基調講演:第14回労働政策フォーラム
フリーター、ニートを企業は正社員として雇うのか?
(2005年10月26日)

開催日: 2005 年 10 月 26 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

フォーラムには約250人が参加した(時事通信ホール)

バブル経済の崩壊後、企業の採用方針が従来より厳しい選別の時代に入るなかで、新卒枠に漏れた層はフリーターとなり、就業意欲を失った若者がニート化しているとも言われる。行政は来年度、フリーターの正社員登用を推進するため、若者の募集採用方法等の見直しやマニュアルの開発を検討している。しかし、フリーターやニートに残された採用機会は中途枠しかなく、専門知識や職業経歴を持たない彼らにとって事実上、チャンスは極めて限られているのが現状だ。こうしたなか、「企業はフリーター、ニートを正社員として雇い得るのか」「フリーターやニートがどのような意識改革や訓練を受けると、企業は採用を前向きに検討するのか」― ― 。労働政策研究・研修機構(J I L P T )は一〇月二六日、こうした課題について企業経営者や人事担当者、フランスの政策研究者らとともに考える労働政策フォーラムを都内で開いた。基調講演とパネルディスカッションのコーディネーターを務めた伊藤実・JILPT統括研究員は「九○年代に企業は若年失業という後遺症を残した。日本における公共投資は建設業や高齢者向けに偏りがちだが、若者への分配の見直しが必要ではないか」などと指摘した。

基調講演

伊藤統括研究員

失われた 142 万人の高卒求人

年率一○%程度の経済成長を誇り、相当の人手不足だった時代は、農村から次男・三男、女性までもが駆り出され、若年労働力も「無制限供給」でこれに応えた。しかしこうした状況は九○年代を通じて様変わりした。厚労省の調べ(図1 参照)によると、高卒求人は九二年の約一六六万八七○ ○人(大卒求人は約七三万八一○ ○人) をピークに減少に転じ、二○ ○ 五年現在では約二四万四七八三人(同約五九万六九○ ○人)まで落ち込んだ。実に一四二万人分の高卒求人(同一四万人)が失われた計算になる。

この間、日本企業は終身雇用を放り出し、なり振り構わずリストラに邁進した。新卒採用を抑制し、工場の海外移転で高卒求人の要らないビジネスモデルを作り出した。にもかかわらず当時、若年失業が今ほど深刻でなかったのはなぜか。それは政府の建設分野の公共投資が、若年雇用の受け皿として機能していたからだ。だがこれも、小さな政府、地方分権の流れの中で縮小し、若年失業の深刻さはフリーター、ニートといった存在で顕在化した。そして現在、若年失業は例えば愛知の自動車産業や福岡の工場誘致のように、うまく対処できる地域か否かで救済にも差が出る状況になってしまった。

図1 求人数と雇用形態別雇用者数の変化

買い手市場になる中で、企業はさぞ求める若手人材を採用できたろうと思うが、意外にもそうではない。雇用情報センターの「国内外企業の採用についての比較調査研究報告書」(○五年三月)によれば、高卒については一七・六%、大卒については実に二七・○% (文系).二八・○%(理系)の企業が、「十分採用できなかった」と回答している。なぜか。企業が新卒の採用選考でもっとも重視した点をみると、「意欲、積極性、やる気」「コミュニケーション能力」「入社への熱意や志望動機」― ― といった団塊世代の大好きな要素が並ぶ。しかし、いわゆるギラギラした気合いは、現代の学生が一番苦手な分野。需要と供給の質的な齟齬がある一方、学生にとっては他人よりいかにうまくやる気や熱意を伝えられるかが、新卒枠に滑り込む試金石になっている。

フリーターやニートに残された次なる採用機会である中途採用では、「専門的知識・技術」や「職業経歴」といった職業能力に直結する要素が重視される。同調査で中途採用者の履歴がどう評価されるかをみると(図2 参照)、「理由がはっきりしていない転職」や「転職回数の多さ」は非常にマイナスと評価され、また「学卒後の無業期間」や「学卒後のフリーター期間」もマイナス視されることが多いとわかる。つまり大した職業経歴もなく卒業後三年以上経てしまった若者は、履歴書の空白が不利に働き、中途枠でも採用されない可能性が高い。

図2 中途採用者の履歴に対する評価

フリーターは 小企業をめざせ

では新卒、中途枠ともに漏れた若者が、正社員として雇用され得るチャンスはまったくないのか。そうではなく、可能性としてはあると言いたい。経済産業省の「我が国の人材ニーズ」調査(○四年度)をみると、企業規模五○ .九九人を境に、上下でまったく違う世界が拡がっている(図3参照)。一○ ○人以上の企業は、軒並み求人充足率が一○ ○%近いかそれ以上の飽和状態。しかし五○人未満では、三○.四九人規模で七七・七%、二○.二九人で七○・一%、一○.一九人で六四・五%、五.九人で五一・三%、四人以下で四九・一% ― ― と充足率が低い。人材ニーズの量では五○人未満企業が八五・八%を占め、圧倒的に多いのだから、フリーターやニートでも採用される可能性が高いのは、五○人未満の小規模企業と考えられる。

図3 従業員規模別充足率

教師や親は聞いたこともない企業を敬遠し、ぐらついている大手にまだ入れようとする傾向にあるが、フリーターやニート向けの雇用枠がないわけではない。彼ら自身も周囲も、可能性が視界に入っていないだけと言えるだろう。それを見直す意味で、企業が実際にフリーターやニートをどのように活用しているかのさまざまな事例を知ることが、彼らの採用を促す仕掛けづくりに役立つと思う。

『ビジネス・レーバー・トレンド2005年12月号』の本文から転載しました。