パネルディスカッション:第34回労働政策フォーラム
高校生のキャリア教育と就職支援を考える
―学校・企業・ハローワークの連携の中で―
(2008年10月 6日)

BLT本文PDFより

さまざまな変化や課題に直面しながら高校生の就職支援に積極的に取り組んでいるハローワーク、高校、企業の事例を紹介するとともに、三者間の連携強化やキャリア形成支援のあり方について議論する。

パネリスト・出席者
内田 純
株式会社アンテンドゥ 商品部長・人事部長
土方 聖志
高知県立高知東工業高等学校 進路指導部長
斎藤 忍
埼玉県立浦和商業高等学校 進路指導部主事
山田 孝樹
ハローワーク浦和 上席職業指導官
長須 正明
東京聖栄大学 専任講師
コーディネーター
小杉 礼子
JILPT 統括研究員

第一部 学校・企業・ハローワークからの報告

現場からの報告(1):20081016フォーラム

採用活動と教育研修は手づくりで

内田 純・アンテンドゥ商品部長・人事部長

内田人事部長:20081016フォーラム

内田人事部長

当社は、神奈川、東京に25店舗、営業しているパン屋です。現在、年商は約30億円。昭和60年、三越からの依頼で三越池袋店に「アンテンドゥ」というブランドをつくって進出したのがスタートです。「アンテンドゥ」という社名は、フランス語でアンテナ2本という意味です。お客様の声を受信するアンテナと、それをパンに変えて発信するアンテナを持つ「パン食文化情報発信基地」をイメージしています。

コンセプトは起業時から変わっていません。焼きたてのパンがあふれる「ブレッドシティ」と、お客様が「参加・体験・提案型」を楽しんでいただくこと。そして、「六感販売」といって、人間の動物的本能の五感プラスわれわれ働く者の心の感性である「喜んで仕事をしている」ということを、どうお客様に伝えていくか。その三つをいつも考えながら仕事に従事しています。また、熟成発酵と石窯利用による手づくりを大切にしていく考え方から、社員教育もできるだけ手づくりを大事にしています。

全従業員の75%を占める高卒採用者

そんな当社ですが、今まで25年間、高校新卒を中心に採用活動を行い、社員数110人中82人を高卒採用者が占めています。ここ5年間の高卒者採用の実績としては、平成17年度、21年度に24人を採用しました()。

表の赤字部分は退職者数で、とくに今年度は25人採用した新入社員のうち、すでに7人辞めています。採用人事は、私がほとんど一人で担当しておりますので、現場からは「どうしたんですか?内田さん」などの苦情を受けています。

介在の余地ない若手人材の早期退職

表:20081016フォーラム

他方、退職した人からは、ある日突然、人事担当の私自身に、「今日でやめさせていただきます」とのメールが届きます。驚いて本人に確認すると、「もう親と話して決めましたから」と言われてしまう。問題は、ここに会社サイドの介在する余地がまったくないことです。

また、「通勤時間があまりにもかかり過ぎる」といった退職理由もありました。ですが、会社側からすれば、「残業は一切なしの8時間勤務で、7月まではしっかりやっていこう」などと入社前に本人と話し合い、その際に前もって通勤時間などの話もしているわけです。そういった織り込み済みの話も「やはり辛いので」と蒸し返され、結局退職されてしまう。この当たりが当社としても、非常に頭の痛いところです。

人間力を昴める教育に注力

教育研修については、会社見学会に来てもらった時に、当社の会社説明やパンのつくり方なども半分ぐらいは説明するようにしています。その際、17、18歳の生徒が初めて会社に触れるわけですから、あえて会社の正面玄関前で待っていて、歩いてくる高校生に手を振って迎えることで、少しでも安心して見学会に入れるようにしています。そのなかで、社会人になるのはそんなに難しいことではない、また、仮に大学や専門校への進学を希望していて親の都合などで行けなかった生徒がいる場合には、「早く社会人になることは素敵なことだ」と理解できるよう、人間力を昴める教育研修に注力しています。

一例をあげれば、「Compania 精神の共有」ということで、「パン屋はCompania というスペイン語の語源から、パンに集う人々という意味でカンパニーとなり、会社、仲間、国という言葉の始まりになっている。だから、パン屋は『崇高な仕事』という意味があり、仕事自体は明るく楽しいものだけれど、生きていく上でとても大切なものを担っていっている」などといったことを明確に伝えるようにしています。

直接訪問で細かいコンタクトを

高校との連携については、直接訪問を心掛け、各高校の進路指導部の先生方とも細かなコンタクトをとることに極力、時間を割いています。求人あいさつや内定書、卒業発表会などの学校行事があれば、できるだけ訪問して学校の先生との情報交換をします。

また、その際、可能であれば、(当社に応募してくる)生徒の特性のようなことも聞かせてもらえると助かります。採用選考はどうしても本当に短時間でやらねばなりません。常々、「この生徒は何を考えているんだろう」「個性はどうなんだろう」「親御さんはどんな方なんだろう」などといったことを想像しながら選考活動を行っているわけです。

インターンシップにも積極的に対応

ですから、こちらから学校に対しても、次の選考に役立つよう選考結果で内定に至らなかった理由などは必ず明示して送るようにしています。また、当社の近くには練馬工業高校や新座総合技術高校などがありますので、こうした近隣の学校からのインターンシップの申し込みは積極的に対応するようにしています。

ハローワークとの連携については、定着指導員と密に連絡を取り、細かいことでも相談するようにしています。第三者的な立場からの指導を受けたり、新規学卒者の動向などの情報を得るなど、大切なことと考えています。

保護者とも会って話せる機会を

今後、高校・労働行政に期待することは、内定を出した後に保護者・学校・企業の三者による説明会のようなものができないかと思っています。先ほども述べましたが、最近、辞める時に親御さんと本人だけ決めてしまい、会社の言うことは聞いてもらえないことが多くあります。会社側も社会の器として、新しく入ってきた社員に幸せになって欲しいと強く願っているわけですが、壁を作られてしまい、全然入れないのです。そういう意味では、保護者の方と名刺交換だけでも構わないので、会って話す機会を設けられればと思います。

また、企業合同研究会の開催などに積極的に取り組んでいる学校もあるので、極力参加するようにしていますが、東京だけでなく埼玉など近県の合同説明会にも参加させてもらえたらと考えています。

やむなく不採用にした生徒の内定枠を

それから、「若年層トライアル雇用」枠のようなものができないものでしょうか。例えば、ある生徒の欠席日数が1日、当社の採用基準より多いけれど、その分、卒業までの半年間で他の形で改善してくれれば正社員として迎えたい、といったような、やむなく不採用にした生徒の内定枠のようなものを設けられないか。要は、一生懸命生きることに前向きに取り組むような仕組みがあればありがたいと思っているところです。

現場からの報告(2):20081016フォーラム

フットワークを駆使して企業との連携を深める

土方 聖志・高知東工業高等学校進路指導部長

土方進路指導部長:20081016フォーラム

土方進路指導部長

私は進路指導に携わり就職を担当して5年目で、先ほど来、就職がよくなったというスタート時期ぐらいから進路指導を担当しています。そういうなかで、いろいろ問題等もある現場からの報告をさせていただきます。

まず本校の概要です。本校は、機械系と電気・電子系の5学科がある学校です。生徒数は490人で中規模の専門高校。資格取得やISOなど、工業高校のなかでも比較的先進的な取り組みをしている工業高校といえます。

昨年の進路状況は、生徒の3分の2が就職、3分の1は進学でした。就職者は、工業系、製造業、電気ガス、運輸通信で約9割を占めています。若干、サービス業とかその他の業種もありますが、ほとんどは製造業に携わっています。ちなみに、平成14年以後、就職内定、進学決定ともに100%です。

県外求人が地元求人の10倍に増加

図1図2:20081016フォーラム

続いて、求人の状況です。図1は、過去10年間に生じた求人をグラフで見たものです。県内の求人数は一番下の折れ線。近年、若干伸びてはいますが、ほぼ横ばいです。それに対し、県外の求人の伸びは非常に顕著です。平成17年から上がったのですが、この年は中部地区の車関係の求人数が伸びました。平成18~19年にかけては、関西の電気関係の求人が伸びてきました。景気の回復と団塊の世代の退職に伴い、求人数が県外で伸びてきたわけです。今年は10月1日現在、県内103社、県外1,087社なので、県外求人が県内の10倍近い数字になっています。

求人の中味については、以前は技能職の求人が多かったのですが、今は技能職だけでなく技術職とか、学園生(会社内にある学園に1年間入り、そこで給料をもらいながら勉強する)としての就職も増えているなど、雇用形態に若干の変化が見られます。

過去10年間の卒業生の進路(図2)をみると、以前は進学傾向が高かったのが、平成14年から就職者が増え、17年ぐらいで逆転します。それに伴い、工業系の就職の割合も増えています。半面、県外就職が増加傾向にあるため、県内の就職率はどんどん減っています。あと、キャリア教育に力を入れていることが奏功してか、その他・無業者の人数は若干減ってきています。

企業見学などで外部との連携も

図3:20081016フォーラム

次に、今回のテーマ「高校生のキャリア教育と就職支援を考える」に沿って本校のキャリア教育の事例を報告します。図3は、生徒が入学してから卒業して就職、進学するまでに受けるキャリア教育の内容を時系列も追ったものです。

具体的には、「聞く」というレベルでのキャリア教育から始まり、「講話」を中心としたキャリア教育と「自己理解」「実習」といった形のスキルアップ講習会やレディネス講習会を行います。さらに、実際に現場に行って見ることも大切なので、県内や地元の「企業見学」を実施するなど、外部の教育力も進路指導に採り入れています。

これら定型教育以外にも、積極的なクラス担任がバスを借り切って遠足の日に工場見学に行く動きや、9月16日解禁直前の土曜日にはPTAの役員が学校に来て、就職者が全員模擬面接をする試みも行われています。

県内企業の良さを知ってもらう担い手育成事業

あと、今年から「担い手育成事業」も実施しています。県外就職者が増えたことを契機に、県内企業の良さを知ってもらおうと考えたことがきっかけで、(1)学校に企業の技術者が来て(20時間程度の)技術指導を行う(2)企業へ学校の教員や生徒が(一週間程度の)研修に行く(3)「課題研究」や「部活動」で企業との共同研究をする(4)デュアルシステム(35時間以上の就労体験)――を行っています。

このうち、デュアルシステムは、2年生の春休みに実施します。一週間かけて企業に研修に行き、それを単位に認定することで、いわゆるマッチングレベルからカリキュラムレベルへと確立しています。2年生のこの時期に行うのがポイントで、3年生の4~7月にかけては自分の進路を考える上での接続部分になるため、あえて2~3週間しかない春休みをターゲットにしています。今年は12社に25人を受け入れていただきました。ハローワークや工業会などとの連携があって成り立っている取り組みです。なお、同事業としてのデュアルシステムは今年からですが、本校独自では3年前から実施しています。

「担い手育成事業」のメリットは、地元企業での体験を通じて授業とのリンクができることです。例えば実習で旋盤をやっていたら、「旋盤はどういう形で企業で使われているのか」がわかる。また、大きな成果として、ものづくり企業の現場を知ることもできます。他方で教員にとっても、外部からの技術指導を受けることで、教授方法の習得など指導力の向上になるし、進路的にも企業とのパイプ役になるきっかけができます。

「進学」に比べて乏しい「就職」情報

次に、就職に関する問題として、「進学」と「就職」の進路決定要因の差異をまとめてみました。進路決定要因を「情報」「学力」「合否」とすると、進学に関しては情報誌が非常にたくさんありますが、就職に関しては求人票とパンフレットしかなく、情報量の少ないことがわかります。大学や専門学校は学校説明会やオープンキャンパスを頻繁に行いますが、会社見学は1、2回が限度です。とくに、県外就職の場合、数回行くことはなかなか難しい。過去の実績や教員の勧めが情報源になっているのが就職の実情です。

学力でも、その差は明白です。進学の場合、模擬テストの結果や判定で自分がどの大学に行けるかなどが相対評価でわかりますが、就職に関しては過去のデータしか頼るものがありません。絶対評価で、不確かなちょっと見えにくい認定評価という評価でしか学力をはかることができないわけです。合否についても、進学が入試の成績であるのに対し、就職は面接重視です。学校の評定や欠席、クラブ活動などという非常に見えにくい部分があります。

混乱招く7月以降の求人情報

就職に関する問題には、就職先の選択のコントロールもあります。図4は3年生のタイムスケジュールを流したものです。7月に求人受け付けが始まるので、それまでは昨年の求人票や実績などをみます。そのなかで、キャリア教育のなかで培ってきたキャリア形成した自分について、やりたい職業を含めて考えます。

図4:20081016フォーラム

しかし、実際に7月1日になると、最近は新たな求人がたくさん来ます。そこに保護者の意見も入ってきて、非常に混乱するわけです。就職担当者も、たくさんの方が来校するので、「ここもいい」「あそこもいい」と情報量が膨大になります。

そのため、本校では進路選考会の前段に、調整する会を何回も設けています。そのなかで選別して会社見学に行かせて、この時点で「どうしても受けたくない」という生徒は、もう一度考え直して別の会社見学会に行かせるようにしています。

ここで最近、気になっているのが、保護者の意見が強いケースが増えていることです。保護者の意見が大きくなると、どうしても仕事の内容云々ではなく、名前を聞いたことのある企業が一番の決め手になる傾向があります。

成績上位者にふり回される下位者

また、企業と学校のパイプ役となっている就職担当の先生の情報が非常に重要で、大きなカギを握っています。あと、新たな求人が来ると、どうしても成績上位者から決まっていくので、成績上位者の動向で下位の生徒が振り回されることにもなってしまいます。

総合的にみると、せっかくキャリア教育でめざすべき道が決まっていても、7月の新たな求人が始まると混乱してしまうのが現場の実態です。

研修に時間をかける離職率低い企業

次は定着率の問題です。本校の内定率は、ここ最近定着していますが、その一方でやはり離職率が問題になっています。図5は高校3年生から入社までの時系列を表したものです。これをみると、入社後、全国平均で1年目に約25%、2年目15%、3年目10%と、3年目までに約50%が離職する。本校の場合、離職理由は進路変更とかミスマッチが多いのですが、その背景には人間関係と給与があります。実際に辞めて帰ってきた生徒に話を聞くと、やはりここが問題になっています。

図5:20081016フォーラム

そこで、離職率の低い企業がどうしているのかを調べたところ、入社1年目の研修期間にとても時間をかけていました。「採用イコール雇用」ではなく「採用イコール再教育」の考え方で、現場をいろいろ回らせて適性を見極めてから雇用というプロセスを長い会社で1年、短いところでも3カ月ぐらいは要しています。それから、内定後入社まで通信教育などの宿題を課す企業が結構増えています。モチベーション持続のためにこういう教育を施しているところも多く見られます。

内定以降のモチベーション維持を

では、学校側がすべきことは何なのか。内定はちょうど今ごろ決まるので、入社の来春4月まで半年間あります。この間、いかにモチベーションを持続させるかが大事だと思うのです。教員は「合格=ゴール」と捉えがちですが、この後も再教育としてのスキルアップ講習とか、あとちょっと過激な表現ですが「正しい会社のやめ方」などを教えたらどうかと思います。先ほど来ありますように、今の若者はすっとやめてしまうけど、そこに「次の職業を選んでから」とか「次にどうやって再就職しようか」という意識はないし、そもそも、そういうことを教えてくれる機関はどこにもないわけです。そう考えると、キャリア教育として、最終的には正しい会社のやめ方まで高校でやる必要性を感じています。

情報の共有化と保護者への説明が必要

今後の課題ですが、まず本校は従来型の「日本的高卒就職システム」であり、企業とのパイプ役である教員の役割が大きく残っています。このため、就職担当の先生が変わってしまうと、「その人がいないと全然わからない」といった状況が起きないよう、企業情報、実績情報の共有化が必要です。

保護者への説明責任も欠かせません。今は保護者が自分の子供の就職に非常に介入してきます。もちろんこれは必要なことだと思いますので、やはり保護者へのしっかりした説明が大事だと思います。

企業で「育てる」ことも期待

一番期待したいのが、「企業で育てる」ことです。いまは大学も補習をする時代です。もちろん高校で何もしていないというわけではありませんが、企業も手をかけていかねばならない状況が来ていると思います。それには入社後1年間が勝負だと思っています。

それから、現状では、結局はネームバリューとか成績上位者から就職が決まっていくので、偏差値で大学を選ぶのと同じような形で就職先を選んでいる生徒がいる。でも、各企業の採用基準はばらばらなので、そこが非常に悩ましい。例えば私自身は、いろいろな企業と会っていて、「この会社はこういう面を基準にしてくれるからこういう生徒を送ろう」などということが感覚的にわかります。でも、それを具体的に文章化とかデータベース化はできません。やはり、企業と学校の連携をさらに深めていき、会社に対して教員がフットワークを使って連携していくという高校からのアプローチもこれから大切だと感じています。

現場からの報告(3):20081016フォーラム

女子は事務系、男子は多様な職種に

斎藤 忍・浦和商業高校進路指導部主事

斎藤進路指導部長:20081016フォーラム

斎藤進路指導部長

はじめに、学校の概要について説明します。浦和商業高校は創立が昭和2年という82年前に創立された学校です。地元の商業高校で2万人ほどの卒業生がいます。地元企業や商店に本校出身者が多く、地元では大分活躍している人が多いと聞いています。

現在は、商業系の専門高校として情報処理科と商業科を設置していて、生徒数は720人。うち、情報処理科に男子が165人いるため、商業高校にしては男子が多い学校です。

約3分の2の生徒が就職希望者

進路は、就職希望者が大体65%、進学35%で、この状況は7、8年変わっていません。ただし、進学の方で大学20%、専門学校15%とありますが、この比率が若干変わりつつあって、大学進学者が若干増えています。

進路指導に関しては、本校でも1年生時よりさまざまな進路行事、いわゆるキャリア教育を行っています。進路先を選ぶにはどうしたらいいのかについて、いろいろな学校で行われているものを取り入れながら、進路決定のよりよい方向への模索をしているわけです。今日はとくに就職希望者がどういった企業を選んでいるのかを中心に話したいと思います。

女子は圧倒的に事務系職業に就職

本校の女子生徒の就職者はここ数年100人程度で、男子生徒は大体25、6人というのがここ数年の流れです。そういうなかで、女子は商業高校に入ってきていることもあり、圧倒的に事務職種の希望が多い状況です。実際の求人も事務系の仕事が非常に多い。

図:20081016フォーラム

昨年度、事務的職業に就いた生徒が66.9%、その前年が75.8%、その前が66.2%と、事務系が圧倒的に多くなっています()。一昨年が突出しているように見えますが、これは希望が変わったということで、昨年度に事務系の求人が減ったわけではありません。

アパレル関係の希望者も多い

また、女子生徒は販売・サービス職種を希望する者もいます。アパレル関係を中心に、必ずと言っていいほど毎年何人かの生徒が希望するのですが、本校は事務系の求人が多いために、販売の方では生徒が希望するような会社を紹介できないままに本人たちが思うような会社ではなく別の販売会社を選んで変わっていく状況にあります。

多様な職種に就く男子生徒たち

それに比べ、男子生徒は製造をはじめ多様な会社に行きます。商業高校からするとまったく畑違いの会社のようなところからの求人も多々ありますが、求人を受けるなかで、「自分は事務的な仕事より体を動かすほうがいい」というような生徒に紹介すると喜んで就職しますし、会社側も、「あえて学科関係なく」ということで採用するため、非常にうまくいくわけです。実際、製造業などに就職した生徒は案外辞めていませんし、卒業後、数年経って学校に遊びに来て、「こういう仕事がとても楽しい」などと話してくれたりもします。

パソコンの知識が大きな武器に

そこで、話をよくよく聞くと、パソコンの存在が浮かび上がります。生産の地元企業に入った生徒なども、パソコンを使って仕事をするわけです。機械などを使うこともありますが、その機械自体を操作するのにパソコンの知識が結構役に立っている。この点について会社の方に伺うと、結局、年配の社員はパソコン操作がうまくできなかったりする。何億円という資金をかけて新しい機械を入れたり設備投資しても、それを使いこなせていなかったりするわけです。そこに商業高卒の新入社員が入ってきて、業種自体は畑違いでも、パソコンなどのスキルがあるので、うまく馴染めている。そして、「是非、今後も生徒を紹介して欲しい」といわれたりします。男子生徒は女子に比べて職業選択の固定的観念を持っていない、という印象があります。

勤務地へのこだわりは薄い

勤務地域は、東京60%、埼玉40%で、これもここ数年変わらない数字です。入学時にある程度希望を聞きますが、最初は東京へ行きたいという子が30%、地元希望者30%、残りは特に希望なしですが、東京からの求人が多いといった現実問題があり、結果的にはこういった形になっています。

とはいえ、さいたま市は埼玉県南部に位置しており、東京と地元を区別する感覚は生徒にはまったくないので、東京に行っても地元に就職している感覚だと思われます。なかには、「どうしても東京の丸の内近辺のオフィスがあるところへ行きたい」とこだわる生徒や、保護者のなかに「うちの娘を都心の職場へ行かせたい」という人もいますが、全体的には通勤1時間ぐらいで勤められればどこでもいいという生徒が多いようです。

目安は「月給」14、5万円

生徒がどのように就職先を選んでいるかについては、大体、初任給14、5万を目安にしているようです。これより低ければ「安い」と思うし、逆に高いと「何かあるのだろう」と思う。それと「月給」と書いてあるか否かが一番問題になっています。「日給月給制」と求人票に書いてあると、それを警戒して就職しません。保護者も勘違いしていて、「それはまずい」という人が多く、私たちが非常に困っているところです。「本来、日給月給が一般的ですよ」といっても、なかなか選ばない傾向があるようです。

求人票で会社の雰囲気を判断

福利厚生等の面は、生徒はあまり重要視しませんが、保護者はかなり見ています。求人票をコピーして持たせて保護者に相談するように話すと、必ず保護者から福利厚生の質問が出てきます。

会社の雰囲気に関しては、生徒のほとんどが求人票で判断しています。求人票に「とてもいいところです」といったようなことが書いてあると、単純に好印象になるようです。どういった点をポイントに会社を選んでいるのか生徒に聞いてみたところ、「その会社に旅行とか運動会があるのがよさそうだから」などと考えているようでした。いろいろな考え方がありますが、そういうところで選ぶということはなかなか指導が難しいところかな、という気がしています。

早期離職問題が課題

本校の進路指導部の体制は過去からずっと変わっていませんし、今の進路指導のやり方で大体済んでいますのでこれからもしばらくは変わらないでしょう。とはいえ、生徒の変化とともにキャリア教育の行事などで工夫を要する部分が出てきましたので、そのあたりの対応を徐々にしてはいます。

今後の課題としては、早期離職問題でしょう。本校の卒業生調査では、それほど辞めてはいないようですが、私はほかの普通高校でも就職関係の仕事をやっていたことがあり、そちらはかなり辞めていました。普通高校、商業高校を経験しながら就職指導をやってきましたが、同じようなやり方をしても職業高校の生徒の方が定着率はよく、普通高校の生徒はどうもうまくいっていない印象があります。もちろん商業高校でも離職がないわけでもないのでそのあたりのことにこれから取り組んでいきたいと思っています。

現場からの報告(4):20081016フォーラム

地元の雇用対策に焦点

山田 孝樹・ハローワーク浦和上席職業指導官

30人未満が9割占める管内事業所

山田上席職業指導官:20081016フォーラム

山田上席職業指導官

ハローワーク浦和は、埼玉県南部のさいたま市にあります。さいたま市は行政区が10区あり、そのうち5区をハローワーク浦和が管轄しています。管内人口は約61万人です。

雇用保険の適用事業所の数で産業をみると、サービス業が約40%でもっと多く、次いで卸・小売、飲食業の約20%となっています。製造業と建設業は減少傾向で、それぞれ10%程にとどまっています。事業所規模では、30人未満企業が9割を占めています。

理容・美容業の求人が多い

ハローワーク浦和の新規高卒者の求人・求職状況ですが、こちらは添付資料に産業別・職業別・規模別の棒グラフが出ています(図1)。特徴的な点をみると、産業別グラフの右側、求人数で「他に分類されないもの」が非常に多くなっていますが、これは理容、美容業の求人が多いためです。

図1:20081016フォーラム

9月末時点の内定率は50.60%

また、内定率を表した円グラフ(図2)をみると、昨年度では9月末時点で59.8%となっています。今年度はまだ全部来ていませんが、これまで来たものを見た限りでは、やはり50.60%の間ぐらいではないか、と感じています。地域別の就職状況をみたグラフによると、管内に就職する生徒は全体の就職者数の10%にとどまっています。その他は管外もしくは都内への就職が多い状況になっています。

高校2、3年生を対象にセミナーを開催

続いて、浦和公共職業安定所で行っている取り組みを紹介します。まず、高校3年生向けのセミナーの開催です。去年は、講師を招いて「挑戦し自立する若者へ!」というテーマで講演をしてもらい、管内の高校8校から204人の参加がありました。

内容は、「働くこと」「働く目的について」それから「社会人として求められる自立性」などについて話してもらうとともに、就職前に準備しておいた方がいいことなどにも触れてもらいました。

また、昨年度は高校2年生向けのセミナーも開催しました。内容は講演と先輩からのメッセージです。講演は「中小企業は日本のまごころ、世界の宝」というテーマで中小企業のなかにも世界に通用する企業や頑張っている企業がたくさんあるという内容。先輩からのメッセージの方は、管内の企業に高卒就職した先輩から、今やっている仕事の中味や仕事のやりがい、高校生と社会人との違い、苦労した点などを話してもらいました。

企業と高校の担当者の情報交換会も

図2:20081016フォーラム

企業の人事担当者と就職担当教諭の情報交換会も毎年行っている事業です。具体的には、企業の方は主に採用計画と企業で求める人材像について、高校からは、就職希望生徒数が何人ぐらいいるとか、希望職種の動向といったことをそれぞれ情報交換しています。今年度は、企業から18社、高校からは10校が参加しました。3、4校の高校の先生が控えている部屋を、企業側も3、4社ぐらいのまとまりで30分に区切って回っていく形式で行っているものです。

就職担当教諭との連絡会議で高校のニーズも聞く

求職開拓については、6月中に受理した求人票を冊子にまとめ、7月上旬に一週間ぐらいかけて浦和管内外の高校、今年度は48校を地元の雇用対策協会の会員企業の方々と訪問して求人情報を配付するとともに、特に地元の雇用対策に焦点を当てて、浦和公共職業安定所管内企業への生徒の送り出しを依頼してきました。

一方、就職担当教諭との連絡会議も年2回開催して、年間スケジュールの確認、定期的な報告の依頼とそれに対する注意事項、学校からの要望などを聞く機会を設けています。

埼玉労働局で合同企業説明会も

このほか、ハローワーク独自ではなく埼玉労働局が開催する形の事業として合同企業説明会を例年やっています。今年度も7月14日に行い、1,358人の生徒と167社の企業が参加しました。合同面接会も例年開催しており、今年度も11月下旬と来年1月に予定しています。


現場からの報告(5):20081016フォーラム

キャリア教育は社会で生きるための方向付け

長須 正明・東京聖栄大学専任講師

生産工程・労務の仕事はやりたい仕事?

高卒就職の現状からお話します。小杉統括研究員からも報告がありましたが、高卒就職者の約半数が製造業、生産工程・労務の仕事に就いていて、次いで卸売・小売、サービス業、職種は専門・管理、技術、事務の仕事です。ここから出てくる問題は、高卒就職の多くを占める製造業、仕事で言うと生産工程・労務の仕事は、多くの高校生にとって好きな、あるいはやりたい仕事なのだろうか、ということです。

自由に仕事を選べない高卒者

長須専任講師:20081016フォーラム

長須専任講師

生産工程は二交代、三交代というシフトを組んでいて、それにみんなが対応できるとは到底思えません。その点、工業高校は日常の指導のなかで「(生産工程は)こういうものだ」と教えているから、求人で結果的に工業高校の一人勝ちになっているのだと思います。ところが、同じ工業高校でも、学科によって差があって、機械系、電気系は結構いいけれど、土木、建築の学科卒業で一人も専門を生かして就職できていないところもありました。

そこで、工業高校の一人勝ちというだけでは見えない部分も併せて考えると、業種、職種の特殊性というか、地域と業種・職種を二重三重に重ね合わせたときにどんな求人があり、どんな仕事につけるか、という現実に見合った指導が必要なのではないでしょうか。高卒者は制度的にも自由に仕事を選べていないのだから、そのときにどういう就職指導があり得るのか考えなければならないと思います。

ファーストチャンスのない者に再チャレンジはない

高卒就職だけでなく進路全体を考えたときにどういうことがいえるのか。昨年、岩手県青少年・男女共同参画課からの委託で「岩手県における青少年の進路と就労に関する実態調査」をまとめました。これをみると、高卒時に就職、進学合わせて進路が決まらないと、その後の正規雇用労働に参入できない確率が高いということが読み取れます。よく「再チャレンジ」といわれますが、そもそも最初のチャレンジがなければ再チャレンジはないということです。地域を限定したら尚更です。私は昨日まで岩手県に調査に行き、前回調査の3年後のフォローアップをしましたが、正規雇用に移行している人はほとんどいなくて、給料は変わらずという状況でした。

高卒時の進路選択がどういう意味を持つのか。それが、その後の人生に大きな影響があることは指摘しておきたいと思います。私は、フィンランド、オーストラリアとの国際比較研究にも参加していますが、単に仕事だけではなく生活全体をどう組み立てるかという考え方の方向付けと、実際的な若者に対する包括的な支援の両方が必要だろうと思っています。

見直し必要な高卒労働力

先ほど筒井先生からも指摘がありましたが、企業と社会の関係に関して、企業の話も伺いながら、高卒労働力とは一体何なのかということ、高校でどんな教育をして、どんな生徒を育てたらよいのかということをきちんと議論する必要があると思います。私は現任校の大学で入試広報から卒業後の就職までを担当していますが、「この学生は高卒就職した方が良かったのでは?」と思うことがあります。大卒でも製造業の生産工程にしか就職できないことも多いのです。「製造業しか」「生産工程しか」という言い方は語弊があるかも知れませんが、それでも「果たしてその仕事は大卒じゃないとできないのか?」と考えた場合に、企業は多く賃金を払わなければいけないし、働く側も「これなら高卒でも就職できる」という意識を抱いてしまうのです。とくに多くの保護者から「大学に行ってこの仕事ですか?」といわれたりします。

同一労働同一賃金は可能か

大卒人材と高卒人材の差は何なのか。もし能力の差だとすれば、それは本人の努力による差なのか。背景に社会、経済、文化的な階層があり得るのではないか。それから、どうして高卒ではなく大卒を採るのか。言うまでもなく18歳と22歳は同じではありません。それは、学歴差ではなく年齢・社会経験の差という見方もできるのではないでしょうか。

また、これも筒井先生の指摘にありましたが、学歴別賃金ではなく職種別賃金という可能性です。同一労働同一賃金ということが果たして可能なのか。理屈としては、それを追求すべきだと思いますが、果たしてそれは可能なのかということです。

先行求人と後発求人の違い

進路指導・キャリア教育については、結果的に今年も高卒就職は地域差が非常に大きいといえます。先ほど堀副主任研究員から求人の出方の遅延が指摘されましたが、7月に出る求人と、その後出てくる求人はどこが違うのか。もちろん(企業の)名前は違うけれど、そういう問題ではなく労働条件・雇用条件が全然違うわけです。一般的には地場企業の方が求人の出方が遅いです。

先ほど土方先生がおっしゃった「早く決まる生徒とそうでない生徒」「校内選考で選ばれる生徒と選ばれない生徒」はどこが違うのか。校内選考は単に就職問題だけではなく生徒指導と密接な関係があります。例えば、出席(具体的には欠席日数)を問題にするのは勤勉さの指標だからで、生きていく上で大事なことです。勤勉さは美徳であるか否かではなく、社会生活の基本です。

つまり、高校での進路指導、とくに就職指導は、実は生徒指導のポイントそのものなのです。「遅刻はなぜいけないか」「どうして授業中に無駄話をせずに先生の話を聞かなければならないか」。これは社会に出るルールだからであり、就職は単なる就職にとどまらないのです。換言すれば、就職指導の崩壊は生徒指導の崩壊につながります。

全国普遍的な進路指導などない

地域差が大きいという先ほどの小杉統括研究員の話がありましたが、私はずっと7月末の動向を追っていますが、今年の求人の数字を見ても、求人倍率は最高の東京(4.79)から最低の沖縄(0.2)までありました。これは、同じ人が東京にいたら就職できても、沖縄にいたら就職できないことを意味します。

多くの高校に来ている求人は、自所求人ではなく連絡求人です。連絡求人を妨げる要因とは何か。これはきちんと検証しなければなりませんが、親と本人も含めた地元志向と言われます。もし本当に地元志向があるとすれば、数だけでは決して楽観できない問題があるということだし、地域問題につながることになります。

また、「地域差が大きい」とか「求人にも偏りがある」ことから考えれば、将来、何になるかも大事ですが、まずどこで暮らすのかによって選択肢は大きく変わってきます。つまり、全国普遍的な進路指導などないということです。

何ができ、何がポイントなのかは、それぞれの地域で違うのです。ハローワーク、企業、行政、学校それぞれの立場で出来ることは、地域の状況や親と本人の関係に根差して変わってくるということです。

どう生きるのかの支援を

最後にもう一つ。私は全国のいくつかの地域で「地域若者サポートステーション」の運営に関わっていますが、いま本当に困っていることがあります。人間関係をうまくつくれないというだけでなくうまく認知できない若者の問題です。それは病気なのか性格の問題なのか、発達上の問題なのかは一様ではありませんが、何らかの対人的不適応の問題を持つとその後、いくつになっても社会のなかで生きにくいという現実が顕著です。そのとき、どこでその人たちの支援をするのかというより、当事者がどこに訴えればよいのかを教え、日常生活に生かしていかなければならないのではないか。多分、学校で一旦、やらなければいけないと思うのですが、そういうことも含めてこれからどう生きるのかを支援資源も明示して考え、生活させる必要があります。それも重要なキャリア教育ではないかと思っています。

第二部 議論

パネルディスカッション:20081016フォーラム

高校生の採用・就職の現状について

小杉 パネル討論の最初は、高校生の採用・就職の現状についてお伺いしたいと思います。まず、学校現場の先生から、実際の就職あっせんで一番の問題は何か、どこに進路指導のポイントを置いているかについて、お話しいただければと思います。

斎藤 就職先の指導は会社選びにつながりますので、いろいろな場面で、会社情報を知らせています。この会社にはこうした人材ニーズがあるといった形で、前もって情報提供しておく。商業高校なので、授業の中で話すこともあります。情報を流すと、生徒が何を考えているかが、フィードバックされてきますので、それをもとにまた新たな情報を知らせ、そこでまた生徒に考えさせる。そして、3年生の6月ごろ、生徒の間で就職先の希望が重なるケースが出てきたときに、この会社は具体的にこういう人材を求めているという話をきかせて、生徒に自ら少しずつ就職希望先の輪郭を固めさせる。そして、現実的な選択をできるようにするということです。

小杉 前もって、会社を選びやすいように情報を提供しておくということですね。

斎藤 そうです。進学と違って、就職の場合、ほとんど全員が違う会社に行くわけです。だから一人一人が自分できちんとした情報を持たないと選択できない。また、最終的には自分で選んだという気持ちで就職してもらわないと早期離職につながるので、その辺はかなり意識してやっています。

小杉 先生が会社の情報をかなり持っていないとそうしたことはできないはずで、ある意味、情報を加工して生徒に渡しているわけですよね。

斎藤 そうですね。進路指導部の人間は大体情報を共有していますが、どうしても異動などで情報の共有が難しくなったりします。経験を踏まえて生徒の状況に合わせるように提供しています。

小杉 浦和商業の場合、たくさんの生徒が事務職で就職できるというのは、他校とは異なるのではないでしょうか。先生が求人開拓を頑張ってきた過程があるんじゃないですか。

斎藤 かつてはそうだったかも知れません。ただ、新たに就職した生徒がいる会社などに様子を伺いに行くことはありますが、今は求人開拓を頑張っているというよりも、長い歴史の中でお世話になった会社と学校の関係をつなげておきたいということで、会社にあいさつに行っています。

20年ぐらい前に、別の商業高校で同じ仕事をしていたことがありますが、当時はバブルの頃で、会社にあいさつに行くことはしませんでした。来校された会社の方を待たせておいて、それでも間に合わなくて、進路指導に関係のない人に応対してもらうというような時期がありました。とてもあいさつに行くというような余裕はありませんでした。しかし、今はとにかく会社との関係をつなげておくという考え方で、進路指導部全員で生徒に行かせたい会社を中心にあいさつに行っています。

小杉 土方先生の学校ではどうでしょう。

土方 一番はミスマッチを防ぎたいということです。就職先は、ほとんどが製造業ですが、職場は三交代、二交代、夜勤、昼夜勤といった交代制をとっているのかを確認し、まず、それができるかということです。また、進路部の体制として、関東、中部、関西などの担当を地域に分けて、そこを担当教員が回って情報を得ています。そして、就職先を固めていくとき、新規の場合は、担当が生徒に直接、どういう会社かを聞く。求人票の裏に書いている情報やそこには書けない細かな点についての情報も直接担当の教員から流せるようにして、ミスマッチを防ぐようにしています。現在の就職担当は4、5人です。

情報提供・処理の現状と課題

小杉 堀が最初に報告したことと関係あるんですが、ある程度の規模があると関係を継続的にできるものの、企業の情報をだれかがしっかり押さえるとなると、何人かの先生で分担しなければならないということですね。

土方 採用実績がある企業は、過去のデータがありますし、現在働いている生徒のデータがあるので、それをもとにすればいいのですが、新規で求人が来た企業については、敏感に対応しなければならないと考えています。

小杉 そのためには、企業の現場の情報に関して、最終的に就職を決めさせるために必要な情報が入っているということですね。

土方 そうですね。

小杉 企業も応募者がたくさんくればいいわけではなく、この企業で本当に働きたいと考えている応募者を集めたいということになりますか。

内田 そうですね。単に就職先がなくてアンテンドゥに行くのではなく、企業、仕事自体を好きになってもらわないといけない。そして、仕事を通してお客様を好きになってもらう。ですから、求人票に短い文章ですけれども、わかりやすい文言で目標とするアンテンドゥの理念を書き、それを理解していただいてから会社説明会に来ていただきたい。人生を生きる上での方程式に利用できるような形で、会社説明会も行っているので、その説明を通じて意気に感じてほしい。ただ、会社見学者には今回70人来ていただいたのですが、受験してくださったのは半数の35人でした。しかし、高校生採用だけでここまで来られた企業ですので、その子たちを何とか活かしていきたいといつも思っております。

小杉 企業を伝えるために会社見学会はいい方法だと思っていらっしゃいますか。

内田 はい。身近な先輩である勤続1、2年先輩の姿を見てもらうと、どんな仕事かが非常にわかりやすい。パン、ケーキの仕事は身近な仕事であると高校生に伝え、考えてもらっています。ただ、身近な仕事というだけでなく、企業の理念を理解し、一つ一つの手づくりに気持ちを込める職人さん、一人一人のお客様に愛情を込められる販売員さんになっていただけるか、これを「ホスピタリティーマインド」を通して覚えていただくようにしているところです。

小杉 ハローワークでは高校生だけではなく、幅広い就職あっせんをされているわけですけれども、高校生だからこそ大事なことは何でしょうか。

山田 高卒就職システムが導入され便利になった一方で、工業高校や商業高校のような専門高校の場合は指定校の求人が多いのが実情です。そうすると、求人情報誌をつくるに当たっても、こうした指定校制の求人は非公開になっていますのでそこから外さなければならなくなる。そのため、普通高校の就職希望者とは情報量が大きく異なることになる。また、配慮する点としては、埼玉県はまだ少ないものの、非正規雇用の求人、紹介予定派遣、請負求人といった求人の応募については、本人の理解、納得も大事だと思います。もうひとつは、保護者の意向も大きいので、保護者の方の求人に対する理解が大事ではないかなと思います。

小杉 普通高校の話が出ましたけれども、職業科の先生は安定的な就職あっせんをされてきたし、長期にわたる経験の積み重ねがあるわけですが、普通高校の方が、課題が多いと考えていいですか。

長須 普通高校でも進学多数の高校は、基本的に就職を念頭に置いていない。そうした学校で就職したいという生徒が出てきた場合、それに対応できるような知識と経験が蓄積されていないという問題があると思います。それから、求人の集まり方が工業高校の一人勝ちで、一般的に専門高校の方がいい理由は、高校入学時点で就職を念頭に置いた進路指導をしているからだと思います。その前提は、生徒が就職も選択に入れて入学していることです。普通科に入学して、進学が前提というケースとその時点で異なると思います。

小杉 普通科の生徒がもともと就職についてあまり考えていない影響が大きいということですね。

長須 そうですね。だから、普通科から無業者、フリーターが出やすいというのは、そういう背景があるからでしょう。広い意味での職業観、勤労観があるかないかよりも、就職に対する心構え自体が、専門高校の生徒の方が最初からあるということではないかと思います。

小杉 普通科におけるあっせんや、就職指導に課題があるということですよね。

長須 普通高校も同じようなことをやっていますが、商業、工業その他の専門高校に比べると、普通科の先生の就職指導経験が少ない。といっても、斎藤先生は普通科ですよね。

長須氏:20081016フォーラム

斎藤 そうです。

長須 普通科の先生でも、経験があれば商業高校でもできるわけで、その経験の差が大きいと思います。工業科の先生でも進路を経験しない方はいます。ただ、工業、商業など専門高校には科の指導があります。私も工業高校の経験がありますが、科の指導は進路指導部ではないけれども、そこで広い意味での進路指導が行われるところに専門高校の特性があると思います。

小杉 アンテンドゥには、普通科も工業、商業の生徒も受けに来ると思うんですが、違いはありますか。

内田 普通高校から来た子の場合、ちょっとねじれてくるケースがあるんです。

小杉 ねじれている。

内田 ほんとうは大学や専門学校に行きたかった、でも行けない。じゃ就職しかないということで選択したケースです。例えば今回も試験が終わって、普通高校の生徒からまだ受験枠はありますかと電話がかかってきて、「ありますよ、どうぞよろしければ」と声をかけたのですが、学校から2日後に進学に決定しましたとあわてて電話がかかってきました。普通高校の早期退職が多いのは事実です。ですから、普通高校卒の子たちには、進学できなかったけれども4年間、会社で勉強を続けていくのだから、4年後に仮に進学した同窓生が入社するときには、「君がリーダーとして同窓生を教えていく立場になってほしい」と伝えている。17、18歳のときは、自分の将来についてはだれもわかりません。不安を抱きながら入社してくる子たちに会社見学会の中で、大人としてサジェスチョンし、パン屋さんの仕事を通して感じたことを素直に伝えられればいいなと思っています。

9月18日に内定書を持っていったときに普通高校の先生が、「内田さんから説明されたことで自信を持ち、内定が決まったとクラスの子全員に伝えてくれたんです」という話を聞きました。そしてそのあと、学園祭があったので、内定した生徒に会うと感無量で泣いてしまったのです。「よかったな」と本当に感じます。今後の日本を背負っていく子に、丁寧に、一人一人を手づくりする感覚で、関係をしっかりつくっていきたいと思っているところです。

就職支援とキャリア教育

小杉 最初の志望企業を受けられず、志望の進学先とは違うところに変わらざるを得ないというのが現実ですよね。その選択の場面で、「自分でこの道を選んだんだ」と納得できるような情報を、企業であれ先生であれ、間に立った大人が提供していくことが重要であることをお話しいただいた3つの例が示していると感じました。

次の課題としては、就職した後の問題になります。つまり、早期離職、退社の問題です。実は、今日のもう一つテーマであるキャリア教育は就職活動とはそもそも違うわけです。キャリアはそれぞれ個人のもので、個人の将来のキャリアを支援するための教育がキャリア教育だろう、と私自身は広く解釈しているんですが、今度はキャリア教育という立場から、先々のキャリアまで見通してどんな支援がなされ、どんな苦労をされているかをお伺いしたいと思います。土方先生から、「会社のやめ方をキャリア教育でやる」という刺激的なお話がありましたけれども。

土方 会社のやめ方という話題ですが、まだ構想段階です。最近、電話1本で会社に「やめたいんです」と言って来なくなってしまうケースがあります。もしくは、保護者から「うちの子がやめたいと言っているのでもう行けません」という形で連絡が入るなど、非常にまずいやめ方が多い。

しかし、一つ目の就職をやめるとなかなか再就職までたどり着けず、フリーターでつなぐ傾向が高くなる。そういう子で母校にコンタクトしてくる場合は、専門学校や職業訓練校を勧めます。しかし、やめ方については、辞表の書き方や、だれに出せばいいのかということもわかっていない。そこを教育する場がない。会社をやめなさいとを推奨しているわけじゃないですが、内定が出てから6カ月間にこうした教育をして、正しいやめ方を教えることがあってもいいんじゃないかと思って、話題を出しました。

話は戻りますが、それも含めてだと思いますが、地方の工業高校はものづくりが好きで入ってくる子が多いので、製造業に就職したいと考えている子がほとんどです。ですから、本校はキャリア教育を絞って考えています。やはり離職しない就職選びということが話題の中心になります。実際、離職理由で多いのは人間関係です。つまりはコミュニケーション能力の不足です。これも先ほどの会社のやめ方じゃないですけれども、嫌な上司とどうやってつき合うかを含めて、社会とはこういうものだという、裏の部分も教育していかないといけないと考えています。問題はコミュニケーション能力なので、ハローワークも含めてコミュニケーション能力のトレーニング講習会をやっています。

生涯豊かな人生を送れるようにという意味では、やはり保護者、兄弟などの家庭環境も含めて、自分がどこで就職し、どういう生きていくのか。そういうキャリアデザインを構築できるかをキャリア教育の一つとしています。

小杉 具体的に、現在実施していることを教えてください。

土方 JILPTのキャリアマトリックスを使っています。ホームルームで1年生に試してもらうと、非常に喜んでやります。成績上位の子はわりと早くどこに行きたいか決まるんです。ただ、もう少し下位になってくると、ものづくり、製造業には就職したいけれども何をしたいかわからない子が多い。そのときに、「じゃあお前の性格を暴いてやろう」とキャリアマトリックスをやります。そうすると、結構当たる。私は全員の役割を知らないのですが、君は美化委員じゃないかとか、君は代議員、クラスの役員じゃないかとか当てることができるんです。だから、「君はこういう職種が向いているよ」と、一つのきっかけとして提示する。これは非常にいいツールだと思います。

小杉 それから、今、地域産業の担い手育成事業で、学校にはすでに企業の人が入ってきて教えるプログラムが始まっていますよね。それはどうですか。

土方氏:20081016フォーラム

土方 工業高校は、以前から外部の方に教えてもらう特別非常勤講師招聘制度があるので、問題ないんですけれども、外部講師で来られる方にお願いしているのは、厳しくやってくださいということです。あと、本校ではインターンシップやデュアルシステムで企業に生徒が行っています。その場合、感想であいさつと、礼儀が非常に厳しかったとか、服装の乱れを注意されたということが書かれています。あと、コミュニケーション能力面でいいと思うのが、休み時間に少し上の先輩からいろいろな話を聞けることです。こうした機会が今の子にはなかなかない。職業を通してデュアルシステムをやるというのは非常に効果があると思います。

小杉 商業高校の現場ではどんなキャリア教育をされていますか。

斎藤 かつては生き方指導とか望ましい職業観、勤労観という言葉で説明していたものが、ここ数年キャリア教育ということに変わってきていますがキャリア教育とはなにかというのは難しい。商業高校も工業高校と似ている部分がありますが、「こういうものをつくりたい」といって入学してくる子がいるかというと、そうではない。商業の場合、初めから「就職するんだ」という気持ちで入ってくる。その気持ちは明確でも、「こういうところで、こういう仕事がしたい」ということがはっきりして入学してくるかというとそうではない。とはいっても高校が終わったら就職する気持ちで入ってきているので、最初から就職に対する意識は非常に強い。

だから、「就職するためにはこういうことが大事なんだ」と言えば、すぐに受け入れてやろうとする子たちが多い気がします。私は普通科高校でも就職指導の経験があり、同じことをやっていましたが、商業高校より普通科高校の生徒のほうが離職率が高いような気がしています。普通科のなかでも就職希望者が多いような学校では、初めからよりよく生きていくという意味で生活そのものに期待していない雰囲気があって、就職は本当についでのような発想がありました。ですから、そういう子たちに自分の生き方として職業を選んでもらおうとしても、なかなか受け入れてもらえない。

また、卒業後、汗まみれで働いている子が、進学をした仲間がアルバイトをして適当に楽しんでいるという姿を見ると差が出たと感じるようで、これを機に仕事を辞めてしまう子も多いようです。結局は、こうしたケースを見るとキャリア意識をつくれなかったと思ってしまいます。

土方先生から会社のやめ方という話がありましたが、会社をやめることは必ずあるだろうと思います。しかし、そのときに、キャリア・ダウンではなくアップできるようにし、自分で道を選ぶことができるようにするためにはどうしたらいいのか。「もういいや」というやめ方をさせないように、今のうちに何とかできないだろうかということで、悩んでいるところです。

小杉 キャリア教育を支援するのが今、ハローワークの役割になっていると思うんですが、具体的な課題としては、どんなことがあるのでしょうか。

山田 先ほどから専門高校と普通高校の話が出ているんですけれども、ハローワークでもキャリア探索プログラム、職業講話、職場見学といった事業をやっています。そういった事業への申し込み状況を見ても、やはり工業高校や商業高校といった専門課程の高校からの申し込みがほとんどです。普通高校では進学者数が多い高校ほど進路といえば進学で、就職は後回しという感じがあります。そういった高校の支援をどうするかが今後の課題だと思います。

斎藤先生もおっしゃったように、入学した時から就職を意識している生徒と、最初は進学を考えて普通高校に入ったけれども進学できなくなり、就職に進路を切り替えた場合、普通高校に対しての支援が難しいので、今後はそういったところに力を入れていく必要があると思っています。

小杉 地方によっては、高校の中でとくに普通科高校で就職希望者がごくわずかなところについては、最初からハローワークが学校の中に入り込み、ハローワークに直接来てもらう形で、先生が前面に出るよりも先に、ハローワークが直接あっせんする仕組みをとっているところもあります。私も課題だと思うのは、普通高校の中で就職希望者が数人しかいない学校の生徒です。支援から一番遠いところに置かれてしまっては、就職活動するにしても一人では続けられない。大学生の場合でも、孤立化してしまうと就職活動は続けられないのです。1回企業からノーと言われてしまうと、それっきり動けなくなる子も出てきます。そういうときに、「1回は落ちたけれどももう1回頑張ろう」といってくれる仲間や友達がいればいいけれど、いないときが大変ですよね。普通高校の就職指導についてお考えはありませんか。

長須 レジュメにも書きましたが、地域生活というのは地域の労働市場と関係するわけで、その意味ではハローワークが直接指導することが重要だと思います。ハローワークの方が、学校の先生よりはもっとリアルに地域の労働市場がわかっており、その地域で暮らすために必要なことや、何ができるのかをリアルに伝えることができるはずです。ハローワークが直接指導することのメリットは、現実をそのまま伝え、ここで暮らすならばこうなる、もし離れるならばこんな求人があるということをリアルに伝えられることです。労働市場が十分に成熟していない地域では、ハローワークの職員やNPO等でキャリア教育を支援する人たちが連携して知恵を絞り、直接、普通高校に出向いて伝える。すでに実施しているところもありますが、こうした機能の一つをハローワークが担うことが重要です。

内田氏:20081016フォーラム

小杉 内田さんのところではキャリア教育の協力という面でかかわりがあればお話しいただきたいのですが。

内田 私どもの会社は、目の前のお客様に喜んでいただくことが自分の喜び、になれるような社会人として生きていけることを念頭に置いています。そこで、会社見学会に来た初対面の高校生の子たちに、向かい合ってもらい、お互いのいいところを一カ所だけ探してみましょうということをやります。そうすると、一瞬にして皆が素晴らしい笑顔になり、会社見学会の場の雰囲気がガラッと変わります。相手の長所、そしてお客様の素敵なところを探すことが大事だということです。一目見て嫌な客と判断するのではなく、お客様がいらっしゃるからお給料をもらえるという基本的な概念をしっかり持つことが大事だからです。

不幸になりたい人は一人もいないはずです。幸せになりたい人間としての共通項の中で、人間としてどう生きるかも、会社見学会で話し、小さいパン屋ながらも就労に対する意識づくりでお役にたてるような、気づきの機会を提供しています。

高校卒の先輩たちがいるわけですから、会社見学会の機会に、キャリアを直接見てもらい、自分もこういう先輩になりたい、こういう仕事をしたいという部分はある程度、会社見学会で見ることができます。入社後、会社の命令でやることとしては販売士検定などがありますけれども、それ以外に関しては自分から挑戦してもらうことにしています。企業が高校生に期待するもの

小杉 企業側の目から見て、今の高校生、あるいは高校教育に対してどんなことを期待していますか。

内田 明確な選択肢があって会社の見学会に来て、会社の説明を真剣に聞いてくれる姿を見ると、今の高校生は立派だと感じます。ベーカリー業も3Kの極みから変わってきていますが、この子たちをどう育成するかが問われている。と、同時に企業は究極的には収益をみなければならない。ですから、ベーカリーとして社会に役立つ企業である事が前提ですが、お客様にも地域にもその子たちを育ててもらいたい気持ちを持っています。いずれにしても、大人が連携して若い子たちを育てていくことが大事です。

小杉 内田さんがとても若い人たちを大事にして育ててくれているのはわかるんですが、応募した人全員は採用できない。不採用の基準はどの辺でしょうか。

内田 一般常識は難し目のテストですが、もう一つ自社テストを行います。テストは穴埋め式で、全般的なパンの知識・会社が求める人材等を話し、ここはテストに出ますと明確に伝えている。だから、70点以上とっていただかないと困る。それでも50点以下しか取れないとわが社に来る気がないと判断せざるを得ない。ただし、17、18歳の子をすぐ変えるのは難しいので、チャレンジシップ的な部分を大事にしたいと思っています。点数的には到達しなかったけれど、会社としては君のここを認めているので採用枠を広げることをトップに打診することはできる。そして、その子に足りない部分を気づいてもらい自分を変えることができるような環境づくりも大事です。企業責任として、ただ足切りをしましたで、いいのかどうかです。早期戦力化という企業理論だけが先走りするのではなく、その子たちが成長するから企業も成長できるという形に変えていくことが必要じゃないかなと考えているところです。

進路選択における保護者の役割と課題

小杉 一定程度の学力は必要でも、前向きな意欲も必要で、本人が努力してよくなっていく子だったら、もう1回チャンスを与えたいという企業の方向が見えたような気がします。では、先生方お二人にお聞きしたいと思います。1回目がだめだった子に対して、次のチャンスにどうつなげていっているのでしょうか。

斎藤 今年、本校ではまだ就職活動をしているところですけれども、128人ほど受験して、今102人は内定をいただいています。26人が残念ながらという状況になっています。結論が出ていない子が2社目に挑戦しているところです。改めて、その子がどういう会社に合うのか、また会社のニーズは何かを見極める必要があります。1回目は生徒の希望を最大限生かすということで生徒の細かい希望をじっくり聞いたり、あるいは性格等をそれほど考えることなく受験会社を決めるという考えない部分もあるんですが、2回目から細かく本人と面接などをして、会社のニーズと合うかどうかを判断して紹介する。1回目に不採用だった理由は生徒によってまちまちです。学力試験が十分じゃなかった子、それからコミュニケーション能力、簡単に言うと面接等でおとなしすぎて会社の中ではやっていけそうにないと判断された子もいます。学力が足りない子はわりに簡単で、もっと勉強させるか、あるいは面接だけで採用する会社を紹介したりします。

逆に学校の成績は優秀で5段階評価で4.5~4.8というようないい成績をとっていても、おとなし過ぎて面接で何もしゃべれなくて、結果がよくなかった子が非常に難しい。そういう子たちは、プライドというか、今まで頑張ってきたという気持ちがあるし、親も「うちの子はこんなにできるんだから、それなりの会社に行くのが当然だ」と思っている。その子たちに、こういう会社はどうだろうと紹介すると、本人は1回目の経験を踏まえて、ある程度理解は示しても、親がそこはだめだといって、話がうまくいかないことがあります。こうした意味からも、2回目の指導は、懇切丁寧にやっているつもりですが、面接などでうまくいかない子は3回、4回と会社を受けることになるケースが多いですね。

斎藤氏:20081016フォーラム

小杉 親が子供を欲目で見ているところもあって、高い水準を要求するということですか。

斎藤 ほんとうに高い水準を要求します。本人は、2社目を受けるとある程度自分の置かれている状況がわかりますが、親はなかなか理解してくれないことがあります。この辺が難しいところで、かつて親とトラブルになって、「学校は何でこういう指導しかしないんだ」と言われたこともあります。

小杉 土方先生は1回目がうまくいかなかった場合、どんな指導をされていますか。

土方 最近は落ちた理由を企業から電話で細かく教えてもらえますので、生徒に全部は言えないこともありますが、理由をかみ砕いて直接生徒に話します。

小杉 大抵の企業は落ちた理由を教えてくれるんですね。

土方 はい。県外の企業も含めて、来校してくれたり、また電話や文書で年々説明してくれる企業が増えています。面接で100%希望を伝えられなかった、また暗い印象をもたれたことが原因のほか、試験の成績が全体的に低いなど、要因はいろいろです。そういう説明をした後、じゃあ次どこにするかを考えますが、最初の進路選考会のときに第3希望までださせてますから、その中から2次募集があるかどうかをまず問い合わせます。

ただ、成績が下位の者はなかなか次のチャンスに恵まれない。1回落ちてしまうと、「どうせ就職できないんだ」とすねてしまうこともある。そういう場合は少し時間を置いて考えるようにさせています。そして、本人がもう一度来た時に、違う求人を紹介します。

企業の責任としてのキャリア展望

小杉 時間の関係で、ここからは会場から受けた質問について、回答いただきたいとおもいます。パネリストではないのですが、筒井さんに対してこんな質問が出ています。企業が人材育成する体力が弱まって、その分なし崩し的に学校教育や個人に押しつけられているのではないか。そうした状況なのに、キャリア教育を議論してもいいのか。もっと国の仕組みそのものを問い直す必要があるということです。

筒井 私どものような研究をしている人間の間では、ご指摘の状況を「労働供給側へのてこ入れ」と表現しています。ご質問は、「その労働供給側へのてこ入れだけでいいのか」という問題提起といいかえることができると思いますが、まったく同意します。関連するのですが、『若者はなぜ3年で辞めるのか』の著者である城繁幸さんが、『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか』という本を次に出しました。早期離職してしまう理由として、「キャリアの展望が会社に入ってから持てなかった」というのが一番です。キャリア展望が持てないというのはどういうことなのか。それには二つあって、ちゃんと見ていないからよく見えていないというのと、もう一つ、ほんとうに現実的に上がっていけるラダーがないということだと思います。物事を深く突き詰め、整理して考えたり、自分のことを振り返ってみることが足りないから展望が描けないというのなら、高校からのいわゆるキャリア教育でやっていけます。しかし、上っていけるラダーそのものがないことになると改めて階段につくり直さなければなりません。階段をつくり直すのは企業内の働かせ方や教育の問題です。しかし、こうした企業内で起こっていることについても、本当に企業だけが考えればいいのでしょうか。もうそういう時代じゃないのではないかという問題意識が私にはあります。その点に関して先進的で実践的にも進んでいるアメリカの事例を参照したときに、そんな目のつけどころがあったのかと、目から鱗のような事例がアメリカのNPOにありました。高卒就職だけではないのですが、日本を比較対照したときに、まだまだやれる余地があると感じています。もちろん、学校で何かすることの方が手をつけやすい部分はある――「教育やります」っていえば誰も反対しないんです――と思うのですが、それと並行して「企業の内の働かせ方や教育は、本当に聖域なのか」ということは問い直してもいいのではないかと考えています。

学校・企業・ハローワークの連携で可能なこと

小杉 パネリストに対しても最後の質問に入りたいと思います。学校外との連携によって、高校生が将来一人前の職業人としてキャリアを積んでいけるような応援ができるんじゃないかということです。すでにこうした連携を実践しているとか、今後の可能性など、お考えになっていることをお話しいただきたいと思います。

山田氏:20081016フォーラム

山田 連携の関係でいうと、キャリア探索プログラムをやっています。このプログラムは高校生だけじゃなく、中学生も対象に早い時期から、就職に関する教育を行っているものです。ここはハローワークと学校が連携してやるわけですが、講話をする先生の依頼を地元企業に頼むなど、企業とも積極的に連携をとっていければいいと思っています。

斎藤 就職した先輩を呼んで話を聞く行事を組んでいます。これが一番生徒には人気があります。去年まで遊んでいた感じの先輩が、職業人になって立派にやっている話を聞くことで、就職とはこういうことかと実感させられる。それから内田さんのような方に話をしていただくと、生徒は学校の教員が話すのとは全然違う受け取り方をします。こうした行事で企業に講師の派遣を依頼しますが、このときの協力を是非お願いしたいと思います。ハローワークに対しても、予算面での協力をお願いしたいと思います。

内田 企業側としては、試験、面接のときにならないと、その生徒の情報が受けられないのが実情です。しかし、できればもう少し具体的に家庭の事情などの話を伺えればありがたいと思います。もちろん個人情報の問題などもあり難しいとは思いますが、内定を出した後、生徒に関して学校が持っている情報をある程度企業にバトンタッチしてもらえれば、その辺も踏まえた、人材育成がしやすくなります。採用した子が1、2年しっかりとした就職環境の中で定着してくれて、自分の人生を歩んでいけるようになってほしいからです。

土方 学校のカリキュラムの中で連携事業をやっていますので、今後は離職した生徒のフォローアップを連携してやっていくべきじゃないかと思います。具体的には、公開できないところはあると思いますが、離職した理由などは、なかなか知り得ない情報かと思います。

長須 筒井さんの発表にもありましたが、学校を離れた途端に、これからどう生きるかといった相談をできる場所が見えなくなります。職業能力のアップについても自己負担になってしまいます。企業には企業の論理があり、学校には学校の論理があり、労働行政には労働行政の論理があるので、それを横に結ぶというか、それぞれの特性を踏まえた上でそれを横につなぐだれかが必要だと思います。今それをやっている、あるいはこれから発展が期待されるのはNPOではないでしょうか。若者が社会的排除に至る危険を考えたとき、学校を離れた途端にどこに行っていいのかわからない、適切な支援が受けられないことが問題だと思います。だからこそ、社会的資源をどう利用するかといった情報の基地、ある意味ではそれを配分する機能が求められる。行政はお金を出し、みんなで知恵を絞って、働いて世の中で生きていく方向づけをみんなでしていく必要があると思います。みんなでというのは、だれもしないことと表裏一体なので言いにくいのですが、私はNPOに期待したいと思うし、調査をやると、NPOが機能しているところでは、こうしたことが実際に行われていて、成果も上げています。

まとめ

小杉 ご発言ありがとうございました。最後に、まとめとして三点、お話しさせていただきたいと思います。第一は、前半のテーマとした生徒本人の納得性をどう高めるか。キャリアは最終的には個人のものだと思います。とはいえ、生徒が選択の段階でどれだけ正しい情報に基づいて正しく判断できるかが問題です。その際、教員が提供する情報の役割は極めて大きい。しかし、堀の発表にもありましたが、1回採用企業といいますか、そのとき初めて採用して今後5年は採用しない企業が増えているというのが高卒就職市場の実情です。そこで、教員が地元企業やこれまで先輩の就職実績がある企業の情報を蓄積して継続していけるか。それを生徒に提供する中で、個人の納得感につなげ、自分の選択だという形に持っていけるかどうか。これが学校の進路指導の中でもっとも果たす役割のウエートが高い部分ではないかと思います。ただ、それは学校だけでできることではなく、地域のハローワークなどから情報が適宜提供されることが必要です。ハローワークにとって、学校の先生に地域の企業情報を届けていく役割は、とても大きくなると思います。

小杉統括研究員:20081016フォーラム

それから二点目は、就職1回ではなく、将来にわたる離職も含めた本人のキャリア支援であるということです。アンテンドゥのように会社見学に来れば、人生についても教えてもらえる企業はたくさんあると思います。そういう企業の力をもっと使うことが必要でしょう。あわせて、最近始まった地域産業の担い手育成事業。この事業は文科省が中心になってやっていますが、こういう事業にできるだけ厚労省も協力して、地域人材の育成に学校と企業の連携を強める。その際、地域の企業情報を一番持っているのはハローワークだと思うので、地域の企業を掘り起こしていく力としてハローワークの役割は大きいと思います。

こうした事業は、カリキュラムレベルで企業の乗り入れがあり、職業能力育成についての踏み込んだ連携になると期待できます。さらに、地元で生きるとはどういうことなのかを伝えるといった幅広い意味での職業観育成の効果も期待でき、地域がみんなで、若者が将来にわたるキャリアを築くための土台を高校の中でつくる事業になりえると思います。

そこでは、長須先生がおっしゃったNPOの役割も大きくなるのではないか。地域によってNPOがあるところ、ないところもあるし、育っていないものがあります。しかし、学校外の人たちが学校の中に入っていって支援する。企業が直接入ることもあるし、その間にNPOがかかわることもあるし、ハローワークがかかわることもある。地域の資源を連携させていくことが、将来にわたるキャリア支援という意味では大事なのではないかでしょうか。

第三点が、普通科など就職者が非常に少ない学校に対しての支援をどうするかです。先に上げた二つの点は、専門高校を中心に取り組みが進んでいますし、ある程度、成果が見えているところです。こうした意味で、残されるのは、今日のフォーラムにも参加する先生がいない普通科高校です。残されてしまう生徒への支援の仕組みをどうつくっていくか極めて重要です。普通科高校の本来の目的は、上級学校につなげるということですから、数人の就職希望者しかいない普通科高校に対して支援をしっかり取り組みなさいというのも、現実的にはかなり厳しい。ここはやはり、ジョブサポーターの予算などを普通科の就職者が少ないところに集中的に割り当てる方向が効果的なのではないかと思います。地域の中で最も情報がなく、孤立化し、うまくいかなくなってしまいがちな生徒を救うことが、地域が連携して当たるべき、もっとも重要な対象だと思います。

もう一つの対象は学校中退者です。学校を中退し、うまく進路変更になればいいけれども、そうならない子たちがたくさんいる。これも普通科高校で多いと思うんですが、職業科高校でもやっぱり中退の問題はある。中退していく若者、あるいは普通科で就職を希望して、孤立化しがちな子。地域の中で相談相手に恵まれないこうした人たちに対してどうネットをかけていくかが連携に当たって、大事なことだと思います。

就職がはっきり決まっている場合はハローワーク、あるいはジョブサポーターが学校の中に入っていくやり方があると思います。しかし、中退の場合は、より中立的なNPOといった人たちが学校の中に入り込んで相談できる仕組みをつくる連携の仕方があるのではないかと思います。

ハローワーク、企業、学校間の地域における連携という意味で、ハローワークが最初に動くことが大事じゃないかと考えています。以上で私の感想を終わらせていただきます。長時間にわたって議論していただき、ありがとうございました。

<プロフィール>

うちだ じゅん/株式会社アンテンドゥ商品部長・人事部長。青山学院大学仏文科中退後、アンテンドゥ一筋に歩み、商品部長・工場長との職務を兼務しながら人事部長の職を努める。新製品開発・DJ販売の開発など、消費者の満足を創造し、特に「こだわりを伝えるDJ販売」で業界から注目される。採用については24年間にわたり担当し、特に高卒採用の最前線を経験する。日本ホスピタリティ推進協会常任理事「ホスピタリティ・コーディネータ」認定委員・講師、毎日小学生新聞「レッツマナー」執筆など。

さいとう しのぶ/埼玉県立浦和商業高等学校進路指導部主事。1981年埼玉県の公立高等学校教諭に採用。現在で4校目の学校。商業高校、普通科高校とも就職指導を中心に進路指導を経験。

ながす まさあき/東京聖栄大学専任講師。東京都公立学校教員(22年間)、川崎市立看護短期大学教授、拓殖大学政経学部教職課程講師を経て現職。専攻は、教育計画、ライフスタイル論、教育社会学。日本キャリア教育学会役員、日本教育カウンセリング学会常任理事・編集委員、厚生労働省職業安定行政職員研修・上級研修にて講師(若年者の雇用担当)。主な業績に、『ユースアドバイザー養成・研修プログラムテキスト』(共著、内閣府政策統括官、2008年)、『キャリアカウンセリングハンドブック―生涯にわたるキャリア発達支援』(共編著、日本キャリア教育学会編、中部日本教育文化会、2006年)など。学校から社会への移行(transition)と若年者支援(とくに高卒以下の学歴者、無業者)について社会学をベースに、学際的アプローチと実践を試み、政策提言もしている。目指すことは「社会的不平等(排除)」の克服と教育を通した地域生活の再構築。

ひじかた さとし/高知県立高知東工業高等学校進路指導部長。2000年鳴門教育大学大学院修了。同年、高知東工業高校に赴任。担当教科は工業。2004年より進路指導主事。主に就職担当。高知県工業会等と連携したデュアルシステムやPTA模擬面接練習、各種講演会など生徒の進路実現を目指した「キャリア教育」を展開。

やまだ たかき/浦和公共職業安定所上席職業指導官。1991年労働省入省。埼玉県内のハローワーク、埼玉県雇用保険課、埼玉労働局において職業安定行政関係業務に従事。2005年4月からハローワーク秩父において学卒業務を担当。2008年4月より現職。