報告 これからの雇用戦略−
JILPT雇用戦略・中間報告の概要:第18回労働政策フォーラム

未来を拓く雇用戦略 —30代社員が挑戦する仕事の世界—
(2006年7月5日)

開催日: 2006 年 7 月 5 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料(PDF:132KB)

松淵厚樹 労働政策研究・研修機構 情報解析部情報管理課長 (前雇用戦略部門主任研究員)

1.検討の視点−なぜ雇用戦略が必要なのか?

まず、なぜ雇用戦略が必要なのかという点ですが、当機構では海外の先行策定事例から検討してまいりました。先ほど鈴木教授からOECD及びEUの雇用戦略について詳細なご説明がありましたが、OECDは市場原理的な理念を掲げ、またEUについてはOECDに対抗する形で、仕事を通じて国民全体を社会的に統合する、社会連帯を重視するという理念のもとで雇用戦略を策定したわけです。こうした先行策定事例から抽出される雇用戦略を策定する意義とは、中長期的観点からの雇用戦略の理念や、それに基づいた目標・政策の方向性の提示すること、そして、目標の実現に向けて、雇用関連に限定することなく幅広い政策の実施を担保する仕組みの確保を図っていくことと言えます。

2.変化への対応の方向性

こうした先行事例を踏まえながら、将来の我が国経済社会が、環境の変化に対応し、国際競争力を確保するとともに活力あるものとしていくために求められることとはどういうことなのかということを視点に入れて、変化への対応の方向性について検討いたしました。具体的な視点として、まず、情報通信技術の急速な発展、グローバル経済化の進展ということが挙げられます。知識、技術等を要する分野での、途上国も含めた世界的な競争の激化ということです。2点目として、人口減少により労働力や財政面での資源制約の一層の強まりが挙げられます。3点目として、これまでの産業資本主義といわれるような、大規模な生産装置を備えて規格品を大量生産することが付加価値を生む源泉であった時代から、多様な知恵の時代への本格的な移行ということです。この多様な知恵の時代というのは、イノベーションや革新が付加価値を生む源泉となるという時代であります。

こうした変化への対応として、付加価値を生む最大の源泉となる人的資源の蓄積と有効活用が図られるようにしていく必要がある。2点目として、すべての人々が社会を支える側に回ることを可能とすること。また、社会から排除されることのないようにすること。3点目として、人々が安心して能力開発に取り組み、社会経済の持続性の確保に貢献していくことができるようにするということです。以上の3点に共通するものは、経済活力を生み出す最も重要な要素は「人」であるということです。

3.雇用戦略の方向性

これらを踏まえながら、我が国の経済社会を活力あるものとしていくために求められる具体的対応とは、樋口先生や鈴木先生からもお話があったとおり、中長期的観点から可能な限り政策対応の一貫性を確保した戦略的な対応を行い、また、すべての政策の中心に人が位置づけられるようにすることです。

こうした視点や留意点を踏まえながらこの度、本日ご参加の鈴木先生、諏訪先生、樋口先生その他の先生方にもご参加いただいた研究会での議論を踏まえつつ、 JILPTとしても雇用戦略を提示させていただきました。その基本理念は、「人をあらゆる政策の中心に置いて、生活の持続性を確保しつつ、だれもが能力を高め、発揮する活力に満ちあふれた社会を築くこと」です。また、この戦略の副題には、「誰もが輝き意欲を持って築く豊かで活力ある社会」というキャッチフレーズを付けました。

次に、雇用戦略の基本理念を実現するための3本の柱を提示しました。国、地方政府、それから、さきほど樋口先生もご指摘されたように、企業、労働組合、NPO、国民1人1人、各レベルの各主体に求められる対応についてまとめたものです。

(1)就業促進を基盤とした全員参加型社会の構築

これは、だれもが社会とのつながりを持ち、就業を中心とした社会参加を可能にしていくという内容です。具体的には、だれもが働くことを通じて能力を有効に発揮する。また、納得感、満足感を感じることができる社会にしていく。それから、コミュニケーションを通じて全員が社会とかかわる。排除されるものがない社会にしていく。特に最近、格差拡大と言われていますが、本当にこうしたことが起こっているのか。もし起きているのであれば、問題点を把握するためには、就労していない人たちも含めて、地域また社会全体でコミュニケーションを図っていく必要があります。以上から、地域レベルにおける対応も重要であり、地域における雇用戦略の策定が求められます。

(2)就業の質の確保と就業インセンティブの向上

これは、人々の仕事と生活を持続可能なものとすることにより、社会経済の持続性を高めていくということです。具体的には、仕事と生活を調和させる、ワーク・ライフ・バランスを図る。また、適切な仕事と生活の時間配分を図ることで人々が意欲や能力を高め、仕事を通じた満足感を得ることを「就業の質の確保」と呼んでおります。こうした就業の質の確保を通じて、生活の質、労働意欲の向上、生産性の向上、さらには社会の持続性の確保といった好循環が図られる社会にしていくべきだと考えております。

(3)キャリア権を基軸としたキャリア形成支援

これは、変化が激しい中で、キャリアの断絶リスクを低減していこうという考え方です。ここでは、職務経験の蓄積や連鎖という意味でキャリアという言葉を使っております。具体的な内容として、個人がみずから就労してキャリア形成、職務経験の蓄積、連鎖を図っていくための理念、また規範としてのキャリア権というものを各主体において理解を深め、尊重していくということです。ですから、だれもがキャリアを円滑に形成できるようにする環境・体制の整備が必要ですし、政策主体、また各企業や個人においてもそうした認識を高め、尊重していくことが必要でしょう。

以上、簡単ですが、JILPT雇用戦略・中間報告の概要についてご説明させていただきました。

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