パネルディスカッション:第8回労働政策フォーラム
改正高年齢者雇用安定法と企業の取り組み
(2004年11月30日)

開催日:平成 16 年 11 月 30 日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料

【伊藤(実)】 ありがとうございました。

富士電機の場合は、今後の検討課題も含め、幾つか論点が提示されております。エム・ティー・フードの場合は 65歳以降も再雇用・延長しておりますが、今までのご経験で、高齢者雇用の推進にあたり、非常に難しかった点や今後の検討課題として、どのようなことがありますか?

【伊藤(泰)】 再雇用された後はそれまでの立場と全く違う雇用形態になりますが、今まで慣れていた立場を捨てられず、中には威張る人もいるそうです。そうした人がいると職場がうまくいかないことが少なからずあります。それから、どうしても賃金が下がりますので、モチベーションの維持をどうしたらよいのか、今でも悩んでおります。モチベーションの低下は周りにも伝播しますので悪影響が非常に大きいと考えており、事前の説明等で解決するように努力しているのですが、なかなかうまくいっていないというところが問題です。

【伊藤(実)】 モラルダウンの予防策とは、もう少し具体的に、どんなことでしょうか?

【伊藤(泰)】 再雇用をするときに個別面談し、今後はこういう勤務形態や労働条件になると説明しているだけですが、何か他にも方法が見つかればと思っております。

【伊藤(実)】 高齢者が働く、同一職場の仲間がいますね。当然後輩になるわけですが、そういう職場のメンバーに対しては、何か働きかけというのはやっていらっしゃいますか?

【伊藤(泰)】 現段階ではしておりません。今後、必要なことだという認識はございます。

【伊藤(実)】 会社として再雇用する従業員としてあまり好ましくない人がいた場合、どのような対応をするのか非常に難しい点だと思いますが、どのような取り組みをされてきましたか?

【伊藤(泰)】 仰るとおり、なかなか難しいところです。基本的に 65歳時点で再雇用を希望する従業員については、希望を受け入れているのが現状です。ただ、1年契約で更新していますので、職場に問題等があれば、更新時に本人に是正を通知するとともに、それでも改善されない場合は、不本意ながら再契約しないという究極の選択をとっております。

【伊藤(実)】  65歳以上の方は72名おられますが、こうした方の一般的な共通項はあるのでしょうか?

【伊藤(泰)】 人当たりが良いというのが一番かと思います。人当たりというのは、対お客様だけではなく、職場の中でもいわゆる人気者ということが共通して見受けられるところです。

【伊藤(実)】 人気者だとうまくいく……?

【伊藤(泰)】 そのように思います。

【伊藤(実)】 職務遂行上の問題、例えば体力的な問題などについて、負荷を軽減するといった取り組みはされているのですか?

【伊藤(泰)】 大規模な施設では、食器にしても鍋にしても、一人では持てないようなものがありますので、現場の若い責任者が職務を分担して、高齢者に体力的に過重な負荷がかからないような配慮はしてもらっています。

【伊藤(実)】 富士電機の場合は、定年延長を選択する人が非常に低いわけですが、そのなかでも希望する方々の共通項というのは何かありますか?

【黒江】 特別な特徴というのはないと思いますが、敢えて言いますと、例えば工場部門の場合、川崎や東京工場のように、都市部の方が、四日市や松本のような地方よりも高い傾向にあるかと思います。

【伊藤(実)】 ホワイトカラーはどうですか?

【黒江】 じつは今、ご説明した内容は「一般社員」という、いわゆる組合員層の制度です。その他に、当社では、幹部社員~今はその呼び名もなくなりましたが~に対して別の制度を運営しており、幹部社員を含めるとホワイトカラー層の方が若干多くなります。

【伊藤(実)】 その旧幹部社員への制度は、おおよそどのような内容になっているのでしょうか?

【黒江】 組合員に対する選択制の定年延長は最終的に本人の希望によって決まりますが、幹部社員の場合は、より一層会社のニーズに対応しておりますので、必ずしも本人の選択で決まるものではありません。本人の 60 歳以降のキャリアについて、例えば、定年延長にするのか、1年ごとの再雇用にするのか、60 歳で引退してもらうのか、或いは 60 歳以前の引退にするのか、こうした個々人に対する方針を、まず会社がプランを立てた上で本人と面談をし、話し合いのなかで決めていくというスタンスをとっております。従いまして、 幹部社員に対する制度は、定年か延長かという二者択一ではなく、(1)定年延長、(2)1年契約の再雇用、(3)60歳あるいはそれ以前に転身、という3つの複線型コースを運営しております。

【伊藤(実)】 結果的に 60 歳以降、会社に残っている旧幹部社員はどのぐらいの割合ですか?

【黒江】 一般社員よりは多く、おそらく2割程度になろうかと思います。

【伊藤(実)】 エム・ティー・フードでは、ホワイトカラーの取り扱いはどうなっているのでしょうか?

【伊藤(泰)】 基本的に職種に拘わらず同じ制度です。ただ、現在、事務職は全体的に若い社員が多いので、高齢者が増えてきたら問題だと認識しているところです。給与体系も若干違いますので、どのような処遇にすべきか、ちょうど今、検討に入った段階です。

【質問】 今日、高齢者雇用に関するお話を伺って、高齢者の働きがいという視点があまり聞こえてこなかったような感想を受けました。冒頭、伊藤先生のお話の中で、年収 1000 万超の課長役の方が郵便配達をやっていらっしゃるという、外部労働市場での賃金に合わせてというお話もあったと思うんですけれども、それが高齢者雇用の一つのスタイルとしてお話しされたんでしょうか。もしそうだとすると、むしろ60歳を超えて全く別の方になるわけではないですから、まさに社内的ないじめというようなものにも聞こえてしまいそうな気もします。

高齢者雇用で非常に大切なのは、 60歳を超えて、人間ががらっと変わるわけではございませんから、引き続き雇用する中で、いかに働きがいを持たせた環境をつくっていくか。仕事の種類とか労働時間、こういったものも加味しながら、本人のニーズということもあるんでしょうけれども、そういったもの全体で働きがいを創出していく、職務を開発していく、そういう視点が一番重要な点ではないかと思うんです。きょうのお話では、そういう考え方が聞こえてこなかったような気がするんですが、その視点で一言ずつお話しいただければと思います。

【伊藤(実)】 それでは私からお答えさせていただきます。時間がなくて全部説明できませんでしたが、実は、その方はこういう背景がありました。半導体の職場にいて、技術変化が早く、ついていけないという現実があり、それでもまだ再雇用に手を挙げるというときに、その会社では 60 歳以降勤務できる仕事は、本年度はこういうのがありますという一覧表があるんです。その中で、その元課長さんが選んだのは、健康にもいいだろうからと選んだ郵便物の配達で、仲間3人と1日2万歩を歩くということで、その意味では大変満足しているそうです。

現職継続というのが原則ですが、実際、職場を1つずつ丹念に調べると、現職継続不可能というところも随分あるんですね。その際の次善の策というのは、従来の高齢者の方針ですと、豊かな経験を活用することが必ず前面に出てきますが、実際細かく調べてみると、むしろ経験を活用しない場合のほうがハッピーな場合もあるんですね。もちろん全部ではありませんが。

ですから、そういう多様なニーズの掘り起こしと、本人の希望といいますか、これが納得性になるのでしょうが、そこをマッチングさせることが非常に厄介な点でもあるし、それをやらないと、大量に対象者が出てきたときに、満足感をなかなかクリアできないのかなと考えています。

【石田】 行政の立場からは、働きがい云々ということまで踏み込んだ発言はなかなか難しいと思っていますが、労使協議の中で工夫をしていただくことができるような、柔軟な制度をこの度、提供させていただいたということをご理解いただければ幸いです。

【黒江】 メーカーの製造現場でいいますと、製缶溶接であるとか、非常に高度の熟練を要する世界があって、おそらく働きがいというのは、そうした高度な熟練を持った人たちが、その職種の中でやれる余地があれば、これが一番働きがいにつながるだろうと思います。営業でもそうですし、いろいろな職種に当てはまりますが、要は、そうしたことが可能になるような経営状況にあるかどうかというのが非常に大きく作用するのではないかと考えます。

【伊藤(泰)】 私の業種では、いかんせん体力勝負という面があり、 65歳を過ぎて従前の仕事と同じというのは、現実、難しい問題がございます。ただ、本人の希望によって、時間の短縮だとか、希望に沿った職種を選んでもらうように、極力話し合いによって決めるようにはしております。

【伊藤(実)】 高齢者雇用というテーマの重みは大きく幅広いものですが、本日の趣旨は、今回改正されました高年齢者雇用安定法の周知徹底と、企業の事例を参考にしていただくということですので、時間もまいりましたこの辺りにて、本日は閉会とさせていただきます。ありがとうございました。