事例報告 ダイキン工業:第16回労働政策フォーラム
仕事と生活 —企業における両立支援と女性の活用—
(2006年3月8日)

開催日:2006 年 3 月 8 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料

女性の活用でハード・ソフト両面を充実

住宅・業務用の空調・冷凍機が主力品のダイキン工業は、男女雇用機会均等法施行以降、女性の活用を意識した制度づくりを推進。最近では仕事と家庭の両立支援につながる施策を打ち出している。人事部人事企画グループの池田久美子氏が、女性活躍の場をどう広げてきたのか、同社の歴史を振り返りながら説明した。

雇均法を契機に女性活用を意識

図1 ダイキン工業女性社員の現状/図2 女性の勤続年数の推移

同社の今年1月末時点の従業員 ( 単体 ) は 6,690 人で、このうち女性社員は約1割。女性管理職も今年5月にようやく2桁に乗せたところだ ( 図 1) 。

「創業 80 年を迎える老舗メーカーで、以前は典型的な男性社会の企業だった。市場自体にも女性は少なく、女性の活用や両立支援を進める必然性を実感として感じにくい環境にあった」。

それが、1986年の男女雇用機会均等法施行を契機に、旧来の企業風土に変化が訪れる。女性労働力の活用を意識することが、経営上の重要課題として浮上してきたからだ。この年には「総合職・一般職制度」を取り入れることで、女性の総合職の採用と職域拡大を実施している。

育児休暇制度が女性の活躍を促進

そして、1992年の育児休業法施行時には、育児休暇・育児勤務制度を導入した。妊娠期の「産前勤務」や、児童就学前までの「育児勤務」に時差勤務やフレックス勤務、短時間勤務の選択肢を設けた。加えて、育児休暇を特別休暇扱いとすることで、休暇後、必ず現職復帰できることを制度上、認めて「単なる法対応にとどまらずに、機械製造業としては世の中より先駆けた内容にした」。

こうした取り組みが奏功し、子を持つ女性社員の数は制度導入時の 57 人 ( 女性社員の 6.6 %)から 04 年には 304 人 ( 同30.8 %) に、平均勤続年数も 93 年時の 4.9 年から 13.8 年( 05年 3月時点)と飛躍的に伸びている ( 図 2) 。

意識改革のために小さな仕掛けを用意

さらに、同社では 01年に人事・処遇制度の抜本的改革を行い、柱の一つに「女性の活躍の場の拡大」を掲げた。「間接部門の仕事の中身が、総合職と一般職の仕事で明快に線を引けなくなってきたことに加え、区分があることで優秀な一般職の女性が『もう自分はここまででいい』と線引きしてしまう傾向があった」ことを注視。区分を廃止して、元一般職女性の資格の再格付を行った。

この際、制度だけでなく仕事の中身を変える工夫を凝らしている。「当時の一般職はほとんどが女性で男性のサポート業務や庶務担当などのルーチンワークが主だった。そこで『何か自律的に進められるような企画業務を一つプラスしてください』とか『隣の男性がやっている仕事で取ってかわれるものはないですか』などと幾つかの視点を提示して、仕事の転換運動を展開した」。こうした取り組みを3年間の経過措置を通じて行い、一般職の仕事と意識を徐々に変えていった。

同時期に、増加する優秀な女性を戦力として活用することなどを狙いとするポジティブアクションも策定。その推進に当たっても「まずは、優秀な女性たちの早期育成・登用を進めて実績づくりを急ぎ、女性全体の底上げをめざす。小さな仕掛けやモデルをたくさんつくり、切れ目なく活動を継続させて意識改革・風土づくりにつなげようとした」。元一般職女性の業務を見直す際には、営業やバイヤーなどの女性が少ない職種に女性社員を増員。約 100人の女性を管理職候補の優秀層と位置づけ、個別教育を図ってもいる。

採用拡大で女性比率の維持・拡大を

さらに「 05年度までに女性比率 = 10 % 」を数値目標として掲げ、事務系大卒を中心とした女性の積極採用を実施した。ここ3年、定期採用数全体に占める女性比率は、30 ~ 40 % 。大卒事務系に限れば、6~7割を占めており、前述の目標は 06年 4月時点でクリア ( 10.4 %) した。今後、2009 年度までに 12 % をめざし、製造業平均に近づけていきたい考えだ。 なお、管理職層も数値目標を設け、人材育成に力を入れている ( 図3) 。

図3 女性の比率拡大の成果

長期的視点で生活設計を考える

一方、仕事と家庭の両立支援については、 03年春、制度面の見直しとソフト面の充実を同時に図っている。制度面では、短時間勤務の賃金を 60% から 80% に引き上げ、育児休暇も保育園の年度の途中入所が困難な場合は法に先駆けて1歳半まで延ばした。さらに、就学前まで取得可能な育児勤務も延長。「学童保育で預かってもらえる時間が短く、親子とも生活が大きく変わる小学校入学のタイミングが 一番のネックだ」との利用者の声に応える形で最大で小学校1年生の間までは取れることにした。

ただし、単純に期間延長するだけでなく、就学時までの間にフルタイム勤務した期間分に限り、就学後の育児勤務ができることにした。「制度面での配慮と同時に責任感も持たせるちょっとしたスパイスを効かせた。働き続けていくうえでは自助努力も欠かせないし、長期的な視点で自分の生活設計を考えて欲しいとの会社のメッセージを込めた」格好だ。

両立支援サイトも設定

あわせてソフト面でも新しい施策を打ち出した。イントラネット上に「仕事と子育て両立支援サイト」を立ち上げ、妊娠してから子どもが小学校入学までの間に準備すべきことを情報提供する『ワーキングマザーのカレンダー』を掲示。上司向けのコーナーも併設して、「職場復帰して生き生き働いてもらうためには、上司の理解なりバックアップなり、マネジメントが大切なので、『上司の皆さんへ働きかけるコーナー』を設けた。

さらに、希望者に対しては、育児休暇中に自宅からイントラネットや E メールにアクセスできるサービスも提供。㈱マザーネットと法人契約を結び、ワーキングマザーが子どもの病気や急な残業で困らないよう配慮している。

きめ細かい工夫が成功の秘訣

ダイキン工業の制度が順調に運用できている秘訣は、従業員の意識を把握したうえでのきめ細かな工夫にあるようだ。ハードとソフト両面で制度を整えた後、同社は改めて育児休暇取得者にヒアリングを実施。「制度のさらなる充実を望む声は少なかったが、部門や上司によって制度の取得のしやすさが異なっていたり、職場復帰後の仕事の与えられ方に大きな温度差があるなど、運用面での改善を望む声が非常に多かった」。このため、次世代支援行動計画の目標には早速、職場の声を反映させる形で運用面の改善に乗り出している。

まず、管理職の理解とマネジメントのあり方について、単に部課長会議などの周知だけでは徹底力が薄いとして、(1) 人事部門から育児休暇取得者への制度説明を行う際に上司の同席を求め、制度に対する理解を深める  (2) 復帰の3カ月前と1カ月前に休暇中の社員とその上司にメールを送り、復職準備を働きかける仕組みを構築する  (3) 先述の両立支援サイトの上司向けコーナーで、復帰後の社員へのマネジメントの仕方や評価のあり方などの留意点を明文化して掲載する―などの仕掛けを施した。

今後についても、男性社員の育児休暇取得率向上や小学校3年生までの勤務時間の柔軟性の確保など「仕事と育児のバランスをとりやすい職場風土づくりなどを実現させていきたい」としている。 

『ビジネス・レーバー・トレンド 2006 年 5 月号』の本文から転載しました