調査報告:NPOの就業実態と雇用創出の課題
NPOは雇用の場になり得るか?
第11回労働政策フォーラム(2005年5月25日)

開催日:平成 17 年5 月 25 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料(PDF:448KB)

調査報告 「NPOの就業実態と雇用創出の課題」

小野晶子(労働政策研究・研修機構 研究員)

労働政策研究・研修機構( JILPT)では、2004 年にNPOを対象に2つの調査を実施いたしましたので、本日は、その調査結果の中から特徴的なところを何点かご報告させていただきたいと思います。

NPOの担い手

さて、NPOの担い手というのはどのような人たちがいるのでしょうか。かつてはNPOといえばボランティアというイメージがありましたが、現在は、 図 にもあるように、働く場、つまり正規あるいは非正規の有給職員が仕事をする場、お金をもらって働くと人たちも増えてきました。また、NPOは、完全に無償のボランティアと有給で働く雇用者の2形態だけではなく、その間に多様な就業形態があるということも調査で明らかになりました。有償ボランティアもその一つです(参照:労働政策レポート(3) 『有償ボランティアという働き方』)。ただ、それぞれの形態が明確に区分されていない場合もあります。例えば、正規職員の方でも土日にイベントがあれば、有給でなくボランティアで働いている人もいるのではないでしょうか。NPOには、それぞれの形態で重なり合う部分があり、民間企業では見られないような特殊な働き方をしている人たちがいると指摘できます。また、このような傾向は日本だけでなく、世界各国で共通しているとILOが報告しています。

団体の収入別 有給職員・ボランティアの割合

NPO法人では、どのような就業形態の人がどれぐらい存在するのでしょうか?NPO法人の年収規模別に見ると、興味深いことは、年収が 1,000 万円を超えると有給職員の割合が急激に伸びており、5,000 万円以上のNPO法人の約9割が正規職員を雇用しています。なお、NPOでは人件費は団体年収の約3割と言われていますし、それを示すデータもあります。一方、無償ボランティアの割合は、財政規模が大きくなると減っていきます。財政規模が小さいNPOでは無償ボランティアの割合が一番多いのですが、1,000 万円を超えると急激に減少する傾向にあります。つまり、財政規模が大きくなると、無償事務局ボランティアの人たちは有給職員に置き替えられると考えられます。

平均収入と平均時給

NPO法人の職員は平均的にどのぐらいの年収、時給をもらっているのでしょうか?調査では、正規職員の年収は高い人で 301.1 万円、低い人で173.5 万円という結果が出ました。団体の規模が大きくなれば金額が高くなるという傾向にありますが、やはり民間企業と比較すると、まだまだ低い状況です。しかし、じつはNPOの賃金は民間企業に比べてそれほど変わらないのではないかと指摘する研究報告もあります。今回、私たちが行った調査でも、例えば、5,000 万円以上の財政規模を持つNPO法人であれば、これは給料の高い人のデータですが、その中央値は400 万円台ですし、1億円のNPO法人になると中央値が500 万円というデータになっています。つまり、今は比較的規模の小さいNPOがかなり多いけれども、財政規模が大きくなれば、民間企業並みの賃金水準になっていく可能性があるという点を示唆していると考えられます。

今後3年間で増やそうと考えている就業形態

調査によると、一団体当たりの有給職員の数は平均 4.89人、またボランティアは 11.73 人というデータが得られました。また、過去3年間の変化を尋ねたところ、特に有給職員が増えている団体の割合が多いという結果が出ました。

さらに、今後3年間について増やそうと考えている就業形態を質問しましたが、有給の正規職員や非正規職員を増やそうという傾向があります。特に財政規模の大きい団体にはこの傾向が強いことがわかります。

そもそもNPOという組織は人材に対する依存度が非常に高い。そこが企業などと比較して決定的に違う点であると、京都大学の田尾先生も仰っておられます。多くのNPO法人はスタッフを増やしたいという意向を持っているものの、調査結果を見ると、質・量的にも人材がまだまだ不足しているのが現状ではないかと考えます。

NPOが必要とする人材

それでは、どのような人材をNPOは必要としているのでしょうか?

財政規模別に見ると、小規模のNPOでは、1位が「資金集めが得意な人」、2位に「企画能力のすぐれている人」、次に「会計・経理に明るい人」となっています。この傾向は中規模、 3,000 万円ぐらいの財政規模まで同じような傾向が続きます。つまり、いかに事業資金を得るか、そしてコントロールするかというところに重点を置いて人材を欲している傾向が明らかです。比較的大きなNPO、3,000 万円以上のNPOでは、第1に「団体運営全般が出来る人」となっており、中規模以下とは少し異なる人材へのニーズが高いことがわかります。その他に、人材活用にどのような問題を抱えているかという質問も尋ねたところ、世代交代による後継者不足、後継者の育成に関する悩みが比較的高い割合で出てきました。ピーター・ドラッガーという経営者は、「結局、NPOの存続を左右するのは責任を持とうとする人をいかに引きつけて、いかに引きとめるか、その力による」と言っています。NPOの持つミッションを受け継ぎ、運営を任せられる人を探す、それがNPOにとっては重要な政策であり、なかなか実現できない大きな悩みになっているかと思います。

中高年のセカンド・キャリアの場

さて、現在の高齢社会の中で、そして団塊世代が定年退職を迎える中で、NPOはセカンド・キャリアの場として非常に期待されています。しかし、現実は一体どうなっているのでしょうか?どれぐらいのNPOが高齢者を採用しているのでしょうか?

調査では、 50 ~ 59 歳を正職員として採用したNPOは 30.1%、非正規職員では 38.6 %です。 60 歳以上の非正規職員を採用する割合は26.4 %であり、一般企業がこの年代を採用する割合に比べて高くなっています。

また、 50 歳以上の人を採用した理由を尋ねましたが、第1位の理由は「経験・知識が豊富である」( 66.7%)、第2位が「熱意・意欲が高い」、第3位が興味深いところですが「年齢に関係なく採用した」という理由でした。つまり、NPOはエージフリーであると言えます。この質問に併せて定年退職の有無も―そんなものはあるわけがないと思われる人が多いと思うのですが―いちおう尋ねたところ、およそ 9 割の団体で「ない」と答えています。このようなことから、NPOは高齢者のセカンド・キャリアの場になり得る、なりつつあるということが言えるかと思います。

NPOでの経験を活かして転職した者の年齢と転職先

次に、NPOでは経験や能力が得られるのかという疑問について考えみたいと思います。

調査によると、約半数のNPO法人で「経験を活かして転職した人がいる」と答えています。その年齢と転職先とは、 20 代では一般企業に、 50 代では他のNPOの正職員や役員もしくは自分自身でNPOを創設する傾向があるようです。つまり、若者や中高齢者でも、NPOの活動を通じて経験や能力を得られる可能性があると考えられるのではないでしょうか。

企業との連携・交流

それでは、人材は一体どこから調達すればよいかという話ですが、一つの方策として企業との人材交流が挙げられます。NPO法人の約8割が「企業と連携したい」と答えていますし、そのうち実際に「企業との関わりがある」と答えたNPO法人は約6割となっています。どのような関わりを企業に求めているのか質問したところ、第1位に「技術・マネジメントなどのノウハウの提供」が約3割、第2位に「ボランティアに来てほしい」というのがあり、その次に「定年退職者を受け入れたい」( 26.3%)と興味深い回答もあります。最後の回答は、とりわけ福祉分野のNPOで高い割合が見られました。今後、人材交流を通じて、企業で培われた人的資源がNPOなどで活用されることを強く期待したいと思っております。

「NPOは雇用の受け皿になり得ると思いますか?」

調査の最後に、「NPOは雇用の受け皿になり得ると思いますか?」という質問をぶつけました。これは自由回答形式にし、その後アフターコードしたわけですが、およそ半数が「なる」と回答し、明確に「ならない」と回答したのは 24.0 %でした。当然、財政規模が大きな団体ほど「なる」と答えた割合は高かったです。

しかし、「なる」と答えたNPOも殆どの団体は、同時に問題点や条件を挙げています。それらを分類すると次の4点、(1) 財政基盤の強化、(2) 行政との連携の強化、(3) 支援制度の拡充(これには税制の話も入っていました)、最後に、(4) NPOに対する理解――になろうかと思います。

NPOは最近認識されつつありますが、企業や行政からの理解がまだ得にくいと回答してくるNPO法人が多い。つまり、雇用の場に至るまでに幾つもの課題を乗り越えなければいけないという認識を、どのNPO法人も共通して持っていると思います。

NPO発展への課題

最後に、NPO発展への課題について端的に申し上げると、やはり第1は財政基盤を安定させることです。財政が充実してくれば、おのずと有給職員の労働条件は向上します。安定した財源を確保するための一つの方法として、先ほど申し上げたように企業との人材交流があるかと思います。民間のノウハウやマネジメントを得ることも、活路を開く一つの方法でしょう。次にボランティアの存在です。 NPOというものはボランティアなしでは語れない組織です。例えば、有給職員・雇用者であれば、労災に加入していれば事故があっても補償されます。けれども、ボランティアは対象外で補償がない。やはり社会的に有用な仕事をしている人を、いかに社会が守っていくかということを、いま一度考える必要があること申し上げ、報告を締めくくりたいと思います。ご清聴ありがとうございました。

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