パネルディスカッション:第14回労働政策フォーラム
フリーター、ニートを企業は正社員として雇うのか?
(2005年10月26日)

開催日: 2005 年 10 月 26 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

パネルディスカッションの模様

フリーターをなぜ雇うのか?

コンピュータソフトの開発や、システム構築のコンサルティングを手がける、㈱ブードン(栃木・小山市)。「田舎が元気になる会社」を目指し、九九年起業のまだ若い零細企業(従業員= 契約社員一四人を含め三七人)ながら、安い、早いシステム開発をモットーに、年間一億九四○ ○万円を稼ぎ出す。県内の支援機関などと連携した、フリーター、ニートの積極的な採用で知られている。

佐野代表取締役 人件費の塊と言われるソフト業界にあって、私どもの仕事はいかに安く、早くプログラムを開発するかに尽きる。そのため採用は、性別、年齢、国籍、学歴、門地、出身、精神的・肉体的ハンディキャップを問わず(通称七不問)、広く門戸を開いている。新卒採用はまだ行ったことがない(来年は二人を予定)。システムエンジニア、開発マネジャー、営業には即戦力を期待して中途採用者を充てているが、プログラマーにはフリーター、ニートから登用する研修生制度がある。研修生は、約一年かけてプログラム言語を習得し、他人に聞かずにプログラムが組めるいわゆる初級プログラマーレベルと認められれば、正社員に登用される仕組み。現在、研修生は八人。正社員への登用実績は五人だ。

なかには、三○歳から一○年間、うつ病で引きこもっていた子や、就職試験に失敗したことで二八歳まで無職だった子もいる。また、三五歳までフリーターや派遣社員を転々としていたが、たった二カ月で国家資格を取り、早々に正社員となった子もいる。とはいえ、ビジネスなので他人からはしばしば、「フリーターやニートなんかを雇ってよく商売になりますね」と驚かれることがある。だが私どもとしては、フリーターやニートの方がむしろ、新卒採用よりリスクが少ないと考えている。研修は、その子に合った市販本を買ってもらい、分からない部分を適宜、社員が教えるスタイルで行う。教えるのも無料なら、学んでいるうちは給料もなし。研修制度は彼らとのお見合い期間。質問のポイントが的確か、毎日定時に来れるかなどを一年かけてじっくり判別でき、むしろ好都合と捉えている。

修行を積み重ねれば 機会は同じ

「サプライズのある大人のためのスィーツ」をテーマにお菓子を製造・販売し、有名百貨店にも広く出店している㈱ブールミッシュ(東京・千代田区)。中小規模(従業員数三○ ○人)とは言え、年商五○億円を売り上げる。店主の吉田菊次郎氏は渡仏して学び、数々の賞を総舐めにしてパティシエの先駆者となった、現代の名工だ。

吉田代表取締役社長 今はどこの会社でもそうだろうが、人件費抑制のため、正社員二二○人のほか、八時間換算・月平均二○.二五日勤務で三二○ .三三○人のパート・アルバイトを活用している。その点ではフリーター、ニートに負うところも大きいが、専ら採算のために使っているのが現状だ。私どもの会社は中堅なので新卒採用は毎年一○.一五人程度にすぎない。ただ、サービス業の宿命で離職が激しいため、パート・アルバイトからの登用含め、年間二○.三○人を随時補充(中途採用)している。

最近はパティシエという言葉に憧れて入ってくる若者が多い。嬉しいことだが、職人の道は修行の積み重ね。職場は体力を要し、上下関係にもうるさい3Kの代表格。そういうことを理解して入ってくれば定着するが、憧れだけの人は去るのも早い。以前、一流校出身で法律事務所から憧れて転職した子がいたが、そこそこ収めて去っていった。一方、人と接触しなくていいからと菓子製造にパートで入り、寡黙に勤め上げて見事、素晴らしい職人(正社員)に育った子もいる。いずれにしろ面接で見極められるのは、せいぜいアートセンスがありそうかどうかくらい。私どもとしては、新卒にしろパートにしろ、採用の際に業界の厳しさをよく説いて聞かせたうえで、それでも希望すればどのような子にも機会を与えている。そして、育てるつもりで長い目で見守り、良ければ正社員にも随時採用する、そういう手法にならざるを得ない。

フリーター、ニートは フロー型人材

半導体シリコン基盤を研削切断する装置の販売メーカー、㈱ディスコ(東京・大田区)。人材をストック型とフロー型の二種類に区別する管理を徹底しており、フリーターやニートはフロー型人材にしかなり得ないというスタンスをとる。

林人財部長 わが社は職種別採用ということもあり、人材に求めるのはやりたいことが明確か否か。何より回避したいのはミスマッチなので、毎年五○人の新卒採用ではインターンシップや会社見学をフル活用し、納得して入社してもらえるよう努力している。大学の教育を軽んずる気はないが、新卒採用では職種マッチのほかは、やはり意欲、積極性、やる気、体力、コミュニケーション能力などを重視する。面接に加え集団討議や適性検査を行うことで、人材を厳選採用している。

一方、中途枠については二○.五○ 代までを対象に幅広く門戸を開いている。だが、あくまで即戦力のある技術者以外をとる余裕はない。いわゆるフリーターやニートは主に工場で働くパート・アルバイト、いわゆるフロー型人財としてのみ活用している。フロー型だからといって短期で出て行ってくれという気はないが、二.三日教えれば補充可能な業務にしか就けていない。フロー型人財としてはフリーターやニートも重要であり、来る者を拒む理由はない。だが彼らを正社員にするかとなると話は違ってくる。今朝の日経でパソナの南部靖之社長も「フリーターこそ日本の終身雇用」と語っていたが、彼らの生き方、ニーズにも合っているものを何もわざわざ正社員にしなくても、現状のままでいいではないかと考えている。

フリーター活用の注意点

伊藤 フリーターやニートの採用、育成にあたっては、どんな配慮が必要か。

吉田 フリーターやニートの育成では、実は職場のおばちゃんパートがメンターになっている。彼女らは自分の子と同世代の若者に、母親のように寄り沿い手取り足取り教えてくれる。おばちゃんパート側も、「あの子はすぐ辞めちゃいそうだから私に任せて」と逆にやりがいを感じているようだ。仕事を教えてもらい、一緒にお昼を食べ、日を追う毎にフリーターやニートの側も心を開き、職場にだんだん馴染んでくる。フリーターやニートをうまく活用し、定着させるには、そうしたフォローの仕組みが組織に組み込まれている必要があると思う。

佐野 フリーターやニートの中には精神的に不安定だったり、行動が特異な者も少なくない。なかには一年中同じ服を着て来る子もいたが、始めから服装やビジネスマナーをちゃんとしなさい、挨拶もしなさいと口うるさく言うと、それだけで来なくなってしまう。私どもとしてはそういうことは徐々に慣れてから教えるようにしており、とにかく「何かできたら褒める」教育を徹底している。フリーター、ニートを教育する際の注意点は、自意識が高い子ども達だけに、少し覚えてくると欲が出て周囲と比較し、「あの子から遅れを取った」「他人より難度が低いものしか与えられていないようだ」などと言っては、「やはり自分には向いていない」と決めつけて、来なくなってしまう恐れがあること。せっかく教えても、一定レベルになったところで諦めてしまうリスクは、フリーターやニートの活用上否めない。また、ニートから上がった社員の中にはうつ病を脱却できておらず、ある日突然来られなくなる者もいる。そのリスクを予め考慮し、いつでも誰かが埋め合わせできるよう措置しなければならない煩雑さもある。

仏の政策から学ぶこと

伊藤 仏はすでに八○年代から若年失業対策を培ってきた。日本の政策への示唆はないか。

ブロシェ氏

プロシェ氏

ブロシェ(基調講演より) 若者が学校から労働市場、安定雇用へ移行するプロセスは複雑・多様化する傾向にある。仏の経験から言えることは、① より個別的できめ細やかな支援を行う②若者メディアを活用し、早いうちから職業知識、職業観を養う仕掛けを作る③デュアルシステムのように理論と実践の組み合わせからなる教育方法を多面的に拡げる― ― 必要があるということだ。

野原 若年失業は欧州でも深刻だが、その対処策は家族のあり方や教育制度、労働市場の構造と市場への国の関与の仕方などにより異なっている。例えば独(一五.二四歳若年者失業率= 一○ % 、九七年O E C D )では、デュアルシステムを通じて若者が比較的スムーズに市場へ移行してくる。英(同一三・五% )は早いうちから市場に参入させる政策をとっているため、多くの若者は不安定就労を繰り返しながら徐々に安定雇用へ移行していく。また伊(同三三・六% )では、家庭で抱え込む素地があるため、三五歳を過ぎて無職でも何ら恥じることはない。一方、仏(同二八・一% )では学校や訓練体系にできるだけ長く留めるような政策を取っているため、博士号を持ちながら職がない者も多い。

欧州の中でも仏は、若年失業対策に多額の公共投資を割く随一の国だ。八○年代に深刻化した若年失業に、これまで主に三つの対処策をとってきた。一つは、九七.○二年に実施した、N POも含む公共サービス部門で直接、若者を雇用するというもの。この間、三五万人が雇用され、うち六.七割が安定雇用に移行したとされている。成功体験の一つだ。二つめは、日本でいうジョブカフェにあたる機関「ローカルミッション」の設置。主に地方自治体の主導で設置され、現在ではサテライトのコンタクトポイントも含めれば、全国三○ ○ ○カ所に配置されている。ローカルミッションでは就職斡旋のほか、若者への包括的な相談活動も行っているため、毎年一○ ○万人が利用している。

三つめは、企業が若年失業を雇用した場合に、賃金や社会保険料の企業負担分などを一部、国が助成する措置だ。国が社会的責任を果たす企業の労働コストを下げるため、公共的に投資するという類の政策だが、日本では若年失業対象というよりむしろ、高齢者雇用を促すため用いられている手法だと思う。日本では、フリーターやニートを雇い入れても企業は何ら評価されない印象があるが、高齢者にシフトし過ぎた分を若者に向けることも検討してはどうか。

佐野 行政に支援を望むとしたら、それは企業助成より、研修中のフリーターやニート自身に対する賃金助成だ。

吉田 行政には職業訓練施設を増やし、受講者を直接、援助する仕組みを考えて欲しい。

(調査部 渡邊木綿子)

『ビジネス・レーバー・トレンド2005年12月号』の本文から転載しました。