企業の取り組み2:第8回労働政策フォーラム
改正高年齢者雇用安定法と企業の取り組み
(2004年11月30日)

開催日:平成 16 年 11 月 30 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料

富士電機ホールディングス株式会社 黒江義則 人事企画部長

配布資料(PDF:150KB)

Ⅰ.選択定年延長制度を 2000年に導入した経過

はじめに―雇用延長問題をめぐる背景

少子高齢化や年金問題、労働組合からの定年延長の要求などを背景に、当社は、 1999年から雇用延長について検討し始めました。まず、労働組合と非公式な労使検討委員会を設置し、検討を開始したわけですが、会社側の基本的なスタンスは、(1)何らかの形での雇用延長実施、(2)関連諸制度の改訂をセットにした総合的な見直し、(3)経営のコスト負担増の軽減、(4)年金基金財政健全化に資する改訂、の4点でした。いずれ到来するであろう65歳現役社会を考えた時、何らかの形で雇用延長を前向きに実施すべきだろうという前提に立ちました。ただ、単に雇用延長するだけでは会社がコスト負担にとても耐えられないので、退職金制度や賃金制度といった関連諸制度の改定をセットに実現を図るという考え方です。そのことを通じて、経営のコスト負担増を軽減する、あるいは年金基金財政の健全化に幾ばくかなりとも資する改定を実施しようというスタンスで検討してまいりました。その結果実施しましたのが、以下4つの制度改定です。

選択制定年延長制度

社員は 55歳になると面談を受け、最終的に本人が定年を延長するのか、60歳退職を選択するのかを決定します。面談は2回行います。1回目の面談は、定年延長を選択した場合の取り扱い~通常の取り扱いと幾つか変わってきますので~、例えば給与・賞与、あるいは年金、公的給付がどうなるのか、こうした試算結果を基に、定年延長を選択した場合の取り扱いの説明が主体です。2~3週間後、次の面談の機会を持ちますが、従業員はその間に、どういう選択をするのか家族を含めてよく相談し、2回の面談に臨んでいただきます。つまり、2回目に本人の意思を表示するということです。

ちなみに定年延長をした場合の職務は、現職、つまり今やっている仕事を継続する場合も勿論ありますが、場合によっては会社が指定する業務で職種変更を伴うケースもあり得ます。

延長後の勤務時間については、従業員のフルタイム志向が非常に高いので、フルタイム勤務を原則としております。当然のことですが、労働組合員の資格は継続扱いにしています。

定年延長選択者の給与水準の減額措置

2番目の大きな変更点は、定年延長を選択すると給与(賃金・賞与)水準の減額措置が行われます。その場合、 55歳で面談しますので56歳から減額を開始します。減額の水準は85%、つまり15%のカットですが、63歳までの定年年齢の方については、期間も若干短いということで10%カット、つまり90%水準という経過措置を設けております。60歳になると再度減額があり、55歳対比で55ないし50%水準ということになります。60歳以降は、賃金を定額にして、賞与に査定を入れてインセンティブを持たせるという仕組みにしています。配布資料11ページにイメージ図(図1(PDF:151KB))を載せていますが、55歳で定年延長を選択すると56歳で一たん給与・賞与が下がります。その後、60歳でもう一段減額措置があります。

ちなみに、図1の 60歳以降をみると、上記の減額措置のライン(太線)より下にもう一本線があります。当社では、以前から「特別社員制度」という、年金併給(8割受給)を前提とした制度がありまして、その場合の賃金水準は金額にすると12万5,000円です。その水準を示したものが下のラインです。実は、56歳から60歳までの賃金減額の大体の見合い分を、特別社員制度の賃金水準に上乗せして、60歳以降の処遇改善につなげています。当然ですが、60歳を選択された方については、減額措置は一切ありません。

退職一時金制度の改訂

図2(PDF:151KB)の表をご覧いただきますと、当社の退職金制度は、「選択一時金」と「退職一時金」の2つがあり、前者は年金化した退職金です。おおむね全体の35%部分を年金化しております。

これから申し上げるのは、退職一時金制度の一部改定についてです。退職一時金の構成要素は、「定年加算金」、「定年特別加算金」、「年金移行分」、「特別慰労金」、「基準支給額」とあります。このうち、「定年加算金」および「定年特別加算金」は、 56歳以降に退職する場合、通常の退職金に上乗せして支給する部分で、全体の約4割を占めます。これを退職金制度から廃止し、56歳からの賞与で分割払いをする仕組みに変更しました。

この措置により、年収としては 56歳からの減額措置のほぼ全てを埋めることができます(図1(PDF:151KB)参照)。なおかつ60歳以降についても、この分の支給が続きますので、ある程度、年間所得を確保できるという効果につながります。

ちなみに、残りの構成要素である「特別支給額」=基準支給額、「特別慰労金」、「年金移行分」については、現在、また改定を検討しておりまして、例えば基準支給額については確定拠出年金に移行させるとか、年金移行分は当面残さざるを得ないと思っておりますが、将来的には年金化などで前払いの形をとり、最終的には、この退職一時金制度の全廃もあり得るという前提で検討を進めております。

企業年金制度の改訂

図3(PDF:151KB)の左側が現行制度になっております。「第一加算年金」、「第二加算年金」が会社拠出部分です。それから会社でなく個人拠出の「第三加算年金」があります。当時の予定利率が5.5%だったのですが、その利率では運営が不可能だということで、4%へ利率の引き下げを行いました。現行制度を仮に予定利率4%にした場合の支給水準を表したものが、真中の図です。あくまでイメージですが、随分減ることになるわけです。そこで、右側の図のように改定を行ったわけですが、一つは、支給開始年齢を60歳から段階的に65歳までにする繰り延べ措置です。

中心となる第一加算年金は 15年保証の終身年金です。第二加算年金と第三加算年金(個人拠出分)は、15年保証の有期年金ですが、支給開始を段階的に65歳に引き上げ、最終的には10年保証(65~75歳)の有期年金に切り替える措置をとると、当然のことですが、65歳からの単年度の受給額は現行よりも高くなるという設計が可能になったという事例です。

予定利率が4%へ、個人拠出部分は当時の法定の最下限の 2.9%に引き下げたので不利益改定となり、単に労働組合との協議だけではなく、非組合員も含めた個別の同意を求め、最終的には95%程度の同意を得て、所轄官庁に届けたという経過をたどっております。

まとめ

以上、総括いたしますと、上記1~4の改定をセットで展開したことがポイントだろうと考えております。各項目を別々に進めていては、おそらく実現は難しかったのではないかと思います。

世の中には、こうした定年延長の制度を採用する企業は非常に珍しく、再雇用制度を採用するところが圧倒的に多いと思います。当社の場合、定年延長を選択した理由として、 65歳現役社会は早晩、必ず実現されるだろうから前倒しで対応していくことが望ましいという考え方もあったのですが、現実的には、退職金の一部分割払い化にしたり、企業年金の加入期間の延長措置を講じたことの必然的な帰結であると言えようかと思います。

Ⅱ.制度導入後の運営状況と状況変化への対応

2000年に制度導入をしてから既に4年間経過しておりますが、その間の実績が15ページ(PDF:151KB)に書かれております。今まで、面接を実施したのは2000年度に3回、2001年度~2003年度は各1回となっており、面接をした人数は、各回で異なりますが大体300名前後(多いときは約400名)です。そのうち定年延長を選択した人の割合は、2000年度で15%程度、当初の予想より低かったのですが、いずれ上がってくるだろうと思っていたところ、それ以降も7.8%、2%、5%と、非常に低い割合で推移しております。この低い選択率の分析・考察については、後ほど若干述べたいと思います。

公的給付に関わる法制見直し

2000年以降、どのような状況変化があったのかということを多少まとめているのが16ページ(PDF:151KB)です。2000年の制度改定においては、公的給付をある程度前提にしていたわけです。例えば「在職老齢年金(在老)」と「高齢者雇用継続給付」~これは雇用保険からの給付ですが~、こうした公的給付をある程度前提にして制度設計をしたところ、それ以降、法律がめまぐるしく変わり、一つは「総報酬制」が導入されました。それまでは、給与をある程度抑えて賞与の配分を厚くすることで、在老・社会保険の負担軽減の施策をとっておりましたが、総報酬制が導入されたことにより、給与と賞与の配分比率の見直しをいたしました。

2点目に、高年齢雇用継続給付の助成率が 25%から15%になり、本人の所得がその分減る結果になりました。ただし、2000年の導入時に、こうした公的給付の制度が仮に変更しても、自動的にそれらを反映して会社の制度を見直すことはないという労使合意を得ておりましたので、会社として特段の対応はせずに現在に至っております。

厚生年金基金代行部分の返上と企業年金基金への移行

それから大きな2点目の変更としましては、厚生年金基金の代行部分の返上を 2004年4月に行いました。したがって、企業年金基金に移行したわけですが、それに伴い在職老齢年金の取り扱いが変更になりました。それまでは代行していたわけで、富士電機厚生年金基金で、在老は2割支給停止の措置をとっておりましたが、国へ返還することによって、法定の計算式に従い計算されますので、在職老齢年金が、ほぼ全額支給停止になってしまうという事態に立ち至りました。

そういう意味では、11ページ(PDF:151KB)のイメージ図の60歳以降の公的給付、これは在職老齢年金と高年齢雇用継続給付金ですが、その両方ともかなり削減されました。つまり、会社の出費ではなく、本人の所得減少につながる事態になったということです。

厚生年金基金については、代行返上に伴い、企業年金基金に代わり、変動利率年金制度を導入いたしました。予定利率は 2.5%にし、年金の原資が確保できたら、年金給付は3年ごとの市場金利に連動し、一定幅で増減するという仕組みです。17ページ(PDF:151KB)にその旨の表が掲載されておりますが、現在の加算年金の中の会社拠出部分の第一加算年金と第二加算年金は、変動利率年金制度に移行しました。第三加算年金は、代行返上すると運営ができないので凍結しております。それから、国の基本年金については代行返上しております。

運営の現状に関する総括

定年延長の選択率の低迷の要因分析

定年延長の選択率が非常に低迷しているわけですが、一つは対象者自身の意識の問題等があるのではないかと思います。 60歳定年を前提としたライフプランから定年延長したプランに軌道修正し切れてないという面、あるいは社会保障制度全般への制度不信が、加入側に残るより早く受給側に回ろうとする意識を形成しているという面も否定できないと考えております。

それから経営環境の問題は、むしろ最も影響が大きいと思われます。この間、当社では、事業構造改革の取り組みを行ってきました。そこには、当然、人員のスリム化施策も入っており、とりわけ 60 歳に近い層の早期退職優遇制度の適用による協力依頼というようなものも入っておりました。そうしますと、雰囲気としては、定年延長を選択しづらいという雰囲気が十分に想定できます。そうした雰囲気が非常に大きいのではないかと考えております。もう一つ、現場の事情を申し上げますと、現実の職場では、むしろ世代交代であるとか、あるいは新陳代謝というものが優先され、高齢者のスキルを有効活用しようというところまで至っていないということもあろうかと思います。

今後の検討課題

以上を踏まえ、現在、私どもが認識している課題の一つは 2007 年問題です。いわゆる団塊の世代がどんどん企業を離れていくことに、かなり危機感を持っております。むしろ定年延長の制度を利用して、彼らが保有する有用なスキルや人脈といったものを低いコストで継承・活用していける道を開かなくてはならないと考えております。

そういう意味では、労働条件あるいは就業形態のニーズの多様化、例えば、フルタイムが原則などということをいつまでも言っているのではなく、従業員のニーズに対応した就業形態に変えていく必要があると思っています。また、公的制度の見直しに対応した労働条件を再設計し、定年延長を今よりも魅力的な制度に切りかえていかなければならないと考えております。そして、非常に根本的な問題ですけれど、雇用ニーズというのを掘り起こして、雇用と能力のミスマッチを解消していく取り組みが不可欠であろうと考えております。

以上、富士電機の事例をご紹介させていただきました。ありがとうございました。

【伊藤(実)】 ありがとうございました。最後に、雇用と能力のミスマッチと言われましたが、具体的にどのようなことが起きているのですか?

【黒江】 現在、高齢者の賃金水準が 60歳までは高いわけです。その高い水準に見合う仕事が用意できていないということで、逆に言うと賃金水準は下がるけれど、こういう仕事であれば、まだ雇用の道はあるというところの開発、掘り起こしが必要だと考えております。

【伊藤(実)】 従業員が漠然とイメージしている給与水準は、面談等で相場みたいなものは決まっているのでしょうか?

【黒江】 この制度は、当然ながら従業員に周知徹底しておりますので、これを選択すると自分は 56 歳からはこの水準になる、60 歳からはこんな水準になるということを前提に選択しています。従いまして、制度的に本人の55歳時の年収に連動した水準という仕組みになっております。今後は、年収に連動した水準という一つの賃金体系でよいのかどうかということを含め、検討の余地はあるのではないかと思っております。

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