業の写真、働いている現場の写真が載っています。さらに「類似の職業」として看護師に類似する職業が載っています。また「利用者ビュー」は新版から登場した機能で、看護師を見た人が、看護師の他にこういう職業も一緒に見ていますよというものです。

第二が「就くには」です。ここでは看護師に就くためのルートを紹介しています。

第三は「労働条件の特徴」です。ここでは色々な統計を加工し、見やすく提供しています。

第四が300万人近くのWebモニターを使って数値を集めた「職業プロフィール」です。ここでは、それぞれの職業を興味、価値観、スキル、仕事環境の面で数値化して、プロフィールとして表示しています。数値化することによって、この職業とこの職業は近いとか、診断テストを行った結果、こういう職業が向いているはずといったことができることになります。

(3)携帯サイト版キャリアマトリックス

今まではインターネットで見るパソコン版のキャリアマトリックスをご覧いただいたのですが、厚労省の若年向けの就労支援の携帯電話用サイトが近日、立ち上がることになっていまして、その中で「キャリアマトリックス・モバイル」として、職業情報についてのコンテンツを提供することになっています。

今、画面の一部が出ており、また看護師を取り上げています。写真と概要がありまして

「就くには」となっています。携帯電話で利用するため、あまり文章を長くできません。簡潔で短い文章で概要と、就くにはどうすればいいかというようなことが分かるようになっています。大体でき上がっておりますので、近々、見ていただいたような形で、皆さんに提供されることになると思います。

キャリアマトリックスの基本的な役割と今後の課題

これまでキャリアマトリックスの機能について具体的な画面を使って紹介してきましたが、最後にキャリアマトリックスの基本的な役割についてお話しようと思います。

キャリアマトリックスの基本的な役割は、個人、企業、そして社会に対して、基盤となるきちんとした具体的な情報を提供し、役立ててもらうことだと思っております。

個人向けには、就職時に仕事を選ぶときに役立つ情報の他、キャリア開発や能力開発に関しても、どういう方向でどういうことをすればよいか、どのような方向で、こういうことを学べば、役に立つといった情報を提供しています。

企業向けには、求人時に的確な人材を採用するために必要な情報の他、企業が人材を開発する、あるいは人材を活用するという面でも、この仕事はこういうようなスキル、こういうような知識が必要です、というような情報も提供しています。

社会全般に対しては、人的資源の開発と活用を進めることで、人材を最適に配置でき、国際競争力の強化につながると思っております。

一方、きちんとした具体的な情報を提供するには、吉田特任教授の話にも出てきました共通言語、共通基準の提供が重要な要素となります。世の中、中々職業名自体も共通のものが無い状況ですが、共通の職業名と共通番号、すなわち職業分類も共通言語と言えます。

そして、関連する用語の共通化も重要です。キャリア開発、能力開発、人材採用等に用語が様々ありますが、中々共通化が進んでいません。キャリアマトリックスは共通の用語を提供する役割を果たし、さらに普及することによって、これこれのスキルがこの程度というような、基準の共通化が進み、さらに将来的には、標準スキル分類とか、標準知識分類とか、標準仕事環境分類等々、共通分類が作られていくと思っています。

このように言いますと抽象的な感じがしますが、開発の当初参考にしたアメリカ労働省のO*NETプロジェクトの中でも、「O*NETの役割は共通言語(common language)だ」と言っており、同じ方向で進んでいるということが言えます。

また、ツールの提供において、自己診断、キャリア分析、人材採用といった場面で活用できる基盤ツールを提供するというところも、一つの基本的な役割と言えると思います。重要な役割です。世の中にはいろいろなツールがありますけれども、インターネット上のツールは、キャリアマトリックス以前はしっかりしたものがありませんでした。

キャリアマトリックス開発の過程では、Webモニターを使うという新しい方法を使って情報を収集してきました。さらに利用者による膨大なアクセスを分析することによってこのような傾向があるとか、企業がこのような人材に関心があるといった情報も収集できます。Webを通じた膨大な情報収集と、アクセスを分析して傾向を調べるという二つをあわせて、情報収集機能もキャリアマトリックスの基本的な機能と言えると思います。

最後に今後の課題としては、まず基盤機能の充実、強化をし、次に周知、広報を通じて利用を拡大させることが必要です。キャリアマトリックスは、良いシステムだと思いますので、広く使っていただき、利用活用事例なども集めていきたいと思っております。