問題提起 いま、なぜ雇用戦略か?:第18回労働政策フォーラム
未来を拓く雇用戦略 —30代社員が挑戦する仕事の世界—
(2006年7月5日)

開催日: 2006 年 7 月 5 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料(PDF:24KB)

早稲田大学商学部教授・ JILPT 特別研究員 鈴木宏昌

「雇用戦略」という言葉は、OECDやEUに加盟する先進国で使われ始めました。これまでの雇用政策と異なり、雇用問題に対して中長期的な対策が必要になってきたというところから出てきました。ではなぜ、こうした考え方が出てきたのか。その国際的なバックグラウンドについて触れたいと思います。

雇用戦略が必要になった背景

まず、第一次石油ショック以降、とくに欧州では、失業率が 10 % を超える国があらわれるなど、先進国の最大の悩みはいかに失業問題を解決するかにありました。そして、雇用問題に関する社会・経済問題としての議論が活発になり、さまざまな政策がとられてきました。各国の雇用政策は多種多様で、 100 種類ぐらいあるだろうといわれています。たとえば、失業給付、公共の職業紹介・カウンセリング、職業訓練・研修、特定労働者への対策(長期失業者、若年層、高齢労働者、パートタイム労働者など)、助成された雇用(公的部門の雇用あるいは企業への税制面での優遇措置)などで、さらに 80 年代半ばから 90 年代にかけては、早期退職制度、地域振興政策、起業家への援助が登場するなど多種多様です。

こうした雇用政策に対する各国のコスト負担のパターンははっきりしています。 GDP に対する労働市場政策関連の公共支出(03 年または 04 年)は、アメリカ(0.53 %)、日本(0.79 %)、イギリス( 0.89 %)は支出の割合が低い一方、雇用情勢がいいデンマーク(4.42 %)、オランダ(3.89 %)といった国では巨額の雇用対策費をつぎ込んでいます。

ところで、雇用の量(失業対策)とともに、雇用の質に関心が向いてきています。その要因は、4つにまとめることができます。第一は、EUの拡大、グローバル化の進展などで国際間・企業間の競争が激化し、高度な人材の育成が不可欠になってきたことです。第二は、女性の社会進出やパートタイム労働者の増加などを背景にした働き万の多様化とワークライフバランスのニーズの高まり。第三が早期退職を背景にした非労働力人口の増加とそれにともなう社会保障の財源問題。第四は長期雇用モデルの風化による雇用保障の見直し。こうした変化の要因があり、これまでの個別の雇用政策に中期的な目標を設定するなど一貫した方向性を与える試みとして雇用戦略がOECDやEUで取り組み始められたといえます。

こうした背景から、先進国間の政策協議の場であるOECDでは、 80 年代から雇用・失業の政策議論が活発になったわけですが、 80 年代には、(1)労働市場の弾力化(Flexibility)(2)積極的な雇用措置(Active Measure)という二つのキーワードがありました。そして、 1994 年に雇用戦略(Jobs Study)の報告書が出されます。ここでは市場原理が強調され、労働時間、賃金あるいは雇用保障の規制緩和や弾力化が提唱されました。その当時は時代の風潮もあり、インパクトを与えたわけです。

この雇用戦略はつい最近、今年 6 月に改訂されました。その柱は、(1)適切なマクロ経済政策 (2)労働市場への参加と職探しの障害を取り除く (3)労働需要への労働・製品市場における障害に対応する (4)労働力のスキルとコンビテンシーの開発を促進する―の4つの柱からなっています。

一方、EUでは 97 年のアムステルダム条約で、EUに雇用政策協調の権限が与えられ、毎年、雇用指針を作成し、これに基づく各国の政策評価がシステム化されました。

そして、 2000 年に確認されたリスボン戦略では、アメリカに対抗できるような、EUのグローバル競争力を高めるため、知識をベースにしたEUの社会・経済体制の強化がうたわれ、 2010 年までに達成すべき中期目標が定められました。雇用の分野では、(1)全体の就業率 70 % (2)女性の就業率 60 % (3) 55 ~ 64 歳の就業率 50 % (4)退職年齢を5歳引上げる(5)育児施設の改善―などの数値目標が定められました。

また、 2005 年に採択された雇用政策指針(05 ~ 08 年)では、基本目標は“フル就業、仕事の質および生産性の向上、社会および地域的統合の強化 " とされました。

わが国の雇用戦略の方向性

こうした先進国の雇用戦略の動向を踏まえて、わが国の雇用戦略の方向性を考えるとき、雇用関連の支出が国際的に見て低いこと、とくに職業訓練の支出が少ないという課題が浮き彫りになります。

そのうえで、わが国の雇用の質の面で、(1)高度な専門的技術者の育成の面で近隣アジア諸国に対し競争力を失いつつあるのではないか (2)多様な働き方が広まり非典型雇用が拡大するなか、彼らのキャリアと技能養成をどうするか (3)一般的にキャリア・アップのための訓練機会をどう確保するか (4)長期雇用が例外になりつつあるなかで、いかに生涯教育・訓練を構築するのか―といった課題を指摘することができます。

とくに、労働意欲のある人すべてに教育訓練の機会が確保される必要があるといえるでしょう。

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