はじめに:第12回労働政策フォーラム
若者と向き合うキャリアガイダンス
(2005年7月12日)

開催日: 2005 年 7 月 12 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

はじめに

【室山】 労働政策研究・研修機構の室山と申します。本日は、「若者と向き合うキャリアガイダンス」というテーマで、2時間ほどの時間を使って壇上にお越しいただいた3人のパネリストの方にいろいろとお話を伺いたいと思います。

最初に、今回のフォーラムの狙いについて申し上げますと、若者のキャリアガイダンスを行うときに自己理解を深めるという意味で、あるいは、担当者が相談に来る若い人について理解するという意味で、キャリアガイダンスツールというものが非常に有効に活用できる場合があります。私どもは適性検査などをつくっていますが、利用者の方々から、ガイダンスツールをどのように使うのか、どのように現場で使うと一番うまく相談に活用できるのかというご質問が非常に多く寄せられます。そこで、今回、実際に現場でキャリアガイダンスツールを使っておられる方、その活用に詳しい方々をお招きし、日頃のご経験や効果的な利用方法についてお話しいただく機会をつくりました。

本日の話題提供者として3名のパネリストを選ばせていただきましたが、まず、鎌田さんは、札幌学生職業センターをはじめとしてハローワークで職業相談をされています。ハローワークのような職業相談・職業紹介の忙しい現場では、職業検査やツールを活用している職員の方が少ないとよく聞きますが、そうした忙しい現場でのツール活用について有効なお話が聞けるのではないかと考えています。それから、生島さんは、雇用・能力開発機構の東京センターや、渋谷のヤングハローワークなどで、長年、大勢の方から相談を受けていらっしゃる方です。生島さんも「キャリア・インサイト」をはじめガイダンスツールを活用されているので、どのようにお使いになっているのか興味深いお話が聞けるのではないかと思っています。それから、本間先生はガイダンスツールに非常に精通されており、適性検査の講習会の講師までなさっています。また、大学生・高校生の適性評価についても非常に通じておられる先生ですので、難しい結果の解釈とか、最近の若者の多様な職業意識など、関連した興味深いお話が聞けるのではないかと考えております。

各種適性検査の特徴

本日お集まりいただいた方は、何らかの形でガイダンスツールに興味をお持ちの方が多いかと思いますが、まったくご存知ない方もいらっしゃると思いますので、これからの議論に出てくる可能性のあるツールについて、その概要をごく簡単に説明いたします。(配布資料はこちら

(1)GATB

労働政策研究・研修機構では、4つほどの適性検査を開発しメンテナンスしておりますが、GATBという厚生労働省編・一般職業適性検査というものもその一つです。主に職務についての能力を9個の適性能から調べる検査で、一定の時間内にたくさんの問題を正確に解くことで能力を測定する検査です。実施・採点に手間がかかること、また解釈が難しいということで現場で実施されることは少ないようですが、職業に関する能力を正確に測るには非常に有効な検査です。

(2)職業レディネス・テスト

後ほど鎌田さんからご紹介があると思いますが、主に中学生・高校生を対象とする職業興味検査です。中学生・高校生にも理解できる職業についての簡単な記述があり、それについて好きか嫌いか、また自信の程度といったものを回答してもらいます。学校では1時限で実施でき、比較的教育的な効果もある検査です。なお、職業レディネス・テストは、現在、改定のための標準化を行っています。今、私のところに全国の中学生、高校生約3万人のデータが集まっておりまして、改定版を今年度に完成する予定です。

(3)VPI職業興味検査

こちらは、大学生以上、成人の方にも使用できる検査です。職業名から好き・嫌いを判断する検査ですが、上記(2)職業レディネス・テストより職業に対する知識を必要とします。カーボン紙を使って、実施・採点が非常に簡単にできます。

(4)キャリア・インサイト(Career In★Sites)

(キャリア・インサイトは大学生から 30 代ぐらいの若年の求職者が対象で、パソコンで自己理解や職業の検索ができるキャリア・ガイダンス・システムです。 2004 年7月に改訂版が出ました。ジョブカフェやハローワークなど若い人が多く集まるところでの利用が増えているようです。

以上、4つの検査について、パネリストの皆様のお話に出てくると思いますので、最初に簡単にご紹介させていただきました。

それでは、各パネリストの皆様にお話を移したいと思います。まず初めに、自己紹介とガイダンスツールを利用されてきたご経験、どのような形でお使いになっているのか、お話を伺いたいと思います。

パネリストからの報告

検査は相談のきっかけ

鎌田 英一

私は今年4月から札幌の学生職業センターにおりまして、現在は、中学・高校の職業紹介関係の業務を担当しています。最近の主な仕事は、高校生のジュニア・インターンシップで学校の先生と受け入れ側の企業・事業主との仲介・調整等に追われています。今は相談業務に携わる機会があまりないのですが、今年3月までハローワーク旭川の就職支援ルームというところで相談業務を2年ほどやっておりました。その経験をご紹介させていただきたいと思います。

まず、2年間やって到達した私の思いというか、検査を職業相談に使うときの心構えを申し上げますと、「検査は相談のきっかけである」ということです。どのような結果が出たのかが問題の中心ではなく、本人がどのようにそれを受けとめるのか、どのように感じるのかを大切にして相談を進めるということ、それがハローワークの相談では大事だという思いに至っています。

ハローワークのサービスを大まかに説明させていただきますと、求職者――ハローワークに仕事を探しにいらっしゃる方は、次の2つに分けられるかと思います。 (1) ハローワークにあるパソコンやファイルを検索・閲覧して、求人情報を自分で選んで応募ができる人たち、次に、程度の差はあるかと思いますが、 (2) 心理的に何らかの問題を持っており、大袈裟に言うといわば危機に瀕している人たち。この危機に瀕している人たちを更に2つに分けるとすれば、(a)退職するまでの過程で、上司や同僚から「仕事に向いていない」とか「性格に問題がある」などと言われ傷つきながら離職し、自信を失ってハローワークに来る人たち。もう一つは、(b)当初は問題なく次の仕事が見つかるだろうと求職活動を始めるけれど、なかなか受からない、次の仕事が見つからない、そうして自信をなくしてしまった人たち。このように分けられるかと思います。ハローワーク旭川では、平成 14 年度に業務の流れを見直そうと話し合った結果、こうした問題を抱えている方々への対応として、就職支援ルームと銘打ち、パーティションでブースを3つほど作りまして、私と非常勤2名の計3名で、個別相談を予約制で承るという取り組みを始めました。

周知の方法としては、ハローワーク旭川のホームページで、「どうぞ、そういうお悩みがあったらいらしてください」といった案内を出す。庁舎内に、「自分はどんな仕事に向いているのかな?」という誘い文句を書いたポスターを貼る。それから、初めて利用する人には、こうしたサービスがありますという案内をする。それから、雇用保険の受給者には必ず説明会を開いており、そこでも「もしよろしければ、どうぞご利用ください」という案内をしました。強く勧めることはせず、緩やかな勧奨にとどめ、ご本人が相談に乗ってほしいと望んだ時に利用していただくという形で進めました。

当初、就職支援ルームでは、「VPI職業興味検査」、「レディネス・テスト」、「GATB(職業適性検査)」、「職業ハンドブックOHBY」(ohby.hrsys.net/top/top.htm)などのガイダンス・ツールを幾つも用意し、ご本人に説明しながらどの検査がよいかを話し合っていました。ところが、平成15年度に社団法人雇用問題研究会が主催したキャリア・カウンセリングセミナー(パネリストの本間先生が講師でした)を受講する機会があり、レディネス・テストについて説明を受けているうちに、私のところに相談に来る方はVPIよりもレディネス・テストのほうが合うのではないかという気がしまして、それ以降、レディネス・テストを使っております。

具体的な相談の流れとしては、まず1回目に、簡単な面談と検査を行います。ハローワークには求職票というものがあり求職者についてある程度の情報がありますので、それを拝見しながら仕事の相談や来所した経緯を伺い、その上で検査を行っています。それから、検査結果をお知らせするために、初回から約1週間後に予約を入れていただきます。その間に、宿題として、仕事について家族や身近な人と話をしていただくことをお願いしています。

ところで、職業相談にガイダンスツールを用いる意味、検査をやることで期待できる効果は何だろうと考えると、自分自身と向き合うということを促す、ということかと思います。転職しようと考えるときは、自分で求人を選べる人たちも含め、本来、自身と向き合うことが必要だと思います。中にはトントン拍子に就職が決まって、そうしたことを振り返る必要のない人もいますが、特に何らかの問題を抱えている人たちは改めて自分自身と向き合うということが必要でしょうし、そのように自覚している方も多くいらっしゃいます。

検査を受けた後は、職業情報の収集を促しています。JILPTが出版している『職業ハンドブック』や、ホームページの職業データベース(http://db.jil.go.jp/welcome)が充実しておりますので活用しています。それから、「私のしごと館」のホームページの中に「JOB JOB WORLD」 というコーナーがあり、どんな仕事をしたいのかということから始まって、その仕事に就くためにはどういう勉強をするのがいいのかといった情報案内がありますので若い方に勧めております。その後、求人情報の収集と検討を促します。これが最後の段階になりますが、ハローワーク・インターネットサービス(http://www.hellowork.go.jp/)のサイトから、あるいはハローワークに来所して求人を探しましょうと働きかけます。ここまで辿り着ければ、自分で求人を探せるグループに戻れますので、就職支援ルームの目的はそこまで導くことです。

次に、検査の実施に当たって私どもが注意していたのは次の3点です。まず、検査の実施は求職者本人の意向に基づくということ。無理強いはしない。次に、検査の結果を断定的に言わない。自分にはどんな仕事が向いているのか、占いのような感覚で検査を受ける人も多いのですが、実施する側もそれに合わせて占いのように答えると本当に意味のない、軽いものになってしまいます。したがって、結果は断定的な言い方はしない、ずばりとは言わないこと。3つ目が、検査結果を本人にどう伝えるかということですが、「あなたにはこの仕事が向いていますよ」という言い方でなく、「このような傾向があるとココのプロフィールには表れていますが、あなたはどう考えますか」と問いかける。こうした方法が必要なのかと感じています。

最後に、ある文章をご紹介したいと思います。昭和 49 年に職業研究所――JILPTの前身の研究所ですが――がまとめた『職業研究所研究紀要』という冊子の中に、初版のレディネス・テストを研究された方の記述が載っています。それを読む度に、つくった人の思いが伝わり感動し、私たち使う側もそれに応えたいと思います。

「すなわち、職業レディネス・テストは、生徒個々人が彼の職業的自己概念をチェックし、自分で考え、方向性を探索するための素材となるものでなければならないし、今後、開発されるべき職業レディネス・テストにおける被験者は、単に研究され、診断され、選別される対象とされるのではなく、被験者の主観が大切にされ、実施者とのコミュニケーション場面が重視されるものでなければならないと考えるのである」

以上、ハローワークにおける検査の実施というのは職業相談のキッカケだということを再度申し上げ、私のご報告を終わらせていただきます。

【室山】どうもありがとうございました。就職支援ルームが求職者の方の気持ちを本当に大切にしながら支援されていたということが、とても良くわかり興味深く聞かせていただきました。それでは、次に、生島さんからお願いいたします。

皆、正社員になりたい ― 500名以上の若者とのカウンセリングから感じたこと

生島 晃子

雇用・能力開発機構東京センターの生島と申します。どうぞよろしくお願いいたします。私自身も昔、女子学生のときに就職には非常に苦労し、再就職では更に苦労いたしました。結果として今日を振り返ってみますと、さまざまな仕事を経験させていただくチャンスと、人との出会いに恵まれてまいりました。そうした経験が基にあり、いずれはキャリアカウンセリングの仕事をしたいという思いはずっと持っておりました。さまざまな経緯を経て、平成11年12月に雇用・能力開発機構東京センターに能力開発アドバイザーとして採用され、14年4月からキャリア形成支援コーナーで現職として毎日働いております。

最初に、業務内容について簡単にご説明をさせていただきたいと思います。平成13年10月に、働く人が自分のキャリア形成を自分でつくっていかなければならない時代になるだろうということで、キャリア形成支援事業が立ち上がりました。それを受けて、雇用・能力開発機構東京センターでは、能力開発支援コーナーとして相談を受けておりましたが、キャリア形成支援コーナーという名称に変わりました。

業務を大きく2つに分けると、従業員のキャリア形成を支援する事業所をサポートする業務と、自らキャリア形成を行う労働者個人を支援する業務です。私は個人の支援をするキャリア・コンサルティングを担当しておりますが、来談者の相談の殆どが再就職・転職に関するものです。再就職・転職はキャリア形成上、大きな節目であると捉えて日々、ご相談を受けております。

能力開発支援コーナーで相談を受けていたときは、50代を中心として中高年の方が多く、20代の来談者は殆どいなかったと思います。キャリア形成支援コーナーになった頃から、20~30代の方が次第に増え、平成14年度は私が受けた相談の19%が20代、15年度は30%、16年度は35%、17年度(4月~6月末の3カ月)については50%以上に増えております。

また、平成16年2月から17年3月まで、毎週水曜日に渋谷ヤングハローワークの中にありました「しぶや・しごと館」に出向いて、キャリア・コンサルティングを担当いたしました。1日6名までの完全予約制で、大体1人50分の時間をとってご相談を受けました。当日キャンセルが出ることもありましたが、次回の予約は2カ月先になるという満杯の状態でした。この間、延べ263名の相談を受けました。キャリア形成支援コーナーでも272名の相談を受けましたので、合わせて535名になります。これは私が3年間で相談を受けた全体の47%にあたります。実にさまざまな若者に会いました。印象に残ることは沢山ありますが、1つだけ挙げますと、全員が正社員を希望していることです。正社員になれない悩み、フリーターと呼ばれることへのプレッシャーを彼らはひしひしと感じていると思いました。

ところで、雇用・能力開発機構東京センターでは、今年4月に「ヤングジョブスポット東京」をオープンしました。渋谷のヤングハローワークと同じビルにあります。セミナーをはじめ、さまざまなイベントも行っており、キャリア・コンサルティングは予約制のほか随時でも受けております。私も週1回ほどカウンセリングを担当しております。

次に、キャリア形成支援コーナーで行っているキャリア・コンサルティングについてご説明をさせていただきます。どのような相談でも、自己理解→仕事理解→意思決定という流れを意識して相談を受けております。勿論こうしたきれいな形で行かない場合も多々あります。行きつ戻りつ、あるいはぐるぐる回ったりという形になるんですが、自己理解、仕事理解の部分に重点を置いてご相談を受けております。相談時間は大体1時間から1時間30分、かなり時間を取ることができるので有り難いです。ツールやキャリアシートを利用すると、どうしてもこのぐらいの時間は必要になります。

キャリア・ガイダンス・ツールについては、若年者、20代の方にはほとんど「キャリア・インサイト」を使っております。7~8割の若者が「適職を知りたい」ということで相談にみえます。キャリア・インサイトを利用しない日は殆どない状況です。考え方としては、先ほど鎌田さんも話されたように、やはりご本人が考えるきっかけ、話し合いのきっかけとしてツールを利用しております。自分でツールだけを使って終わりということはほとんどありません。「しぶや・しごと館」の場合は相談時間が50分だったので、前もってツールを利用していただき、検査結果をプリントアウトしたものを持ってきていただくようお願いしていました。以上、大まかな日常業務をご説明させていただきました。

【室山】ありがとうございました。生島さんはキャリア・インサイトを日常の業務で結構使っておられるということで、相談者が自分自身を考えるきっかけや、カウンセラーと話し合うきっかけの材料として役に立つのかと思い、開発者としては興味深く聞かせていただきました。それでは、最後になりますが、本間先生、よろしくお願いします。

学生は自分自身のことを知りたがっている ― 職業適性検査を実施してみて

本間 啓二

日本体育大学の本間です。よろしくお願いいたします。私は大学で教職教育を担当しております。体育大学ですから体育の教員を養成するところですが、学級・ホームルーム活動、生徒会活動、学校行事などの特別活動の中で職業適性について教えています。そうした進路選択の授業が中・高校の教育課程として位置づけられていることをご存知ない方も意外と多いかと思いますが、きちんとした学習指導要領に基づいて計画を立てて実践しております。

学級・ホームルーム活動の中に3つの課題があります。1つは集団適応です。学校への適応やクラスづくり、例えば掃除当番を決めるなどということも含まれます。2つ目は、人間の在り方生き方という問題を考える。性の問題から健康問題も含め、青年期の問題をどのように対処するかということです。3つめは、将来への生き方、つまり進路の学習内容です。進路適性を理解したり、職業に対する理解を深めたり、職業的な価値観・勤労観を身につけるといった自分の将来に対する選択を決定する、またはそのプロセスとして自分自身の将来を設計してみる、ということです。本来は、教育課程のホームルーム活動、学級活動の中で体系的・継続的にこのような学習のプログラムが組まれていなければいけないと思います。

大学の特別活動の授業で十数年、このような話をしておりますが、ほとんどの学生が、中学・高校時代にそうした授業を受けたことがない、このような話を聞くのは初めてだと言います。たまに適性検査を受けてもコンピュータの判定用紙をそのまま返されて、何の説明もなかったというのが大半なのです。ですから、本来適性検査がどうあるべきかということを大学の授業の中で教えているわけです。

私の職歴ですが、もともとは高校の体育の教員でした。今の大学は自分の母校でして、学生時代には体操競技を専攻して4年間寮と合宿所におりました。体育教員として高校で教えていた時にも、進路に関わるツール開発をやっており、全国高等学校進路指導協議会で「進路ノート」を開発しておりました。このような縁で進路指導の世界に入り、母校の大学に戻ってからも、研究者というより教育に関わることに関心が高く、現在も教員の研修を中心にやっています。また、日本キャリア教育学会(前・日本進路指導学会)の関東地区の責任者も務めさせていただき、年2回の研究・研修をやっています。今年5月に、GATBの自己診断キットを使った講習会を同学会の関東地区の研修として行いました。また、10月にも学会の研究発表を予定しています。

私が関わっているものには、この他にキャリア研究会があります。会長は木村周先生で、事務局を私が受け持っており、キャリアに関する様々な勉強会を毎月開催しています。また、心理検査のセミナーも継続的に開いており、昨年度、その経験者の中からケース研究会を立ち上げ、2カ月に1回集まって事例研究の勉強会を行っています。

ガイダンスツールの活用については、本学でも就職状況があまり芳しくないため、学長の一声で今年度からキャリア教育演習という授業が立ち上がり、VPIとGATBを実施しています。講義の中で、現在の社会情勢やニートの問題についてある程度話した後、VPIとGATBの構造と理論を一通り教え、プロフィールの解釈から最終的には自己診断まで行います。GATBとVPIを使って、能力的な側面とパーソナリティー、興味の側面から自分の職業適性を考えてみようということです。最終段階は、キャリアカウンセリング、総合診断を行いますが、ペアを組んで互いに相手のプロフィールを解釈してロールプレイを行う。もう一つは職務分析。職業を分析的に見てみると、自分の個性が職業とどのようにマッチしているのか、そうしたことを深く考えさせることが目的です。

このような形式で前期の授業が終わったところですが、受講生(1200名)の声は、「毎週楽しみです」というのが大半の意見です。自分のことを知ることができる授業は初めてだと言っています。特に、職業適性検査の実施日は絶対に休まないですね。本校の学生にはアスリートがかなり多いものですから、出たくても大会等で出席できない学生がたくさんいますが、欠席した学生については就職課とタイアップして、就職課に行けば職員が適性検査を受けさせてくれるようになっています。時間制限のある検査のGATBを受ける場合、パソコンを受験者用に空けていただき、実施用のCDをパソコンに入れると解説と実施要領を全部アナウンスしてくれて、「はい、始め」という形で実施できます。その後の自己診断や採点は就職課の職員が面倒を見てくれます。公欠でも欠席でも授業で受けられなかった学生は、補習授業をやらなくても検査が受けられるような体制をとっています。就職課にも学生が以前よりも相談に行くようになったそうです。このように、学生が働くということに改めて向き合い、「働くんだ」という意識を非常に強く持ったという意見が沢山出ています。

この授業は本学でも実験的な授業でもあるので、授業の最初と最終段階で意識調査をしたり、毎回学生にいろいろなことを書かせて蓄積しています。最終的にはそうしたもので授業の評価をしてみたいと思っております。

教職課程では、中学・高校で始まったキャリア教育に対する正しい理解と、ガイダンスツールを使うことによって生徒たちの適性をどのように理解し、進路相談などでフィードバックさせていくことができるのかということを学び、身につけてもらえれば良いかと考えています。

進路指導の世界というのは本音と建前の世界で、結局は偏差値で進路が決まり、将来の職業などについてきちんと考えないまま来てしまっている部分があるのではないかと思います。文科省が進めているキャリア教育は、根底からこうした考えや流れを変えていこうとするもので、各教育委員会の教員研修でもキャリア教育に関するものが非常に多くなっています。先日、東京都もVRTを使った教員の研修を行いました。他の県でもやっているそうです。VRTを開発された方々は、ガイダンスツールの内容を理解するだけでも正しいキャリア教育の考え方が理解できるように開発されたのではないかと先ほど鎌田さんが言われたように、ツールには開発者の熱い思いというものが込められているので、私たちはできるだけ多くの方にそうした思いを伝えていきたいと思っている次第です。

【室山】ありがとうございました。本間先生から、大学で実践されているキャリア教育について具体的なお話を伺うことができ、大変参考になりました。同時に、本間先生から授業を受けている学生さんはとても幸せだと聞きながら思いました。

パネルディスカッション

最近の若者に共通する特徴 ― 限られた職業・職場しかイメージできない若者たち

【室山】 ここからは幾つかの論点に沿ってパネルディスカッションを進めていきたいと思います。まず1つは、相談を受けたり検査を実施するなかで、今の若者に共通の特徴のようなものが見られるのかどうかということです。数年前、検査の開発の過程においてVPI職業興味検査やレディネス・テストの(大学生、中・高校生の)データから集めたことがあります。現在、改訂作業中で、改定前の10年以上経たデータと現在の若者の基準値がどれだけズレているのかをチェックするという目的もあり、それらのデータを見ているのですが、最近の大学生、あるいは中・高校生の職業興味のレベルが全体的に下がっているという非常に気になる結果が出ています。興味検査はホランドの6領域というもので測るのですが、「慣習的領域」というホワイトカラー事務系のような定型的な仕事、それから、「企業的領域」という組織の中で企画をしたり、運営・実行していくといったリーダーシップを発揮して前に出て行くような活動に対する興味関心ですが、今回、レディネス・テストで中学生、高校生のデータを見てみると、十何年前と比べてかなり低下しています。そうした特性は下がっているけど、他の領域、創造的な部分とか研究的・専門的な部分は上がっているかと言うとそうでもなくて、そちらも低下している。若い人から全体に興味関心が失せてしまっている、以前と比べて少しずつ減っているというデータが得られまして、今、そうした点が気になっています。

パネリストの方には、日常業務や相談の中で、今日の若者のそうした特徴を何かお感じになっている点があるのかどうかをお尋ねしたいと思います。

【鎌田】最近、ニートが問題になっていますが、私どものところまで足を運んでくれる若い人はそういう問題と必ずしもリンクしないのかと感じています。わざわざ足を運んで自分の進路を人に相談したいという思いを持っているので、特に礼儀がなっていないとか、無気力だという人はあまり見受けられません(わざわざ無気力な姿勢を示しに会いに来るなんてあまりしないでしょうから)。だから、ハローワークの窓口にいる限り、あまり若者の特徴というものは感じていません。むしろそれよりも、例えば、来所した方に十分な求人があるかというと、なかなかない。若者のためにセミナーなどを開いていますが、一方で受け皿になる求人が足りないのが辛いところです。求職を希望しているのに求人がないという若者を見ておりますので、気の毒だと感じています。

【室山】生島さんはいかがでしょうか。

【生島】若者自体の特徴かどうか非常に紛らわしいところなんですが、3つほど感じております。1つは、仕事に就く、社会に出るということに非常に不安を感じている。これは当然のことで昔からそうだったと思いますが、仕事に就くことに対する不安に加え、社会人として認められないのではないかという不安があるのではないかと思います。以前は、不安だけれど、とにかく会社に入ればいろいろと教えてくれて、一生懸命に働けば一人前になれるのだろうという漠然とした思いがあったのではないでしょうか。結婚して、家を建ててというような、わりとプラスのイメージに繋がっていく志向があったんだと思うんです。でも今は、会社に入る前にいろいろなことができなければいけないとか、それができるかどうかはともかくとして自分でできると言えなければいけないとか、入ったとしても正社員でなければ社会人として認められないのではないかとか、将来への不安がずっと繋がっているという特徴があるのかと感じております。

2つ目は、かなりの人が――8割以上になるんじゃないかと思うんですが、アルバイトの経験をしています。アルバイト先は、コンビニ、スーパー、飲食というのが3大産業のようです。アルバイト、フリーターがこの業界を支えていると言われていますが、非常にそう感じます。ということは、働くというイメージが割と限られてしまっているのではないでしょうか。そこが、さきほど室山さんが言われた興味の低下に何となく繋がっているのではないかと思いました。

3つ目は、服装が非常にラフ、自由なんです。渋谷界隈を歩いていると、リサイクルショップかと思うようなお店が、実は新品のブランド物のショップだったりして驚くことがありますが、非常にラフで自由で、着心地のいい素材のものを着ていて、それが急に背広+ネクタイという格好をするのはプレッシャーがかかるのではないかという感じを持っています。

以上の3つですが、時代の影響のほうが大きかなという感じはいたします。

【室山】ありがとうございます。本間先生はいかがでしょうか?

【本間】例えば、小学校時代には、プロ野球の選手になりたいとか、Jリーガーになりたいという将来の夢があります。毎年、「将来つきたい職業」というのが新聞などで発表されますが、ある時、高校1年生の一番多かった回答が「わからない」というものでした。その新聞には、「だから、高校の進路指導が足りない」という記事が書かれていましたが、高校1年生や中学生で、将来の職業は何になりたいかと尋ねられても「わからない」と答えるのは正解なんです。高校1年生でプロ野球の選手になりたいというのは、ほんとうに甲子園を目指している生徒だったら現実味があります。そうした現実吟味が進んでいくことによって、単なる夢から具体的な目標に変わっていく世代、それが高校生です。そこでは単なる夢では済まされません。キャリアの探索期で、真っ暗やみを手探りで歩くような状態になっているのです。

ですから、そのような時期には職業に対する望みなどは持ちにくい。今の大学生を見ていても、大学生は試行期といって、試しにいろいろと何かをやってみようという時期ですが、職業の世界に対してあまり幅広く知らない。確かにバイトはしています。コンビニや居酒屋で夜バイトをしている学生はたくさんいます。でも、みなサービス産業ばかりです。

GATBはワークシートができて、職業群がずらっと出てきて適職群と合わせていく。そうすると、そこに出てくる職業の名前を見るだけでびっくりするわけです。さまざまな仕事が世の中にはあるんだと再認識し、そこから自分の職業に対する興味が改めて広がっていく。そのような教育のプログラムが少ない。学校教育の中でも、職業と絡めた教育が充分に行われてこなかった。世の中にはたくさんの仕事があって、さまざまな人たちがいろいろな役割を果たしてきているということを知る必要があります。今、社会が複雑で専門職化していますが、世の中にはどのような仕事があって、それが社会にどう貢献しているのかということを学校の中では教える場がありません。

ですから、高校を出て就職するといっても、デパートなど日頃からよく見えているような場面ばかりが結び付けられ、大学でも今は学部・学科が職業と結びついていない。どの学部・学科に行っても職業は限定されません。かつて、少人数しか大学に行けなかった時代は、大卒はもてはやされましたが、大量に大卒がいる時代になると、かつての高校生と同じです。学部・学科が卒業後の職業に直結することはあまりありません。特定の学部・学科は直結することはありますが、本校でも体育の教員になれるのはほんの一部だけです。1学年1400名おりますが、何年間か非常勤をやりながら最終的に教員になるのは100名か200名程度です。スポーツの世界で働く者もそれほど多くありません。働くことになかなかリアリティーを持てないまま、若者たちが大学に行っている。今、私が実感をしているのは、何となく時間が過ぎていっていると感じている若い人たちが多い。しっかりとした、考える手順を踏んでいっていない。経験が非常に少なく、それも偏った経験しかない。職業と関連した経験が非常に少ない。職業についての知識があまりない。現在、総合的な学習の時間で、小学校からいろいろな職業経験をさせてきています。それが教育課程の中できちんと位置づけられ、単なる打ち上げ花火ではなく、学校でキャリア教育に本気で取り組んでいけば、もう少し若者の意識が変わってくるのかなという期待を持っています。

【室山】ありがとうございました。今のお話にも出ましたが、やはり、適性検査を実施した後、どのようにして職業にまで結びつけていくのか、その過程がすごく大事だと思っています。現在、身近に見えているもの以外の職業のことを具体的に知らないという学生や若い人が非常に多い。やはり、適性検査を実施した後に、鎌田さんもお話しされたように、具体的な職業情報へ結びつけていく働きかけが大変重要だと思います。

検査結果が希望と合わなかった場合は? ―答えは本人が持っている

【室山】さきほど、今の若い人たちは自分自身がどのような人間か――どんな関心を持っていてどんな職業に向いているかなど――を知りたいという気持ちが結構ある、という話が出ていたようですが、適性検査などのガイダンスツールのニーズがどの程度あるのか、検査を受けたことによってどんなことが知りたいのか、あるいは検査結果を伝えたときの反応として多く見受けられるものなどについてお伺いしたいと思います。

【鎌田】まず数字を挙げさせていただきますと、平成16年のハローワーク旭川の新規求職者のうち、常用雇用の求職者は2万4,000人でした。そのうち、相談窓口である就職支援ルームにいらっしゃった方が実人員で600人、全体の2.5%でした。レディネス・テストを実施した人数は実人員240人、つまり新規求職者の1%でした。この数字は、周知や広報のやり方によって随分と変わってくるのかもしれません。「よかったらどうぞ」というかなり緩やかな周知をしているので、このように少ない数字になっているかと思います。ただ、レディネス・テストを受けた人のうち 64 %が 30 歳未満です。やはり、本間先生がおっしゃるように、若い方は自分のことを知るということをすごく欲しているんだという気がします。ごくまれに、「早く帰りたいので今すぐ検査を受けたい。結果もすぐ教えてほしい。」という人がいますが、そういう方に淡々と説明しても何の反応も示さない、そうしたことは稀にありますが、緩やかにお誘いをして、自らが進んで来所する方に実施して、「どう思いますか」と語りかけると、「実は…」と、プロフィールから見てとれるような特徴について、ご本人なりに子供のころ育った環境の話をされたりします。例えば、将来は自分で事業をやりたいのだけど、消去法的になかなか就職に結びつかないという中で、自分のやりたいものから、自分にできそうなものへと本人が望んでいない選職に結びついていった。しかし、プロフィールのI(Investigative)の領域が高かったり、E(Enterprising)の領域が高いという点を指したところ、やはり自分は人に何かを強く勧めていく仕事に就きたいという。私としては、その方はとてもうまくいったケースだと思います。ほんの1週間ぐらいで、「実は…」と話が始まり、それまで事務の職種ばかりを受けていたけれど、三セクで産業の研究をしている研究所があって、その研究成果を地元の事業主さんに勧めるという営業的な仕事に就職できました。ご本人が自分のやりたいことをもう一回見つめ直すことによって、当初望んでいた方面の仕事に就くことができた。その助けになったのかなと、その時感じました。

【室山】今のお話で、Iの領域とかEの領域と出ましたが、ちょっとご説明いたしますと、Iの領域というのは興味検査の中で研究的領域のことで、Investigativeの略です。それから、EというのはEnterprisingの略で、企業的領域といって、人の前に立って指示したり、企画したり、運営したりといった領域なので、今のケースはその関連するお仕事に結構向いていたのかと思います。

次に、生島さんはいかがでしょうか。

【生島】適性を知りたい、何に向いているのかを知りたいというのは、大変多い相談内容になっております。3つぐらいのタイプがあるかと思いますが、一つは、実はやりたいことがあるのだけれども、それが向いているのかどうかを知りたいという方。2つ目は、今までこういう仕事をしてきた、アルバイトも含めてこういう経験があるけれど、どうも向いていないんじゃないかというご相談で、これは転職の方が多いと思います。3つ目が、何をしていいのかわからない、どういう仕事があるのか教えてほしいと回答を求めて相談に見える方。大体この3つに分かれるかと思います。診断結果として、希望どおりのものが出るか、あるいは出ないか、もう一つつけ加えれば、実際に出てきた職業名を見て、何か夢みたいな、現実味のない仕事ばかりが並んでいて、これはどういう仕事ですかと非常に戸惑うという、大体その3つの結果が出てくると思います。

【室山】ガイダンスツールを使ったときに、ご本人の希望と合わなかったり、現実の就職先とのすり合わせがうまくいかないような職業が出てしまうというようなことが結構あると聞きましたが、そのような時、カウンセラーや相談員の方はかなり悩まれると思います。生島さんはそのような場合はどうなさっているのでしょうか。

【生島】希望どおりのものが出てきたときには私も非常にほっとしますし、「ああ、よかった」と思います。それはご本人もそうだと思います。「気持ちよく相談が終わったな」などと、勝手に自己満足することもあります。一方、希望のものが出なかったときにはどうするのかということですが、先ほど鎌田さんが言われたように、それを本人がどのように捉えるのか、どのように思いますかという問いかけを、まずこちらからしていきます。興味検査の実施日は学生さんは必ず出席するという、本間先生からのお話がありましたが、若い人は、何でもいいから自分のことを知りたいという気持ちがとても強いかと思いますので、その辺りになるとコンサルティングではなくてカウンセリングのような形が入ってくるのかと思います。希望したものでないものが結果に出てきたら、それも一つの選択肢、可能性として話を進めていきます。非常に難しいと一瞬思うのですが、話を聞いていくと、今までの経験からは、答えは本人が持っているように感じております。本人がそこへ辿り着くまでの道のりは自分との戦いでもありますので、相談の過程でその道のりに早く近づければいいと思います。

【室山】ハローワークは就職の求人情報を持っており、適性検査を受けた後に、実際の就職先と結びつけていかなければならないという課題が必ず出てくるかと思いますが、適性検査を受けた時、ぴったり該当するような求人が必ずしもない場合がかなり多いと思います。鎌田さんは、そういうときはどうなさっているのでしょうか。

【鎌田】例えば、VPIにはスリーレターコードというものがあります。アルファベットが3つ並んでいて、それを入れ替えて、当てはまる職業はこのワークシートの中にありますよといったものですが、そうすると、都市圏ではないハローワーク――私は旭川におりましたから――、そういう地方に実際にある求人とはかけ離れている結果になってしまう。「ああ、これはもう一回大学に行かなければだめだね」なんていう話になってしまって、そのまま伝えることにどんな意味があるのかと思うことがあります。そんなときは、VPIの六角形の説明――といってもまた専門用語になってしまいますが、例えば、職人気質の人はなかなか無口だとか、技術家(芸術家)肌の人はきちんとした事務的なことが苦手だとか、そういった話を進めていく中で、先ほどの生島さんがお話しされたように、ご本人が自分の中に持っている答えに到達するということです。

それから、レディネス・テストの手引きの中にはスリーレターコードだけではなく、1つ1つの興味領域についての職業リストが載っています。ですから、そちらの方がより直接的かと思いますし、職業名についてもかなり馴染みのあるものが載っています。ただ実際には、求職のチャンネルが少ない地域―私がいたところなどでは、ハローワークの情報や新聞、あとは1つ2つしかない求人誌から選ばざるを得ないという現実があります。ですから、まず、本人に今、目の前にある求人を一度全部見てみましょうと言います。その中にご自身でやりたいことがあるだろうかと。もし、やりたいことが見当たらなかったら、じゃあできることは何なのかということになります。できればやりたい仕事につくのが幸せだね、という話はしますけれども、なければ仕方ありません。縁があって、たまたま就くことになった仕事でも、辛いことを乗り越えて続けていくことによって、後で天職だと思えるところまで至ることもある、そういうことも多くあると思うんです。

【室山】貴重なご意見をどうもありがとうございました。

それでは本間先生にお伺いしたいと思います。若者のガイダンスツールに対するニーズや、検査結果を知らされたときの反応のようなもの、また、大学生であれば卒業後の希望する就職先というものを持っているかと思いますが、そうしたものと合致しない場合、どのようにご指導なさっているのでしょうか。

自分を知る、自分の個性を学ぶためのツール活用を

【本間】適性検査のニーズは、若い人たちは非常に高いものがあると思います。高校生でもそうですし、やはり自分のことが知りたいと思っている。自分は社会に出て何ができるのかということに対して非常に不安なんです。ですから、何か考えるきっかけが得られるのであれば、という気持ちがかなり高いです。これは、どこの学生も同じだと思います。私は女子大でも非常勤として教えています。集中講義で1日6時間を3日間やります。その学生はほとんど養護教諭を志望しています。VRTとGATBといったもので適性を見たりするキャリアカウンセリングの授業なんですが、50~60人いる学生は全部プロフィールの形が違います。目指すものはみんな同じ1つの職業なん。そうなると、ほんとうに自分のプロフィールで養護教諭に合うのかどうかという疑問が出てきます。結果として、半分近くは養護教諭とは違う職業が出てきます。

日本体育大学の学生の大半は体育の教員を志望しています。体育の教員の適性というのはSRE、特にEが高い方が良い。体育は指示・命令を出しますから、遠くにいる生徒に「集合しろ」といえるタイプのほうが合っているんです。しかし必ずしもそういう人たちばかりではありません。私の場合、Eは0点です。ということは、もともと体育の教員のタイプではなかったんです。でも、自分としては27年もちゃんと体育の教員を務めてきましたし、体育の研究会の事務局までやっていました。でもタイプは違っていたのでした。つまり、その職業の中で自分の個性を表現できる場を見つけることが大切ではないでしょうか。

どの職業に就いたらいいのか分からないという人たちは、職業群というものを参考にして職業世界の勉強をしましょうと言っています。どういう世界が自分の個性にぴったりするかを学ぶためのツールとして興味検査を使っています。ある程度こういう方面の職業に就きたいと思っている人たちは、その世界の中で自分の個性がどうやったら活かせるのか。例えば、職業の中には幾つかの重要な職務があって、その職務の中にはその職務を構成する課業、タスクというものがあります。重要な職務と一致するかどうかということが検査で出てくるわけです。しかし、その職業の中で一番特徴のある職務がその職業の全てではありません。例えば、教員の仕事とは、生徒の前に立って指導している姿を思い浮かべるかもしれませんが、大半は事務仕事です。いろいろな書類をつくったり、報告書を書いたり、会議に出て記録をまとめたり、試験問題をつくって採点してパソコンに打ち込んで成績管理をする。生徒から見た教師の姿は、いつも目の前にいて、何かいろいろと言ってくれるというイメージしかありませんが、実際の仕事は教育事務というものが大半なんです。ほとんどがふろしき残業、家に持ち帰ってやるといった仕事です。ですから、人とかかわることが大嫌いな人は教育には向かないでしょうけど、別の要素も活かす方法があるわけです。

先ほどの養護教諭の話に戻りますが、適性にCの低い学生がいて困ってるわけです。養護教諭はやはり薬品を扱うのできっちりしていなければいけない。Conventionalですから、整理整頓ができないと困るわけです。でも、その学生はEが高いんですね。グループでやっているときに、「先生、これはどう解釈するんですか」という質問を受けたことがあります。私は「そうか、Eタイプなのか。もしかしたら、彼女は保健委員の生徒などをきちんとまとめて、毎日分担させて、放課後、保健室の整理整頓を生徒にさせるんじゃないか?」などと話をしたら、周りの友達が「そうそう、この子はそういう子なの」と言うんです。ですから、そういう個性が養護教諭になったときに、自分が仕事の中で自分の興味関心を活かせるような働き方が理解できれば、自分が養護教諭になったとき、こういったタイプの養護教諭になりたいと具体的にイメージできるんです。ですから、自分の個性をどのようにして表現できるのかという点を、テストの結果でうまく活用できれば、「あなたはこの仕事には向いていないですよ」と書いてしまうのとは全く違った解釈になります。

したがって、興味検査は就職のために職業を見つけてあげることではなく、もっと前の段階で働くということを考えさせる、職業と自分とを結びつけていく1つのプロセスの中で使っていくものだと考えます。ある結果が出たら、その職業の求人誌を探すことより、その職業はその人の働き方のモデル、そのような職業世界が向いていますよという意味です。その主たる職務と一致しているということだけであって、多少違っても、自分の個性そのものが、例えば、Cが非常に高ければ、きちんとしたい、決められたことを決められたようにしたいというようなことを、自分が目指す仕事の中で活かすとしたらどのような方法があるのかを考えた方がいいでしょう。一生懸命やっても何も喜びが得られないというのは、やはりその仕事と自分の興味関心がうまく合っていない。でも、その職業の中でも、自分の興味関心が高いような職務が必ずあります。そこで自分の個性を発揮することができれば、ちゃんとその職業の中で適応していくことができます。

こういった検査を受けることによって、自分のことでわかっていることや、わかっていないことを知ることが大切なんだと思います。そうすれば、自分はこういうものには興味を持てないけれど、こういうものは好きなんだと分かります。必ずしも自分が一番好きな仕事に就けるわけではないんです。そうした仕事がないという場面のほうが多いのですから、そうなったときに自分のことが理解できていれば、働く中で不要な悩みを抱えなくて済む。あまり興味のもてない仕事などは「これ、お願い」と人に頼めばいいわけです。職場の中で自分が得意なところ、自分が好きなところは、自分はこういうことには興味があるからやりたい、こういうことをやらせてくださいという形で職場でエントリーできます。テストの結果で、自分自身がちゃんと理解できているかどうかによって、その後のその人の職業人生の中で、選択行動に大きな影響が出てくるわけです。ですから、このホランドの理論や検査の意義をきちんと理解させてテストを実施し、その結果に対して、本人がその後の人生でずっと活用し続けることができるようにしていってあげる。これがカウンセラーの役割ですね。ですから、職業を紹介するということよりも、生き方の問題として使っていくことができればいいと思います。大学の講義では、常にこのことを話してテストを実施しています。

【室山】ありがとうございます。私も全く同感です。

ツールの効果的な使い方・注意点 ― 検査を十分に理解すること

【室山】もう1点、パネリストの皆さんにご質問させていただきたいと思います。ガイダンスツールを使って良かったと感じたケースや状況、逆に、難しい、あるいは使うべきではないといったケースがありましたらお聞かせ願いたいと思います。また、どういう時に使うと効果があるのか、あるいは意味がないかということも併せてお話いただければ幸いです。

【鎌田】さきほど申し上げたように、自分の中では3カ条などと考えているのですが、ご本人が望んでいるときにやるのが良いということ、その答えは断定的なものではないということ、「このように出ていることについて、あなたはどう考えますか」ということで問いかける、この3つが基本だと思います。ですから、その逆はよろしくないと考えています。ご本人が望んでいないときにはやらないほうがいいですし、断定的に答えをぶつけるということは避けなければならない。また、通り一遍説明して、「はい、終わり。お疲れさまでした」なんていうことは論外だと思います。

【生島】大体はツールを使って良かったと思っていますが、実際に働き始めた方で、どうも仕事が向いていないのではないかという事でツールを受けた場合、結果として、今やっている仕事がそのまま出てくるケースが意外とあるんです。そのような場合は、いろいろ話をしているうちに、先ほど本間先生のお話にもありましたように、働き方の問題とか、自分をどのように分ってもらうのかコミュニケーションの問題や、あるいは非常にきつい労働条件とか、適性の問題でない要素が浮かび上がってくることがあります。そういう時は、相談が終了してから、ツールを使ったことで問題が明確になり良かったと安堵することがあります。

【本間】私自身は、VRTなどの興味検査を学校で使っていただくのが一番良いと思っています。以前、定時制高校に勤めたときに全生徒に実施したことがあります。先生方にも協力していただき、最終的には担任が進路相談で使います。そのときに、レディネステストは各クラスで行い、GATBに関しては全員一斉にやりました。そうしたら、生意気な生徒が、「こんなの、やってられねえ」などと言うんです。「いやだったら帰っていいよ、別に無理してやる必要はない。やりたくない人間がやっていると、その結果が正しく出ないので、一生懸命にやる気がないんだったら帰って構わない。今日は欠席扱いにならないから。帰るかどうかは自由だよ。」と話をしたら、「いいよ、早くやれよ」などと言って、最終的にはちゃんとやったんです。先生方が、「うちの生徒で、これだけ長い時間、あんなに集中してやっているのを初めて見ました」と言っていました。その学校の中で一番の問題生徒が4年生におりまして、担任の教師が、彼に「こういうプロフィールの解釈ができるけれども、どうだ?こういう仕事が出ているよ」と言ったら、「それは母ちゃんがやっている」と。「こういうのは?」というと、「それは姉ちゃんがやっている」。3つ目ぐらいに、「自分はそれをやりたかったんだ。何でわかるんだ」と驚いて、それから、さんざん自分のことについて語り始めたそうです。担任の教師は残り数年で退職だったのですが、そのとき私のところに来て、長い教員生活の中で、生徒とそういう形で話ができたのは初めてだったと言いました。はしにも棒にもかからない問題児、自分の指導をまるっきり受け入れない生徒が、自分のことを語ってくれたのは初めてだと言うんですね。そのとき先生が仰っていたことが「もっと早くこの検査を知りたかった。もっと若いうちにこれを使っていたら、自分の教員生活は変わっていたかもしれない」と。そういった話を最後に私のところに来てしていました。

ですから、そういう面では生徒を見る目が変わるんですね。単に教科の成績だけではなく、職業世界と絡めて生徒を理解できるようになるという面、教師自身の指導観、教育観が変わるという面で、私はツールを使うことを非常に大事に思っています。

また、全部に低く出たり、全部に高く出たりといった難しいケースがあります。頑なに何かを考えている生徒が受けると結果が偏って出たりします。例えば、警察官以外にはならないと考えている場合、他を選ばないで警察官だけを選ぶと全部低くなります。警察に該当する項目も低くなります。ですから、そのような頑なな気持ちで、どうしてもこれでいいんだという生徒は受ける必要がないんです。自分のことをもっとフラットな気持ちで、似たようなものでもいいじゃないかという気持ちになれない人はこれを受けても誤った結果が出るだけです。

それから、この種の検査は全てそうですが、医療の世界のインフォームド・コンセントと一緒で、説明と了解が大事です。ですから、検査が何のために、どういうものを測るものかということをきちっと説明をして、本人がやりたいという気持ちになって初めて実施する。一方的に「検査をやります」と言っても、何を調べられるんだろうという不安感とか不信感を持つ。この種の検査を実施したとき一緒にいた事務の女性が、「私も高校時代にこういうものを『やらされた』」という言い方をしていました。「先生たちは何を調べるのだろうかとすごく嫌だった。心理検査そのものがすごく嫌だった」と話してくれたことがあります。やはり、受検する側からすると、きちんとした説明がなく検査を受けさせられると、特にこういう心理検査では非常に不安なってしまいます。説明をして、本人がやりたいという気持ちになってから実施するので、少し時間はかかりますが、勝手に「いついつ来て、試験をやるぞ」と通告するのではなく、テストの意味とか、この検査結果を本人がその後どのように自分のために使えるのかなどについても説明してから実施すれば効果的だと考えます。

【室山】ありがとうございます。私からも研究者の立場としてつけ加えてさせていただきます。各検査は対象年齢をきちんと定めて作られています。例えば、中学生用でしたら、大勢の中学生のデータをとって、その基準値と比較することで信頼性が保証されます。ですから、カウンセラーや相談員の方には、各検査を実施されるときには対象年齢を必ず守っていただき、対象年齢が合わないような利用者、求職者の方に違うテストを行うことは避けていただきたいと思います。それから、こうした検査は、心理的に何も問題がない人が受けて初めて意味のある結果が得られます。何か心理的な疾患のようなものが別に疑われる場合は、検査を受けても正しい結果が得られないことが多いので、そうした場合には使わないでいただきたいと思います。最後に、本日のパネリストの方々はそれぞれ、各検査について非常に詳しく、きちんと理解して使われています。だからこそ、各検査はすごく生きた使い方になっていると言えます。ですから、お使いになる場合には、カウンセラーや相談者の方が検査について十分に理解し、プロフィールを見ただけでその特徴が分るぐらいの状態で使っていただきたい。疑問がある、信頼できないと思われる検査は扱うべきではないと思います。皆さんがご自分でやって、納得し、これなら相談に十分活用できるという状態になって初めて検査が活きてくると思いますので、そうした使い方を心がけていただければと思います。

フロアとの質疑応答

【質問者】鎌田さんはジュニア・インターンシップのコーディネーターのようなことをやっていらっしゃるとご紹介がありましたが、具体的な内容をお伺いしたいと思います。

【鎌田】コーディネーターというような立派なものではありません。厚生労働省が行っている事業で、キャリア形成支援の取り組みの一環です。各労働局から委託しており、北海道の場合は経営者協会が事業所を開拓していただいています。私は、その事業所の情報を管内すべての高校にお知らせする、それから、高校の先生方から生徒にインターンシップ、職場体験をさせたいというご相談があると、私から会社に連絡をして、いかがでしょうかという働きかけをして、大枠で了解ということになりましたら、直接先生と詰めてくださいと、そうした橋渡し的な仕事をやっております。

【質問者】鎌田さんは、職業レディネス・テストを大変お勧めになっていらっしゃいますが、対象年齢の上限である大学生より上の人が受けた場合の問題点は何でしょうか?

【鎌田】年齢については大体30歳未満の方であればすんなり行くのではないかと感じています。それより年齢が上の方が受けたいと申し出があった時には、「申しわけないけれども、あなたのような職業経験がある方が受けると、かつてやっていた仕事に興味があるという結果が出ることが往々にしてあります。要は、あなたは辛いものが好きですかという質問に対して、はいと答えたら、もしかしてカレーが好きですかといった答えが出るのと同じなんですよ」と断りを入れた上で、それでもよろしければやっています。結果が出ると、「ああ、やっぱりそうか」と大体の方は受けとめるわけです。そして、結果的に今までの職業経験――それは資産と言えるかと思いますが、職業資産を活かして活動していくということになりますので、中学生と同じように実施して、結果をそのまま伝えるということはよろしくないという前提の中で、緊急避難的にやらせていただいております。

【室山】補足させていただきますと、レディネス・テストの基準値は中学生、高校生でつくられていますので、それ以上の年齢の方が受けると、ご自分と違う対象の方の基準値と照らしてプロフィールが描かれてしまいます。ですから、必ずしも正確な結果が得られないという条件があります。それから、表現が比較的わかりやすいというか、中学2年生ぐらいがわかるような表現なので、大人が受けたときに少しバカにしてしまうような、検査の態度に問題が出てきてしまうといった可能性もあります。ただ、鎌田さんのように、そうした条件を全部理解され受け皿としてもお使いの場合は、面談者とのきちんとやりとりがあるでしょうから問題ないと思います。

【質問者】心理テストに対する信憑性が疑われるような記事をある雑誌で読んだことがあるのですが、それによると心理テストはウソであると書かれています。これに対してどのように思われますか?

【室山】私も一応心理検査の開発に携わっている者なので、その記事は読みました。その内容は、今まで就職する時に使用されてきたクレペリンやYGなど幾つもの検査に対して信頼性が全然ないというような書き方がされていました。しかし、よく読むと、それらの検査は何年も改定していないとか、何年も基準を見直していない、項目を変えたのにサンプルをちゃんと集めないでデータを提供しているといった指摘があり、確かにそれらは問題といえば問題です。心理検査としての信頼性を厳密に保つためには、きちんとした基準の見直しは必要です。ただし、同じ心理検査を開発している者としては、もう少し配慮した書き方をしていただかないと、検査を受けた学生や求職者の方が心理検査は皆ウソなんだと思ってしまうと危険なことだと思いますし、きちんと作られている検査だって勿論あるわけです。例えば、企業の方が長年その企業の中でお使いになっている検査であれば、こういうプロフィールの人材なら自社でうまくいくだろうという経験を持って使われていると思いますので、このような条件を無視して、一概に心理検査がウソであると言うことは危険かと思います。

【本間】私も室山さんの意見に賛成です。要は、心理検査はツールの1つなんです。ですから、あまり依存し過ぎるのは間違った使い方です。人が間に入り、検査を道具としてうまく使えるようにしていくことが大切です。確かに、心理検査は状況により様々な要素が反映されます。先ほどのVRTでも、中学校で不登校だった子供が受けると自信の尺度がほとんど0点に近くなります。職業興味とは全く別の要因が入り込んでいるからです。生きることへの自信を失っているような子供たちに、あのような検査で、「将来うまくやる自信がありますか」という質問をしても、「自信がない」という答えになってしまうわけです。生徒の個性が何らかの形でテスト結果にあらわれてきているのですから、そのときの状況や対象者のことを理解した上で使用し、解釈することは人が間に入らないと出来ません。結果だけを相手に渡せばいいということではないんです。

ですから、「結果がこうだから君はこうなんだ」と断言して返すような使い方や、結果が低いからといって無かったことにしようなどという使い方は間違いです。結果ときちんと対峙して、なぜそういう結果が出たのか、状況を分析して、本人がそれを理解できたときに初めて結果が活用できるのだと思います。

【室山】私もやはり、採用試験などに適性検査を使用することについては疑問を感じます。開発者としては、あくまでも学生や若い方が自己理解のために使っていただくことを願います。テストを受けた結果、自己を見つめるとか、自分について理解するという意味でこそテストは生きるのであって、採用する人が点数によって判断するような使い方は個人的にもあまりお勧めできません。

【生島】私は昔、外来と病棟で3年間心理テストを使う仕事をやっておりました。しかし、こういうテストで人を判断し、入院するかしないかを決めてしまって本当にいいのだろうかと非常に悩み、辞めてしまいました。それから何十年も後に、再就職の関係であちこち相談に歩いたのですが、どこに行っても、「40代・おばさん・専業主婦」というレッテルを貼られ、結果は介護のお仕事がありますと言われました。それはそれで非常によくわかったんですが、他に、何か私の思いとか希望とか、そういうものをすくいあげてくれるものはないのだろうかという疑問を非常に強く感じました。そうした拾ってくれるものとして、このキャリア・インサイトが上手く使えないかという思いがあり、今はずっと使っております。

【質問者】 本間先生にお伺いします。新卒の学生が企業に入社しても定着率があまり良くないと言われています。大学や学生もいろいろ努力しているとは思いますが、企業の側として、定着率をもっと上げるために、何かアドバイスや注意点がありましたら教えていただきたいと思います。

【本間】私の立場からすると大学は送り出す側になりますので、企業の方にはうまく適材適所をお願いしたいと申し上げたいところです。確かに、GATBなどの能力検査は適正配置のためにも使われます。事業所用GATBというものがありますが、例えば、事務職であれば事務職としての適性を見ようという検査です。仕事内容から、この仕事にこの人たちが合っているかどうかを見るという使い方もできるのです。実際に使っている通販の会社では、ピッカーさんとチェッカーさんとに分けており――ピッカーさんというのは資料を見て、倉庫から要求されているものをピックアップする人。チェッカーさんは帳簿を見て、選ばれたものがちゃんと合っているかどうかをチェックする人で、それぞれ能力的な要素が違うのです。それで、GATBでどちらに向いているか検査をして従業員の配置転換をしたらミスがなくなったそうです。大手の通販業者ですが、そういう使い方もあります。仕事の定着率の場合は、こういった能力的な側面と本人の興味ですね。新入社員がそれぞれ興味の持てるような部署にうまく振り分けることができれば良い結果がでますが、それは人事管理の問題になりますね。ですから、こうした検査を企業で使おうとすれば使えると思いますが、こうしたもので人事管理をするかどうかという問題だと思います。

【質問者】さきほど、定時制高校でテストを利用したら良い結果が出た、利用した甲斐があったというお話が本間先生からありましたが、皆さんのお話を伺っていると、テストの結果を利用する際に、やはりそれぞれの間に入る人の判断や、テストの結果を見る能力、アドバイスをする能力にかなり依存する部分があるのではないかと思われます。その点について、大きな高校などで大規模に利用する場合、特に担任の先生の一つ一つのテストに対する理解や知識といった点に大きな差が出てくるのではないかと思います。実際利用された際、そうしたところで何か苦労された点などがありましたらお聞かせ願います。

【本間】私は、今、東京都でチャレンジスクールと言われている学校にも何回か行って、先生方に検査を受けてもらっています。GATBなどは検査全部をやります。最後に勤めた定時制高校でも、実施に何回か校内研修会を行いました。講義と実際に先生方に受けていただく講習会を開き、やり方をお教えして分らなければ質問していただき、最終的にプロフィールの解釈の講義も校内での研修で実施しました。最初は、「これはどのように解釈するのですか」と質問が先生方からありますが、それでも大体2、3回アドバイスを受けると理解できるものです。というのは、日頃から生徒をよく観察していますから、テストの結果と照らし合わせると、全然知らない人のプロフィールを見て解釈するより遥かに分るものです。何人か難しい生徒に対する解釈を説明すると、「なるほど。そうやって見ればいいのか」と納得します。ですから、大方の先生はそれほど苦労しないで検査結果を見ることができると思います。

実は、全日制の工業高校で検査を使ってみたいと教頭から連絡があり、同じ学校の全日制高校でも講習をやったことがあります。1年生全員にGATBを受けてもらったあと、ある先生が私のところにプロフィールを持ってきて、「これはどういう意味ですか。先生はこの生徒をどう思いますか」と言いに来られました。渡されたプロフィールをみると、G、V、N、Qは高く、S、P、Kが低い。私はそれを見て、「この生徒は不適応を起こしているでしょう」と指摘したら、「どうしてわかるんですか」と言われました。当然です。工業高校で使うような実習や能力が非常に低かったので、本来は普通科のタイプの生徒なんです。おそらく不本意な入学だったのでしょう。学年で一番の問題児だと言っていました。私は、9月に転校できるのであれば、本人の希望どおり普通科の学校の転校試験を受けさせた方が良いとアドバイスしました。この生徒は、本来はもっと実力があると思っているけど、工業の専門教科の授業では能力が発揮できないし、多分、興味も持てないんですね。このまま工業高校にいても不適応を起こして、学校を辞めざるを得ない形になってしまうかもしれません。まだ意欲の残っているうちに普通科の学校に移ったほうがいいと話をしたんです。

このように、生徒指導に検査を使う際に先生が相談にみえたりします。しかし、普段、生徒との関わりの中で、ホランドの理論の6類型など基本的なことさえ勉強すれば、それほど難しいものではありません。私の知り合いの高校教員には、検査をやらない人もいます。面談で話を聞いて、「君はこういうものが好きなの」とか「こういうものが好きじゃないの」とか、「こういうのはどうだろう」というやりとりで、メモをとっていると自然にホランドコードができ上がって、本人が学部・学科の希望を持ってきたときに、「でもここの学部・学科はこういう内容だよ、大丈夫なの?こういうものはどうか調べてごらん」という形で勧めたりして、「別に検査をやらなくても、きちんと理論がわかっていれば面談の中でも活用できますよ」と言っています。このように、検査の背景などをきちんと理解すれば使い方の幅も広がりますし、テストの構造そのものを理解すると結果の解釈も幅広くなっていくと思います。

【質問者】こうした興味検査や適性検査というものは、1回受けた場合の賞味期限というか有効期限はどれくらいなのでしょうか?例えば、1年後に受ければ違った結果が出るのかもしれないわけですが、平均的に大体どれくらいなのでしょうか?

【鎌田】私自身も何回か、職場の研修所に行くたびにやっていますが、私は変わらないです。何年たっても大体同じような感じです。幸い、今やっている仕事が興味のプロフィールになっています。ただ、人によっては、その時々の気持ちや体調などによって違いが出てくるのかと思います。

【生島】大筋では変わらないと思います。検査に非常に興味がある方で、また受けてみたいという人がおりますが、大筋では変わりません。

【本間】私は自分の子供に受けさせていますし、私自身もこの検査をずっとやっています。そして、変わる部分と、変わらない部分とを自分の中で実感しています。一番下の子どもは、中学1年のときにレディネステストを受けて、そのときには殆ど分化していませんでした。本人になぜこんな答え方をしたのかと聞いたら、「やりたいか、やりたくないのか、わからない」と言うんです。本当にわからないんですね。だから、考えても、皆「わからない」になってしまうんです。でも「わからない」が正解だと思いました。まだ職業的な興味が生まれていないんです。働いてみたいといった気持ちそのものが生まれていないんです。その2年後ぐらいから次第に結果が表れ、中学3年ではちゃんと分化していました。

私自身も高校教員のときのプロフィールと今のものでは若干違います。Iが非常に高くなっています。大学教員はそういう仕事ですから。Eがゼロだったのが、真ん中ぐらいまで高くなっています。ですから、振り返ってみると、今の自分の環境が表現されていると思います。ただ、I、R、Sという基本的な傾向はずっと変わっていない。でも、まるっきり同じではなく、環境によって少しずつ変わっていく要素はある。VPIでも一貫していません。対角で高かったり、六角形をつくったときに一定の方向に向かっているようなプロフィールは割と変わらないです。それが1つ置きとか、対角で六角形が一定の方向に向かっていない場合というのは、環境によってまだまだ変わる要素がある、どっちかの方向に寄っていく可能性があるということです。そういった見方をしています。

【室山】私は、能力検査については、すぐ次回に受けてしまうと問題を覚えていたりしますので、得点が上がる、練習効果があるということを感じます。ですから、能力検査については、すぐにやってもあまり意味がないのではないかと思っています。興味検査については比較的恒常だと思います。

それでは、時間になりましたのでそろそろ閉会とさせていただきます。パネリストの皆さまのお陰で非常に興味深い話を伺うことができ、私も大変勉強になりました。パネリストの皆様、会場にお越しいただいた皆様、本日はどうもありがとうございました。