事例報告:川崎重工業/定年延長の実施と総合的人事処遇制度改革
団塊世代の多様な就業機会をいかに確保するか ―「2007年問題」と今後の高齢者雇用― 第20回労働政策フォーラム(2006年12月1日)

開催日:平成 18 年 12 月 1 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配付資料

川崎重工業/定年延長の実施と総合的人事処遇制度改革

生産体制維持のために高齢者の活用を

定年延長制を入れた背景には、当社の従業員は造船不況時の採用抑制や人員削減の影響で 30歳代半ばから 40歳代がかなり少なく、 50歳代の生産職が多くを占めているとの特殊事情がある。生産職の人員推移予測(図表1)をみると、 60歳定年を維持したまま採用を現行規模で行った場合、 2005年には約 4,500人で生産体制を組んでいるが、 10年後には 3,000人程度に落ち込んでしまう。生産規模を維持するためには、採用増や人員の増強、あるいは自動化・外注化などの手立てを講じなければならないのである。

生産職の人員推移予測(定年延長前)

とはいえ、少子高齢化が進むなかで採用枠の拡大は限界がある。加えて、職場の中堅層が手薄なまま人員を増やしても、年齢の断絶は解消できない。実際に仕事を進める戦力不足を補いきれないし、技能伝承を円滑に進められるか否かも不確定なままだ。

その一方で、当社は台湾新幹線やニューヨーク地下鉄、防衛省向けの大型輸送機を受注しているなど、中長期的な操業の見通しは立っている。これらの遂行に当たっては、高度技量を要する多くの職種の人材が必要不可欠だ。

人事処遇制度改革に社会情勢が後押し

このミスマッチを解消するには、「単に人をかき集めさえすれば何とかなる」はずもなく「外注化や協力工の拡充と併せて、高齢者を活用すること」が必要だった。丁度、当社では同時期に「TAR―GET」と称する総合的な人事処遇制度改革を実施。労務費の構造にメスを入れて、労務費の変動費化と高齢者賃金の抑制を図ってきた。この制度改革に、公的年金の受給開始年齢の引き上げや 60歳前半層の雇用の義務化も後押しした形になり、人事制度の総合改革の一環として高齢者の活用を進めることになった。

60歳以降の雇用形態について、従来は一般従業員と基幹職員(幹部職員)それぞれ別制度を定めており、いずれも会社が認めた人間をピックアップして一年単位で再雇用してきた。上限は一般従業員が 65歳、基幹職員は 63歳。賃金は一般従業員が 60歳時点の約 6割、基幹職員は年収を十段階にランク付けしていた。

それを 2005年度からは、一般従業員は 63歳まで定年を延長。さらに 06年度からは、 63歳以降の一般従業員と 60歳以降の基幹職員について、希望者全員を最長 65歳まで再雇用する制度に改訂した。賃金は前者が 60歳時の約 6割、後者は時給で五ランクに設定している。

定年延長は安心のメッセージ

05年度に定年延長制を導入した理由は、主に 4つあった。まず、正規従業員として雇用を確保することで、安心して働いてもらいたいとのメッセージを込めたかった。 63歳までは年齢を意識せずに雇用したいし、福利厚生面なども変わらずに処遇する。

また、 99年に組合から定年延長の要求を受けた経緯もあった。当時は実現しなかったが、検討は続けていたので、制度構築に関する一定の素地があったといえる。

この他、「TAR―GET」の実施に伴い、ある程度の定期昇給の抑制を行ったので、その代償措置の側面もあったし、定年延長の実施に伴い、単年度単位の退職金給付の債務負担が軽減されるといった財務的な付随効果もあった。

定年延長年齢を 63歳にしたのは、将来予測の観点で一気に 65歳にするよりも、経済・雇用情勢などを見据えつつ、徐々に延ばしていきたいと考えたからだ。

新賃金制度「TAR―GET」

前述の通り、当社では定年延長制の実施と時を同じくして、 60歳以下の全従業員を含む労務費の構造を大きく見直してきた。ここで、その制度改革についても少し触れておきたい。

新賃金制度「TAR―GET」の一番の狙いは、定期昇給制度の廃止に相当する見直しといえる。図表2のように、旧制度では自動昇給部分の比重が大きく、誰もが右肩上がりの給料だった。自動昇給部分は年齢別・職能資格別の一律昇給テーブルがあり、これに若干の査定部分を加味する青天井の制度だった。

定期昇給制度の見直し(TAR-GET1)

新制度では、この自動昇給部分を圧縮し、代わりに査定昇給分を手厚くすることで一律右肩上がりを廃した。査定部分も職能資格別に上限を設けて上げ幅を圧縮。高齢化や高職級化で膨らんだ昇給原資分の適正化を図っている。査定の基になる人事考課に関しても、旧来は平均主義的な運用を行っていたが、これを加点主義に変えることでメリハリを付けるようにした。

年齢部分の圧縮と習熟加算部分の拡大

この結果、現行の賃金項目(生産職)は、 (1) 職能給 (2) LS(ライフステージサポート)手当――で構成する。職能給は、職能資格で一律の「職能給基本額」と査定昇給を積み重ねる「習熟加算」に別れており、LS手当は年齢に応じて一律支給する「年齢給」部分になる。以前は、年功給的要素の強い本給と年齢給、家族手当を合わせて給与全体の 6割を占めていたが、今のLS手当は全体の 4割程度になった。逆に、全体の 4割程度だった職能給部分を、能力の伸長に応じて職能給に加減する習熟手当を加えて全体の約 6割に拡大した。

なお、高齢者に関しては、 60歳到達時点でLS手当の支給を停止。習熟加算分も若干圧縮して、トータルで 60歳到達時の 6割程度の賃金水準になるよう設定した。定年延長後は仕事に応じた処遇の考え方をベースにしているため、 60歳到達後も習熟加算部分の査定昇給は実施する。

その他の労働条件は、賞与や福利厚生が 60歳未満と同様。退職金は定年延長以後、毎月 5,000円ずつ増額される。

一方、事務技術職については、職能等級が多過ぎたとの反省を踏まえて 3等級から 2等級に簡素化。賃金体系は職能給のみで処遇する形に変更した。そのうえで、個人業績加算制度を導入し、月給の一部を 6カ月分まとめて組み替え、別原資を加えて賞与でまとめて支給することにした。成績査定を行った上で支給するが、極端に成績が悪い人を除いて原資割れしないようにしている。

制度改革を機に、退職金年金制度の整備も施した。以前は退職一時金のみで年金制度は持っていなかったが、今は確定拠出年金制度やキャッシュバランスプランを導入することにより、従業員の老後の安心を保障する取り組みも進めている。また、定年延長で本来、 60歳で予定していた退職金の受給が後にずれる影響に配慮して、希望者には退職金の一部前倒し支給も行っている。

63歳以後の再雇用制度も構築

当社では、改正高年齢者雇用安定法の成立直後の施行規則などが出る前に定年延長制を実施した。このため、法対応を満たしていない部分も残っていた。そこで労組からの要望も踏まえ、従業員のモラールの向上と労働力の確保を主眼に、新たに 63歳以降の再雇用制度の構築に取り組み、厚生年金の受給開始年齢までに雇用確保ができているようなスケジュールを組んだ。

再雇用制度の対象者は、定年後も当社での勤務を希望する正規従業員。健康状態や出勤状態などの欠格条項はあるが、原則ほぼすべての従業員が希望すれば再雇用される仕組みだ。

生産職の人員推移予測

勤務形態は原則フルタイムだが、短日数・短時間勤務も可能。賃金は時給制の定額で、 63歳時点の賃金水準を引き継ぐレベルを最高位と位置づけ、その下に 4ランクを設定している。賞与も最高が 63歳時点と同レベルで、退職金は支給しない。基幹職員も対象者だが、再雇用後は一従業員として働くので、すべて労働時間管理の対象になる。

定年延長と再雇用の両制度の実施で、従業員の減り幅がピークを迎える 2013年前後に 700人程度の雇用確保ができた計算になっている(図表3)。それでもまだ人手不足なので、今後、採用拡大などを図りたい。

ホワイトカラー層の処遇が課題に

最後に、今後の運用面での課題だが、まず元管理職の意識改革が求められる。高齢層の従業員には、一プレーヤーとして後進を支えながら働くことが要求される。そこでどうしても問題になるのが、いわゆる管理職の処遇。例えば技術一筋で手に何か持っている人は、企業の中でも比較的活用しやすい。だが、組織管理することを高く評価し、処遇してきたケースは、「管理職から外れて仕事も軽くなるから賃金も下げますよ」となったときに、実務遂行から長く離れていたこともありプレーヤーとして活用しにくい現状がある。 55歳ぐらいから、緩やかに進路選択できるような方法を検討しなければならないと思う。

また、事業領域による働き方のニーズの差異も課題だ。当社は広い製品群を有しており、事業領域ごとに高齢者に対する働き方やニーズは異なる。とはいえ、事業領域によって高齢者の働き方に差がありすぎても問題なので、穴埋めのさじ加減が求められてこよう。

技能職場の職務開発も

定年延長を実施する前に、高齢従業員を対象にアンケート調査を行ったが、現職継続が望ましいとの回答が大多数を占めた。職場としても、勝手知ったる人がいてくれると助かるとの思いもあり、今のところは本人の希望と職場のニーズがマッチしている。

とはいえ、高齢化すると作業遂行が難しくなるようなケースもないわけではない。溶接を例にあげれば、「老眼がある程度進むと辛い」という話を聞くし、また一定の距離を保ってビームを出すので腕力が落ちてくるとしんどいという。こうした場合、現状は現職継続を原則としており、高齢者の数もまだ少ないので、後方支援や後進指導などの業務へ転換することで対処できているが、今後は現場の状況を見ながら、職務開発をしていかねばならないだろう。

さらに、生産現場における職場環境の整備も欠かせない。これについては、女性の活用などを念頭に、必ずしも高齢者に限った施策とせずに取り組んでいきたい。

この他、対象者へのアンケートや労使の意見交換の場の設置などを通じた制度のブラッシュアップや、セミナーの開催等を通じた制度の周知徹底も必要だ。

いずれの課題も、 63歳まで定年を延長してどういう影響があったかということを検証しながら、 65歳までの定年延長を見据えて取り組んでいくことになるだろう。

(講演者=川崎重工業株式会社 人事労政部企画課・佐田考史氏)

NEC/団塊世代の多様な就業機会をいかに確保するか

当社では、技能系社員は全従業員の 1%に過ぎず、 99%をいわゆるホワイトカラー層の社員が占める。自己都合退職率は世間で言われている数字に比べると極めて低く、定年等それ以外の退職を合わせても退職率は一桁の前半であり、定着率は高い。従って、人材に対し、どう処遇していくかが非常に重要な課題になっている。

また現在、 50歳以上層の管理職も多く、 60歳以降の雇用を考える場合には、ある程度の賃金水準にある管理職が大勢を占めていることを念頭に置く必要がある。こうした人たちにどう対応し、ノウハウをどう引き継いでもらうかが制度構築の際のポイントになる。

貴重な大規模

当社では昭和 40年代以降、「レガシーシステム」と称するメインフレームコンピュータのシステム開発を行ってきた。最近では、オープン系と言われるサーバ中心のシステムに変わりつつあるが、現在でもメインフレームで動いているコンピュータはかなり多い。

こうした大規模システムを昭和 40年代に担当した社員は、前例のない最先端で道を切り開いてきた経験の持ち主たちで「スーパーSE」と言えるかも知れない。仮に、レガシーシステムの開発プロジェクトのリーダーになっていたような人が抜けると、本当に困ることになるだろう。つまり、レガシーシステムの開発・運用ノウハウを持った従業員が貴重な人材であることに変わりはなく、彼らが年齢的に雇用延長の対象になっている。

次世代育成にも不可欠な存在

彼らを社内の次世代育成という観点でみると、自分で何でもできる人達であり、権限委譲・後進育成という面で、今まで怠っていた面もあるかも知れない。

丁度、開発時期が成長期でコンピュータシステムの導入・進展時期に重なったこともあり、彼らは何でも自分でこなしてしまう傾向が強かった。このため、いま動いているレガシーシステムの関係で、一部の開発担当やプロジェクトマネージャーが雇用延長の対象になってきているが、その一方で運用面でのノウハウが整備しきれていない部分もある。

次世代育成には、ノウハウを持っている彼らに残ってもらうことが重要なカギとなっている。

雇用延長施策の概要

当社は、管理職および部下がいなくても相当の難易度・高度な経営・技術関係に携わる者を「グレード適用者」、非管理者層を「主任以下」に分けている。

雇用延長施策

雇用延長の対象者は、「主任以下」については労使協定で一定程度の成績以上(標準成績)以上であれば本人の雇用延長の希望に対し、会社側から業務をオファーする。手順としては、 56歳時点で対象者全員に今後どうするかを確認して、(1) 60歳までで退職したい (2) 60歳以降も働きたい――のいずれかを選択をしてもらう格好だ。

会社側からオファーを受けた人の賃金体系は別途定めている。 60歳以降の賃金水準も 56歳時点の水準を巣として設定される。

2006年 4月以降、この雇用延長制度を適用しているが、実態は対象者の 3割弱が選択している。

一方、「グレード適用者」は原則、 56歳でライン管理職から外れる。 60歳の半年前時点で雇用延長の打診を行う(図表1)。

NCP認定者等は現業務を継続

グレード適用者のうち、「NCP(NECCertifiedProfessional)認定制度(図表2)」(どういった業務をしているかと、公的資格等を審査基準にした資格制度)で「上席プロフェッショナル」あるいは「プロフェッショナル」の資格を有する層については、社内・外である程度認められた人であり、前者は 56歳以降も同じように業務がアサインされ、賃金・賞与の処遇も変わらない。後者は賃金面で見直しがあり、 60歳時点でも 56歳時の水準をベースにして見直しがあるものの、業績賞与の出来高でリカバーできる仕組みにしている。

NCP認定制度の人材タイプ

また、現場監督者や管理技術者のような「資格保持者」がいなくなって現場が困るような場合には、そのまま現職を継続して次世代育成を行っている。この場合にも報酬は見直すこととしている。

その他、本人希望があれば業務オファーをするわけだが、基本的にはなかなか業務が準備できない場合には、異なる業務をそれに見合った報酬でオファーすることとしている。

管理職も現在、全体の 3割程度の人が選択している。

なお、退職金については、グレード適用者、主任以下とも 60歳で支給しており、 60歳以降の雇用延長制度での退職金はない。厚生年金は加入するが、企業年金については本人の選択に基づき、 60歳から支給できる。なお、雇用延長は双方とも厚生年金の定額部分支給時迄としている。

セカンドキャリアをサポート

雇用延長を取り巻く制度は、(1) セカンドキャリア休暇と研修費の補助 (2) セカンドキャリア準備支援金(3) 兼職制限の緩和――などの「セカンドキャリア施策」があげられる。

セカンドキャリア休暇と研修費の補助は、 45歳以上の対象者が最長二年間の休暇を取得できるもの。 70%の報酬を保障するうえ、研修費も 50万円ぐらいまで補助する仕組みだ。

セカンドキャリア準備支援金は「すぐ事業を始めるから支援金を退職金に加算して欲しい」とのニーズに応えた施策で、数カ月~ 20カ月台半ばぐらいまでの月収を退職金に加算する。

現在、年間 3桁の人が、どちらかの制度を利用しているが、これらの制度は中年層の退職を促すものではない。あくまで、本人が様々なキャリアを考えることへの支援措置であり、本人の選択により活用してもらうものである。

兼職制限の緩和も、セカンドキャリアのための位置づけで実施した。例えば、調理師になりたければ資格取得や実習が必要。農業など、見習い期間中は賃金が安い仕事も少なくないだろう。そこで、一定の報酬を支払いつつ、次のキャリア考えてもらうことを狙ったものだ。

職業生活の節目ごとに研修も

さらに「ライフタイムキャリアサポート」と称する 30歳、 40歳、 50歳での節目研修も実施している。高齢者層の 4人中 3人が管理職の実態のなかで、企業がどうサポートできるかといえば、個人の視点から人生を考えるのを支援することが考えられる。その際、企業が必要とする人や働き続けたいとの強い意欲のある人は社内に残るだろうが、一企業を超えたマッチングシステムで社外に出ることも必要になってこよう。そこで、意識改革という意味で、ライフタイムキャリアサポートとして自分の人生をどう考えているのかを節目で実施することにした。

50歳以降はキャリアの棚卸しも

将来のキャリア形成意識を醸成することが目的だが、特に 40歳・ 50歳以降は、生活の設計だけではなく、自分自身何ができるのかのキャリアの棚卸しや部下の育成も視野に入れてもらう。

こうして 50歳代の社員と面談していると、(1) 低い報酬では一切関心を示さず、自分で人生設計をしてきたから雇用延長の必要はない (2) 例え報酬が下がっても、仕事にやりがいを持っていて雇用延長に興味を持つ――二つの相半した反応に分かれる。後者に対しては、「自分は何ができて、どういうスキルがあり、それをどういった形で継承していくのか」といった「見える化」をやり始めている。

会社には、次のキャリアを考える時には「私は○○ができます」ということを自分の口ではっきり言えるようになってもらいたいとの思いがある。そのためにも、キャリアの棚卸しは重要な作業。こうした意識づけなしに、管理職やホワイトカラー層が次のキャリアプランを立てるのは非常に厳しいだろう。これは、後任を育成することにも役立つだろう。

絶え間ない勉強とフレキシビリティーが必要

ITは変わるものだから、絶えず新しい知識を勉強することが必要。新プロジェクトに入れば新しい技術を勉強しながら進めることになる。その作業は不可欠なのだが、会社としてはそれだけではなく、マネジメント的なこともある程度できる人が必要である。

仮に、レガシーシステムのような大きなシステムでプロジェクトマネジメントをやっていた人が、携帯電話のソフト開発をするような場合を想定すると、分野は違ってもそこのプロジェクトマネジメントができるか否かは、やはり勘どころを押さえている人はある程度できるが、全員ができるかというとそうではない。ではどんな人ができるのかというと、今は何となく過去の実績で「あいつは多分できるよ」といった感じでアサインしている。

現状はやはりケース・バイ・ケース。うまくマネジメントできて技術的にもフレキシビリティーの高い人はある程度うまくいくし、逆に物事に対して保守的だと難しいことが多かったりするのではないか。

今は技術転換期の中にあり、公平性を考えた場合、全員同じように処遇はできない。そこでプロジェクトマネジメントのような経験がモノをいい、技術分野をある程度勉強してもらうということだろう。うまく移行できない高齢者の活用は難しいが、例えば保守関係であれば昔取った杵柄で活用分野がまだあるのではないか。そこで、一つの基準としてNCP資格保有者については、雇用延長のスキームとして示している。ただし、この辺も今後の課題かも知れない。

外部に出られる仕組みづくりも

また、 50歳代前半層からは、雇用延長をしっかりやって欲しいとの強い意志が伝わってくるので、この世代が雇用延長期に入るまでに制度をリフレッシュする必要性もあるだろう。加えて、兼職制限の緩和については、SOHOやテレワークなどの個人請負になり得るような形態の補足も検討したい。

その一方で、会社は必要な人を明確にして「こういうことをできれば、こういう仕事で残ってもらいたい」というような提示も行っていく。そのうえで、外部に出られるような仕組みづくりも進める。現在、多様なキャリア構築のため、外部求人も社内ウェブで見ることができるようにしているが、一社での求人・求職のマッチング活動は限界を感じざるを得ない部分がある。一企業を越えたマッチング機能の強化がより必要となるかも知れない。ただし今後、 60歳以降にも対象を拡げれば、賃金の社会的相場の企業間・地域間格差が狭くなるのでやりやすくなってくるいのではないだろうか。

(講演者=日本電気株式会社官庁・公共・金融・通信ソリューション企画本部
人事統括マネージャー・但田潔氏)

ブライトキャリア/働きたい高齢者と働いて欲しい企業の架け橋を目指して

当社の事業は、(1) 再就職支援 (2) 人材紹介 (3) 人材派遣 (4) 人事コンサルティング――。設立は 23年前だが、 60歳以降を対象にしたのは最近のことだ。

当社は 5年前に社員の処遇を改革した。 120人の社員全員を契約期間一年の契約社員にして、毎年、成果に基づく契約交渉をする。定年制を止めて、慰労金という名目の退職一時金はあるものの、退職金も 5年前に取りやめた。今は年功序列的なものを一切廃した中で、社員のモチベーションをどう図っていくべきかを模索している最中だ。

人生の晩節期をどう生きるべきか

私は最近、「人生の晩節」について強い関心を抱いている。 60歳以降の晩節期をどう生きていくかが、団塊世代の今後に人生に連動すると思うからだ。これからの高齢者は、「仕事」という軸をどのように持っていくかが重要であり、当社がそのお手伝いをできたら良いと考えている。

その際、ポイントは短いスパンで仕事を捉えないこと。例えば、芸術家や作家、画家、書道家などは「 60歳を過ぎた」とか「 65歳になった」などといった年齢を軸にせず、亡くなる直前まで仕事に打ち込んでいる。団塊の世代が仕事を考える時も、自分の人生を全うする部分まで視野に入れながら第二の人生を捉えていくべきではないだろうか。 65歳の年金のつなぎまで働こうと思うことも確かに大事だが、生涯を終えるまでのロングタームな考え方も必要だと思っている。

社外に出て働きたい人をサポート

とはいえ、現実は定年間近の約半数の人が、企業内で何とか面倒見てもらいたいと考えているようだ。大企業では定年を迎えた高齢者の 6割が 60歳以降も希望して会社に残っていたいとのデータもある。その一方で、自分より若い人の下で定常的な仕事をすることを潔しとしない人も少なからずいて、彼らは社外への転出を希望する。

これを大ざっぱにみれば、現時点では企業に残りたい団塊世代は 5割、社外でもいいと思っている方が 3割、もう余り働きたくないなど、自由に過ごしたい事情の方が 2割といわれる。当社では、このうち社外に出て働きたい 3割のスムーズな転身をサポートしていきたいと考えている。

採用側のニーズに着目した新しい仕事を

また、この比率は今後、変化していくと思う。あと 3年経って、団塊の世代が卒業期を迎えると、企業内に残りたいとの思いが強くなるのではないだろうか。

しかし、これを企業サイドから見ると、その人たちがあまり多く残ると職場の雰囲気が変わってしまう可能性もある。生き生きした感じがなくなり、その人たちが大きな顔してしまうといった問題点も出てくるだろう。だから、一定割合については企業内に働ける機会があることが必要だが、新しい仕事を探す機能が広がらなければ、企業べったりの甘え型になってしまう恐れもある。

新しい仕事は、中小企業やNPO、介護など新産業の諸団体などで生まれることが考えられる。そういう場の採用側のニーズの方に着目していきたい。

要望に合わせた潜在的求人の掘り起こしを

今、 60歳以降の求人倍率は 0.5倍程度で、決して多いとはいえない。だが、ちょっと発想を転換すれば、求人側も希望職種を今までやってきた仕事と全く違う関係の仕事にまで目を向ける人や、「ゆっくりしたいので、少し時間をかけたい」として半年ぐらい相談を続ける人がいたりする。それぞれの要望に合致するサービスを提供するなかで、ハッピーな姿が見えてくるものだ。

この際のポイントは、求人サイドの「こういう人が欲しい」といったニーズがまずあって、その仕事に合う人を探しだしてあげることが非常に重要。単に「仕事がありますからどうぞ」ではなく、「あなたが本当にやりたい仕事を見つけましょう」といった形で、本人に着目して仕事を探していく。すると、潜在的な求人の世話ができる。 

求人開拓方法(お急ぎプランの方)

例えば、中小企業で「週 2回ぐらい、経営相談に乗ってくれる人が欲しい」とか「経理関係の実務は今いる社員で十分だが、決算書等の作成部分でのアドバイスが欲しい」などといったニーズは埋もれていて表面には出てこない。そういった仕事を発掘して、人を紹介すると非常に喜んでもらえる現実がある(図表1)。

助走期間を置いてやりたいことを探す

60歳になって次の世界を考える場合、単に「すぐ次の仕事に就きたい」とはなかなか思わないのではないだろうか。それまで 30年も 40年も頑張って来た人たちなのだから、助走期間を置くことも大事だと思う。そのなかで改めて、「今までやった仕事を続ける人」「全然関係のない仕事に発想を変える人」「仕事じゃなく、生きがいづくりをしたい人」に分かれてくる。一時期のキャリア開発期を経て、本人の希望を受けながら、それぞれの道を歩んでいく仕組みがベストだと思う。

また、そういう時間を置くと、「たまたま仕事があるから就いちゃったけど、やっぱり面白くなかった」という羽目に陥らないし、本人がやりたいことと仕事を求めているところが非常にかみ合っていく。相談を受け、仕事を紹介することで、成功例を積み重ねていければと思っている。

働き方・考え方の切り替え作業も必要

団塊世代は熟練技能・技術を有していて、定年後も働く意欲が高いから企業はちゃんと面倒見てくれるといった声をよく聞く。しかし、それに甘んじることなく、「こういうタイプの人ならぜひ働いて欲しい」との採用側の声を素直に聞いて、本人にはちゃんと条件をつけていくべきだ。

ブライトキャリアの再就職支援のステップ

60歳以上になると、ややもすると頑固だったり思い込みが激しいなど、そのまま紹介したら会社側に迷惑をかけてしまうことも珍しくない。そういった場合には、少し働き方・考え方の切り替え作業をして、本人に変わってもらう必要がある。

とはいえ、既に頑固な人がそうならないようにするのは非常に難しい。そこで、今後は頑固にならない方法の研究や、第二の人生の働き方のコーチングの開発が必要といえる。当社では、威張らず柔軟性のある働き手として、新しいマーケットに登場するお手伝いもしている。働きたい人と、働いてほしい企業との架け橋ができればと考えている(図表2)。

柔軟な発想で団塊世代の活用を

団塊の世代をうまく社会の中で活用していくためには、柔軟な発想も必要。従来の年功序列型では、企業内で技術を蓄積し続けるわけだが、その発想からは一旦卒業し、全く異なる第二の人生用の仕事の仕方を考えねばならないだろう。一つはタイムシェアリング的な働き方。週の特定の曜日だけ働くとか、一日のうちの数時間だけ働くなど。もう一つは契約型。会社に面倒見てもらうといった発想は捨てて、契約条件が違えば労使双方に断る自由があるといった契約を意識する。さらに、一定程度の試用期間を設けて、うまく働けたら正式に雇用するが、だめなら不採用といった発想もいれていけば、高齢者雇用は進んでいくのではないだろうか。

70歳まで働ける社会が理想

高齢者にはいつも「働いた方が得だ」と話している。定年後の仕事を損得で考えるのはおかしいのかも知れないが、やはり「自分にとって、ここで働いた方がいいのだ」と思える雰囲気を社会側がつくるべきだと思うからだ。お年寄りを邪魔者扱いするのではなく、働くことを称賛する社会が必要ではないだろうか。

個人的には、可能なら 70歳ぐらいまで年金を受給せずに働ける社会が理想だと思っている。その代わり、 70歳になっても働いている人には、病気になった場合に優先的にベッドが提供される等、何らかのインセンティブがあるような形が望ましいと思う。今後も人材会社として、働く意欲のある高齢者をサポートしていきたい。

(講演者:株式会社ブライトキャリア 代表取締役社長・森下一乗氏)

事業型NPOイー・エルダーの役割

はじめに

イー・エルダーの設立は 2000年 12月。東京都から認証を受けた。その後、活動を全国に広げたいと考え、04年 9月には内閣府に届け出を行った。事業を経営して行くとの強い意識から「経営方針」という言葉を使用しており、名称にも「事業型」という冠を付けている。「事業型NPO」としての実績を示すことが、わが国のNPOが欧米の第3セクターと同様な存在になる社会の流れを創るとの視点で、事業計画を立てて推進し、成果を上げていくという必死の努力を続けている。

ミッションとビジョン

当組織の理念は、ITの社会的知的資産を持つ高齢者が、IT活用の視点から非営利団体の活性化を図っていこうというもの。この根底には、私自らの経験で、パソコンやインターネットを使いこなすことで人生が変わることを、知らない人たちに教えてあげたいとの思いがあった。また、月給数千円で働いている障害者に仕事を提供することで、数万円、最終的には 10万円ぐらいの収入が得られるようにしたいとも思っている。

事業内容は高齢者・障害者を対象としたITに関わる非営利事業とし、この実践により、高齢者の社会参加や障害者の就労支援を行う。

中古PCの寄贈支援等を実践

具体的には、まず「リユースPC寄贈プログラム」と称する再生パソコンの寄贈事業(図表1)。 (1) 中古PC提供企業の開発・受付 (2) 社会福祉団体や教育機関などを対象にしたリユースPC寄贈申請・承認 (3) PC再生団体へのPCと再生費の寄付――等の企画・運営を手がけており、設立以来 7年間で 4,000団体に 1万 5,000台のパソコンを寄贈している。

「リユースPC寄贈支援プログラム」の仕組み ( MARプログラム支援 )

また、IT研修サービスの講師の育成・派遣、講座の開設をしている。障害者の就業支援事業にも力を入れており、インターネットを活用した在宅ワークを提供している。

他にも、企業に対する社会貢献プログラムの提案や、団塊世代をターゲットにした「事業型NPO」の経営支援セミナーなどの普及・啓発活動も行っている。

利益を上げつつ顧客を満足させるプロ集団

これら事業にかかわるすべての会員が、顧客の満足度を高めるサービスを提供して、利益をあげるプロフェッショナル集団と自負している。現在、会員は 110人だが、皆、企業で 30年、 40年勤め上げて自己実現をなし得た人ばかり。そんな彼らが活躍の場をNPOという舞台に移し、高齢者や障害者、他の非営利団体に役立つサービスを提供していく。そして、その過程で、企業で体験した自己実現とは別のそれがあると気付く。言葉を変えると、実際に仕事に携わっている会員 50~ 60人が、社会的問題・課題解決のために、自らの得意技を、自らの仕事のやり方で提供しているといえる。

報酬は役務と成果に応じて分配

また、サービスはすべて有料。会員は役務と成果に応じた報酬をいただいている。収益の一定割合を組織の管理費として除き、残りは全部その仕事に携わった人で分配。その配分はリーダーが判断する。ここが、当組織が常に利益を上げて顧客の満足度を上げ、なおかつ会員の満足度も高めていく秘訣だと思っている。

もう一つの秘訣は、理事が単なる名誉職ではないこと。ガバナンスと自らが業務執行権を持つ事業を担当し、率先して働く。従って役員の任期は一年。成果のない理事は再任されない。

ちなみに、事業型NPOを立ち上げるに当たっては、会社で働いていた時に、個人的に考えていたさまざまなアイデアをNPOで実現してみたいと思っていた。一例を挙げれば、年功型の賃金体系の破壊。報酬は、その人が今やっている仕事の複雑さや困難度、成果で払う。また、フラットな組織運営、得意技の発揮、自ら目標設定と評価、正論が残る意思決定方式など。

契約社は皆、対等なパートナー

また、当組織では、人が真似たくなるような他にないサービスを顧客に企画・提案・提供することを目指して工夫を凝らしてもいる。例えば契約書にも現れている。設立後、既に 50社と契約したが、業務委託という形の契約はしていない。業務委託契約は「委託先が仕事を期間と金額を決めて委託する」というもの。我々は対等なパートナーとして互いの良さを出し合い、役割を果たし合うなかで最高のサービスを提供していきたい。従って、その時々で「覚書」や「基本合意書」「確認書」のスタイルを取っている。

期待する団塊世代の人材

団塊世代に申し上げたいのは、企業同様「指示待ち人間」は不要だということ。これからは、自分で企画したプランを実行し、実績を上げられるような「新幹線型人材」。行動力があって営業もできるような人がどうしても必要になってくる。ただ、こういう人はなかなかいない。実際、我々も設立当初 12人でスタートして、去年は 300人になっていた。でも、ほとんどが「サイレント会員」なので不要と判断し、実際に事業に参加意欲のある会員(約 100人)に絞った。前述の団塊の世代を対象にした経営支援セミナーには毎回、 10~ 20人が参加してくる。 3、 4日間話し合う中で、一人か二人新幹線型の人材がいる。そういう人が今、我々が求める人材だ。

さらに条件に加えると、やはりお金にきれいな人でなければ難しい。あとは、やはりパソコンを知らないとダメ。企業と対等に仕事をするためには、ITとネットワークを駆使して、スピードのあるデシジョンとサービスを提供していかなければならないからだ。

世間の動向を迅速に読みとることも

会員は大半がIT技術者。仕事さえ持ってくれば、よりよい工夫をして顧客の満足度の高いサービスを提供してくれる。だが、それだけでは例え今は良くても、将来的には不安が拭えない。だからこそ、営業ができて、事業を企画・実施してくれるような人を探してスカウトする。こういう人がいないと、顧客の満足度は確実に落ちていくと思う。

今、パソコンがピークだが、今後には携帯電話にとってかわられるかも知れない。テレビとパソコンとが統合される可能性だってあるだろう。そういう世の中の動きを迅速かつ的確に読み取り、「パソコン型テレビで事業をやる場合にはどうしたらいいか」「携帯電話をシニアの方に理解していただくためにはどういうアプローチがいいのか」といった企画を立案し、お客様に提案できる人材がどうしても必要になってくる。

プロジェクト構成に必要なメンバーとは

当組織では、そういった「新幹線型人材」がリーダーとなって、分野別に担当を分けている。企画を開発して実行計画に移し、実証実験を約半年~ 1年かけてやる。そのうえでGOサインがでればプロジェクト化する。

新規プロジェクトはすべて、リーダーが事業計画を立てると、全全員にホームページあるいはメールで、「今度こういう事業を立ち上げるから希望者は名乗り出てください。この仕事にはこういう技術が必要です」との告知をして募集する。自ら応募してきた人を中心に、プロジェクトを進行させる仕組みになっている。

構成人員はプロジェクトによって異なる。例えば、中古パソコン寄贈事業の場合、リーダーと営業担当 3人、サポート役 3人に、再生作業の技術を担当する二人、約 10人が関わっている。

新たにプロジェクトを立ち上げる場合、横断的にプロジェクトを管理、支援できる人間がどうしても必要となる。そこでスタート時には、アドバイザーを2、3人配置する。

新規事業の提案に資金提供も

また、当組織には「新規事業提案制度」という他NPOには恐らくない制度があり、何か始めたい会員がビジネスプランを提案して、承認されれば最大 100万円の資金を提供する。

(講演者:NPO法人イー・エルダー理事長・鈴木政孝)

  • ビジネス・レーバー・トレンド2007年 5月号「高齢者の雇用開発と就業実態―改正高年齢者雇用安定法施行から1年」より転載