パネル2:第15回労働政策フォーラム
副業はこれから拡大するか?—企業と働く人にとっての意味—
(2006年1月31日)

開催日: 2006 年 1 月 31 日開催

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料(PDF:68KB)

パネリストからの報告2 「副業のキャリア的側面」

リクルートワークス研究所長  大久保幸夫

リクルートワークス研究所の大久保でございます。私は、少し角度を変えて、個人のキャリア形成上の視点から、副業というものの意味を考えてみたいと思います。

配布資料にあるとおり、(1) 低所得者にとっての収入補填的意味、(2) 中高年齢者の独立開業準備的意味、(3) ワークライフバランスの代替要員的意味、(4) プロフェッショナルの他流試合的意味、と4点ほど副業のキャリア的側面を挙げておりますが、一口に副業といっても、個人の副業に対する考え方や意味はかなり多岐にわたっていると考えております。

(1) 低所得者にとっての収入補填的意味

旧来、古くからずっとあり続けるものは、(1) 低所得者にとっての収入補填的意味が、不況の中で非常に大きな役割を果たしてきただろうと思います。何度も話が出ているとおり、もともと農林業に従事している人たちが季節の違うときに副業によって収入を補填するということは長らく行われてきたわけでありますし、例えば現在、象徴的に言うならば、非正規で働いている、特に若い人たちはフリーターとして、ある会社で週に2日だけ仕事がある。でも、それ以外の収入も欲しいので、他のところでもアルバイトをする。これは典型的な、収入補填的な意味だろうと思います。そういう観点で、若年、非正規労働者のところに1つは可能性がある。

また、営業職においても、大変所得が低い人たちは副業意欲が高いですし、実際に副業をしている人の比率も高い。1つのものを売るだけではなくて、2つ以上のものを売る方が収入は当然高くなりますので、本当に条件が悪ければそうした行動をとるわけであります。国際的にも、所得水準の低い国ほど、副業というより幾つかの職業を持つ「マルチプルジョブホルダー」と呼ばれる人が多い傾向が顕著にあらわれております。

(2) 中高年齢者の独立開業準備的意味

(1) のタイプは今までさんざん語られてきた副業でして、それ以外の側面も本日はスポットを当てていきたいということで、「中高年齢者の独立開業準備的意味」というのを2番目に書いております。

私どもの研究所でも随分いろいろなリサーチをしてきましたが、特に正社員が一定年齢になってから独立開業する場合に、副業の位置づけというのが大変大きくなっております。正社員で、ある程度の高い年収を得ている人にとって、独立開業することは非常に大きなリスクを負うことであります。大半の方が、実は独立開業することによって収入を落とします。ですから、ある程度の見通しが立つか立たないかということは大変関心の強いことでありまして、在職中に週末だけ、或いは少しの間だけ、その仕事をやってみて、ある程度いけそうだという見通しが立った段階で独立開業する。これは、個人から見れば自分自身のリスクを回避する行動として、ある種合理的な行動だろうと思いますが、こういう形で副業というものを位置づけている人たちが結構います。これは技術職や専門職に多く、また、学歴で見ても大卒に多いという傾向があります。先ほどご紹介のあった、ある年齢になってからの兼業について認めるというのは、そのような意味合いもあるのだろうと思います。

(3) ワークライフバランスの代替要員的意味

3番目のワークライフバランスの中でも、特に代替要員的意味と書きましたが、これはまさしくこれから議論になるだろうということで挙げました。例えば子供が小さい、生まれたばかりであるときに、数年は短時間勤務に変更したい、パートタイマー型に変えたい、フルタイムではなく、例えば週3日勤務などという形に変えたいという要望は当然出てきております。まさしく今、少子化の時代ですので、企業も従業員の育児支援について十分な検討をしなければならなくなってきているわけですが、今の仕事をやり続けて短時間勤務をするためには、だれかとペアを組んでその仕事をやっていかなければいけないということになるわけです。そうすると、だれと組むのかという問題になるわけですが、自分のやっている仕事を 10とした場合に、そのうちの6か7ぐらいは自分自身で引き続き短時間勤務の間も何とかこなす。でも、残りの一部はだれかにサポートしてもらって任せたい。そのとき、カップリングするパートナーを外から調達したいというニーズが当然出てくるでしょう。これは、イギリスのブレア政権のワークライフバランス施策の中でも、今、大きな課題になっております。つまり、そうした代替要員を市場で探そうと思ってもなかなかいないわけですね。ということは、逆に考えると、本当の意味でワークライフバランスを実現するためには、ある程度、短い時間を組み合わせて働いている人が社会にいないと、このようなことをやろうと思っても絵に描いた餅になってしまうということです。つまり長期的には個人の働き方の多様化を、本当に自分の人生設計に合わせた働き方を実現しようと思ったら、兼業とか副業というものがある程度パイとしてないと、実は自由度がない。そういう側面があろうかと思います。

(4) プロフェッショナルの他流試合的意味

4番目、最後にプロフェッショナルの他流試合的意味と書いております。私は、これが今後非常に大きくなっていくだろうと思っていることなのですが、ある職業に自分の専門領域を明確に決めて、その世界で非常に高度な専門性を持っていこう、あるいはその世界でリーダーシップも発揮していこうという専門的な職業人、プロフェッショナルと呼びますけれども、そういう人たちを企業社会の中でも求めるようになってきていると言えるかと思います。しかし、この人たちがどのような形で力を伸ばしていくのか、ある程度一人前になって以降、どういう形で更に上を目指していくのかというと、会社の中にずっといるだけではなかなか力が伸びなくなります。止まるんですね。ある段階に来たら、今度は外で他流試合をしていかないと、外の世界には上には上がいるわけですから、そういう世界の中で一緒に仕事をしてみるとか、あるいは外で腕試しをしてみる機会があって、その中で刺激を受けて個人が伸びていくのだと思っています。

プロフェッショナルの成長段階と副業の関係

「プロフェッショナルの成長段階と副業の関係」とは、昨年度、私の研究所で研究を続けてきたテーマであります。ビジネスの世界にいる人たちがプロとして育っていく過程は、最初にある程度の「仮決め」という時期があります。自分で、この仕事で何とかちゃんとやってみたいと思い、先輩を見習って、だんだん型を覚えて、その仕事ができるようになる。そして、顧客からも一人前と認められる段階に来て、これでやっていこうというふうに自分自身が腹決めをする。それから、「本決め」と書いておりますが、大体会社の中で一人前とみなされるようになる。ここまでは、実は会社内のシステムでかなり成長できるのですが、問題は、その先に行くとどうなるかということです。

その次の段階を「開花」と呼んでおりますが、教えられた内容のやり方を復元するだけではなくて、自分なりのやり方をつけ加えてオリジナリティー、個性化していくというプロセスがあり、さらに、もっと自由になって、もっと大きな仕事、別の視界からプロを極めていくという段階が来る。

昔から、習い事は「守・破・離」というように言われますが、「破」とか「離」という仕組みは企業内にはないわけです。これは、外の同業の人たちの中で鍛えられたり、揉まれたりしていく中で、あるいは外から期待されている役割に社会的にこたえることによって育っていく部分がある。

こういう段階になると、社外活動というものが当然、成長のために必要になってきます。もしかしたら、あるときは大学に行って非常勤講師として教えることも入るかもしれないし、あるところで講演することも入るかもしれない。あるいは、外に行って勉強会で話をすることもあるかもしれないし、本を書くことがあるかもしれないし、いろいろなことがあるだろうと思います。結果として収入を得れば、そのことは副業という考え方になる。これは本業との関連性もありますが、個人のキャリア形成、能力開発の上では必要不可欠な部分がある。これを企業としてどう対応するのかということが、もう一つはあるのではないかと思います。

当然ながら、初めのうちは企業の中での役割・業務に専心するときがありますが、ある段階からは、社会全体に視野を広げて自分の価値を高めるときがあるのではないかと考えているわけであります。

このように、4つの側面をご紹介いたしましたけれども、所得を得るための副業という側面と、もう一つは、自己のキャリアデザインのための副業という側面と、両方があるだろう。そして、自己のキャリアデザインのための副業に関しては、あまり議論が深められていないのではないでしょうか。これは当然、社会の発達段階でもあるわけで、ナレッジワーカーが増えてきて、高度専門的な人材が増えれば増えるほど、この問題は所得補填の問題としてではなく、自己のキャリア形成の問題として考えていく必要があるだろうというように私は感じているところであります。

これ以上のことは、後でパネルディスカッションの中でお話しさせていただきたいと思います。ありがとうございました。

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