事例報告 トヨタ自動車:第17回労働政策フォーラム
65歳雇用延長をいかに実践するか
—改正高年齢者雇用安定法と労使の取り組み—
(2006年3月24日)

開催日:2006 年 3 月24 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料(PDF:5KB)

今年4月から、新たな再雇用制度を導入

今年4月から、定年を迎えた社員を原則的に採用する「新しい 60 歳以降の再雇用制度」を導入したトヨタ自動車。同社の労使は昨年来、高年齢者雇用安定法の改正や公的年金の支給開始年齢引き上げを踏まえ、 60 歳以降の働き方について協議を重ねてきた。その結果、定年制の延長や廃止ではなく、現行制度を拡充する形での再雇用の道を選択した。フォーラムでは、東正元・トヨタ自動車労働組合執行委員長が新制度の概要と今後の労組の役割を語った。

再雇用制度の変遷

トヨタ自動車が 60 歳以降の働き方を意識し、再雇用制度をスタートさせたのは「スキルド・パートナー制度」を設立した 91 年にさかのぼる。当時はバブル期で、人手不足への対応が主な目的。採用枠は会社のニーズに応じて決められ、希望者と職場のニーズが合致した場合に常勤嘱託として再雇用される仕組みだった。

その後、 99 年春闘時に 60 歳前半の就労のあり方について、労組からの申し入れで労使委員会を設けて審議。1年半ほどの検討期間を経て 01 年に「スキルド・パートナー制度」を見直した。さらに、「定年後は現場で働きたくはないが、違う仕事であれば働きたい」と考える人に働く場を提供する必要があると考え、『選択式再就労システム ( トヨタにも関係のある派遣・請負会社に登録し、そこからトヨタに派遣する仕組み ) 』とハイレベルの技術者がトヨタ式生産システムを他企業に伝える『 OJT ソリューションズ』の道も設けている」。

早期から高齢者の継続雇用に着日

今年度から導入した「スキルド・パートナー制度」をめぐっては、「高年齢者雇用安定法の改正をにらみながら制度改定を進めようと 05 年春闘時でも労使で協議を実施。具体的には、『希望者全員の働く場の確保』を求めた」。高齢者の継続雇用に関しては、今春闘で要求を出す組合も少なくなかった。フォーラムで配付された同労組の資料をみると、後述する制度内容は、7月末の労使の話し合いで細部まで確認されている(図1)。トヨタ労使が、かなり早くから準備を進めていたことがうかがえる。

図1 「60歳以降の再雇用制度」細部項目

労使協議で 60 歳以降の働き方を検討する際の選択肢は3つ。「定年延長と定年廃止、それから全員の再雇用があった」。定年の延長と廃止については「さすがに現実的ではないと考え、全員の再雇用にこだわった。だが、トヨタでは定年退職者が年に約 1,200 人いるのに、全員の雇用確保というのも、さすがに難しいと感じた」という。そこで、あえて全員雇用の担保はとらず、「社内外を含め、最大限努力することを前提に協定を結んだ」。

希望者の9割超が再雇用で採用

このため、新制度には採用枠は設けず、これまで現場技能職の CX 級 ( 工長 ) 以下に限定していた社内再雇用の対象者を、事務・技術、医務職の上級専門職以下にも拡充。雇用年齢の上限は、制度導入直後は 63 歳までとし、その後は公的年金の支給開始年齢の引き上げに連動させることとした。

雇用形態は客観基準に基づく1年契約の常勤嘱託。制度の適用を希望する対象者は、 (1) 健康 (2) 能力 (3) チームワークーーの選定基準を満たす必要がある。もっとも、「作業制限等があって、もうこの職場で働けないという人は除くが、 60 歳まで働いて、今の仕事をこなせていれば、それでクリア。チームワークは職場で大きな問題を起こすという観点でみる」形になっている。

実際、今年は定年退職者のうちの約6割が再雇用を希望して、9割超が採用されている。選定基準から漏れた約1割の人は、「詳細はまだ聞いていないが、多分、今は何とか働いているが、健康診断などで『このまま働くと健康を害する』とか『今の仕事を継続するのはやめたほうがいい』と判断された場合ではないか」とみている。

なお、選択式再就労システムについても、「ニーズがもの凄く高いことから、協力会社を拡大し、業務の数も生活協同組合とか住宅相談の関係など、ありとあらゆる仕事を増やした」。

希望者全員の就労を貫く

その一方で、労組としての課題も少なからず残されているという。とくに強調すべきは希望者全員の就労。「労働組合として最後まで貫き、何としても達成させなければならない。まだ約1割がはねられているので、今後、希望者が基準をクリアできるよう話をしなければならない」。

雇用の場の確保も難題

働く場の確保も必須要件だ。東委員長は、「来年と再来年の定年退職者は年間約 1,500 人に達する」と説明した。そのうち、6割が再雇用を希望すると仮定し、さらにその人たちが 65 歳まで働くと考えれば、単純計算で年間 3,000 人分の働く場を提供する必要がある。「これは、口で言うほど簡単なことではなく、労使で相当知恵を絞らねばならない」。

具体的には「フルタイムで働きたくないということであれば、例えばエンジンの取りつけラインのようなラインを、ハーフタイムあるいは隔日勤務で生産活動ができるようにつくりかえていく。まだ完成していないので明確には言えないが、いまモデルラインの検討を進めている。実際に当てはめてみて、問題点が出たら、それを解決するような形が取れれば良い。その際、勤務形態を多様化することなども会社と話し合いを進めている」。

働きがいや環境づくりも

さらに、働きがいの問題もある。「やりがいとか公平感を考えた場合、給与水準も仕事に見合うようにすべきだと考えた」。今までは一律 3000 万円程度だった年収が、今後は仕事の内容によって 450 ~ 250 万円に振り分けられた。なお、賞与にもある程度、成績が反映される。

このほか、働きやすい環境づくりや健康づくりも無視できない。「病気になったら働けないから、 50 代ぐらいから健康診断の内容とフォローを充実する」。あわせて、体力の維持・増進のための施策や制度の充実にも取り組んでいく考えだ。

今後は社会貢献や余暇活用の道も

なお、東委員長は、「個人的に感じている疑問」と前置きつつ、「なんでもかんでも 60 歳以降も働かせることが労組として本当にいいのか ? 」とうち明けた。

「経済的に働かなければならない人もいれば、本当に働きたいという人もいる。その一方で、『働きたくないが、家でごろごろしてやることがないから』という人もいる。そういう人まで働くようにしていくことには疑問がある。人間は一生死ぬまで働くわけではなく、やはり働くという世界から離れる日は必ずくる。 ( 仕事から ) 離れられないという世界をつくるのはよくない」との持論を展開。そのうえで、地域社会への貢献活動や余暇の活かし方などを築いて提供することが、今後の労働組合の大きな役割だと訴えて、発言を締めくくった。

( 調査部 新井栄三 )

『ビジネス・レーバー・トレンド 2006 年 5 月号』の本文から転載しました

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