パネルディスカッション:第9回労働政策フォーラム
共に働き、共に生きる社会づくりをめざして
—障害者の就労支援に関する有識者懇話会
「共働宣言」が伝えたいこと—
(2004年12月3日)

開催日:平成 16 年 12 月 3 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料

コーディネーター

小宮 英美 (NHK解説委員)

パネリスト

伊野 武幸 ((財)ヤマト福祉財団常務理事)

勝又 和夫 (全国社会就労センター協議会副会長)

関   宏之 (大阪市職業リハビリテーションセンター所長)

畠山 千蔭 ((社)日本経済団体連合会障害者特例子会社連絡会会長)

箕輪 優子 (横河電機株式会社人財労政部)

【小宮】 皆さん、このフォーラムに参加いただきましてどうもありがとうございます。折しもきょうから1週間、障害者週間です。今回のフォーラムは「共に働き、共に生きる社会づくりをめざして」というタイトルで行います。お手元の「障害のある人の『働きたい』を応援する共働宣言」をご覧ください。きょうはこの共働宣言を中心に、障害の有無にかかわらず共に働いて、共に生きる社会をつくるために、福祉と企業の関係者がどうやって協調して取り組んでいくことができるかを話していきたいと思っております。きょうのフォーラムを契機として、障害のある人の働きたい気持ちを応援することが大きな流れとなって、1人でも多くの人が働けるようになることを願っています。

共働宣言にはいろいろなメッセージが書き込まれています。例えば1ページには大きな字で、「夢や目標を変えなくていい!」とか、「今からでも早くはない、今でも遅くはない」などと書いてあります。また3ページには「あえて難しい作業を選んだ」とか、あるいは「『障害者には向かない』という思いこみを捨てたらできた!」、「できる仕事はいくらでもある!」といった文言が並んでいます。

きょうパネリストとしてお迎えした方々は、障害者を支援する福祉の立場、あるいは就労支援をする立場、それから障害のある人を雇用する企業の立場で、それぞれ積極的に活動していらっしゃいます。実は共働宣言をつくった「障害者の就労支援に関する有識者懇話会」(厚生労働省が設置)のメンバーである方がほとんどです。箕輪さんはメンバーではありませんが、企業の人事の立場、障害者雇用に積極的に取り組んでいるという立場でご参加いただいています。きょうはこの宣言をつくったメンバー一人一人に、宣言に込めた思いですとか、メッセージを語っていただきたいと思っております。

それでは、お一人ずつまず自己紹介と、この宣言の中で特に共感している項目に触れながら、お話をいただきたいと思います。

まず、ヤマト福祉財団常務理事の伊野武幸さんです。伊野さんは宅急便のプロジェクトに当初から参加され、労働組合の立場で取り組んでこられました。またヤマト福祉財団のほうの仕事も始められ、皆さんご存じのスワンの取り組みですとか、メール便とか、いろいろなことをしておられます。伊野さんお願いいたします。

先入観をなくす

【伊野】 伊野でございます。ヤマト福祉財団の常務理事を務めております。まだ就任して2年ほどでございまして、福祉のことはまだよく知りません。若干未熟な点があるということでご容赦いただきたいと思います。

この共働宣言を取り上げた私の感想ですけれども、言えば幾つもあるのですが、時間の制約もございますので、2つの感想を述べさせていただきたいと思います。3ページをご覧ください。1つは、「『障害者には向かない』という思いこみを捨てたらできた!」という項目がございます。実は私どものスワンベーカリーチェーンの中にベーカリーとカフェをやっている赤坂店がございまして、そこでは少し高級なエスプレッソコーヒーマシンを入れております。特殊な技能を要するエスプレッソコーヒーの入れ方があるのですが、バリスタといいまして、最初は非常に高度な技術者を採用していました。ところがそれを知的障害の従業員の方がずっと見ていまして、いつの間にか自分でマスターされました。バリスタという専門家が行っていましたのを、今、時給 800円ぐらいの彼女が当たり前のように、そういう高度な技術をマスターしているのです。「障害者はちょっと能力が劣るから何もできないんじゃないか」という先入観を見事に打ち破った1つの例だと思います。

私どもの会社には、ロジスティックスと申しまして、お客様からお預かりした荷物を管理したり、梱包したり、仕分けをして発送したりする業務があります。フォークリフトにしても、「障害者だからとてもできないだろう」と思っていたのが、知的障害のある方ですけれども、立派に操縦されて一人前にこなしており、健常者に負けないぐらいの能力を発揮している例がございます。

支店の中の社員の生年月日を全部記憶しているという特殊な能力を発揮している方もいまして、宅急便を仕分けするためのコード番号を全部暗記している。このようにすぐれた能力を持っている人たちがいますので、(宣言にある)「『障害者だからちょっとできないんじゃないか』という先入観をなくしたらできた」ということについて、具体的な例を申し上げましたけれども、そういうぐあいに理解していただくと、障害者に対する雇用のあり方も変わってくるのかなと思い、深く共鳴をした次第です。

もう1つは、「あえて難しい作業を選んだ」ということでございます。私どもの財団では「小規模作業所のパワーアップセミナー」というのを行っております。全国に 6,000 カ所以上あるといわれている小さな授産作業所ですが、空き缶つぶしであるとか、牛乳パックをさらして葉書をつくるとか、廃油で石けんをつくるとか、そういった似たような仕事ばかりやっておりました。そういうことではなかなか収入アップにつながらないので、難しい仕事を選んでチャレンジするために行っているものです。宣言にはこういう精神が書かれているわけで、このことが結果として障害者の収入アップとか、それを踏み台にした一般就労、一般企業へ勤務をするステップになるのかなと感じました。以上の2点について、私は非常に共鳴いたしました。

【小宮】 ありがとうございました。「思い込みを捨てたら実はいろんなことができた」、「私たちは『障害があるからできない』と思い込み過ぎているのではないか」というお話でした。とても考えさせられます。

次は全国社会就労センター協議会副会長の勝又さんです。勝又さんはみずからも障害のある立場でおられながら、仲間がみんな働ける社会を目指していろんな取り組みをされています。勝又さんはこの宣言文の中でどの項目に、特に深い思い入れをなさっていますでしょうか。

地域の関係者は手を携えて支援を

【勝又】 ご紹介いただきました勝又でございます。1ページ目に「夢や目標を変えなくていい!」という文章がございます。私は16歳のときに脊髄の手術をして車いすの生活になったわけですが、そのときの夢というのは、ともかく自分でどう自立できるだろうかということだったような気がします。今の社会の中でそれがどうなっているのだろうかということについて、皆さん、一緒に考えていただけたらなと思っております。私は 21歳で初めて働いて給料をもらったときに、うれしくて一晩寝られなかったことをきのうのように思っております。

全国社会就労センター協議会につきましては、お配りしている資料を後ほど見ていただけたらと思いますが、この中で2つだけお話をさせていただけたらと思います。

1つは、私どもの社会就労センター、法律用語で言うと授産施設になるわけですが、江戸の昔から我が国の歴史の中に登場しております。特に明治維新で武士の社会がなくなる中で、その人たちに産業を授ける、授産という形で本格化してきました。現在、全国に14種類の施設が約 3,000 カ所つくられております。資料の後ろのほうに、「我が国における障害のある人たちの働く問題は、欧米先進国に比べてどうなっているだろうか」ということについて比較したものも入れてあります。一般企業で働くことについて一生懸命努力をし、皆さんにもご協力をいただかないといけないわけですが、そこに行けない人、あるいは、そこから疲れて1回戻りたい人たちに対してどういう場所を提供するかということが、私どもの組織の役割になっております。

共働宣言の6ページに、「ネットワークの構築…地域を耕す」という項目がございます。共働宣言が出た後、私どもの仲間から、「スローガンだけではないか」というお話もちょうだいしました。確かにスローガンだけだと言われたらそうかもしれないですが、実際にはこの中に書いている一つ一つの奥にあること、取り組んでいることについて相当の深みがあって、このようになっているのだと思っております。後ほど印刷物として出される予定の事例集とあわせて読んでいただけたらと思います。

「ネットワークの構築」というところですが、これからは地域の時代と言われております。それぞれの地域社会の中で福祉や医療、労働、教育の関係者がお互いに手を携え、その地域に住む障害のある人たちをみんなで一生懸命支えていただけないだろうかと考えております。結果として、そこにどういう人がいたかによって、その地域が活性化される側面があるのではないかということを含め、だれもがそういった必要性について認識していただくような取り組みがぜひ必要ではないかと思っております。

【小宮】 どうもありがとうございました。勝又さんから「障害を持ちながら働いて、給料を初めてもらったときはほんとうにうれしかった」というお話がありました。私たちはとかく、「障害のある方を働かせるなんてかわいそうだ」と思いがちですが、そうした先入観を持たないことも大事ではないかと思いました。

次は大阪市職業リハビリテーションセンターの関宏之所長です。関さんは全日本手をつなぐ育成会の理事でもいらっしゃいます。地域でどうやって障害のある方が働けるようにできるのかを考え、そのネットワークづくりに一生懸命取り組んでおられるのですが、関さんはこの宣言で印象に残ったのはどんなところでしょうか。

企業は雇用のウイングを広げて

【関】 ご紹介いただきました関でございます。1ページのところで「今からでも早くはない、今でも遅くはない」というフレーズがあります。これは企業の方も、あるいは我々のような支援者も、「1回失敗したからといってそれでだめじゃない」、「早くから就労に向けて用意するのもいいことだ」というメッセージであります。英語で「ノット・ツウ・レイト」とか「ノット・ソウ・アーリー」という文言があったと思いますが、それを日本語で言ったもので、ほんとうに早い時期に就労に向けて準備をしてほしいというのが1つです。

それから、5ページの「企業経営者より」というところです。企業で障害のある方を雇用されるのは、いわゆる雇用義務という社会規範を果たされることだといわれます。しかし私が知っている事業主の方々は、「それだけと違うよ」、「企業にはもっとええもんがようけあんのや、おいでよ」ということをメッセージとして送っています。

私はそういう方々と一緒に仕事をしていまして、例えば今、連合大阪や関西経営者協会などの皆さんとネットワークをつくっています。そしていろいろしていただいている企業を私どものネットワークが表彰しています。一方的に企業さんをたたくようなことをずっとしてきたのかもしれませんが、そうではなくて、お互いに手を携えてやっていくような時代が来ればと思っています。

それからもう1つは、最後のところですが、「この宣言はこれで完成ではありません」と書いてあります。私は全日本手をつなぐ育成会の仕事で、全国7カ所で障害のある方の就労支援のセミナーを持っています。企業の皆さんにぜひお願いしたいのは、「東京の本社では障害のある方を雇用できない」ということだけおっしゃらず、地域にたくさんの支社がおありのところもあると思いますので、そこで障害のある方を雇用するようにウイングを広げていただけないかというのが、私の祈りであります。

【小宮】 どうもありがとうございました。

お隣が畠山千蔭さんです。畠山さんは日本興業銀行でずっと働いてこられて、2001年には興銀がつくりました特例子会社の社長も務められ、今は日本経団連の障害者特例子会社連絡会の会長でもあられます。畠山さん、いかがでしょうか。

できる仕事はたくさんある

【畠山】 ご紹介いただきました畠山でございます。私は銀行生活を35年ぐらいで卒業いたしましたが、最後の10年ぐらいは3つほど会社の役員等を転々としまして、たまたまその最後が特例子会社で、障害を持った方たちと身近に接する機会を与えていただきました。そういう意味では、この問題につきまして、はっきり申し上げて素人かなと思っております。

ただ、実は私も障害を少しですが持っていまして、右手が不自由なのです。左は十分使えるのですが、右が苦手という状況です。60年以上そういう自分の体とつき合ってきた部分はあるわけですが、逆におかげさまでいろいろなことを感じ、いろんなことを考え、いろんなことを経験してきました。このため、障害を持った人たちの気持ちが何となくわかるというか、よくわかるというか、今も障害者の方の問題については前向きにずっと、何かお役に立てればというつもりでやっております。

例えば、私は字だけ右で書けます。あとはすべて左です。字を書けるようになったきっかけですが、北海道の帯広小学校に入ったときに、自分の名前をみんな書かされました。私はそれを左で裏返しに書いたものですから、先生が大変驚きまして、「文字だけは右で書いたほうがいい。一生影響するよ」ということで、放課後に教えてくれたのです。1カ月ほど毎日、授業が終わった後に残って、先生に手とり足とり教えてもらい、今、字だけは右で書けるようになっています。そういうことがずっと一生影響するのです。

趣味について考えますと、「足は障害とは関係ないな」ということで山歩きに興味を持ちました。ところが実際に歩きますと、山というのは斜面を横切る場面がたくさんあります。そういうときに、左の斜面は左手でぱっとつかめますから安心感があるのですが、右の斜面を横切るときは非常に怖い。ささいなことですが、障害は障害なのです。いろんな方が、ささいな、あるいは大きな障害を抱えながら生きている。そういう人たちが少しでも新しい気持ちで伸び伸びと生きていけるようになればと思います。ほんのわずかなことが一人一人の人生を左右することについて、もっと心配りをしていきたいなという思いがあります。

共働宣言の話に戻らせていただきますが、まず3ページの「できる仕事はいくらでもある!」の1つ目、「障害者には無理と決め込んでいませんか」というところです。私が特例子会社の経営を担当するようになりましたとき、なかなか親会社から仕事がもらえませんでした。というのは、既に親会社でやっていることを切り離してこちらの会社にやってもらおうというときに、「どこまでできるんだ」、「こんなことまでやってもらえるのか」というところからまずネックがあったのです。

それを説得して切り離して移していく努力をしていったわけですが、障害を持った人にできる仕事というのは、実はたくさんあるのです。しかし、そのまま見ているだけではなかなか出てきません。全部の仕事を棚卸しといいますか、全部見直しまして、「こういう仕事は身体障害を持っている方でも大丈夫だ」、「知的障害の方でもこういう仕事ならいいのではないか」ということで再構築していくわけです。今ある姿をそのまま言うのではなくて、会社全体の仕事を総ざらいしてみて、その中から新しく仕事を見つけ出していってあげる。そういうアプローチがよいのではないかなと思います。

【小宮】 日常の仕事の中に、できる仕事が入っているかもしれない。そんな目でもう一度見詰め直してみたらどうでしょうかというお話でした。

次は箕輪優子さんです。箕輪さんは横河電機株式会社の人財労政部の方で、ずっと会社で人事畑を歩んでこられました。また障害者雇用にかかわってこられたわけですけれども、自分の会社でも特例子会社をつくろうと提案されて、今、取締役を務められています。箕輪さん、お願いいたします。

「できること」、「できないこと」、「やりたいこと」をオープンに

【箕輪】 ご紹介いただきました箕輪と申します。よろしくお願いいたします。お話しいただいたように、一企業の人事担当者として、きょうは自分の体験とあわせて感想等を述べさせていただきたいと思います。

横河電機には身体障害者の手帳を持っている社員が今72名おります。グループ算定10社を合わせますと、120人を超える身体障害の社員と、18人の知的障害の社員がおります。そちらの採用や教育にかかわっている中で強く感じていますのは、やはり人事としては適材適所の大切さですとか、採用、教育を真剣にやっていくということになります。特に長所、得意なことをいち早く見つけて伸ばしていくことです。

共働宣言の中では、特に企業経営者の方の意見に、非常にうなずけるところが多いのですが、例えば4ページの「福祉団体代表者より」のところで、知的障害のある人がITを駆使して働いている事例もあると書いてありますが、まさに横河でも、手帳や職業判定上は重度という知的障害の方ですけれども、半分以上がパソコンを使って、もともと親会社のベテランの正社員が担当していた仕事を担っています。

2ページ目の「企業経営者・役員より」に出ていますけれども、「できること」、「できないこと」、あわせて「やりたいこと」を採用の際、真剣にご本人に考えていただき、まず自分のことをよく理解して、それを会社側へもオープンにできることがとても大切です。自分ではわからない場合には、1ページでも少し触れていますが、支援団体が「求職者は一体何が得意なのか」、顕在化していなければ潜在的な面も含めて、専門的な立場でそれを引き出して育てていただく。それをもって会社側はほんとうに必要な仕事にかかわっていただくような雇用をしていく。本日はそのあたりも含めていろいろとお話をさせていただきたいと思います。

障害者を十把ひとからげに考えていないか

【小宮】 各パネリストに一言ずつ、共働宣言の中で特に思い入れのある項目についてお話しいただきました。

厚生労働省では、障害者関係の福祉の改革のために、改革のグランドデザイン案(今後の障害保健福祉施策について)を示しています。この3つの大きな柱の1つが、保護から自立支援へ、障害のある人でも自己実現や社会貢献ができるように、障害者が就労を含めてその人らしく自立して地域で暮らし、地域社会にも貢献できる仕組みづくりを進めるということです。これは「自立支援型システムへの転換」ということになるのですが、やはりそのためには就労支援が大きなキーになってくると思います。

一通りお話を伺いまして、共通していたのは、私たち社会、受けとめる側が障害者を十把一からげにしてしまい、ほんとうはいろんな方がいて、それぞれできることがあり、多くの働く仕事もあって、それらがうまくマッチすればできることがいっぱいあるのに、どうも私たちの側が思い込みや決めつけでそういうものを探し出す努力をしていないということがあるのではないかと思いました。

自分自身も含めて、身の周りの方やほかの立場で一緒に仕事をしていく方たちの意識改革を進めていかなければならないのですが、意識改革についての有効な手段、どんなことを具体的に取り組んできたのか、次にお話しいただきたいと思います。伊野さん、お願いできますでしょうか。

意識改革のためには

【伊野】 私どもの小倉昌男理事長が『福祉を変える経営』(日経BP社、2003年)という著書で書いていますが、今までの障害者の賃金は、実際には1万円以下なのです。しかも障害者の方がよりどころとしておられるのは、ほとんどが小規模の作業所でございまして、全国に 6,000カ所を超えると言われております。この著書では、そこの方々の今の福祉的な就労を変えて、もう少し賃金が払えるような仕事を取り入れる、つまり経営的な手法を取り入れて、できれば福祉と経営の融合ができないかということを提起しています。

これを具体化しておりますのが私どもの財団で行っているパワーアップセミナーです。ことしで8年目になりましたが、北海道から沖縄まで全国8~ 12カ所ぐらいのブロックをつくり、そこの作業所の幹部の方にお集まりいただいて、200 名規模のセミナーを続けてまいりました。もう既に卒業生、OBの方が 2,700人ぐらいいらっしゃいます。

そのセミナーでは、理事長がよく申し上げることですが、「福祉というのは尊いことだと言っているあなた方が月1万円以下の給料しかお支払いできない。福祉には素人の経営者である私が、スワンベーカリーというチェーンを興して 10万円の賃金を払っている。どっちが尊いのですか」という問題を投げかけたりします。そういうショック療法からスタートしたのですが、最初は福祉の方々も非常に抵抗がございました。「本人がこれでいいと言っているのになぜそんなに強要して仕事をさせるんだ」とか、「そうは言っても重度の人がいるからできない」とか、できない理由をずっと並べられました。

確かに重度の人にはそれなりの対応の仕方があると思います。私どもは重度の方たち、ケアが必要な人たち、サポートが必要な人たちにまで同じように働けとは申し上げておりません。しかし、できない理由を挙げることによって、ほんとうに働きたいと思っている人たちまで、さきほど小宮さんが「十把一からげ」という表現をお使いになりましたけれども、障害者全部が働かなくてもいいんだという風潮を長い間つくり上げてきたのではないかというのが、私の感想です。そういうところは打ち破っていかないとなかなか進まないのではないでしょうか。今回の宣言は、すべての項目においてメッセージですね。そういうことを打ち破ろうということですから、非常に画期的なことだと思っています。

小倉理事長が「言うよりも自分でやってみせる」ということで始めたのがスワンベーカリーです。あす、12月4日に札幌の時計台店がオープンしまして、全国で16店目になります。そこに約 130人の障害者の方が、新しい就労という形で職に就いております。

スワンベーカリーはヤマト運輸の 100%出資の特例子会社です。スワンベーカリーのチェーン店の中には株式会社もありますし、社会福祉法人でチェーン店に参加している方もいらっしゃいます。社会福祉法人は就労にはつながらないのではないか、株式会社や有限会社、あるいはNPO法人といったところに重点を置くべきではないかという議論も今、内部にはあります。いずれにしましても一生懸命に働いていけば、あるいは社会福祉法人であっても工賃アップにはつながるわけですから、次の一般企業に勤める足がかりになるという意味では必要なのかなと思っています。やはりそうやって各企業が特例子会社などをつくっていただいてやれば、障害者にもできる仕事はまだたくさんあるような気がいたします。こういった機会に広く目を向けていただいて、ぜひ就労の場の支援にご協力いただきたいと思います。

人口の5%はハンディを持つ人

【小宮】 企業の立場から福祉的就労の場に対する注文も大きいと思います。伊野さんに伺いたいのですが、かなり能力を発揮して働ける障害のある方がいらっしゃるにもかかわらず、最初から「できない」と思い込んでしまうのは、雇う側でしょうか、それとも福祉で支えている方たちなのでしょうか、それともご本人たち、あるいはご家族の方たち、だれがそういうふうに思い込んでいて、どういう意識改革をしていけば、何をきっかけにそれを変えていけるかということについて、お考えはありませんでしょうか。

【伊野】 難しいと思いますけれども、少なくとも障害者本人ではないと思います。やはり親御さんの中にも「そういう仕事をさせるのはかわいそうだ」という思いが一部ありますけれども、全体ではありません。企業側もある程度、バリアをつくっている面があると思います。しかし福祉の方たちの中に、「ほんとうにできるのかな」という思いがあって、なかなかそれがうまくいかないような気がします。

どうしたらいいのかといいますと、障害者のほんとうの自立というのは何なのかという原点に帰れば、やはり収入を得て、親から独立をして生活することだと思います。そのためには障害者年金だけではどうしてもできない。親御さんが幾らかわいいと思っていても、親が先に亡くなることはわかっているわけですから、かわいい子どものためには1日も早く自立させるようなことを考えていくのが愛情だと思います。それが大事だと思うんです。

自立するためにどうするかと言ったら、今までは補助金をいただくとか、保護してもらうとか、いろんなことがあったでしょうけれども、もう財政的には破綻しているわけです。日本の国もそうですし、自治体もそうでしょう。それも大事なことではありますが、全部依存していてはだめなので、自分たちも汗を流して少しでも稼ぐ、働くということを考えていかないといけない。それを世の中全体として認識して進めていかないと、働くということについては、なかなか壁が厚いのかなという感じがいたします。

それから、今までの私の経験ですが、障害のある方が一番喜ばれるのは、世の中、あるいはお客様から感謝されることです。ありがとうと言われることが何よりです、それにより、ものすごく生きがいを感じられます。今まで一生懸命やってきた仕事は内部でやっておられましたので、一般のお客さんに「ありがとう」とか、「頑張ってくれよ」とか激励されることもなかったわけです。ですので、一般の方々との触れ合いを通じて励まされるのが、何より大きな力になるのです。やはり企業の方々も、一生懸命やっているときには声をかけてあげたりして、やる気を出させるような雰囲気をつくる。それが何よりも具体的な励ましになると思います。

【小宮】 きょうの参加者の方々の中には、企業の人事関係の方も多いと思います。本音のところでは、「そうは言っても障害のある方を雇うのは大変だよな」と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。伊野さんはどういうときに「そうではない」ということを実感でき、どんなことを通して、普通の就労の場で障害のある方が働けると思われたのでしょうか。障害のある方を雇用する場合、その先入観が変わっていった経験もおありかと思います。どの辺の発想を変えたら、「実際は大丈夫だ」と思うようになるのでしょうか。

【伊野】 私自身もまだ障害のある方に対して、心の底にバリアがあると思います。やはり、これは皆さん持っていると思うんです。建前として「そういうことはない」とおっしゃっていても、実際には身構えてしまう。それはもうしようがないと思います。

ただ、障害者というのは特別な人ではなく、動物でも植物でも必ず5%は不正常な状態の人が生まれたりします。これは確率なのです。自分のところに障害という確率が回ってこなかったことを幸いに思って、むしろ障害者の立場になって考えるべきなのではないかと言われた方がいらして、私は非常に感銘を受けました。

親が悪いわけでもないし、障害者本人が悪いわけでもない。自然の中で障害というのが生じてしまうわけですから、確率的に、たまたまそれを障害者の方が、その順番、確率に当たってしまったということで理解していけば、別にあとは普通につき合っていけると思います。私にはスワンベーカリーが身近にありますけれども、毎朝おはようとか、必ず声をかけるようにしています。非常に生き生きと働いていますし、何ら障害者という感じを抱かせないような働きぶりですから、なれてしまえば何でもないと思います。

【小宮】 どうもありがとうございました。「障害のある方だから」という思い込みを捨てて、発想を転換していくことの重要性についてお話ししているわけですけれども、勝又さんはご自身も障害のある立場から、先入観を変えてもらうためにいろいろな取り組みをされていると思います。そうした意識変革はどうやったら進んでいくのでしょうか。

【勝又】 さきほど小倉昌男さんの『福祉を変える経営』という本が紹介されましたが、その中で、「すぐに最低賃金を払うのは大変でしょうから、まず3万円払う方法、裏技を教える」と書いてありました。3万円を払ったら次に5万円払えるようになり、5万円払ったら 10万円払えるというのです。その裏技とは何かと読んでいくと、要するに「見込みがある、ないにかかわらず、まず3万円払え」と。払ったら取り返さなければならず、頑張るだろうからというのが、小倉さんの最終的に言っていた話だと受け止めています。ですから我々自身、意識改革を大きく迫られているというのが一つあると思います。

ただ、意識の問題で言うと、たしか 1998年に『五体不満足』という乙武洋匡さんの本が大変売れました。500万部を超えたと思いますけれども、あの中で乙武君は一番何を言っていたかというと、人はみんな一人一人違う、障害があっても一人の人として変わらないということで、例えば子供が指を指しておかしいと言ったとき、その子供に「障害を持っていても人なんだよ」ということを説明するチャンスを失ったことを残念がっている項目がありました。私は障害者だからどうのこうのというのではなく、人としてどうなのかという視点でもう1回見てほしいと思っています。

先ほど伊野さんから、「人口の5%ぐらいは一定のハンディを持つ人たちがいる」というお話をいただきました。我が国には今、656万人の障害者がいると言われている中で、やはり率でいうと5%ぐらいなんです。つまり、1人の障害者がいるということは、周りに19人、障害のない人たちがいらっしゃる。この 20人という単位は、我々の生活環境でいうと肉親ではないでしょうか。父や母、兄弟やその連れ合いと考えていく。その肉親の中に必ず1人はハンディを持つ人たちがいると考える。そのように皆さんの周りにハンディを持つ人たちが確実にいるという視点で、同じ人としてきちんと向き合っていただけたらなと常日ごろから思っております。

平成10年の障害者の雇用実態調査で、5人以上の企業に雇用されている人たちがどのくらいいたかというと、51万 6,000人でした。それから5年たった平成 15年 11月の実態調査を見ると 49万 6,000人で2万人減ってしまっています。なおかつ、障害者の雇用対策の基本方針として、昨年3月、平成 20年にはこの数字を 60万人にするということが政府から発表されています。そうすると、10万人を超える人たちを、どういう形で一般企業の中に受け入れていっていただけるかということが、大変大きな課題としてあるのだと思っています。

先ほど感謝されることで喜ぶというお話がありましたけれども、養護学校を卒業した人が我々のところへ来て、初めて働いた仕事、あるデパートの下請の下請のそのまた下請で買い物袋をつくる仕事ですが、そこである程度の工賃を初めてもらい、親にお願いをしてデパートへ行き自分のつくったものがお客さんに使われているところを見て、「みんなが喜んで使ってくれていた」と感動をもって伝えてくれました。そんな形で、実は我々の施設にあっても、働く人たちが働くということの喜びを感じているわけですし、むしろそのデパートで言えば、そういう形で見にこられている人がいるなんて思わなかったと思います。しかし現実にそういう人たちがいらっしゃる。

有識者懇話会でイトーヨーカ堂の水越さんがしていたお話ですが、イトーヨーカ堂では3つの原則をもって障害のある人たちに向かい合っているということでした。1つは施設をバリアフリー化してだれでもが使えるようにする。2つ目として、雇った障害のある人たちを本人が希望する職種に必ずつけていく。売り場であろうがどこであろうが、お客さんと向かい合うところでもきちんとつけていくということが2つ目です。3つ目としては地域の福祉施設などに一番売れるスペースを提供して、その地域の障害のある人たちの働くところを応援しているということでした。

こういった中で、違いを言うのではなく、同じようにやるんだ、同じように感じているんだ、同じように参加したいと思っているんだということを理解していただきたいと思っております。

キーワードは「セーフティネット」

【小宮】 お二人のお話を伺って、関さんは両方の接点の仕事をされていると思いますが、意識改革を進め、思い込みや決めつけを捨てていくためにはどんなことが有効だと考えますか。

【関】 お二人のお話はなかなか含蓄ある言葉でしたが、もう一つ、4ページの「何度でも挑戦できる!」というところの下のマスコミ関係者、多分これは小宮さんだと思いますが、「一度就職したらずっとその企業で働きつづけるという雇用形態が変化しつつあります」とあり、その中にある「セーフティーネット」ということが、僕は一番のキーワードではないかと考えています。それは、親も本人も企業も就労、雇用への戸惑い、ためらいみたいなものがある中で、この戸惑い、ためらいをどう払拭できるかというのが、一番大きな課題だろうと思うからです。

さきほどは言及できませんでしたが、皆様のお手元に「HOW TO 障害者の態様(ひとりひとり)に応じた多様な委託訓練」という資料をお配りしています。これを少し見ていただきたいのですが、2ページ目に「障害者委託訓練スキーム」があります。これは、企業も障害のある人たちの職業訓練の現場に当事者としてご参加いただけるということで、1人当たり6万円のお金が出るという制度です。今までですと、職業訓練をするのは我々のようなところだったりしますけれども、もしほんとうに企業さんで「こういう人材を育てたいな」と思われれば、企業さんなりの職業訓練の場を設けられるということです。

悲しいことに、障害のある人の職業訓練を何もできていない県が全国に 30県もあります。これはもう大変なことでありまして、それの解消方向というのがここにありますので、さきほどお話ししましたように「支社でこんなのをやってみようかな」とか、「インターンシップのような格好で受け入れてみようかな」ということがあれば、ぜひこの制度で生かしていただきたい。この中身もぜひ読んでいただきたいと思います。

私どもはよく「スフィンクスのなぞなぞ」の話をします。「朝4本足、昼2本足、夜3本足、なあに」というなぞなぞですが、答えは何かというと、それは人間です。朝4本足というのは、はいはいをしていることで、2本足は2本で立ち、3本足というのは杖をついてということです。この話をしますと、「いったいだれが健常者なのか」ということになります。障害はだれにでもあり得ることですので、殊さら障害者というのを外に求めるのではなく、自分と向き合うというのも、障害と向き合うことなのだろうと思っています。

そう思いますと、障害者を殊さら外に求め、あれができない、これがどうだというよりも、ご自身をそこに置いてみるという見方もあるだろうし、4本足と3本足があるという事実は、それこそ「やはり包括的な福祉が必要なんだ」ということの裏返しでもあります。そのように今までのお話をお聞きしたところであります。

ミスマッチ解消のためには

【小宮】 どうもありがとうございました。関さんは、一人一人に向いた職業は何なのかということを考えることで、日ごろから大きな苦労を重ねてこられていると思います。今、何度でも再就職へ挑戦できるようなセーフティーネットが大事というお話しがありました。一生懸命働けるようにしようと思っても、どうしてもミスマッチになってしまったりする。そして試行錯誤を繰り返していると思うのですが、ほんとうにその人に向いた仕事を見つけていくときに大事なこと、思い込みを捨てることも含めて、どうやったら目の前にいる障害のある方にいい仕事についてもらえるのか。その辺はどういうふうにお考えですか。

【関】 我々も思い込みがありますし、企業さんが「だめですよ」と言っているのに、「あの子はできそうだから」いって、結局、失敗してしまうこともあります。

一度雇用されたらずっと働き続けるという雇用形態が変化しています。ですから、企業さんに「とても大変になったら、戻してくださいよ」ということも言っています。そして、これは我々の役割ですから、またもう一回就職をしてもらう。

「だめなときにいつでも帰ってきなさいよ」というふうなメッセージを送っていますと、ほんとうに戻ってくるんですね。ですから、我々のセンターは 100人ぐらいの障害のある方でごった返すのですが、そういうとき、ちょうど箕輪さんのほうから、「こういう障害のある人はいませんか」、「知的障害でパソコンができる人はいませんか」みたいなことを聞かれ、「だめですか」、「よろしいですか」ということを何回も何回もやりとりしました。私たちは、「この人はこれはできません」、「これはできます」といったことを、ありていに企業さんにお話しします。それをキャッチボールしていただける企業さんがあると、うまいこといき、ミスマッチも解消できると思います。

「ほんとうのことを言ったら雇用しません」となると、ほんとうのことをなるべく言わないようにして、「あれもできる」、「これもできる」と言って、最終的にはばれてしまうこともあります。そこらは、箕輪さんとのキャッチボールがとてもおもしろかったのですが、いかがでしたでしょうか。

【箕輪】 会社側も「障害」というより「仕事ができる人」ということで求職者の紹介をお願いしています。紹介の際に、即戦力に成り得ることだけでなく「苦手かもしれないから、ここの部分は徐々に教育してください」など詳しくお話しいただきましたので、採用時のミスマッチありません。求職者が経験のない職種でも私どもは雇い入れていますが、事務職においても入社後すごい勢いで伸びています。紹介してくださった支援団体の方もご存じないぐらいの能力を、会社では発揮しているのではないかと思います。そのあたりはほんとうに、コミュニケーションも大事だと思いますし、本人の就労意欲を高めていただいているところが大きいと思います。

【関】 ありがとうございます。

【小宮】 本人の能力、「実はこんな能力があった」というのを見つけ出すコツについて、何か企業の側にはあるのでしょうか。

【箕輪】 身体障害の方と知的障害の方とでは、もしかすると多少経験できる場の数が違うのかなと思います。知的障害のある方にお会いしていると、経験が少ない、やったことがないので、自分でもできるかどうかわからないという方が非常に多いですね。とにかく何ができるんだろうという目で常に見て、「とりあえずやってみればできるだろう」というような考えで、いろんなことを経験してもらいます。

できれば会社で雇い入れる前に、いろいろな経験があればよいのですが、なかなかそういうチャンスのない方が多い。会社に入ってからも適材適所のため、もちろん対価であるお給料を払っていますので、その分、戦力になってもらいたいというのもありますので、自分でも何ができるか考えてもらいますし、「すぐにできること」と「少し頑張ればできそうなこと」、「失敗しても構わないからやってみたいと思っていること」は何かということを詳しく聞きながら、経験を積んでもらいます。いわゆる、全社員に行っている「キャリアカウンセリング」と「キャリア形成」です。

職場環境においては、例えば、ISO認定の取り組みによりマニュアル化、標準化されていたり、今まで手作業だったものがIT化の促進によりパソコンを使えば完遂できる仕事が非常に増えてきています。そういう点では、活躍の場がほんとうに増えてきたなと思っています。

【小宮】 採用や人事をご担当されていて、先入観を覆され、あっと驚いた能力を発揮されたような具体例はありますか。

【箕輪】 人材紹介会社や支援団体からご紹介いただくときに、まず、「障害者がいますがどうですか」と言われ「何ができるのか、求職者はどのような仕事をしたいのか」と逆に聞き直す。このような経験が複数ありました。

以前勤務していた会社で、何年も「洗濯したおしぼりを広げる」作業をやってきた方ですが、それに適性がなかったのか評価が著しく低かったそうです。でも、支援団体の方によると「いろいろなことができそう」ということでしたので、その可能性に期待し、入社していただきました。もちろん当社には「おしぼりを広げる」という仕事はないので、とりあえずパソコン使う入力作業を担当したところ、スピード、品質ともに高く評価できるものでした。職業判定では「重度」ですが、仕事の成果をお伝えしたところ、家族の方も、紹介した支援団体も驚かれました。

おしぼりを広げる仕事がうまくいかなかったときに、前の会社では「新人がやることさえできないからだめだ」と、ずっと低い評価だったようですが、それは仕事が適さなかっただけで、もっと違うことをやっていれば、より早い段階で能力を発揮できる場もあったのではないかと強く感じました。

応募いただいた多くの人が同様でしたので、とにかく会社に応募いただく前のことはあまり気にせず、社内でいろんな経験をしてもらうようにしています。そうしないと、なかなか潜在的なものを見つけることはできません。できるだけ早く得意分野を見つける努力をしています。

【小宮】 ちなみにその方の場合、パソコンの仕事というのは、どういう仕事だったんですか。

【箕輪】 これは横河ファウンドリーという子会社の話ですけれども、グループ会社でベテランの正社員がやっていた社内システムの決まった画面に、定常的にいろいろなデータを入力していく仕事もあります。例えば経理の仕事や、営業職場における売上に関する入力、名刺作成などです。一般社員がやっていたことをそのままシフトしたものが多いので、おそらく、会場の皆さんの身近にも、知的障害のある方にできるお仕事が多いのではないかと思います。どれも特別な仕事ではありません。

【小宮】 箕輪さんは企業の人事の担当をされていて、福祉側、障害のある方を送り出す側の支援する方たちに対してかなりいろいろなご注文というか、ご意見をお持ちだと伺っております。その辺はどんなご意見をお持ちなのでしょうか。

福祉関係者への違和感

【箕輪】 福祉関係の方と、企業で経営や教育を担う立場として話したとき、歩み寄れないところがあったりします。例えば、支援団体が人材紹介をするにあたり、求職者に対し「キャリアカウンセリング」をするなど専門性があるのか。潜在的な能力を見るためのアセスメントが客観的にできているか。「とにかく優秀です」とうコメントも多いのですが、どのような基準と比較して「優秀」とおっしゃっているのかご説明いただけない場合も少なくありません。

障害の有無に関係なく、人生において「働く」ということはすごく大きいことだと思います。そのような機会にかかわるということは、その人の人生に深くかかわってしまう。そういう重要なお仕事をされているわけです。そのように責任重大な仕事をされているにしては情報が少なかったり、一般社会との交流が少なかったりする方がまだまだいらっしゃるのかなと思います。

ぜひ情報収集をしていただきたい。常に世の中の動向をきちんと把握した上で社会へ送り出すよう考えていただきたい。東京都内にはあり得ないような職種のトレーニングをいまだにしているところもあったりします。地域によって業種や職域が違うと思いますが、「どういうことを教育すれば仕事で生かせるのか」というあたりも、その都度、日々考えていただきたいと強く思っています。

【小宮】 共働宣言の中でも、1ページに「就労支援関係者より」という言葉があります。「障害のある人は、次のステップに向けて移行するときにさまざまな困難に遭遇するが、障害のある人の支援をする専門家は、短期的な視点からではなく、次のステップや本人の将来を展望した応援や助言をすべきである。初めて出会う羅針盤(専門家)としてのあなたの一言はとても重い意味を持っていることを認識すべきだと思う」というコメントです。これについて、箕輪さんも相当同感されるとおっしゃっていたのですが、それはどういうご経験からでしょうか。

【箕輪】 人事の仕事が長いのですが、以前、人材紹介を事業とするグループ会社に出向していました。人材紹介やアウトプレースメントを担い、他人の人生に深くかかわっていた経験があります。求職者へは、希望に沿った企業を紹介し、求人者へは要求に適する人材を紹介してきました。

障害のある方の人材紹介はどうでしょうか。求職者が障害者手帳を持っているだけで、十分に本人の能力も見ず、また会社が何を求めているかも調べず、安易に紹介してくる団体が多いのです。たまたま手帳を持っているからということで、どうしてそんな簡単になってしまうのだろうかと強く感じます。もし障害がなければ、一般の人材紹介会社のようなプロセスで、求職者本人の希望や能力を確認し、また求人者が何を求めているか詳しい情報を集めると思うのですが、同じことができるのに「障害がある」というだけで、まず会社に「障害者です」という紹介をしてくる。そのあたりが、私が人材紹介を担っていたときと比べて、同業者としては違和感を感じるのです。これまで接した中に何人もいらっしゃいました。

【小宮】 特別な感覚というのは。

【箕輪】 「障害者」という、私たちと全く違う人種のような、全く別世界のような会話になってしまっているような。うまく言えませんが、わざわざそのようにくくられてしまうため、会話が噛み合わないことが多々あります。もちろんそのような方ばかりではありません。関さんもそうですけれども、東京都内にもたくさん(私たちと)同じような考え方で、働きたい1人の人をきちんと就職させるという考えをしっかり持っている支援団体が増えてきました。そういう方とおつき合いをさせていただき、別世界ではない話ができるようになり、非常によかったなと思っています。まだまだそうではない考えを持っていらっしゃる団体もあるようで残念に思っているところではあります。

【小宮】 ありがとうございます。私たちの意識変革をしていくためにどういうことが必要なのか、今お話ししているわけですけれども、特例子会社の社長も勤められた畠山さんは、お立場からどんなことを考えていらっしゃいますでしょうか。

求められる情報共有の仕組み

【畠山】 はっきり申し上げて、意識を変えるというのは大変なことだと思います。そう簡単には変わらないのですが、そもそも今、障害者ということで言葉がいろいろ出ていました。ほんとうにひとくくりで考えてしまうんですね。ところが障害には身体、知的、精神、いろいろあって、さらにその中も、皆さん一人一人違う。その重さも違う、特性が違う。したがって、どういう仕事ができるのかというのも全部違うわけです。ところが、障害者とくくってしまう。

いま一つ、用語が定着しない不自然な世界だと思うのは、障害を持っている人自身のことを、当事者とよく言いますけれども、これも何となく違和感があります。それから障害のない人を健常者と言うんですけれども、どちらかというと身体障害を持っている人が中心になっていた時代の言葉ではないかと思います。つまり障害がない人は健常者だと。ところが体は丈夫そうに見えるけれども、実は精神的にかなり問題も持っていて悩んでいる人もいるわけです。ですから、そういう人を健常者と言っていいのかということになります。やはり当事者だとか健常者だとか、そういう用語がいま一つ、この時代にマッチしていない。その中で障害者というふうに考えてしまうと、なお漠然としてしまう。

先ほどお話がありましたけれども、特例子会社にいたときにも、よくいろんな人から「雇用してくれないか」という話がありました。ところが大体そのときに、「知っている人に障害者がいるんだけど」という言い方なんですね。「具体的にどういう人ですか」と聞くと、身体だとか、知的だとかおっしゃるのですが、そこから先、「何がどの程度できる人ですか」とか、「ご両親や保護者といった方が、ほんとうに働いてもらいたいと思っているんですか」と聞くと、「そこまではわからない」となってしまう。ですから、そこから先へなかなか進まない。

この冊子(共働宣言)の2ページにありますように、障害者だ、健常者だという前に、人にはそれぞれに名前があり、個性がある、障害者という決めつけがいけない、ということですが、それをどうすればいいのかということについて、私は雇用していく企業と、それから福祉、あるいは教育との連携と言えば簡単かもしれませんが、1人の人について情報を共有する仕組みがやはり必要だと思います。

「こういう人を採りたい」というのは、企業の規模、業種、職務内容によってみんな違うわけです。「うちの会社では、こういう障害だったら仕事がある。だけどこういう障害なら、残念ながらない」というように、企業のニーズもいろいろ違う。当然、働きたいという人にしても、自分の障害を前提にすると、できる仕事、できない仕事があるわけですから、その辺を具体的に、どういう障害があり、どういう特性があって、どういうことならできるのか、もっとオープンにしたほうがいい。そのようなことが共働宣言に出ています。

障害がない人は、自由にどこかの会社を訪問して、「私を採用してください」ということでいいのでしょうが、障害のある人は、なかなかそうはいきません。やはりそれをサポートする人、つまり企業のほうは、「どういう人が欲しい」ということをはっきりと公にする場があったほうがいい。それから、教育あるいは支援する世界のほうでもちゃんとデータがあって「Aさんはこういうことならできそうだから」というときに、出会いがあるわけです。例えば支援センターのようなところがあり、「こういう人たちがいるよ」、「こういうことができますよ」というようにしていただくのがいいのか、といったことがあります。

もう1つはハローワークですけれども、ハローワークでは障害者の雇用促進も担当されていますが、まだまだ十分な機能になっていないと思います。そういうところにデータが整備されるとか、要するにどこでもいいのですが、どこかにそういう共通の場があったほうがいい。障害のある人だけ個人データを公開していいのかという個人情報の問題もあるでしょうが、働きたいという人たちから、自分の情報を企業に公開していいかどうか基本的に了解をとればいいわけです。そういうときだけ公開するようにして、出会いをつくる。それが本来の企業と福祉、教育の世界のネットワークというか、連携なのではないかと思います。

企業の立場からいきますと、やはり赤字経営では、障害のある人の雇用はとても考えられないと思います。これは非常に厳しいことですけれども、企業は福祉団体ではないということになってしまいます。効率化、同業でしのぎを削って厳しい経営環境の中でやっている会社が、赤字経営でもいいというふうにはいきません。各社、一生懸命経費の節減を行い、最後には人員の問題、リストラということで、そこまでやって何とか黒字にする。失業率が 4.7%という厳しい環境下で、障害のある人だけを優先的に雇用するのはなかなか難しい。

ただ、だから責任逃れしていいというわけではなく、やはり企業の経営が安定してきて初めて、社会的責任だとか社会貢献だという考え方の中で障害のある人たちを雇用していけるのだと思います。そこで、企業の経営者をはじめ、管理者、現場の社員、そういう人たちの、まさに意識改革が必要というところになってきます。

特に、職場で働く障害を持った人にとって、コミュニケーションできるというのは非常にうれしいんですね。それを障害者というふうにひとくくりにされ、何となく距離を置かれてつき合われるようだと非常に寂しい。それだけ働く意欲も水を差されてしまう。やがては悩んで、どうしようかというようになる人も結構多いわけです。

そういうときに、障害のあるなしに関係なく、皆人間同じなんだ、あるいは能力が違う、適性が違うのは障害のあるなしに関係ない、ということをきちんと頭の中に置いて接していけば、やはりいいコミュニケーションができますし、働く環境がよくなり、本人も意欲がわいてくる。そうすると企業としても、「障害があってもなかなかできるじゃないか」というふうになってきます。そういう意味では、非常に時間がかかることではありますけれども、ぜひそういう方向でありたいなと思っております。

経営トップの理解を進める

【小宮】 会場には、企業の障害者雇用の担当の人事の方も大勢来られています。おそらくそういう方の中には、自分たちだけが頑張っても、会社全体の意思決定となると動かし切れず、非常に悩んでおられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。その辺については、何かアドバイスをお持ちでしょうか。

【畠山】 上からの指示、あるいは下からの積み上げとありますけれども、実際に人事部門で障害者雇用問題を担当している方は、問題意識を持って努力されていると思います。問題は「上がどこまで理解しているか」ということだと思うんですね。ですから、ワンマン経営のような会社ですと、トップダウンでぱっと決まるでしょうが、大抵の会社は企業規模に関係なく、やはり上からか下からかという手順になります。特に上の方のご理解をいただくためには、こういうフォーラムの場も必要ですし、セミナーも必要でしょう。特に経営トップを対象に、そういう場を設ける必要があります。

もう1つですけれども、企業はたくさんの社内研修を用意しているのでしょうが、障害者雇用問題をテーマにした研修は意外にやっていないと思います。職業センターの専門の方とか、リハビリテーションセンターのように実績の多いところから講師を招き、管理職を集めて講習会を開く。

あとは企業同士の交流ですね。企業同士というのは意外と交流がありません。お互い企業秘密もありますので、相手の会社の中にまでずかずかとは入っていけないし、来られたほうも、そう簡単には受け入れない。ところが障害者雇用問題になりますと、もっとオープンでいいわけです。そして、「この会社ではどういう雇用をしているのか」、「どういう仕事をしてもらっているのか」、「何が困っているのか、意外と困っていないのか」ということを知る。

特例子会社同士というのは、そういうことを結構しているんですね。親会社と全く別ですから、「こういうところで困っているんですよ」、「うちにはいい例がありますよ」という交流が意外とできるわけです。

トップに理解していただくためには、親会社の人事部門の方とか、人事担当の役員、あるいはもっと上の人たちがよその会社、障害を持った人を非常にうまく戦力として活用している企業を見学しに行けばいいのです。そういうことをだれかがつなげばいいわけですね。では、それをつなぐのはだれかというと、例えば、これは公式見解ではありませんが日本経団連でもいいでしょうし、どこでもいいわけです。そういうところが仲立ちをして、道を開くのも1つの方法ではないかと思います。

【小宮】 障害のある方の採用、あるいは会社内での処遇とか、いろんなわからないことがあったら、体験済みのほかの会社に、企業の壁を越えて聞きにいったらどうかというご提案でした。

私もこの間、障害のある方を採用している企業の集まりのようなところを訪ねましたら、やはり「こうやってうまくいった」ということを話したくてしようがない方がたくさんいらっしゃって、とても盛り上がった会合になりました。ですので、「商売がたきだから聞いてはいけない」と思わず、障害者の雇用はあまり競争ということではないと思いますので、率直にご連絡をとっていかれるのも1つの方法で、そういったことから自分の意識改革、あるいは会社全体の意識改革を進めることもできるのではないでしょうか。

ここで、会場の方々のご意見や疑問、質問を伺おうと思います。きょう、企業の人事とか障害のある方の採用の担当の方で、こちらに来られている方はどれくらいいらっしゃいますか。手を挙げていただけますか。

( 挙  手 )

【小宮】 そのうち、障害者雇用率を達成されている企業の方だけ手を下げていただけますか。

( 挙  手 )

【小宮】 達成されていない方には、きっといろんな悩みがあると思います。そちらの手を挙げていらっしゃる方は、採用などを進めていく上で、会社全体、あるいはご自分の立場で悩んでおられるのは、どんなことでしょうか。

ともに働く企業風土をつくるためには

【参加者A】 私の会社は法定雇用率1.8%をぎりぎりで満たしていたのですが、工場系を抱えているものですから、除外率が下がりました関係で、今では少し足りなくなってしまっている状態です。

雇用の悩みとしましては、障害のある方にネジの袋詰め作業をやっていただいたり、そのほかにもラインにも入っていただいたりしているのですが、障害者の方がどこの部署でも当たり前に働いているという風土が、まだ恥ずかしながら当社にはないような気がします。雇用率云々ではなくて、障害のある方が健常者の方と一緒に、ともに働くという企業風土づくりについて日々悩んでおります。その辺のアドバイスをいただければ大変ありがたく思います。

【箕輪】 横河グループも 1992年は法定雇用率を下回っていました。当時、1年間で法定雇用率を達成することを目的としたプロジェクトを発足し、人事だけなく全社的な取り組みをすすめました。人事は、職場からの要求に合う人材を求めて採用活動をおこなったのですが、配属にあたっては、最初はやはり職場から「仕事ができるといっても、危険だから」というような抵抗がありました。しかし、誰が働こうと安全な職場でなければいけないので、危険な環境がすぐに改善するよう話をし、選考書類を手に、職場に足を運んで回っていきました

採用活動を始める前に、「この職場は、障害があったら何か問題だろうか」というのを歩いて調べました。例えば、機械工場ではみな耳栓をしながら仕事をしていましたので、安全管理のためランプで危険が知らさるよう整備されており、聞こえない人にとっても安全上問題はありませんでした。また、ある職場はずっと座って仕事をしている人ばかりで、電話応対もほとんどない環境で仕事をしていましたので、車いすや聞こえない人も問題なさそうだというように下調べをして、配属先職場の人が抵抗するだろう事柄への対策をたててから配属の話を持っていきました。

それでも「全社としての取り組みは理解しているが…」と断られそうになることもありましたが、人事としては「絶対に、この人はこの職場で活躍してくれる」という自信がありました。当時はトライアル雇用制度もありませんでしたので、社内的には仮配属という形態で、障害のある社員自身に様子を見てもらうと同時に、職場に対しては「もし何か問題があれば人事が責任をもって再配置します」ということですすめました。

人事としては採用活動に自信がありましたが、期待どおりみんな成果を出してくれました。すると職場からは「何だ、仕事ができるじゃないか」という声がきこえ、正式な配属へと移行していったのです。多くの職場は、障害を持った人を初めて受け入れるとき、ものすごく抵抗がありましたが、「何かあったら人事が責任とります」という考えを伝えつつ推し進めました。そして、「手帳を持っている人でも、この仕事ができる人だったらぜひ」という積極的な声が聞こえるまでになりました。現在、職種別の配属についてグラフをとると、横河電機全社員で見たデータと、障害者手帳を持っている社員のみを抽出したデータでは、ほぼ同じような分布になっている状態です。障害の有無に関係なく10人10色なのです。

毎年 200~ 300名のいろいろな企業や団体の方が「障害を持っている人はどのような職域で働いているのですか?」と来社されます。そこで配属職場に「見学したいというご依頼があるのですが」と言うと、「この部署に仕事をする上での障害者はいない」ときっぱり言い切る職場が増えてきました。最初に無理をしないことが大切です。人事側が配属先に不適合な人材を無理やり押しつけることのないよう、職場が要求する業務内容に適する人を採用し、一つ一つ実績をつくっていく。急には立ち上がらないかもしれませんが、やはり一つ一つの実績を積むことが大事なのかなと思います。適材適所が実現でき、職場は抵抗なく受け入れてくれるようになりましたので、現在は配属については全然苦労していません。

社内の取り組みを促進するには、コンペチター(競合他社)の人事の方と情報交換をして、お互いにコンペチター(競合他社)の実績を取り上げて上層へ提案することも有効でした。

【小宮】 一人一人の障害のある方をよく見て、また職場のほうも一つ一つをよく見て、「この職場だったら、これは問題ない」ということをきちんと把握していれば、合うものも必ず出てくる。必ずかどうかはわかりませんけれども、かなり出てくる。そこを一つ一つ具体的に考えることが大事だという、非常にいいお話だったと思います。

【関】 私のところで言いますと、企業の方々の研修を年間20社ぐらいは受け入れていると思います。それから特例子会社を立ち上げたいとおっしゃる方々の下支えみたいなところで、例えば、「きょうは常務が来るんだけど、みんなでよいしょをしてくれないか」というような会をしたりしています。

それから、新しく大阪にUSJみたいなものができるときには、「障害のある人たちを雇用する義務がありますよ」というふうなことを言います。例えば、当初から 50人規模を雇うとしますと、配属などについても相談に乗らせていただきます。「だめだったら我々が引き取る」というのが殺し文句でありまして、ほんとうに引き取ることもあります。

当初は実習のようなことがあまりなく、「これで決めたらもうそれで終わり」ですので、どうも二の足を踏むようなことがありました。しかし、かなりのところ、東京で特例子会社を立ち上げられ、大阪でもそうしようというところでは、我々のところでお話をさせていただき、引き取るほうの仕事もしております。

それから私どものNPOでは、企業ネットという事業部を持っています。いろんな企業の方々の中での、例えば人件費のやりとりとか、何をどう決めているかとか、業績はどうかといったことの情報交換をしています。企業の秘密みたいなこともかなりオープンにされていますので、そういうネットワークもうまくお使いいただければと思います。

【小宮】 さきほど手を挙げてくださった方で、もう1人企業の方にお聞きしたいと思います。障害者雇用率を達成していないようなところ、達成していてもいいですが、人事担当者として一生懸命仕事をなさっていて、こういう悩みがあるというようなことをおっしゃりたい方はいませんか。

分社化の影響

【参加者B】 私の会社は雇用率を達成していません。今年度から採用についてかなり強力に、一生懸命頑張っていこうということで、実は2年間で雇用率を達成するという宣言を、ことしの6月に社長がいたしました。今それに向けた採用活動をやってきております。

採用は採用でやっていますが、それ以外にも私どもの会社では「ノーマライゼーションの精神にのっとって」ということで、「健常者と同じ職場で仕事ができる」といったところをずっと考えてきました。「今までにないやり方も考えてみてはどうか」という話もございまして、私はまだ担当になったばかりですけれども、いろいろな企業の事例を勉強しています。

そこで疑問に思っているところ、お伺いしたいことは、先ほど「企業が厳しい状況にあって」というお話もありましたが、実際、「障害者の方に」と思う仕事がどんどん分社化されていったり、アウトプレースメント、外に出していったりしています。例えば、「職場で1人の人を抱えるまでの仕事ではない」ということがあったりする。では、それを集めてきて、1人分の仕事にしてはどうかということも考えてみましたし、そういう事例もありました。そうするとどうしても、そこの職場に入っていけないんですよね。つまり、今まで目指していた「健常者と同じところに机を並べて」というのではなく、別の障害者チームみたいになってしまう。でも、それはもしかしたらいいのかなとも思いながら、どうなんだろうと考え、そういった事例を聞いて回ったりしています。確かに今までうちにはない例だと思いつつも、悩んでいるところです。その辺、何かアドバイスがありますでしょうか。

【畠山】 今のご質問につきましては、非常によくわかります。なかなか難しいところだと思いますが、除外率が10%ずつ、これからずっと下がっていき、最終的にはゼロにする方向になっているわけです。そもそも除外率自体、業種によって、その除外率が正しいのかどうかというのは、時代が変化していますのでわからない部分もあります。多分ここ数年の実績を見ながら、除外率が下がると同時に、雇用率はどう変化するのかということを見ていくんだろうと思います。もう一方では、精神障害を持っている人たちの雇用をどうするかということで、その分は雇用率のアップになるのか、据え置きなのかとか、そういう議論も当然あるわけですね。雇用率は雇用率の問題としてあるのですが、どちらかというと、そういう「雇用率のために何とか」ということとは一応切り離したほうが考えやすいのかなという気がいたします。

特に持ち株会社の下にグループ会社がくっつくようなケースとか、あるいはまさに分社化、あるいは事業部制をそれぞれ独立企業にしてグループとしてつないでいくケースもあります。そうしますと、今まで50人の障害者に働いてもらっていたとします。ところがA、B、Cと会社を分割したら、障害を持った人たちに適した仕事の多くがB社に行ってしまった。そうすると、障害を持った人たちはほとんどそちらへ行ってしまう。すると、分割前の会社全体では雇用率をクリアしていたのが、A社からはほとんどいなくなってしまい、B社はすごく達成している。雇用率は事業所単位で見られますので、A社はペナルティー、B社はよくやっているというような形にもなってしまうんですね。

そこをカバーしようということで、2年ほど前の制度改正で、グループカウントを認めることになりました。現在は「特例子会社のある場合」というふうになっています。特例子会社制度は大変有効な制度だと思いますが、もちろんこれしかないというわけではありません。雇用促進に相当貢献してきた制度だと前向きに評価していますが、それだけではない。特例子会社を必ずしもつくらなくてもいいわけですが、グループカウントするというと特例子会社の存在が前提になっているので、その辺が今後どうなっていくのかなというふうに思っています。

やはり仕事を集めて分社化しても、実は共通した仕事がA社、B社、C社、D社にそれぞれあるというときに、それをまとめてしまうのは1つの方法だと思います。例えば、4社に対する緑の植木とか備品の管理、あるいはITを使っての共通のデータ処理といったものを集約化することによって、障害のある人にまとめて働いてもらえる場所をつくれると思います。

ただ問題なのは、それに対して上の人が理解してくれないとなかなか進まないということです。1つの方法としましては、上の人に対して「世の中はどんどん制度的にも変化していますよ」、「雇用率も今は 1.8%だけれども、今後こういうことも考えられますよ」、「除外率の問題とか、雇用率未達成企業の企業名公表といった問題を考えると、もう少し本気で考えたほうがいいですよ」という情報を発信する。経営のトップの方々が、「これはもう本気で考えなくてはいけない」というようになり、上からの指示があれば、下の方は非常に動きやすい。その辺は仕掛けていく必要があると思います。口で言えばすごく簡単ですが、組織と人が絡んでくる話でもあります。ただそういう攻め方が1つあるのではないかなというふうに思います。

【小宮】 次は福祉サイドの方のご意見を伺いたいと思います。きょう、こちらにお見えの方で、福祉のほうからご参加の方、手を挙げていただきたいのですが。

(挙  手)

 順番にお聞きしたいと思いますけれども、障害のある方が働けるように取り組む中で、今ご苦労されていることとか、去年と比べて今年もっと進んだこととかいろいろあると思います。お聞きになりたいことですとか、あるいは自分たちの取り組みで考えておられることなどをお話しいただけますでしょうか。

どうすれば情報収集できるのか

【参加者C】 私は医療機関でジョブコーチまではいきませんが、そういうかかわりをさせてもらっているケースワーカーです。きょうのお話を聞いて、「ネットワークをうまく使いたい」というのをすごく感じています。私が勤めているところは茨城県にありまして、ジョブコーチがある、福祉センターみたいなところもあります。しかし、そことの連携がまだうまくできていない、それに企業側のニーズを把握し切れていないというのが、反省点としてあります。養護学校を卒業する子供たち、あるいは養護学校を卒業してから何も情報がなく福祉の授産施設に行っている方、そういう人たちにとって、やはり情報の共有、情報を提供することが必要になっていますけれども、その辺の情報を収集するすべがない。私たちはアセスメントをして、「この人にはこういう長所がありますよ、短所がありますよ」というものを持ってはいるのですが、それに対して企業から聞くすべがなく、ネットワークをうまく使い切れていないと感じているところです。そこで、情報を共有するシステムを具体化することについて教えてほしいのですが。

【小宮】 今のお話をどんなふうに受けとめられましたでしょうか。企業がどういう人を必要としているかなかなかわからないし、どこに行けばそういう情報が得られるのかわからない。そういう悩みですが。

【伊野】 お答えの前に少し触れさせていただきたいことがあります。今の世の中はコンプライアンスとかCSR(企業の社会的責任)というのが1つのキーワードになっている社会だと思います。障害者の雇用率も基本的にコンプライアンスの問題なんですね。ですから、企業側の責任者という立場からすれば、やはりそういう視点から取り組んでいくべきではないかと考えています。

いまヤマト運輸の社員手帳を持っていますが、その中に、企業姿勢の第1として、「地域社会から信頼される企業」ということで、「ヤマトグループは、地域の一員として信頼される事業活動を行うと共に、障害者の自立を願い、応援します」とあります。社員は少なくともそういう問題意識を持ち、対応しているわけです。それが結果に結びついているかどうかというのは、いろいろ問題がございますけれども、少なくともそういうスタンスを企業風土の中につくり出すのは大事だと思います。

そこでお答えになりますけれども、そういうことがあれば、「うちの職場はこういう人だったら受け入れられますよ」というように、社員自体が問題意識を持ってかかわってくれると思います。そういうふうにしていけば、おのずからニーズというのはうまくマッチングするのではないか。私はそのような感じを持ちました。

【小宮】 勝又さん、いろいろ現場のほうで悩んでおられるようなんですけれども、何かアドバイスはありませんでしょうか。

【勝又】 まず、企業に関する情報という話で言うと、お近くのハローワークで様子を聞いてみられたのかなというのが1つございます。実際にハローワークに行っても、逆に企業の方が「求人登録をして求職している障害者がなかなかいない」、「自分のところに合った人が見つからない」という話をよく聞きます。たしか障害のある人についての求職情報を、ご本人の了解をとったうえでネットに公開していくという形で、企業に情報を提供する動きはあるようです。しかし、逆の話はどうもなさそうだなという気がするわけです。

ですから、ハローワークでなかなか見つからない話があるようでしたら、むしろ、雇用率を達成していない企業に直接働きかけてみたらいかがでしょうか。最近、情報公開で「こういった企業がまだ達成していない」とか、「達成している企業で言えば、こんなところがある」といったことがわかる気がいたします。

先ほど箕輪さんのほうで、「福祉の人は変わった人が多い」とか言われたような感じがします。私ども、結構一生懸命努力をしています。特に職員を雇うときに、資質として3つぐらいあるかなと思っていまして、まず第1に、「人が好きなのかどうか」ということ。それから小さなお子さんと接するときに、かがんで目線を合わせたりしますが、それと同じように相手と「同じ目線が持てるかどうか」ということ。それと、その人たちに「共感、同感できるか」といったこと。そういう3つの基準で、職員をできるだけ配置したいと考えてやっています。

ですから、福祉の中でもきちんとしたマインドを持った人たちはたくさんいると思いますし、むしろ地域の中の福祉で連携をとることによって、たくさんの情報が集まってくるのではないかなという気がするわけです。特に一般企業に向けた就職支援をするところでは、むしろ企業で経験を持っている人たちを意識的に配置していくようなこともやっていますし、仲間うちの情報交換の場を持つことも大切ではないかと思います。

【小宮】 箕輪さん、一言ありますか。

【箕輪】 決して「福祉の方が変わっている」とは申しておりませんので、誤解のないようにお願いします。先ほど話しましたように、人材紹介業をやっていた時期があり、その中で障害を持った方の再就職支援もやっていたのですが、基本的に障害者の求人は少ないのです。そこで、普通に求人が出ている企業の情報をチェックしました。いろいろな媒体があります。求人雑誌、新聞の折込、職安の求人検索等、見渡せばあちらこちらに求人が出ています。その一般的な求人の中にいかに割り込んでいけるかという考えですすめました。「求人内容の仕事ができる」人材であれば「障害者求人」ではなくても、障害のある求職者を紹介でき、採用に結びつくのです。

現在お付合いのある地域の支援団体の方も、同じような取り組みをしています。毎週、新聞広告で一般求人を見て、求人者にまず「こういう仕事ができるのですけど、どうですか」と問い合わせをしてみる。例えば、「この人は車いす、あるいはコミュニケーションに少し障害があるけれども、この仕事はできます」というように、とにかく会っていただけるように努力する。求人者の中には「そういえば障害者雇用が進んでいなかった」ということで、一石二鳥のようになったこともありました。

「障害者求人」だけを探すと、門戸がほんとうに狭くなってしまいます。支援団体の人が積極的に、一般求人が出ている会社に話をしてみることも雇用促進につながります。

社内でも同じことが言えます。 92年のプロジェクト活動で1年間に25人採用し配属したときも、すべての職場から障害者のニーズが出ていたわけではなく、ただ「人材要求」がでていた職場に話をもっていったのです。そのようにすすめることで、もっと雇用の場が広がるのではないかと思います。

【小宮】 雇用率だけで何でも決まるわけではありませんが、達成していないのがオープンになっている企業があったら、求人していようがいまいが押しかけていってはどうだろうか。ひょっとしたら、そこに場所があるかもしれない。それは思い込みや決めつけを逃れる1つの方法かもしれません。それから求人があったら、それは障害のない人しか働いてはいけないと言っているわけではありませんので、求人があればそこに行って「これができます」と言ってしまえばいいかもしれない。まさにそれは思い込みや決めつけから外れて、やってみることなのかもしれないと思いました。

もう1人、今そちらに福祉関係で手を挙げていた方がいらっしゃったと思います。今やっている中でいろいろ考えていること、こうしてほしいこと、質問がありましたらお願いします。

【参加者D】 私は福祉関係といいましても、自閉症関係、特に高機能・アスペルガーの方の支援をしています。高機能・アスペルガーというのは、最近言われてきましたけれども、できるところはできるんですね。いま大学卒業者は行くところがなく、大学で時間をつぶしている人が多いのです。パソコンなどほんとうに得意なのですが、やはりできないところがあって、実は障害者と認められていないために、雇用率にも換算されておりません。みんな働きたいという意欲を持っているのですが、どこにも今受け入れられていない。ほんとうにもったいないという感じがしております。

私も自閉症者の親ですけれども、ハローワークなどいろいろなところを利用しました。 30件ぐらい歩き回ったのですが、結局だめでしたので、親自体が職場をつくって今やっています。それをNPOにして、自分の子供だけではなく、少し広げようという形にしました。今のところ5~6人、働きたいという者が集まっております。

日立製作所で企業内指導をしていた方たちにも講師になっていただき、「職場の中ではどういう力が必要か」というようなことを聞く勉強会を開いたりして、何とかその人たちが就労できるようバックアップをしていますけれども、大変難しい環境にあります。

企業は社会的公器

【関】 私たちのところでも、通常の障害のある方々だけではなくて、例えば高機能・アスペルガーの方とか、LD(学習障害)の親御さんたち、それから高次脳障害といった方々から要望があります。「通常の雇用率にカウントされないから企業で雇わない」ということではないと思います。これらの方々はかなりのところ、大きな企業ではなく、小さな企業で働いておられたりしています。

雇用率があるから雇用します、そんな話と違うでしょう。そこに障害のある人たちがいて、その隣に企業の方がいて、という思想が欲しい。雇用率を満たすために、障害のある人たちを雇うということでは決してない。企業は社会的公器ではないかと思いますので、ぜひくじけないで頑張っていただきたい。お母さんたちがくじけないで頑張っておられるのを見ていると、我々も頑張れますので、ぜひ大きな声で言い続けていただきたいと思います。

【小宮】 一言で障害のある方が働くと言っても、いろんな障害の方がいらっしゃいます。

1つの問題になると、ものすごく大変なことがいっぱいあると思います。

これから、少しでも障害のある方が働きやすい社会をつくっていくために取り組むべきことを、パネリストの方々に伺っていきたいと思います。箕輪さん、今後の取り組みについてどういうことを、自分の具体的な経験なども例に出していただきながら、もっと働ける社会をつくるために何が必要なのか、提言していただければと思います。

働く上での障害とは何か

【箕輪】 企業で採用・教育を担当している者としては、何回もパネリストの皆さんから出ていますけど、まず「障害者」という属人的なくくりをしないで、一人一人、目の前の求職者の「できること」と「やりたいこと」、それから「職場が要求していること」をきちんと把握しマッチングを見極める。障害があるからといって、そのプロセスを省くのではなく、他の社員と同様に必要なのです。

ある支援団体から「障害者の方だから本人と面接せず、保護者の人としか面接をしない企業もある」と聞き驚きました。人を採用するのですから、採用前から適材適所をしっかりと意識すべきです。

保護者の方、支援団体の方、会社の者も同じですが、障害があるというだけで自分以下と決めつけたりしていませんか?上司が30歳を過ぎている部下に対し「子供達」と言ったり「あの子」とか「その子」とか、「子」というような表現をする人を多く見受けます。そういう部分で言えば、手帳を持っているだけで偏った見方をすることをしないようにしなければいけない。自分自身もそう戒める必要があると思います。

他に、障害の有無にかかわらず全ての社員に言えることですが、やはり経験と教育によって成長するということを実感しています。特に、経験が少ない人ほど、経験をすることで短期間に急激に伸びます。「1回伸びたら終わり」ではなく、「今度は何の仕事で能力を発揮してくれるだろう」と、可能性に常に期待しながら、継続的に教育していきたいと思っています。

最後になりますが、環境によって誰でも「障害」が発生するのではないでしょうか。「会社の仕事をする上での障害とは何だろう」とよく社内会議で話しています。例えば、グローバル化の中で海外とやりとりをする仕事においては、「障害者手帳を持っていないが英語が苦手な社員」と「障害者手帳を持っているが英語が堪能な社員」とであれば、英語が苦手ない社員のほうが仕事上「障害」が発生することが明らかです。また、IT化が進んで、自分の給与明細書さえも紙ではなく自分でシステムへアクセスしなくては入手できないという環境下で、耳が聞こえなかったり車いすを使用しているがITに強い社員と、「障害者手帳は持っていないがパソコンを操作することが苦手」という社員とを比べるとどうでしょうか。パソコンを使えず、自分の給与明細書さえ見ることができないとなると、仕事だけでなく会社生活の中で「障害」が発生する。

「仕事をする上での障害とは何だろう」ということを考えながら、引き続き採用・教育を担っていきたいと思っています。

【小宮】 企業側の担当者として、福祉サイドの支援者たちに望むことは何かありますか。

【箕輪】 情報は待っていても入ってきません。もっと足を運んでください。本日のようなセミナーや講演会などに積極的に参加したり、企業の人事担当者が集まる場に行ってみる。足を運ぶだけでなく、積極的に情報交換してください。私たち企業に接してくる支援団体の方や福祉の方はすごく積極的で、民間企業での経験がない方ほど、企業の人と接しようと一生懸命な方が多いです。そのように情報は自分からとりにいくものです。社会の動向を見据えながら、短期的な考えだけではなく、中・長期的な視点でいろいろと物事を考えていただけき、提案してください。情報は一方的に入手するだけではなく、ご提供いただくことも期待しています。情報交換というカタチで積極的に接していただければとても有難いです。

先ほどもお話ししましたように、当社にも、企業の方、福祉の方、保護者の方など、年間 200~ 300名の方にご来社いただいております。逆に、私どもが訪問依頼させていただくこともありますが、快く受け入れてくださる企業ばかりです。とにかく、まず自分から行動してみる。コミュニケーションをとる中で、もしギャップを感じたら「違う」といって排除するのではなく、そのギャップを埋めるための更なるコミュニケーションをとる。「きっとこうだろう」という想像や自分だけの考え、特定の分野だけに通用する考えで推し進めると、偏った方向になってしまう可能性があります。誤解しないでいただきたいのですが、決して福祉の方が偏っているということを言ってのではなくて、いろいろな分野の様々な考えを受け入れ、より一層視野を広げていただきたいと思っているのです。

【小宮】 ちなみに箕輪さんは、障害のある方の雇用に携わる仕事をしていて、喜びというか、すごくうれしいと感じたことはどんなことでしょうか。

【箕輪】 身体障害の方の雇用に関するプロジェクト活動のときには、特別なことをあまり感じてはいませんでした。改めて振り返ってみると、採用や教育の対象者は、外国籍の人、障害のある人、高齢の人など様々でした。それぞれの特性や制約に合わせた配慮をしてきたとは思います。特例子会社である横河ファウンドリー設立時に、初めて知的障害の手帳や判定書を持つ人、特に「自閉的傾向が強い」と言われる方々に接したのですが、自分のことを前向きに受け止めたり、アピールできる人が少ないと感じました。

しかし、会社の人事がかかわることによって、自分でも気づかなかった能力に改めて気づき、その気づきよって本人が成長していくのです。社員の日々の成長を目の当たりにしたときに、「人事」という仕事の必要性を強く感じることができました。社員の活躍振りが間接的に聞こえてくることも、心地よく非常に嬉しく思います。

採用試験は、潜在的な能力を見極める過程であり、応募者を振るい落とすためではなく「その人の能力を見つけるためにはどのような試験を実施すればよいのだろう」と真剣に考えるようになりました。配属にしても、職場の要求内容と本人とのマッチング「適材適所」をより真剣に考えるようになりましたし、教育も「去年やっていたから今年も実施する」というのではなくて、「何を伸ばすために教育をしていくのだろう」と、目的を真剣に考えるようになったと思います。人事という仕事が、会社にとっても、社員にとっても本当に必要なのだと実感することができたことが、大きな収穫です。私がこれまでに出会った知的障害がある方の多くは、教育や経験が少ないためか「顕在化された能力が見えにくい。でも意欲はあり、可能性もある。」と感じられる方々でした。社員の成長とともに私自身も人事担当者として成長できたのではないかと思っています。

【小宮】 畠山さん、今後の取り組み、障害があってもなくても共に働き、共に生きる社会をつくるために、何が必要でしょうか。

福祉は抱えずに送り出しを

【畠山】 一番これから必要だと思うのは、やはり共通の場をつくるということです。私が特例子会社にいたときにも、ハローワークの方とか、支援の関係の方、学校の教育関係の方とか、なるべくいろいろな人と行ったり来たりをするように心がけてきたつもりです。そうしますと、どこにどういう人がいるか見えてくるんですね。

例えば養護学校の先生も、自分の教え子たちを職場実習に出したいわけです。そうすると、学校の先生が企業をあちこち訪問する。訪問すると、「この会社はこういう仕事をやっている」、「こういう仕事なら障害を持っていてもやらせてもらえるかな」ということで、先生が企業をよく理解できるわけです。

ハローワークの方もそうですね。今は皆さん相当忙しいらしくて、あまり企業回りをされていないようですけれども、やはりまめに企業を歩かれる方は、企業のイメージをわかっている。ですから、時々紹介されるんですね。「たまたま障害を持っている人でこんな求職者が出てきたけど、お宅の会社には合いそうな気がする」というふうに電話が来ます。そうすると、「では、会ってみましょう」ということで、すぐ面接してみる。支援の世界でもそうです。地元から採用しようと思いましたら、ほかの支援のところから「どこそこでこういう新規採用を考えているみたい」という連絡がぽんと入って、「うちにもいるんだけど」というふうに伝わってくるわけです。

ただそれは、今まで人でカバーしてきたような世界ですけれども、これからはむしろ、どこかに情報共有できるような場があったようがいい。例えば離職せざるを得なくなって戻ってきた人は、次の再就職が非常に難しいという現実があります。そういう人がデータ登録されていて、ほかから求人があったときに、「あそこから帰ってきた人だけれども、ここならいけるかな」ということでつなぐことができる仕組みを、なるべく早くつくったほうがよいのではないかと思います。

それから、特に福祉の関係でお願いしたいのは、「抱えていないで送り出してください」ということです。企業は採用したいと思っているんですけれども、なかなか福祉のほうの世界で抱えておられて、企業向けに送り出していただけない傾向を時々感じます。むしろ、かわいい子には旅をさせろとよく言いますが、とにかく働かせて自立させてあげる。こういうことができる能力がありそうだということで、それを教え育て、より厳しいところへあえて出してみる工夫と言いますか、厳しい社会で、外の風に当たれるように育てて送り出してあげるべきではないでしょうか。

そして、うまくいかなかったときは、やはり一度戻れる場所をつくってあげることも必要です。そうすると、企業も安心できるんですね。企業で働いてもらうのはいいけれども、もしもというときに、終身雇用制ではないにしても長く雇用しなくてはならないとなると、「ほんとうに雇用していいんだろうか」とちゅうちょしてしまう。そういうことでは困ります。やはり戻って安心して、また再スタートできる仕組みを工夫してあげたいなと思います。

【小宮】 畠山さんは、特例子会社の社長、あるいは特例子会社の連絡会の会長として取り組んでこられた中で、どんなときが一番うれしかったでしょうか。

【畠山】 すべてと言えばすべてですけれども、障害を持っていても働ける、働きたいという人たちが働く場所につけるということ、あるいはそのためにどんな仕組みがいいのか考えるのに、微力ですけれども参加できてきたのかなということですね。少しでもお役に立てているかなということが、一番ありがたいことだと思います。

【小宮】 関さん、いかがでしょうか。今後、共働宣言の理念を実現させていくために、必要な取り組みとしてどのようなことが考えられますか。

だれもが一定の年齢になったら働く社会の実現を

【関】 宣言の表紙に書いてありますが、「人は一定の年齢になったら働く」ということを実現できる社会が欲しい。ノーマライゼーション、インクルージョンと言いますけれども、一定の年齢になったら働く、障害があるからだめという社会は嫌ですね。

厚生労働省が発表された省内検討会議の資料に、継続的雇用の場というのを施設として考えておられるというのがありました。滋賀県あたりでは、企業ではなくて、地域で働くような場をつくる動きがあります。例えば、イタリアやイギリスもそうらしいですが、コミュニティービジネスとか社会的協同組合といったものも、やはりこれから我が国の大きな動きになっていくんだろうと思います。

「企業さんがそんなきついことを言われるんだったら、結構ですよ」とヘンな施設関係者は言うかもしれない。だけど、ほんとうに働きたいんですから、やはり参画していけるような、そういう機会が欲しいと思っています。

さきほどの「情報がない」というのを、我々が言ってしまってはいけないのと違いますか。とりにいきなさい。「あきまへん、ありまへん」と、そんな棚からぼたもちはありません。情報は、我々がつくるものではないか。障害のある方々の側、あるいは保護者の方々の側、さきほどのアスペルガーの話など聞くと、長年解決しない問題に向き合いながら来ているわけですから、その側に立つ者なんだという気概が、我々をこの仕事に向かわせているんだと思いたいです。ですから、企業や行政に「嫌なやっちゃ」と言われようが、我々は言わなければいけないことがあります。さきほどの前言は取り消していただいて、願わくは、情報をとりにいくようにしていただけるとありがたく思います。

【小宮】 関さんは、長いこと障害者が働けるための仕組みづくりにかかわってこられて、最もうれしかったこと、喜びになったことは、どんなことでしたでしょうか。

【関】 きょうですよ。これだけ企業の方に来ていただいて、「えらいこっちゃ」というのがあるかもしれませんが、非常にことしはエポックメーキングな年でした。いわゆる雇用率の見直しがあったり、あるいは情報公開での企業名公表、それからCSRの話などが表に出たり、いわゆる企業の社会貢献、コンプライアンスとおっしゃいましたけれども、そういうことが普通に議論される年ではなかったかと思います。ですから、前に向かっている、毎年、ステップアップしているという大きな実感を持っています。

障害者を戦力として位置づける

【小宮】 もっと普通に、自分の隣に障害のある人が働いているようになっていくといいですね。勝又さん、いかがでしょうか。

【勝又】 先ほどアスペルガーの話があり、小宮さんからグランドデザインの話もありました。「谷間の障害者問題」についてお話ししますと、我が国の場合、障害者と認定されれば、いろんな給付が得られる。それに比べて、ヨーロッパなどで言うと、生活上の不便があったときに支援が受けられる。そういった新しい物差しでグランドデザインを考えるべきだと話しています。

私がもともとの理事長をしている法人ですが、戦後、全く社会の支援のない結核回復者がどういうふうに暮らせるかというところから始まって、自分たちでとにかく頑張らなくてはいけないという形で、今日まで事業を続けています、しかし、何も自分たちだけで頑張るという話ではなくて、行政として何か考えるという方法があるのではないでしょうか。

仮にそれができないとすれば、いま親御さんたちで働く場をつくっていらっしゃるというお話もありましたが、そういったところに対して、企業が仕事を提供していくことはできないのか。障害者雇用促進法の改正の中で、企業が在宅就業に協力した場合に、一定の経済的なインセンティブを与えるというふうに聞いています。ほんとうに苦労しているところに手が届くような施策が望めないのかなと思い、話を聞かせていただきました。これが1つ目でございます。

2つ目としまして、ごく最近、企業に雇用されている障害のある人から、「これで私は3社目です」というお話を聞きました。最初の企業で補助金が切れるときに大変つらい思いをして、結局、やめなくてはいけなかった。それで次に勤めたところでは、ほとんど仕事らしいことが与えられず、ただそこにいればいいという扱いを受けた。現在、勤めているところもやはり同じような感じだというお話でした。

さきほど箕輪さんから「戦力として障害者をきちんと位置づける」というお話をいただいて、大変うれしかったわけですけれども、改めて1人の人として、全く仕事がない状況の中で雇用されていることがないような形で、一人一人の職域開拓について一緒に考えていただきたい。その折に、我々福祉関係者がお手伝いできることがあれば、一緒に考えさせていただきたいと思っております。

最後でございます。この共働宣言の5ページに「もっともっと接近しなければ/協働しなければ」という項目がございます。この中の「福祉団体代表者より」ということで、「福祉サイドから押し出す力、企業が障害のある人を引き付ける力、双方ともに弱さがあるように思います」と書いてあります。畠山さんのほうから、「もっと福祉施設が出してこなければいけない」というお話をいただきましたが、企業さんもやはり我々のところと一緒になって、「引き上げる力」というものについて、ぜひ考えていただきたいと思っております。

あわせて、有識者懇話会で我々福祉関係者から「マッチングさせるのは、本来、行政の仕事ではないか」、「行政も下支えの大きな部分となり、(企業、福祉、行政の)3者が一体となって取り組む必要があるのではないか」というお話があったと記憶しております。企業だけの問題ではなく、福祉だけの問題ではなく、行政も含めた3者が一体となった取り組みが必要ではないかと思います。

【小宮】 せっかく雇用されたのにほとんど役割がなくて、つらい思いをした方のお話がありました。箕輪さん、今のお話を聞いて、何か思われたところがありましたか。

【箕輪】 当社では、ほんとうに戦力になっていただいています。何かを提供しているというよりは、きちんと対価を払うべき成果を出していただいております。

やはり、入り口である採用活動では、きちんと求人をし募集をして採っていく。法律遵守も大切ですが、「とりあえず手帳を持っている人を誰でもいいから採用する」ということのないようにしたいです。「とりあえず」は、求職者本人も、会社側にとってもとても不幸な結果になると思います。企業の方からのご相談で、「面接したら断ってはいけないのではないか」、「断るとどこからか訴えられるのではないか」という心配をされている方もいらっしゃいますが、選考前に、説明会や見学会などを実施し、お互いに条件を出し合ったりすることを丁寧にやっていけば、全く問題はないと思います。採用後にお互い「聞いていない」ということのないよう十分なコミュニケーションをとる必要があります。

「障害者だからお給料はこれだけ」とか、「障害者だからこの社員区分」というのは問題です。また、障害者だからといって入社後「座っているだけでいいから」と放置された状態になっていることのほうが問題だと思います。会社側も選ぶし、求職者からも選ばれるようにする。選ばれるための努力も惜しまないようにしなくてはいけません。そんなことを感じました。

【小宮】 今お話にあったような、おざなり雇用というのもよく聞く話ではあります。同じ企業の担当者として、「何となく置いておけばいいか」みたいな感じで雇われているケースについて、「こういうふうに考えてほしい」というメッセージはありませんか、箕輪さん。

【箕輪】 企業である以上、障害者の有無にかかわらず真剣にやっていかないといけない。当社の場合、「座っていていただければいい」などという余裕が全くありませんので、障害があってもなくてもきちんと成果を出してもらえるかどうかということが基本です。通常の募集では全て人事部署が担当するのに、「障害を持った人の採用は別」いう話も耳にします。手帳があろうとなかろうと、採用・教育は本来の担当者が取り組まれた方が間違いないと思います。

当社の事業は一般消費者の方に馴染みがないので、新卒採用や中途採用時に、知名度が低い分、会社をアピールするため積極的に学校訪問をしたりします。障害を持った人も同じで、横河電機という名前を知らない人ばかりです。ですので、職業リハビリテーションセンターに依頼をし、単独で会社説明会を訓練生全員の方にさせていただくこともあります。例えば、「今回募集しているのは情報系職種ですが、情報の分野も幅は広い。今回の募集は具体的にはこのような業務です」と説明をし、興味を持っていただいた方には個別にご質問にお答えするというような活動をしています。それぐらいしないと、お互いにとっていい形での採用はできないと思っています。そこは一般の新卒採用や中途採用も同じですので、特別に考えず取り組んでいただく。もちろん特別に配慮する部分もありますが、基本は同じだと思います。

逆に言うと、障害に関する特別な知識、例えば「障害の種類別の特徴」や福祉制度は、私も殆ど知らないでやっています。人事としてやるべきことを、いま一度基本に返って考えていただければ、いい採用ができるのではないかと思います。

【小宮】 企業のほうで努力することはすごく大事だと思いますが、障害のある方たちの中には、雇用はされたんだけれども、自分の役割がなかったら、かえって居づらいという思いで苦しんでいる方もいらっしゃると思います。そういう意味では、障害のある方のパワーを目いっぱい使っていろんな事業をされている伊野さん、いかがでしょうか。今後取り組むべき、やるべきこと、どういうふうに考えていらっしゃいますか。

地域密着ビジネスの可能性

【伊野】 共働宣言の5ページ、勝又さんもおっしゃいましたが、「もっともっと接近しなければ/協働しなければ」というフレーズですね。あと、6ページの「ネットワークの構築」、特に「地域を耕す」ということをキーワードにしてお話ししたいと思います。

さきほど企業側、福祉側に求めることについて、いろいろとお話がございました。企業側にお願いしたいのは、企業は能力主義で、どうしても減点主義になってしまいがちですので、これを得点主義に変えていただく。つまりマイナス思考からプラス思考に変えていただきたいということです。 10のうち1、2の能力しかないという場合にはどうしようもありませんが、せめて半分ぐらいあったら、あとはサポーター、ジョブコーチをつけたりしながら、積極的に雇用していくというスタンスをぜひとっていただく。マイナス思考をやめ、むしろプラスで得点主義に変えてほしいなというのは、私の切なる願いです。

福祉関係の方についてですが、大部分の施設は一般企業に送り出すよう努力されていますけれども、やはり私は畠山さんがおっしゃったように、「優秀な人ほど残したい」というところが残念ながら一部にあるのも事実だと思っています。ですから施設の側は、一般企業へもっと押し出す努力をしてほしい。

「もっと接近しなければ/協働しなければ」とか、「地域を耕す」といのうは総論でございまして、各論でいきますと、2ページに「全国どこでもみんなでできる作業がある!」とあり、ヤマト運輸のメール便の話が出ています。沖縄の「わんからセンター」という精神障害の施設の方が、大分前からメール便の配達をされておりまして、そのことを相談員の方が全家連(全国精神障害者家族会連合会)の機関誌に「メール便のすすめ」というのでお書きになりました。実際やってみると、非常に仕事が細分化できるというんですね。健常者と言われている人は1人でやっているのですが、障害者の方は仕分けをする係とか、表札を見る係、犬を追っ払う係という具合に分ける。そして、「やっていて非常に楽しい」ということでした。

これは元手が要らない、資金が要りません。スワンベーカリーですと設備投資でかなりのお金がかかって大変ですが、メール便の仕事だと元金ゼロでできる。それに、この仕事は全国どこでもできるわけです。しかもヤマト運輸が持っている仕事です。ヤマト運輸の仕事、宅急便とかメール便のキーワードは、「地域に密着したビジネス」です。障害者は地域で共生していく。そこに共通点があります。最初は大変でも、なれれば能率が上がりますし、地域に出ていくことによって、今までにない世界が広がっていき、社会参加にもなります。

また、ポスティングによって地域の方たちと触れ合うことで、新しいビジネスも生まれてきます。沖縄の例で申し上げますと、犬にほえられたからといって、ペットフードをついでに売ってくるとか、お米を1キロずつ精米して、毎日新鮮なお米ですと言ってお届けする。そういう新しいビジネスが生まれているわけです。そこへ野菜を配達するとか、あるいはお弁当を配達するとか、地域にかかわるいろいろなビジネスがアイデアとして出てくる。むしろそういったことによって新しい仕事ができていけば、トータルとして収入にもなっていきますし、地域から愛される、地域と密着して生きていく礎になるのではないかという感じがしております。

最初は道のりが遠くても、そうしてだんだん時間がたっていけば、極端なことを言えば世の中が変わるのではないか。障害者が町へ出れば、町づくりが進むと言う方もいらっしゃいます。バリアフリーが進むでしょうし、経済面で活性化していくようなこともあります。今その端緒についたところだと思っていますので、私どもは粘り強くこういった仕事を進めていきたいと思っております。

【小宮】 どうもありがとうございました。企業で働いてこられた方の目から見て、全国どこでもできる仕事がまだまだある。とても貴重な証言だと思います。

【伊野】 実はNHKがこの仕事に注目して沖縄を取材していて、8日の「おはよう日本」で放送される予定になっています。ぜひ、メール便の配達についてご関心のある方は、ご覧になっていただきたいと思います。

【小宮】 勝又さん、いかがでしょうか。

企業はもっと門戸を広げて

【勝又】 先ほどから「変な施設関係者」とか、「もっと押し出せ」とかいろいろなお話をいただいておりますが、ほんとうに我々、「働く場が充実していただけるんだったら」という思いはあるわけです。精神病院に入っている7万人の人たち、それから我々の福祉施設で働いている 10万人の人たち、さらには更生施設に 10万人、無認可の作業所にも 10万人、そういう何十万人という人たちが、実は「きちんと門戸を広げていただければぜひに」という気持ちを持っていると思います。我々はきちんと意識を持って、福祉の関係者として応援しなければいけないと考えているものですから、それをひっくるめて「変な施設関係者」と言われると、何か肩身が狭いなと思ったりしています。

【参加者E】 2つ質問があります。障害者のために、正社員を主とした人事制度がどの程度組み入れられているのでしょうか。例えば人事評価制度、あるいは能力開発制度、それから職能資格制度、正社員を中心とした長期雇用者には、さまざまな制度が整備されております。障害者雇用に対しては、そういうものが整備されているのか、あるいは将来どういうふうに考えられているのか。

もう1つは、「障害者」という言葉を非常に普通に使われておりますけれども、例えば痴呆症は、認知症というふうに名前が変わるようになっています。精神分裂病は、既に統合失調症というふうに名前が変わりました。「障害者」という言葉は、実にネガティブなものを含んでいるのではないか。この根本的な呼称について、どのようにお考えになっていらっしゃるでしょうか。

【箕輪】 横河電機は、障害の有無、国籍、性別、学歴等の属人的な考えは一切ありません。社員区分は正社員と有期限社員とがありますが、これは仕事の内容によるものであり、属人的な要因は関係ありません。 2003年 10月から、管理職に加え一般社員にも「MS制度(ミッション・アンド・スタンダード)」を導入しました。担っているミッションとプロセスを評価し給与が決まります。

評価には「障害があるから」という考えは全くありませんが、当然、障害のある社員の中にも非常に高い評価を得ている社員がいます。それだけいい方に入社していただいているのだと思います。「障害があるから」ということでは、社員区分も人事制度でも区別はありません。

【伊野】 ヤマト運輸の場合も、やはり横河電機さんと同じように区別がございません。ただし制度としては変わっていませんが、障害者の方は横河電機さんとちょっと違いまして、評価になると不利になる部分が多いということです。昇進、昇給であまり足踏み状態が続くとやる気が出ないので、別の制度をつくったらどうかという意見もあるとは聞いていますが、まだ変わってはおりません。ノーマライゼーションといいますか、その理念に基づきまして、正社員でございますし、制度上は変えておりません。

それから障害者の文言についてですが、これもいい案がなくて、ただ私どもの財団では障害者の「害」という字を、平仮名で使ったりして、刺激的な表現を避けようという努力はしております。それがすべてではないと思っておりまして、何かいい案があったら、また変わればいいなと常々思っております。

【畠山】 給与体系というのは各社、個性がありますが、特例子会社は障害を持った人がほとんどの会社ですので、しかも子会社ですから、親会社とは基本的に別体系にしているのが普通だと思います。

親会社自身が直接雇用している事例もありますが、これは当然、親会社の体系で雇用される。ただ、雇用形態がフルタイムで勤務する、全くイコールの雇用関係になる人もいますし、障害の内容にもよるのでしょうが、「嘱託で入りたい」とか、「短時間で入りたい」といった人は、また別扱いになるでしょう。そうでない限り、障害を理由に最初から分けるということはあり得ないと思います。

特例子会社の場合ですが、私がかつていた会社では、障害があっても管理能力のある人は、やはり将来的には管理職にも抜擢していこうということでやっていました。そういう人が上がってくれば、当然管理職としての給与体系の中でランクアップしていきます。これは特例子会社、全社申し合わせで決めているわけではなく、身近な事例をご参考までに申し上げました。

【関】 特例子会社から本社の社員に雇用されたり、本社の課長に抜擢されたりというケースも幾つか出てきています。

障害の定義についてですが、WHO(世界保健機構)の生活機能分類(ICF)というものができ、英語の表現も( handicapped でなく) disabledを使うようになっています。従前の障害の分類をベースにしている国は雇用率制度を持っていますが、新しい生活機能分類を使っている国は、雇用率制度をやめた国が多い。「障害」という名前がなくなるのはなかなか難しいですが、考え方は変わってきている、人間としての扱いになっているということであります。

【小宮】 私たちは有識者懇話会で障害者の就労の支援をしようと話し合ってきたのですが、実はこれまで、企業と福祉の関係者が同じ席に並んで話すのはとても珍しいこと、あまりなかったことでした。私たちは今、ようやくスタートラインにつき始めたところなのです。

もう一回、共働宣言の1ページを見ていただけますか。「私を頼りにしている人がいる」というタイトルがあります。その下に、「働いている障害のある人からのメッセージ」として、「私を頼りにしている人がいる。そこにこそ自分の居場所がある。そこには自分の出番がある」と書いてあります。これは、何も障害のある人だけではなくて、私たちみんなそうなんだと思います。

みんなが社会の中でこうした思いを充足できるように、少しでも進むことを願って、またきょう参加いただいた皆さんが、この共働宣言を会社や福祉の現場に持ち帰り、まだまだ実現に遠いこともいっぱいあるかもしれませんが、「こうなふうに発想を変えていこう」という手段の1つにしていただけたらありがたいな、うれしいなとパネリスト一同、思っております。ぜひよろしくお願いしたいと思います。きょうは、どうもありがとうございました。