開催報告:第25回労働政策フォーラム
企業における外国人留学生の活用
(2007年6月27日)

開催日:平成 19 年 6 月 27 日

※無断転載を禁止します

配付資料

日本の大学・大学院へ留学する外国人が増加するなか、卒業後日本での就職を希望する留学生は増加傾向にあるものの、外国人留学生を採用する企業はまだまだ少ない。特集では、当機構が実施した労働政策フォーラム(6月27)や外国人留学生採用に関する企業調査などをもとに、高度外国人材となり得る留学生が日本企業において能力を十分に発揮し、活躍するために必要な環境整備、就職支援のあり方などについて検討する。 特集(労働政策フォーラム)企業における外国人留学生の活用

基調報告 外国人留学生の国内就職の現状と諸課題

白木 三秀   早稲田大学 政治経済学術院教授(兼)留学センター所長

調査報告 外国人留学生の採用に関する企業調査

郡司 正人   JILPT 調査・解析部主任調査員

事例報告 パネリストの報告 「大学、企業、国・行政の取り組み」

大学における外国人留学生のキャリア教育支援 東北大学

企業の外国人留学生採用に対する考え方 富士通 ディスコ

外国人留学生の就職支援に関する施策 厚生労働省

元留学生の就職体験報告

日本人と同じ教育を / 周 慧(中国出身)

足りない留学生向け就職情報 / ローラ・ソブリン(アメリカ出身)

パネルディスカッション 外国人留学生の就職支援と企業内活用を考える

末松 和子
東北大学大学院 経済学研究科国際交流支援室講師
田籠 喜三
富士通株式会社 人事勤労部人材採用センター長
林 登志男
株式会社ディスコ 人財部長
尾形 強
 厚生労働省 職業安定局外国人雇用対策課長
白木 三秀
 早稲田大学 政治経済学術院教授(兼)留学センター所長

基調報告
外国人留学生の国内就職の現状と諸課題

白木 三秀   早稲田大学 政治経済学術院教授(兼)留学センター所長

白木三秀

外国人労働者の受け入れ目的について、厚生労働省の「外国人雇用問題研究会報告書」( 2002 年)は、これからの経済社会の活性化のためには外国人の「高度人材」(要するに大卒ホワイトカラー)を獲得することが非常に重要であるという視点を出している。この目的は、外国からいい人材に日本に来てもらい、企業や産業に新しい知見を入れてもらうことによって成長力を高めるという長期的なものであり、研修生の問題などと絡めた国内市場の労働力不足への対応の問題とは直接には関係しないものである。

高度人材獲得の政策スタンスは、 1999 年に閣議決定された「第 9 次雇用対策基本計画」で表明され、 7 年前の 2000 年にIT戦略会議が打ち出したIT基本戦略では、 2005 年までに約 3 万人のIT技術者を日本に受け入れることを盛り込んだ。しかし実際には、 2005 年末の段階でその数は、技術者全体で 2 万 8000~9000 人にとどまっている。IT技術者だけとなると正確な数字はわからないが、いずれにしろ未達成である。

ここで問題なのは、技術者の数が足りないということではなく、国際労働市場における日本の市場という目線で考えた時に、日本の経済、市場、産業が彼ら(外国人)のキャリア形成にとって魅力的なものになっているかどうかという点だ。魅力的であるなら、 3 万人という数は埋められたのではないか。埋められなかった背景には何があるかということを考えなければならず、この点をまず問題提起したい。

また、海外に進出した日本企業の海外子会社が、現地の大卒ホワイトカラーを採用する場合の競争力も実は非常に弱いものがある。採用しようと思ってもなかなかいい人が来てくれず、やっと採れたと思ったら逃げられるという実態がある。昨年夏、インドに調査に行き、日本の 5 大商社の人とムンバイでディスカッションしたが、従業員の離職率( 100 人いれば、 1 年間で何人やめているかという数)は 50% だという。現地の商社の人が「わが社はトレーディングカンパニー(商社)というより、 " トレーニング " カンパニーになっていますよ」とうまいこと言っていたが、悲しいジョークであり、ただし事実なのである。

実は8割は国内就職したい

日本国内での留学生の就職状況を紹介したい。留学生は卒業と同時に就職が決まれば、ビザを就労ビザに変える。図表1が就労ビザに変わった人の数で、これで見ると 2005 年で 5800 人、 04 年で 5200 人となっている。実はそれ以前は 3000 人台である。一方、日本で留学生がどれぐらい卒業しているかを見ると 3 万人を超えている。つまり簡単な計算をすると、 2 割が日本企業に就職する。では 8 割はどうなっているのか。留学生には大学の補助金や国の奨学金などが投入されているのに、その人たちの 8 割は日本からいなくなっている。

図表1

国内就職の状況について、まずマクロ的にみると、製造業・非製造業別では 7 割ぐらいの留学生は非製造業に就職している。職種別にみると、翻訳、通訳、営業販売、技術などに就職している。

図表2

次にわれわれが昨年行った留学生に対するアンケート調査(『アジア各国からの留学生の雇い入れに関する実態調査報告書』財団法人アジア人口・開発協会参照)の結果(主に仕事を探している人が対象、回収数 341 通)でミクロの状況を紹介すると、「就職したい」という人が全体で 8 割を超えている (図表2) 。どこの国で仕事をしたいかをみると、 8 割は「日本」とし、 2 割弱が「出身国」 ( 自分の国に戻りたい ) で、「第 3 国」はごくわずかである (図表3) 。先ほどのマクロの数字で言うと、 8 割の人は実際には日本で就職したいのに、それに成功した人は 2 、 3 割にとどまるということである。

ではなぜ日本で働きたいのかというと、日本語を使いたい、自分が勉強したい分野が進んでいる、といった人が多い。親類の人がいるからという人もいる。とにかく日本にいて仕事をしたいという人がこんなにいる。

もう 1 つのポイントは、日本で働きたい期間である。これを見ると、 3 年から 5 年以内というのが大体 3 割、 3 年未満も入れると 4 割ぐらいが 4 、 5 年で帰りたいと思っている。日本人でも海外に留学したからといってそこで永住したいと思う人ばかりではないことから、母国にいずれ帰りたいというのはやむを得ないところであり、これはこれで健全な姿ではないかと思う。

採用目的には 5 つのパターン

さて、外国人を雇用する場合、企業と労働者の双方にいろいろな課題があるが、企業が外国人を採用する場合の目的について、いくつかのタイポロジーに分けてみた。まず 1 つめは高度技術人材。日本国内を越えて、技術レベルの高い人材を獲得したいという目的である。 2 番目はコストダウン。しかし、留学生だから日本の学生よりも安く雇えるという発想を持っていたとしたら、これは甘い考えかもしれない。 3 番目はビジネスのグローバル展開。ビジネスの展開先である国の出身者を採っておくという戦略先行型である。 4 番目は企業内ダイバーシティ。ただし、いろいろな人の特性を活かし、希望を満たしながら組織を動かしていくというのが本来のダイバーシティであり、外国人を 2 、 3 人いれたからダイバーシファイできたと考えるのは短絡的だ。ただ、外国人を入れることによって少しでも活性化したいという意図だと考えることはできる。最後は、これが実は 1 番多いのだが ( 特に大企業で ) 、日本の学生と同じような試験をして、同じ基準で採用したら、たまたま留学生が上位に入っていたケース。実際には、企業は各タイポロジーに応じて採用を実施しているわけではなく、これらをミックスしてやっているのが実態のようである。

次に採用基準についてみていくと、当然エンジニアだと知識、技術、文系では、それから日本語ができるかどうかが基準となる。日本の企業社会になじんでくれるかどうかというのもヒアリングでよく聞く基準である。

処遇等については、よく起こるトラブルとして社会保険の問題がある。何年か後に国に帰るときに、どうしてこんなに損するのだと理解されないことがある。これは事前に、制度について十分説明しておくことがポイントである。

企業内ダイバーシティ

人事処遇・キャリアでは、先ほどのタイポロジーによって、どういう形で処遇していくかが決まる。コミュニケーション・言語面では、やはり日本人と比べると、日本語のサポートなど職場内、そして人事部門にかなり負担のかかるところはあるが、それはやむを得ない。留学生の日本語 1 級といっても、日本語を書かせたら中学生ぐらいの文章になったりすることはよくある。

採用ポリシーの明確化が必要

さて、企業の事業戦略・人材戦略はいくつかのパターンに分けることができる。一方、個人の就労期間やキャリア観にもいくつかのパターンがある。この両者がマッチすれば理想的と言える。

図表4は、企業の戦略を 2 つの軸で切ってみたもので、事業戦略軸が縦軸である。これから国際展開をしていく、海外にいろいろな事業所をつくってビジネスを展開していく場合が「グローバル志向」で、国内のマーケットを中心にやっていこうというのが「ドメスティック志向」である。横軸は、即戦力の外部調達型の人材を採るのか、あるいは内部で育成するシステムを持とうとするのかどうか。これで縦軸と横軸をつくり、事業戦略と人材戦略の組み合わせを、 4 つのタイポロジーに分けた。

図表4,5

右上の第一象限、「グローバル・外部調達型」と書いてあるが、これはグローバルに展開し、そして人材を自分のところで育成せずに出来合いの人を採用する企業である。第二象限は、「グローバル・内部育成型」。ここは論理的にも一番難しい。グローバル的にやっているが、人材は内部で育成する。右下の第四象限はドメスティックでありながら、人材は外部で調達する企業である。どういうことかというと、国内でビジネスしながら、スペシャリティーを必要とする、だから外国人特有の能力を持った人を採用する。例えばわれわれが行った調査では、漢方薬のお店があった。やはり中国人の方が、中国語を少し入れながら話せば効力がありそうに見える。

一方、図表5は、個人の就労期間やキャリア観のパターンを 4 つにタイプ分けしたものである。実は、ここが工夫した点で、後でこれが企業のタイポロジーとぴたっと合うようにつくってある。縦軸が日本で短期に働きたいのか、長期に働きたいのか、要するに就労期間軸になっている。横軸は、この人がキャリアをどう考えているかということで、キャリア軸と名づけた。キャリア軸の左に行くとライン志向となり、右に行くと、自分の専門を伸ばしていくという考え方になる。

したがって、右上の「短期就労・スペシャリスト」は、別に組織に長くいようとは思っていないが、自分の専門を生かしたいと考えている。左上は、短期でありながら組織のなかで働き、できれば国に帰りたい人である。左下の第三象限は「長期就労・ライン型」で、これは日本のこれまでの正社員、大卒正社員のパターンに当てはまる。右下は、日本で長期就労したいが、必ずしも同じ組織でなくてもよいという人で、自分の腕一本で組織を渡り歩くことができる人が当てはまる。

図表6

このタイポロジーと先のタイポロジーをぴたっと合わせたのが図表6である。右の第一象限、これは企業側がグローバルにビジネスをして、専門のある人をその都度採用すればいいという考え方で、個人の方は自分の腕でもって働き、その企業には短期でしかいる気はない。国際的なディーラーやコンサルタントなど、今、日本のビジネスがおもしろいから来ているというような人がマッチする。

第二象限は、人材は内部で育成して国際展開しようという企業と、ライン志向、短期就労の個人との組み合わせ。ここのマッチングは結構トラブルがあるところかもしれない。例えば個人としては、短期だけ日本にいて、数年後は母国に日本人派遣者と同じように海外派遣させてもらいたいと考えるケースだが、それは本来、左下の象限が該当するケースである。こういう場合は、いったん離職してもらい、現地の関連子会社で再び雇うようなやり方が普通になるだろう。右下の第四象限のマッチングでは特に問題はない。

この図表の枠組みを念頭に置きながら考えると、企業が留学生を採用する場合、わが社はどういうポリシーで留学生を採ろうとしているのかというスタンスをはっきりさせることが、当然重要になってくる。留学生の一番の悩みとして、この企業は本当に留学生を採る気があるのかどうかがわからない、ということがある。一方、留学生の方も、目分は日本でどういうキャリアで働こうとしているのかをクリアにしておくことが重要となる。

しかし、留学生個人は、結構、キャリア形成を甘く見ている場合がある。結論を先取り的に言うと、留学生はアンビシャスと言える。つまり、日本に来て、この住みにくい東京で高い家賃を払って、むちゃくちゃ勉強して、日本人の学生と比べるとこんなに頑張っているから、企業は必ず雇ってくれるはずだと考える。そして、ワンパターン的に有名な大企業に入りたいという人が圧倒的多数になる。

行政は日本の魅力の発信を

最後に、まず、国内の実態として留学生を採っていない、採れていないということを認識してもらいたい。留学生の 8 割は国内で働きたいと思いながら、そのうちの 8 割は働けずに帰国しているのが実態となっている。留学生の立場で言うと、日本の企業は「 Human Resource 」 ( 人的資源 ) を無駄にしているのではないだろうか。企業は、採用のマッチングのあり方でもう少し工夫する必要があるのではないか。

留学生自身も、ワンパターン的な考えをしないことが必要だろう。また、就職活動時期に乗り遅れることが留学生はものすごく多い。

外国人留学生写真

それから行政への期待だが、一つ述べると、日本の魅力、これを全世界にアピールしてもらいたい。例えばシンガポールは、 200 年前はごく少数の人しかいなかった島だったが、今は数百万人の人が住んで、世界中から人を集め、大学も有名な大学だけ集めてつくったりしている。そのシンガポールは、全世界の都市にシンガポールに人に来てもらうためのオフィスをつくっている。ここはワンストップサービスで、留学したいとか、仕事をしたいとか、観光旅行したいとか、シンガポールをのぞいてみたい人は誰でもいいから来てくれと、いろいろな情報を流している。そういう努力をしている。

日本も魅力はある。独自の技術もあれば人材もいる、歴史文化もある。その魅力をアピールして、世界中から多くの人に来てもらえるような努力は、やはり行政の仕事だろう。

プロフィール しらき・みつひで

早稲田大学政治経済学術院教授 ( 兼 ) 留学センター所長。

専門は、社会政策・人的資源管理。早稲田大学政治経済学部卒業後、同大学院博士後期課程修了。博士 ( 経済学 ) 。国士館大学政経学部教授などを経て1999年より早稲田大学政治経済学部教授。この間、シンガポール国立大学客員研究員、フィリピン大学大学院客員教授を歴任。

日本労務学会副代表理事、国際ビジネス研究学会副会長、労働政策審議会委員を兼任。主な著書は『国際人的資源管理の比較分析』 ( 2006年 / 有斐閣 ) 、『チャイナ・シフトの人的資源管理芸白桃書房 ) など多数。


外国人留学生の採用に関する企業調査

調査報告
「外国人留学生の採用に関する調査」中間まとめの概要

JILPT調査・解析部

1 .調査の趣旨

外国人留学生(注1)は専門的な知識や技術を有する労働者として、わが国の経済活性化を支える人材となり得るため、日本国内での就職を促進することが必要とされている。しかし、現状をみると、留学生の国内就職はなかなか進んでいないのが実情である。留学生の国内就職が進まない原因としては、企業側の意識の問題のほか、外国人材に対する適切な処遇や雇用管理といった面での問題も考えられる。そこで、JILPTではこのほど、外国人材を積極的に採用しない理由など留学生の採用に関する企業の意識や、外国人を活用するにあたっての社内システム上の問題点など雇用管理面での問題等を明らかにするため、企業アンケート調査を実施した。以下、中間とりまとめ結果(注2)からその概要を紹介する。

図表1

2 .調査の方法

調査対象は、鉱業、農林漁業、協同組合、医療、宗教、社会保険・福祉、政・経・文化団体に属する企業を除く、従業員数 30人以上の企業 1万 5000 社である。東京商工リサーチの企業データベースから、まず、全国の 1万社を業種・規模別に層化抽出し、これに、東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県に本社を置く企業 5,000 社を加えた(こちらも同様に層化抽出)。

郵送により調査票を配布し、 3,244社から回答を得た(有効回収率 21.6%)。調査実施期間は 2007年 1月 5日~ 23日である(調査時点は同年 1月 1日現在)。

3.  結果概要

(1)留学生の採用経験

過去 3年間で外国人留学生を正社員または契約社員として採用したかを聞いたところ、「採用した」とする企業は 9.6 %とほぼ 1割で、「採用しなかった」が 89.5%となっている(図表1)。業種別にみると、情報通信業と一般機械の製造業で、 20%を超える企業が「採用した」と回答した。また正社員規模別にみると、 300人以上の企業では 3社に 1社( 36.3%)が「採用した」と回答している。

図表2

(2)留学生に対するイメージ

外国人留学生に対して、どのようなイメージを持っているか、具体的な項目をあげ、それぞれについて、「そう思う」か「どちらでもない」か「そう思わない」か、を答えてもらった。「そう思う」との割合が高かったものとしては、「自己主張が強い」( 42.6%)、「日本語能力が不足している」 38.4%)、「定着率が低い」(34.4%)などがあった(図表2)。一方、「そう思わない」の割合が比較的高かったのは「忠誠心がある」(29.4%)、「協調性がある」(19.8%)であった。

(3)採用しなかった理由

留学生を「採用しなかった」と回答した企業に対し、採用しなかった理由(複数回答)を聞いたところ、「社内の受け入れ体制が整っていないから(コミュニケーションの問題等)」(44.9%)、「外国人の採用自体に消極的だから」( 43.8 %)の割合が高かった。さらに、回答した理由のなかで、もっともあてはまるものを一つ選んでもらったところ、 3割近く(28.8%)の企業が「外国人の採用自体に消極的だから」をあげ、 2割の企業(20.0%)が「社内の受け入れ体制が整っていないから(コミュニケーションの問題等)」をあげた。

なお、留学生を採用した企業に対し、留学生を採用したことによって職場で生じたこと(複数回答)を聞いたところ、 53.8 %と半数以上の企業が「特に問題は生じていない」と回答した。

(4)留学生の採用枠

留学生を採用した企業に対し(以下(6)まで同じ)、留学生を採用する際に、「日本人社員と区別なく採用」しているか、あるいは「日本人社員と別枠で採用」しているかを聞いたところ、「日本人社員と区別なく採用」が 77.6%と 8割近くを占め、「日本人社員と別枠で採用」が 17.3%となっている。

(5)留学生を採用した理由

留学生を採用した理由(複数回答)を聞いたところ、図表3のとおり、「国籍に関係なく優秀な人材を確保するため(学歴・公的資格等を含めた専門知識・技術)」が 52.2%とトップにあがり、「職務上、外国語の使用が必要なため」が 38.8%、「事業の国際化に資するため」が 32.4%で、「日本では高度な人材が集まらないため」と回答した企業は 5.4%にとどまっている。

図表3

(6)留学生採用の効果

留学生を採用したことで、日本人社員や組織に対してどんな効果があったか(複数回答)を尋ねると、「特に変化はない」が 45.8%と最も回答割合が高かったが、それ以外では「職場が活性化した」( 26.0%)がもっとも回答割合が高く、「社員が国際的視野を持つようになった」(24.7%)がこれに続く。

図表4

(7)留学生の今後の採用見通し

今後、留学生を採用することがあると思うか否かを聞いたところ(図表4)、過去 3 年間で留学生を採用した企業では、「あると思う」が 79.5 %と 8 割近くに達したが、採用しなかった企業では「ないと思う」が 77.7%を占めた。

〔注〕

1.本調査における外国人留学生の定義は以下のとおりである。外国から日本国内の、短期大学・高等専門学校、あるいは 4年制大学・大学院、に留学し、卒業・修了した外国人(調査対象企業に新卒で採用されたか、中途で採用されたかは問わない)。しかも、本調査で対象としたのは、正社員あるいは契約社員であり、パート・アルバイト社員や、直接の雇用関係にない派遣・請負社員は含まれない。

2.調査結果の最終とりまとめは今年度中の刊行を予定。


大学における外国人留学生のキャリア教育支援

基調報告 東北大学の取り組み
留学生のキャリア教育と就職支援―効果的なワークショップ形式で

末松 和子 東北大学大学院経済学研究科国際交流支援室講師

末松和子

留学生に特化した就職支援を始めたきっかけは、 2003 年に留学生を対象としたニーズ調査を実施した結果、就職支援を望む声が強かったことがある。そして翌 04 年に就職活動セミナーと、企業 6 社を招いての企業説明会を開催し、これが年々拡大し、昨年は、(1) 就職活動対策講座(全 6 回)、(2) ワークショップ(全 4 回)、(3) 個別指導、(4) 企業説明会(17 社参加、日本学生支援機構(JASSO) 東北支部と協力)―を行うに至った。

昨年の取り組みを中心に紹介する。昨年は、キャリア教育・就職活動支援講座をワークショップ形式で 6 回実施した。このなかでは、「就職活動の流れ」、「就職活動の心構え」、「情報収集の仕方(業界分析・企業研究)」といった全般的な就職活動の流れを学ぶ講座を 3 回行い、その後は「在留資格」、「エントリーの仕方」、「エントリーシート(E S) 、履歴書の書き方」、「就職試験」、「面接(準備、マナー)」などについて、スキルの習得を目指した体験型の授業を行ったので、充実した内容になったと思う。

また、この 6 回の講座に連動させて、とくに留学生が苦手とする業界分析とESの書き方をそれぞれ 2 回ワークショップ形式で実施した。このワークショップのキーワードは、学生主体である。就職活動を経験し、内定を得た学生がプロジェクトチームを組んで企画、運営にあたった。自分の知識・経験、スキルを留学生に伝えたいという情熱に燃え、こちらが頼まなくても反省会を繰り返し、ワークショップは充実していった。業界分析も金融、製造などのブースに分かれて、展開。ESの書き方では、実際のESを使ってパネル方式で行い、それを添削する形式で行った。これ以外にも個別に随時、模擬面接を行っている。一番人気があったのが模擬面接。ほとんどの留学生がまったく面接の経験がないので、模擬面接、反省会のセッションを繰り返すことで、学習効果がみられた。模擬面接という個別就職支援はきわめて有効だといえる。こうした一連の就職支援を通じて、学内の人的資源に注目すべきであることを痛感させられた。

ワークショップの様子

留学生は日本人と今後のキャリアに対する考え方が異なるので、キャリア相談にも力を入れている。まず、留学生は、自分は日本に残り就職するべきか、帰国するべきかで思い悩む。さらに留学生はアンビシャスなので母国でも名前の通った有名企業を就職活動の対象にする傾向が強い。だから、落とされると人格を全否定されるような気持ちになることもある。そのため、心理的なケアも含めて、キャリア支援を実施している。

昨年の企業説明会の参加企業は 17 社にのぼり、 JASSO 東北支部が主催で、東北大学が協力という形で実施した。このような説明会には非常に大きな労力がいる。まず実施した 1 月という時期は繁忙期にあたり、企業の人事担当に仙台まで足を運んでもらうのが大変である。片手間でできることではない。地元の新聞社が協力してくれた同様の企業説明会も行ったが、今後は産官学の連携がキーポイントになるであろう。

留学生就職支援における留意点

留学生は、たとえば日本人なら自然に身についている社会常識から始めなければならないということで、留学生に対しては「マイナス・スタート」といっている。留学生の場合、サークルを通じた縦のネットワークがなく、日本人の友人も少なく、横からの情報が少ない。だから一般的なマナーを身に付けることも難しいことからマイナスのスタートであることをよく理解してもらう必要がある。

そのため、日本人と一緒ではなく、留学生に特化した、留学生にわかりやすい就職支援が必要になる。言語、社会常識、ビジネスマナー、在留資格、自己分析といった留学生特有の問題に着目することが大切で、体験型のワークショップ形式で実施することが、有効である。

留学生と日本人学生とは「まあ、これくらいいいか」の内容が違うので落とし穴になりがちである。たとえば、留学生は履歴書の写真の背景が真っ赤でも違和感のない人もいる。雨の日の面接に長靴で行ったりする。本を読み、 1 回だけの就職講座に参加しただけでは、「まあ、これくらいいい」という範囲がわからない。だからこそ、何回も体験型学習で、服装、靴、髪型などをチェックしてあげる必要がある。さらに、内定がもらえないと、自分が価値のない人間に思え、自分の価値をわかってくれないなど、心理的に落ち込むこともあるので「心理的ケア」を取り入れることが大事だ。

今後の課題

今後の課題としては、まず、留学生、企業双方のニーズ把握。どのくらいの留学生が日本での就職を希望しているのか、そのためにどのような教育をすべきなのかを把握する必要がある。それに留学生を対象にした「キャリア教育」の実施も必要だろう。社会経験のある留学生も多いので、日本人の場合「仕事とは何か」から始めるが、視点を変えたものが必要かもしれない。また、地方の大学の場合、東京で就職活動が必要な場合は、就職活動を行う留学生にとって、経済的なハンデも大きいので、経済的支援も必要になるだろう。

さらに産学官の連携強化。地方自治体でも留学生の就職支援に積極的なところがあるので、声をかけて、産官学の連携を実現してはどうか。企業に対しては、留学生の採用についてポジティブな姿勢をお願いしたい。まだまだ留学生の採用に躊躇する企業が多いのが実情だ。留学生は特有のよさをもっている。日本の一般常識を問うような試験では、留学生はなかなかエントリーできない。日本人の学生と同じ土俵ではなかなか戦えないことを理解してほしい。

留学生雇用に関するマクロ・マイクロレベルでの調査や、キャリア・カウンセリングの充実も今後の課題だ。


企業の外国人留学生採用に対する考え方

事例報告 富士通の取り組み
サービス事業に人のグローバル化は欠かせない ―留学生は別枠での採用

田籠 喜三 富士通株式会社人事勤労部人材採用センター長

田籠喜三

富士通は 07 年 3 月期末決算で、連結の売上で 5 兆 1000 億円のうち海外が 30 数 % 、連結人員は 16 万人で、海外が 6 万人。国内は全般的に大きな成長は見込めないので、 09 年度までに、海外で売り上げを 40% 以上に引き上げようとしている。

当社の従業員数は約 3 万 8000 人で、うち外国人の社員数は約 200 人と決して多くない。海外のプロパー社員は 6 万人だが、日本人駐在員数は約 1000 人強でこちらもそれほど多くない。そうしたなか、ものをつくって売るプロダクト系のビジネスが半分以下になってきており、システムソリューションと言われる社会システムを構築し、サポート、保守、アウトソーシングするといったサービス事業がワールドワイドに拡大している。このサービス事業は、基本的にすべてが人の手によるものである。サービス事業は、人のグローバル化をしっかりやっていかないとグローバルビジネスを拡大できない。

こうした方針に従って、日本で勉強されている外国人留学生を積極的に採用し育成したうえで、いずれは海外拠点の幹部としても活躍頂きたいと考えている。ここ数年では毎年約 30 強人の外国籍社員を国内で採用している。

留学生の志願者には全員面接

トータルで約 200 人の外国籍社員のうち、 7 割が理科系で、 3 割が文系となっている。しかしここ 3 年間では、半々で、最近はビジネスの現場、営業やSEといった職種にも外国籍社員の活用を広げているところだ。留学生採用に関しては、まず適性能力試験(SPI ) での判断はしておらず、基本的に応募者全員と面接を行い判断している。これは日本人学生の採用に関してもチャレンジしており、選考ピーク時の 4 月~ 6 月に応募者全員との面接を実施している。 1 万人規模の面接になるため、面接官は現場の社員の協力を得て実施している。外国籍留学生は日本語でのSPIではハンディキャップがあるので当然の策だと思うが、日本人学生においてもSPIだけでは判断できないので、できる限り全員との面接を継続したいと考えている。

日本での留学生採用は、正社員としての採用が主となる。全員に確認するのは、仕事をする期間で、たとえば本人が期間を区切って 3 年間だけ日本で働きたいというような明確な申し出をしてきた場合は契約社員として採用している。留学生の大半は正社員を希望するが、本人が選択できるようにしている。

三年前から米国でのオン・キャンパス・リクルーティングを始めた。現在 3 人が働いており、いずれもエンジニア。今年は希望者が多く、 7 人が内定しており、これは 3 年間の契約社員として採用している。それ以降は、本人の希望に応じて日本で契約を継続か、母国の富士通の会社に再就職するという二つの道を用意している。

留学生は別枠での採用

国内の外国籍留学生の採用に関しては、日本人とは別枠で採用している。採用数は現場のニーズや将来の人的投資を意識し柔軟に決めている。ここ数年、外国人の最終面接にかかわっているが、彼らのなかには、とても志が高く、積極的でバイタリティーのある学生が多く、少子化の中での新たなリソースとして大いに期待できると実感している。

国籍によってタイプに偏りはあるが、当社が重視している人材像に合致した人材を採用するという方針で実施しており、この点では日本人同様に考えている。


事例報告 ディスコの取り組み
採用に国籍は一切問わない−新卒は日本人と同枠で実施

林 登志男 株式会社ディスコ人財部長

林 登志男

株式会社ディスコは半導体製造工程に必要な砥石と半導体製造装置を製造するメーカーである。半導体製造工程の「切る、削る、磨く」といった分野で世界シェアのおよそ 7 割を占めている。

数年前から弊社はバリュー経営を始めており、ミッションすなわち事業ドメインは、「高度な Kiru ・ Kezuru ・ Migaku  技術によって遠い科学を身近な快適につなぐ」である。 Kiru 、 Kezuru 、 Migaku とローマ字表記を行っているのは、「切る、削る、磨く」の分野で DISCO の技術が世界標準であると社内に周知し、われわれ自身が外部へ発信していこうという思いからである。「カイゼン」などの日本語がそのまま通用するのと同じような意味で、ミッションそのものが全世界共通であるということを最初から事業の中に組み込んでいる。

このバリューの中には、事業像のほかに人的資源像も含まれており、性別、年齢、国籍、人種、宗教、学歴など属性を評価の基準とはしないことをベースに、採用活動や処遇を行うよう徹底している。

職群別の処遇を実施

処遇では、幟群別の処遇を行っている(図表1)

図表1,2

正社員については長期雇用を前提とした『長期育成安定雇用ストック型人材』と考え、管理職で三職群、一般職においても三職群を設けている。

成果主義も取り入れているが、長期雇用という日本の伝統は大切なものだと理解している。

でも、それだけではすべての従業員に対して最適な処遇はできないので、『特別職(年俸制 ) 』という職群を設けている。これは『高度専門能力活用型の人材』で、契約は 3 年。短期での就業の場合もあるが、長期的に就業する場合は更改手当という制度もあり、入社後 3年から退職金と同様の意味で年俸の 1 割を契約更新するごとに払っている。

さらに本社で採用し、海外へ赴任する『グローバル社員』。国籍はまったく関係なく、例えば中国人だから中国へ行くことを前提としていない採用方法である。

契約社員はフロー型の人材で、ワーク・ライフ・バランスも含めた多様化対応とも考えている。これは半導体産業の場合、好不況の波が大変に激しいシリコンサイクルに対応するためでもある。さらに、派遣・請負など、いろいろな職群による形態で対応している。

従業員はグループを含めて現在、正社員 1723 人(図表2) 。うち契約社員を含めて 46 人が外国人である。ただし、工場は契約準社員の『フロー型の人材』として外国人を採用している。従業員総数は、国内で 2575 人、そのほかに海外で 306 人いるが、これは現地社員が 275 人に対して 31 人は本社からの出向である。しかし、これも必ずしも日本人とは限らない。

外国人の採用は、キャリアフォーラムと呼ばれるイベントで海外にいる外国人および留学している日本人の採用を行っている。上海、北京、ロス、シカゴ、サンフランシスコ、ベトナムで実施した。

さらに中途採用も実施している。たとえばあるインド人の場合、 3 年ほど弊社で働いて、経営学修士(MBA ) を取りたいという希望があり、休職して在籍のまま留学を認める制度を導入するなど、柔軟な対応を行っている。

中途採用の募集方法は、人材紹介会社などを通じて行っており日本人とまったく変わらない。採用条件もまったく同じである。ただし『特別職』の場合、年俸 1000 万円超えるような契約ケースもある(図表3)

図表3

留学生枠は設けない

留学生の選考について、各プロセスで抱えている課題、問題に触れたい。採用枠は設定していない。毎年、新卒を 50 人ぐらい採用するが、うち半分が留学生であろうと、外国人であろうと構わない。国籍・人種は一切関係ない。

留学生への採用案内を 6 月から 7 月にかけて行う大学が非常に多いが、弊社の場合その時点ではすでに選考が終了しており、ほとんど内定が決定している。その間に、日本人だけで埋まってしまうことだってあり得る。これは採用枠を設定していない企業にとってハンディキャップとなる。大学の就職部からは、日本語のコミュニケーション能力など留学生には選考時のハンディキャップがあるから採用枠を決めてほしいという。しかし、われわれは留学生の日本語のコミュニケーション能力が低いことを前提にしており、英語での面接でも構わないと考えている。適性テストも実施しているが、弊社では参考情報とし、外国人の場合はあまり重要視しない。大学にお願いをしたいのは、留学生のハンディキャップと考えられている点については当社の場合はまったく問題とならないので、通常の選考時期に来てもらいたい。

処遇は長期育成安定雇用を前提とした日本の処遇制度ということもあり、外国人が考えるキャリアパスと若干ずれる。だから少なくともそういう処遇や育成の仕方をすることを前提で応募してほしい。ただ、成果に対する処遇ができる特別職もあるので、自信のある人はこちらに応募してほしいと考えている。

今後の課題

課題として考えているのは採用基準で、日本人とは何の差別・区別もしていないことから、なぜ当社に応募したのかという理由が大切になる。そこで、「なぜディスコで働かなければならないんですか」と聞く。われわれの言葉では、それを『使命感』と言っており、先ほどのミッション経営と同じだが、「この会社はミッションを持っているんだから、あなたにもミッションはあるでしょう、社会の中でどういう貢献をするのですか、何でそれをしなければならないのですか」と問いかけるのは、日本人と同じ。その点からは採用基準はぶれることはない。

ただ、こうした求人情報、企業情報が留学生に伝わっていないことは事実。われわれの努力不足もあるが、当社には 2 ~ 3 人の採用担当者しかおらず、全国行脚をして、周知徹底を行うことは難しい。

さらに皆さんにも考えていただきたいことは、なぜ、今、『高度外国人材』でなければならないのか。これから高度になる可能性のある人材をどうして採れないのか。これはビザや政策の話だが、大学を卒業していなくても、これから日本へ来て当社で採用して、その後大学に行ってもらってもいいのではないか。ここは私からの問題提起とさせていただきたい。

最後に、総体としての日本の魅力がないと外国人は日本に来てくれない。国の施策になると思うが、海外で日本の魅力を伝えることや、日本語教育ができるなど、さらに日本の魅力をアピールしていただけるようお願いしたい。


外国人留学生の就職支援に関する施策

事例報告 厚生労働省の取り組み
外国人雇用サービスセンターをコアに―企業、大学、留学生とのチームプレーで

尾形 強嗣 厚生労働省職業安定局外国人雇用対策課長

外国人留学生に関する国の姿勢について、留学生をわが国の活力の源泉として積極的に受け入れていこうというのが国家戦略である。今年はじめに閣議決定した「日本経済の進路と戦略」、また今年 5月に策定された「アジア・ゲートウェイ構想」、いずれも政府全体としての方向性を示す、極めて重要な文章には、留学生の就職の支援を図る、留学生を対象としたインターンシップなど就業支援を図るといったことが前向きに書いてある。

尾形強嗣

今年の通常国会には雇用対策法の改正案が提出され、成立した。この中でも、こうした国家戦略、国としての方向性が雇用政策という形で明記されている。留学生をはじめとする高度の専門的な知識・技術を有する外国人の就業促進を明記し、国が講ずべき雇用対策であることを位置づけた。また、外国人留学生はいろいろな意味で日本人と違ったバックグラウンドを持っている。そういった人たちにも、適切な雇用のチャンスが与えられて、能力が発揮できるように、事業主に対して雇用管理面での一定の配慮を努力義務化した。

わが国の場合、制度として、諸外国と比べても、特に専門的知識や技術を持っている人の受け入れは開放的になっている。それなのに、なかなか受け入れが増えていない。毎年、大体 3万人の留学生が卒業するなか、直近では国内で就職するのは 8,000 人で卒業生の 25%にとどまる。総務省の調査では、留学生の 4 割近くが日本で就職したいと言っているので、明らかにギャップがある。

また、留学生がなぜ日本で就職を希望しないのかについては、 3割強が日本の企業では出世に限界があるとしているので、やはり、国の制度以外にも原因があるのではないか。この着眼点に立って、行政として改めて申し上げたいのは、企業、大学の方には、ぜひサービス行政としての行政機関をご利用いただきたいということ。厚生労働行政、とくにハローワークを中心とした機能は基本的にミスマッチ対策で、留学生と企業とのミスマッチ対策も含め、外国人のための専門のハローワークとして、東京と大阪に外国人雇用サービスセンターを開設している。全国ネットのハローワークと連携して運営されているが、同センターは留学生をはじめとした専門的知識・技術を持った外国人の雇用のためのサービス拠点として位置づけられている。

サービスセンターがコアになって、各都道府県に 1つずつ設置している学生職業センターと連携し、留学生のための特別の求人開拓を行い、合同面接会なども東京、大阪のセンターで行っている。このサービスのポイントは、全国ネットワークになっており、センターが拠点になっているということ。例えば、琉球大学の留学生が東京で就職したい場合、まず那覇の学生職業センターに行き、東京で良さそうな求人があるとなれば、東京の外国人雇用サービスセンターでやっている面接会に行き、マッチングが成立すれば、就職につがることになる。

別の見方でセンターの機能をあげると、第 1に、留学生が早い段階から、就職ガイダンスなどを通じて就職活動を始められることがある。また、センターにはアドバイザーが用意され、大学の就職担当者との連携のもと、企業に対して外国人を雇うことの意味などを伝えながら、留学生の積極採用や採用上の問題などについても個別相談に乗ることができる。それらを通じて、受け入れ企業、大学、留学生、外国人雇用サービスセンターが 1つの円になって、チームプレイができればいいと考えている。これ以外にも、インターンシップの実施なども検討している。

外国人雇用サービスセンターを中心とした理念系としては (図) 、全国のネットワークの拠点に外国人雇用サービスセンターがあり、関係者がそこで結ばれていくということ。しかし、これは理念系で、ここに魂を吹き込むのは企業、大学、そして外国人雇用サービスセンターの担当者で、これからも希望に応じて、 1人でも多くの留学生が国内で仕事につけるように努力していきたい。

図「留学生の国内就職促進に向けた取組みについて」


元留学生の就職体験報告

日本人と同じ教育を/周 慧氏

アクセルリス株式会社アプリケーション・サイテンティスト

約 50社に応募

私は以前、大手電機メーカーに勤務していたが、今は転職してアメリカのアクセルリス社で働いている。(博士課程修了後は)中国で働きたかったが、現状を見て難しいと判断。博士課程年目の頃から日本人と同様に就職活動をした。

その際には、 5社ほどの企業に応募し、いろいろな会社で面接や筆記試験を受けた。博士なので、中小企業は就職しにくいと考え、大手企業をメーンに活動した。約半年かけて就職活動して就職し、いろいろ失敗もしながら今に至っているという気がする。就職活動中に一番(強く)感じたことは、やはり自分が就職するまでの準備が重要だということ。私は研究職なので、自らの論文発表のアピールは勿論、学生時代にしていた東北地域の中国人留学生会長などの社会活動もアピール(材料)になった。

小規模の企業で自由に活動

最初に日本の会社で働き、それからアメリカ企業に転職したわけだが、日本企業にいたときは研究開発の部署で、自分の成績や研究成果が会社にどういう風に役立つかとか利益について考えていなかった。また、規模の大きい企業だったため、なかなか部署異動は難しかった。特に(スペシャリティーのある)博士を持っている人は、留学生に限らず異動するのが難しく、それが私にとって問題の一つだった。今の会社は規模が小さいこともあり、自由でいろいろなことができる。現在、技術営業やマーケティング、営業利益も見ている。大学に対しては、留学生も日本人の学生と同様に教育して欲しいと考えている。留学生を特別な存在土としてではなく教育して欲しい。

プロフィール Hui ZHOU(しゅう・けい)

アクセルリス勤務。中国内モンゴル自治区出身。1996年に来日。東北大学大学院に入学後、2004年博士号取得(同大学院物質科学専攻)。大手電機メーカーでの研究職を経て、現在の会社に転職。アジア・太平洋地域のプレ・セールス、ポスト・セールス、トレーニングを担当。

足りない留学生向け就職情報/ロ−ラ・ソプリン氏

WIPジャパン株式会社 翻訳コーディネーター

SPIへの対応で苦労

(日本での)就職活動で難しかったのは、SPI(一般常識試験)の勉強と受験だった。元々、SPIは大きな障壁になると思い、 1 年生の夏から問題集を買って勉強に励んだ。だが、いくら勉強しても点数が上がらず、日本人に比べ、回答するスピードも遅かった。そのため、競争の激しい企業ではSPI試験にうまく対応できずに落ちてしまうことがほとんどだった。

特に大企業の多くは、SPIで次のステップに進む人数を大きく絞り込む。最初の段階でSPIの結果を重視してしまうと、特に外国人留学生に関しては、学生の能力や性格などを正確に把握できずに、優秀な留学生を採ることができなくなってしまうのではないだろうか。結果として、SPIの苦手な留学生は、自分をより重要視してくれる中小企業に魅力を感じるようになると思う。

就職活動の情報収集が困難

就職活動についての情報収集にも苦労した。日本人の学生と同じように『リクナビ』や『毎日ナビ』『日経ナビ』などを通じてエントリー・シートを送り、説明会や面接を予約した。そこで一番足りなかったのは、外国人留学生向けの就職ナビサイトがなかったこと。例えば「留学生募集」という検索ワードを入れても、マッチする企業はとても少なかった。また、リクルート社には、『リクナビ海外大生』というサイトがあるが、それは海外に留学した日本人学生のためのサイトであり、日本で勉強する外国人留学生にはほとんど役に立たない。

日本の大学・大学院で知識や能力を身につけた留学生を募集する企業が集まるサイトがなかったために、就職したい企業を見つけるのに苦労した。今後、グローバリゼーションが進み、日本で勉強して就職活動を行う留学生が増えることも考えられるので、留学生向けの就職サイトをつくる必要があると思う。また、大学のキャリアセンターで自分の履歴書やエントリー・シートを見てもらったが、留学生が苦労していることを理解してくれる専門家がいなかった。(本当は)エントリー・シートの日本語(の中身)も直して欲しかったのだが、そこまでのサポートはなかった。

次に、実際に日本で働いてみて感じたことについて話したい。実際に働いてから大変だったのは、 2 カ月目から始まった電話応対。丁寧な言葉が出てこなかったり、お客様の会社名を 3 回聞いても聞き取れなかったりして、お客様に変な印象を与えたり、社内の人に伝言ミスをしてしまった。このため、上司と会社の取締役と相談して、取引先の名前になれるまであまり電話に出ないようにしている。今でも日本語でコミュニケーションをとるときに苦労しているが、だんだん慣れてきた。早く電話でのコミュニケーションに対応できるようになりたい。

平等で風通しがいい会社

(逆に)留学生として就職したにも関わらず、良かったと感じたことが三つある。一つ目は、電話対応以外、日本人の他の新人と同じように扱われたこと。二つ目は会社の男女平等で、当社では男女を問わず新人は来客にお茶を出し、朝の掃除当番に参加する。「女性だからこういう仕事だ、男性だからこういう仕事」だという区別は一切ない。最後は、自分の声が上まで届くこと。もしも、会社の仕事の進め方などで改善点があると思えば、ミーティングなどで自分の視点を説明。皆を納得させることができたら、新しい方法が実行される。

プロフィール Laura SOBRIN

WIPジャパン勤務(翻訳コーディネーター)。米国出身。ポモナ大学(カリフォルニア州)を次席で卒業(日本語専攻)。在学中、同志社大学に留学。卒業後、愛知県で英語教師として勤務。文科省の奨学金生として早稲田大学大学院商学研究科でマーケティングと組織論を研究(3年半)、卒業生総代。学生時代より様々な翻訳に携わった経験を生かすため、07年現在の会社へ。


パネルディスカッション
外国人留学生の就職支援と企業内活用を考える

出席者
コーディネーター

白木 三秀 早稲田大学 政治経済学術院教授(兼)留学センター所長

パネリスト

末松 和子 東北大学大学院 経済学研究科国際交流支援室講師

田籠 喜三 富士通株式会社 人事勤労部人材採用センター長

林 登志男 株式会社ディスコ 人財部長

尾形 強嗣 厚生労働省 職業安定局外国人雇用対策課長

きめ細かい支援と「連携」がキーワード

白木まず、東北大学の取り組みから伺います。大学の就職関係で相当ご努力されているわけですが、そうした創意工夫が実際、どのような効果に、例えば内定率や就職の成果に結びついたのでしょうか。もう一点、先ほどの報告では、就職説明会の参加企業が2004年の6社から昨年は17社へと2桁に増加したとのことでしたが、その要因をどのように分析されていますか?

パネルディスカッション風景

末松現在に至るまでの就職支援がどのように効果を上げているか、じつはきちんと調査しておりません。これは今後の課題として取り組んでいきたいと思っております。ただ、2006年はそれまで年1回だった就職支援講座を6回シリーズで開催し、ワークショップも開きました。エントリーシートの添削や模擬面接、キャリア相談など個別のニーズにも対応・支援した結果、私と常にコンタクトをとっていた学生は、すべて内定をもらっています。目に涙をためて「先生のおかげで内定がとれました」という報告してくれる人もおり、こうしたきめ細かい支援は必要だと痛感しています。今年度は、就職支援講座を昨年の6回から14回に増やし、半年かけてじっくり就職支援をしていこうと考えていますので、授業前・授業後のアンケート調査を行い、その効果を見ていきたいと思っております。

末松氏

それから、学生主導で作ったものなのであまり精査されていませんが、『留学生のための就職活動ガイドブック』というものを作成しました。現在は、他大学のキャリア教育などで参考となるような教科書スタイルの教本を制作しているところです。さらに、日本で働いている留学生(アルバイトを含む)130名を対象に、実際職場で起こったトラブルをヒアリングで収集し、ケーススタディー形式にしたガイドブックも作りました。現在、全国的に調査を広げ、出版活動に当たっているところです。

2番目のご質問(参加企業が増えた要因)については、キーワードは「連携」です。当初、参加企業が4社しか集まらなかったとき、自分ひとりの力ではどうにもならないと限界を感じ、本学のキャリア支援センターに相談しました。すると、ぜひ手伝いたいということで、キャリア支援センターのネットワークを使い、企業に呼びかけてもらい、その結果、翌年には11社に増えたのです。今では学生支援機構や企業などの学外にも連携を広げ、参加企業数を増やしておりますが、これは連携のたまものだと思っています。

企業での定着率・離職率、コミュニケーションの現場

白木次に、企業の方に2点ご質問させていただきます。1つ目は、外国人留学生の定着率・離職率の実態です。日本の若い人に比べてどういう状況にあるのか、また何らかの対策を講じているかどうかについてもお伺いしたい。2つ目は、コミュニケーションに関する質問です。よく欧米の多国籍企業では、会議に外国人が1人でも入ると使用言語を英語に変えると聞きます。パネリストの2社の場合は、コミュニケーション上、どのような工夫や努力をされているのか、あるいは、その場合どういう問題を抱えているのでしょうか?

留学生の定着率に関して特に困ったことはありませんが、外国人のキャリアパスに対する考えは日本人とは違うということを前提に工夫しています。彼らの考え方は「短期間で出世できる」というものですから、それを我々が提供できなければ辞めていってしまいます。そこで、必要な人材には、そうしたチャンスを与えるよう人事制度上の例外措置を講じています。そうした制度が功を奏しているかどうかは別問題ですが、このような考え方で様々な制度の改定をしております。離職率について、日本人(新卒)の場合は5年以内で約10%が辞めていくのに対して、留学生は20%程度、つまり倍くらいです。従いまして、それほど困っているわけではありません。ただし、何も工夫をしなければ、もっと多くの人が辞めていると思います。

コミュニケーションついては、とにかく日本語は大事である、日本語でコミュニケーションできなければ困るということを前提条件にしています。ですから、採用後も日本語の教育は徹底してやらざるを得ません。弊社には日本語の流暢な英語のネイティブスピーカーもいますので、社内のOJTで訓練する場は多少あるかと思いますが、当然、それだけでは足りませんので、外の日本語の教育機関をいろいろ探しましたが良いところが見つからず困っております。現在は個別指導の講師に頼んでいますが、例えば、仕事が終わった後の2、3時間、日本語教育がきちんと受けられる場や機会をつくることができるのは、企業だけの力ではなく、やはり公的機関の協力も大切だと考えております。我々は、いずれにしても、採用後の日本語教育までしっかりできるような環境が必要だと思っており、一生懸命やっているところです。

田籠公表していないので正確な数字は申し上げられませんが、弊社ではここ数年、むしろ日本人の離職率の方が高いという状況でした。いずれもそう多くは退職していませんので、外国籍社員は直ぐ辞めてしまう、といったことは当社においてありません。しかし、近年、外国籍の従業員の採用数を増やしているので、先々は退職する人が増えることはあるかもしれません。

社内で「社会人として生活する上で何が一番困っているか、何が一番不満なのか」と質問したところ、「キャリアパスが不明確」という回答が断トツで挙がっていました。これは日本人の社員も同様に感じていることですが、外国籍の社員の方がリードタイムをしっかりとりながら自分の将来を見ている方が多いので、それを明確化していく必要があると考えています。

社内の公用語は日本語です。役員会には外国人の役員がおりますので同時通訳が入っています。また、研究開発職では日本語が殆どできない外国人を採用するケースも珍しくありませんので、使用言語が英語中心の研究現場も多い。それ以外の部署は日本語が公用語で、書類も大部分は日本語しかありませんので、本人の努力と周囲のサポートが大切です。

外国籍社員に限らず、ダイバーシティーという観点から、障害のある方も積極的に採用しており、コミュニケーション等にハンディキャンプがある人に対しては、周りがしっかりサポートするしかありません。特別な教育をするのではなく、周囲のサポートを徹底し、風土としていくことが重要だと考えています。

外国人雇用サービスセンターの特徴

白木続きまして、行政に関するフロアから寄せられた質問を尾形課長に伺います。東京と大阪にある「外国人雇用サービスセンター」に集まる求人情報や、企業の特徴はどういうものかという質問です。私がこれまで企業調査した経験から申し上げますと、外国人雇用サービスセンターを通じて就職活動をしている人は、平たく言うと前向きで「ガッツのある人」が多いと聞きましたが、その辺りも含め、外国人雇用サービスセンターの特徴をお教えいただければと思います。

尾形まず、東京・大阪の外国人雇用サービスセンターの実態は、正直に申しますと、まだまだ発展途上かと思っております。求人、職種、企業規模などいろいろな意味で、外国人留学生が望んでいるよう求人がどれだけ来ているかという点については、改善の余地があるだろうと思っております。

尾形氏

外国人雇用サービスセンターでは、留学生向けの求人開拓の専門職員を委嘱して、この2~3年、留学生向けの求人を開拓しています。例えば、人材をなかなか確保できないという中小企業に出向き、「留学生でもいい人がいます。一つ目を開いてみませんか。」と、求人をもらってくるやり方もありますし、外国人を積極的に採ろうという企業の求人をもらってくることもあります。外国人留学生の、ややアンビシャスになりがちな部分を現実的にしつつ、他方で企業側にも留学生の能力に着目して、少し間口を広げてもらうようお願いをしております。

実態としては、今、そういう努力をしているところでありまして、外国人留学生が望むような求人が現時点で十分に確保できているかと問われれば、我々も自信を持って言えない部分もあります。

ただ、一つだけ申し上げたいことは、東京と大阪にある外国人雇用サービスセンターは、それぞれ東京と大阪だけでやっているわけではありません。ハローワークは全国に500近くの組織があり、その全ての求人の中から「留学生でも受け入れます」という企業をふるいにかけて、問題ないという求人が2つのセンターに集約されています。そういう意味では、留学生向けの求人が非常に多く集まっていると言えるかと思います。職種や企業規模など留学生の希望にどこまでマッチしている求人かという点は、これから改善の余地があると思いますけれども、留学生向けの求人を確保しているという意味では、ご期待に応えられるのではないかと思っております。

白木先ほどの「ガッツのある人」の話をつけ足しますと、私が訪問した中小企業では、大学からの紹介で来る留学生よりも、外国人雇用サービスセンターを通じて来た留学生の方が良いという会社がありました。その会社の社長さんの経験では、大学の紹介で採用した人より、外国人雇用サービスセンターから来た人の方が、甘やかされておらず頑張りのきく人が多かったということで、今後はセンターからしか採用しないという極端な方もおられました。こうした考え方は偏見のように聞こえますが、中小企業では社長の考えが結構通るわけです。また、そうした考えに合った求人が、その時のセンターには集中していたんだろうと考えられます。

学内連携・協力体制について

白木外国人留学生の数が増えている中で、大学の先生が実際に就職支援をされている場合、留学生支援センターや就職センターなどの協力や努力だけでは対応できない面も出てくるかと思います。そうした場合に重要なのは、学内の他の部局や学部、大学院等の協力体制が挙げられるかと思いますが、末松先生が工夫されている点やその特徴についてつけ加えていただけますか?

もう一つ、私が特に感銘を受けたことは、東北大学の留学生の就職支援において日本人の学生がボランティアでサポートしているという点です。彼らから協力を得る場合の募集方法など、他の大学にも参考になるのではないかと思います。その点についてもご説明いただければと思います。

末松工夫しているところといえば、日頃からコミュニケーションを多くとっていることです。私は経済学研究科の国際交流支援室という留学生支援部門におりますが、全学対象の留学生センターである「国際交流センター」、それから「キャリア支援センター」に、自分の専門外のことは頭を下げてお願いに行くようにしています。「これは私の分野ではないのでお願いできますか?その代わり、私はこのような体制で全面的にバックアップします。」という姿勢で、お願いに行っております。

キャリア支援センター、留学生課、国際交流センターなど、外国人留学生を助けてあげたいと思っている人材は必ずいます。そういう人たちをつかまえて、懇々と支援の必要性を説いていき、理解してもらえるような構図が徐々にできつつあります。

学生ボランティアについては、東北大学には留学生の支援サークルが2つほどあり、更にキャリア支援センターの業務を手伝う学生のボランティアグループがあります。まず、そこの3・4年の学生にターゲットを絞り、声をかけて内容を説明しながら募集します。それ以外にも、経済学研究科ではチューター制度の運用にかなり力を入れておりまして、常日ごろから70名近くのチューターと連絡を密に取り合っておりますので、その中からリクルートするという方法もとっています。

白木ありがとうございました。企業も同様だと思いますが、他の部門・部局と連携するにはキーマンが必要です。方針をはっきりさせて、腰を低くして周囲の協力を仰ぐ人がいないと動かないという意味では、末松先生というキーマンがいらっしゃって、うまく連携している典型かと思います。

企業の人材獲得競争

白木もう少し質問を追加させていただきます。本日のパネリストの企業はどちらも世界的な企業であり、人材獲得においても世界的な競争をされていると理解しています。そういうなかで、日本国内の留学生を採ることは非常に重要な点でしょうし、また外国においても人材を採用されているというお話がご報告でもあったわけですが、日本企業の優位な点、あるいは苦戦している点、また苦戦しているのであればどのような工夫をされているのか、その辺りのお話をお伺いしたいと思います。

苦労しておりますが秘訣などありません。ただ、先の報告で少しご説明しましたが、ディスコのミッションである「高度なKiru・Kezuru・Migaku技術によって遠い科学を身近な快適につなぐ」を世界に向けて発信しています。我々の事業の6割は海外の売り上げですから、「VALUES」は全て英訳しています。また、現地法人で採用したマネージャーと、その下のクラスまでのメンバーを日本に呼び、「DISCO VALUES」の研修を行い、ディスコのVALUESについて理解・浸透活動を行っております。また、同様に応募者に対しても、「当社はこのようなバリューを持った企業です」と、一生懸命発信し、会社の方針に共感した方に働いていただきたいと思い、このような活動を行っております。

田籠氏

田籠各拠点、特に欧米に関しては現地にある程度のマネジメントを委ねている状態で、どれぐらい採用しているかというきちんとした数字は押さえていません。ただ、欧米は殆どが新卒でなく経験者の採用ですので、リクルーティングのサイトも豊富にありますし、サポート会社もたくさんあります。どのようなサイトを使っているかなどの採用手法は、現地のリクルーティングスタッフとのコミュニケーションで把握しておりますが、原則それぞれに任せております。

近年では、中国での雇用が非常に難しくなっています。特に定着率が低い。また教育面での整備も遅れています。日本の教育カリキュラムを中国語に翻訳して提供し始めていますが、それでも定着がよくありません。1つの原因は、日系企業の報酬は欧米系企業よりも安いことだと思います。当社だけの問題ではなく、日系企業の定着率が悪いということが今、中国の日系企業の間で議論になってきています。

それから、外国人が国内にとどまらず世界で成功していけるようなキャリアパスを描けるよう、プラン等を具体的に示していく必要があると考えています。

在留資格・ビザに関して

白木行政の尾形課長にご質問させていただきます。例えば、ソフトウエア産業を例に挙げると、IT技術者やエンジニアとして採用される日本人の大学生には、経済学部などを卒業している人がいます。哲学科を卒業してIT技術者になっている者もいます。このように日本企業が、理系でない学生をIT技術者として育成するため採用することは結構あるのですが、外国人留学生から見ると理解しがたいようです。実際、インドや中国では、ITエンジニアを採用する場合は、コンピューターサイエンスを勉強した人、少なくとも理系の人しか採用しないという企業が殆どでしょう。

このような背景を前提にした質問ですが、私のゼミでも経済を専攻しながらITが得意な留学生がいます。そういう人がITエンジニアとして働いていけると思って応募しても、「あなたはビザが出ません」と採用してもらえない。また、先ほど林部長がお話しされたように、高校生を将来の幹部候補生として育成するのだからホワイトカラーとして採用させてほしい、あるいは技術者、国際業務の担当者として育成したいという企業の意見もありました。在留資格の問題は、厚生労働省が直接管轄するところではないかもしれませんが、何かご助言等ありましたらお願いします。

尾形この問題は、必ずしも法務省だけの話ではなく、厚生労働省も外国人の方をどのように受け入れるか、その基準はどうあるべきかという議論における責任官庁の一つだと思っています。そうしたことは「出入国管理及び難民認定法(入管法)」という法律で定められており、法務省の専管なのですが、入管法でどこまで受け入れるかということを決めていく際、当然、厚生労働省とも意見調整をした上で決めています。

例えばSEの場合、大学の学部が必ずしも理工系でない人をどうやったら採用できるのか、入管法の制約がそこにかかってくるのではないかというご質問かと思いますが、確かに、入管法の「技術」という在留資格で受け入れるときは、卒業後に活かそうとするような技術を在学中に学んでいることが基本要件となっていますので、そこだけを見ると経済学部では認められないという話でしょう。しかし、「技術」の在留資格要件は必ずしもそれだけでなく、「実務経験要件」が別の道として設けられています。ただし、これは10年ぐらいの実務経験となっておりますので、マニアックでSEの世界に詳しいという人でも経験者でなければ適用されないかもしれません。その他に、そうした経験のない人でも、経済産業省が認定するSEの様々な資格、あるいは母国の国家資格を持っている人も多いのではないかと思います。そういう人たちについては、大卒かどうかは別にして、経済産業省の外郭団体が実施する様々な試験に受かっていたり、法務省が認定する幾つかの外国における国家資格を持っているかということで、入管法上のハードルがクリアできる制度になっています。従いまして、先ほど申し上げましたように、この分野についても制度としての受け入れは非常に開放的であると言えるかと思います。

パネルディスカッション遠景

また、林部長から「将来性を考えれば大卒でなくてもいいではないか」というご意見がありましたが、どのような人を日本に受け入れるかという議論は非常に難しい話であります。単に「優秀な人を入れる」と言うと、言葉としては非常にきれいに聞こえますが、どのような人が優秀なのかということは、人によって考え方が異なります。それはやはり、日本という国がどういう社会を目指しているのか、どういう職種・能力を持った外国人を受け入れるのが日本にとって幸せなのか、多面的な議論が必要だと思います。まさにそういう議論は、別途、いろいろなところで行われるのではないかと思っております。

我々としては、誰もが否定しない、異論がない現時点でのコンセンサスを踏まえた上で、外国人の受け入れ政策を進めていきたいと考えております。

パネリストからのメッセージ

白木ありがとうございました。経済学部卒でもITの資格を持っていればクリアできる、杓子定規ではないというお話は参考になりました。それでは、パネリストの方々から言い残した点などがありましたらお願いします。

末松一言だけ申し上げます。卒業後、日本で就職したいという希望を持っている留学生が増えており、事例報告でご紹介させていただいたように大学が変わろうとしております。行政や企業の方も是非、これを転機に、今までのやり方ではなくて、新しい留学生の雇用形態を探るような努力をしていただければと思います。

何回も申し上げますが、可能性としての人材を判断する際、我々の採用基準は日本人も外国人(留学生)も同じです。学歴についても、大卒が高度人材で、高卒は高度な人材でないという区別に対しては、やはり理解できない部分があります。これは役所だけの問題ではなく、日本全体として考える問題であると捉えております。

田籠先ほど文系の学生がSEになれる、なれないという話題になりましたが、当社では、基本的にSEという仕事は、技術系、ビジネス系、サービス系と分かれています。当社の場合は文系の外国籍でもSEでのビザを取得しております。SEといっても業務がサービス系であることを具体的に説明し、理解を得て入管を通っています。ただ、地区によって判断が異なることがあります。例えば、関西のSEの会社が私どもの指示に従って申請したところ、大阪では却下されました。国が一枚岩でないという事実があるのが実情です。中央ほどオープンになってきているのが傾向ではないかと感じています。

それから、ソブリンさんの体験報告でご指摘があったように、日本人や海外の日本人留学生向けのサイトは、『リクナビ』や『毎コミ』をはじめ、どんどん乱立している状態に対し、外国人留学生向けのサイトでメジャーなものは現在、見当たらないと思います。しかし、おそらく今後は、外国人留学生も日本企業や外資系企業の大きなリソースになっていくでしょうから、そうしたサイトができることを私自身も強く希望しています。日本だけの就職ではなく、日本に勉強に来ている留学生を現地のローカル社員として採用したいという現地法人からのニーズが上がってきており、こうした実情からもウェブサイトの構築への期待は大きいものがあります。民間企業に頼らず、国の機関が作ってもいいのではないかとも思いました。

尾形田籠センター長から頂いたご注文は非常に重要なご指摘だと思います。とにかく、行政はサービス機関であって、人的資源の無駄をなくすためにはどうすべきか、全力を挙げて取り組みたいと思っております。

コーディネーターの総括

白木最後に企業、留学生、大学、行政に対して申し上げたいこと、そして総括を述べさせていただきたいと思います。

企業に対して

まず、企業について、田籠センター長もおっしゃっていましたように、日本企業は透明性のあるキャリアパスを従業員に十分示し切れていないのではないかというご指摘がありました。とくに留学生を採用する場合は、複数の雇用形態やキャリアパターンを柔軟に対応して準備する必要があると思います。応募する留学生の層が多様だからです。日本の学生の年齢層も最近は少し幅が出てきましたが、それでも大卒=22歳~23歳というイメージがあります。それに対して留学生にはいろいろな年齢の方がいますし、海外での職歴がある人も入ってきます。また、英語で授業を受ける人もいれば、日本語だけの授業を受ける人など、日本語の能力もまちまちです。こうした観点から、多様な学生層を採用できる形態を幅広く準備する必要があり、そうしないとミスマッチが起こる可能性があります。また、日本語が若干不自由な人も採用し、活用できるようなシステムを日本の企業はつくらなくてはいけない。ダイバーシティーという観点から申し上げますと、日本語が不自由な人だけでなく、日本人以外も十分に活躍できる(出世できる)組織・風土をつくらない限り、日本企業のダイバーシティーは完結しないと思います。日本社会あるいは日本企業の魅力を高めるためにも、外国人留学生の採用を一つの契機として、本来ダイバーシティーが意味するところに組織を近づけていかなければならないと思います。

もう一点付け加えますと、本日の議論ではあまり話題になりませんでしたが、日本の企業組織には長時間労働が多く散見されるのではないでしょうか。長時間労働が常態化しており、それを是とするような企業風土を改革していかなければ、日本企業、あるいは日本社会の魅力が低下してしまうと懸念を抱いています。

先日、たまたま飛行機で隣に乗り合わせた方がスリランカのエンジニアだったのですが、この方は日本に来て10年、日本の大学院を卒業してSEエンジニアとして最先端で仕事をしているそうですが、50歳になったらスリランカに帰ると言っていました。日本企業は魅力的だし仕事はおもしろい、給料も良い、社会が安定しているから家族も満足している。ところが、家族生活がないと言います。朝8時ごろに出社して夜の10時、11時まで残業している。周りが残っているので自分もつい残業してしまい、子供や家族とのコミュニケーションがとれないと言います。だから50歳で母国に帰ると。そのことが私には印象に残っています。

やはり、日本の魅力を高めていくためには、家族生活も充実して楽しく過ごせるようにならないといけません。それが少子高齢化を食い止めることにもなるのではないでしょうか。留学生の就職問題から話が広がり過ぎているかもしれませんが、日本社会の魅力を高めるという意味では関連していると思います。

留学生に対して

留学生に対して申し上げたいことは、5年後、10年後に母国に戻ってからのキャリアを考えているからだと思いますが、それを差しい引いても有名な大企業志向が強過ぎるのではないかと思われます。とにかく有名でなければ駄目だという人がいます。基調報告でご紹介したように、留学生の8割が日本企業に勤めたいと言いながら、そのうちの8割が帰国している背景には、大企業でないと嫌だといって帰ってしまう人も、周囲を見ていると結構いるようです。大企業に就職できなければ、地元に帰って就職した方がいいという短絡的な発想を持っているように感じられます。

日本の中堅・中小企業にも非常におもしろいキャリア(仕事)があります。これは企業や行政の努力、あるいは大学の努力にもかかっているかもしれませんが、有名大企業でないとキャリアはないという発想はあまりにも一面的過ぎるので、考え直していただきたい点です。さらに、留学生は処遇などを甘く考え過ぎる面もあります。多国籍企業調査の経験から一つ例を挙げますと、2~3年、日本の本社で働いた後、本国に派遣してもらいたいと言う人が結構います。しかし、海外に派遣する場合はコストもかかるし、それなりの人でないと派遣しても意味がありません。実際、日本から外国に派遣されているのは、平均年齢は46歳、勤続年数20年といった人達です。こういう人たちが本社から派遣されて海外のオペレーションを任されているわけです。たかだか3~4年働いて、海外オペレーションの責任者として派遣してほしいというのは甘過ぎます。そういう人たちは意外と自己採点で甘い点数をつけて、「日本の企業は自分の希望を通してくれない」と壁にぶち当たっている場合も多いのではないでしょうか。彼らには、もう少し客観的な事実を知ってもらいたいと思います。

大学の就職支援に対して

白木教授

外国人留学生は、日本人の学生と比べて就職活動の出遅れが目立ちます。10月に内定をもらっている人を調査したところ、内定を得た留学生とそうでない留学生の間には、就職活動の開始時期に相関関係がありました。開始時期の早い人は内定をもらっており、遅い人はもらっていない。体験報告者のソブリンさんは、大学1年生の時からSPIのトレーニングをしていたというお話でしたが、通常の学生はその余裕がなかなかありません。修士論文を書いたりしていると出遅れてしまうことがあり得るわけですが、そこを何とかもう少し早く、日本の学生と同じようなタイミングでスタートできるように指導していただければ良いかと思います。

それから、日本の現役学生がボランティアとして留学生の就職に関わるというのは非常に良いアイデアです。そのようなボランティアを希望する日本人の学生はたくさんいるはずです。学生活動で留学生に対する支援はやっていますが、就職に関するボランティア活動というのは、今日、末松先生からアイデアをいただいたような感じがいたしました。

行政に対して

日本政府全体を挙げての話になると思いますが、対外的アピールに注力していただきたい。基調報告でも例に挙げましたが、シンガポールは全世界の都市に出先機関がありワンストップサービスも行っています。魅力をアピールしているわけです。日本もPRに力を入れて、各チャネルを通じて面白い人材に来てもらえる努力をする必要があるのではないでしょうか。

留学生の就職に関しては、行政が率先して、マッチングを促進するための環境を整備していただきたいと思います。

最後に

個人的な感想を述べさせていただきます。留学生が日本で勉強し卒業後働いても、最終的には母国に帰る場合が多いと思いますが、日本に良い印象を持って帰ってもらうことが大切です。母国に帰る場合でも、現地の日本企業に勤める人は実際多いわけですから。先ほど紹介しましたように、日本で就職を希望するうち2割か3割は日本で働いていますが、残りは帰国しています。ところが、そのうちの過半数は日系企業で働いているわけです。そういう意味では、留学生が日本の企業や社会に貢献していることになり、留学中の日本に対する印象が決定的な要素になると思います。お金をかけて日本に来てもらっても日本嫌いになってしまったら元の木阿弥どころかむしろマイナスです。日本を好きになってもらえるような仕掛けづくりを、大学、企業、行政、社会全体が力を合わせてやっていくことが重要であり、本日の議論では、それを再確認できたのではないかと思います。