パネルディスカッション
日本的インターンシップはどこまで広がってきたか

開催日:平成16年7月23日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料

パネリスト

金崎 幸子 (労働政策研究・研修機構)

下村 英雄 (労働政策研究・研修機構)

佐々木ひとみ(早稲田大学オープン教育センター事務長)

高橋 保雄 (橋本産業株式会社総務人事部長)

蔭山 陽洋 (松下電器産業株式会社グループ採用センター)


諏訪 パネルディスカッションは、先ほどの報告者の皆様に少し補足的に発言をしていただきまして、その後、フロアの皆様との間でディスカッションしながら進めてみたいと思っております。それでは、最初に佐々木さんから、お願いします。

佐々木 キャリアセンターでの活動について、1点だけ補足させていただきたいと思っております。先ほどお話ししましたように、本学では2つ窓口を持っておりまして、キャリアセンターでは、単位認定をしないインターンシップを行っております。ですから、基本的には就業体験を目的とした形のインターンシップは、キャリアセンターで対応しております。

現在のキャリアセンターにおける課題の一つは、今までの就職との関係でインターンシップの流れを受けているということがあるものですから、基本的には公募制のもののみ対応している点です。インターンシップ受け入れ企業の話があったときには、学生たちに掲示、それからインターネット上での公募を出しており、それに応募した学生たちが、基本的には企業と直接連絡をとって受けるという形にしております。

キャリアセンターという名称ですが、もともとは就職課と言っておりました。やはり大学におけるキャリア教育、キャリア支援ということを、生涯にわたるキャリアを考えながら最終的な就職に結びつけていくことを目的に、3年前、キャリアセンターという名称にしました。これとインターンシップをどのように位置づけていくかということで、いろいろな形で、学生たちの気づきに還元できるようなミニセミナーを繰り返し行っていますが、やはり低学年の関心は低く、就職直前になるとセミナーが膨れ上がるのが現状のようです。

現在、キャリアセンターとは様々な形で連携をとっており、セミナー関係はキャリアセンターにお任せし、我々が単位を認定するという組み合わせを考えています。この方法は、最近、特に増加している1年生の参加者に有効だと考えています。1年生の場合は、自分探しの傾向が強くありますので、その辺りをキャリアセンターのセミナー、あるいは我々が行うインターンシップ、またキャリアセンターで行うインターンシップと連携させて、大学全体としてキャリア教育をどう進めていくかを一緒に考えていこうと、来年度に向けて双方で話し合いをしているところです。

高橋 私どもは、前半と後半を実習と就活の事前講座という形で分けていましたが、終わった後で聞きますと、実習をやっていた1週間、実質は5日間、非常におもしろかったという感想をみんな持っています。なぜかと尋ねると、おじさんばかりだからと。実際現場にいる人たちは、40歳代後半から60歳過ぎの人たちが働いています。プロパーでなく、すべて途中入社の人ばかりです。

彼らは、食事を一緒にしながら若い頃やってきたことや人生観を語るのだそうです。それがおもしろいということなんです。そういう話を現場の人間たちにフィードバックしたところ、彼らは逆に喜んでくれました。社の若い連中にそういう話をしても全然反応がないけれど、学生たちは喜んでくれる。要は、彼らにとっては、そういった話をする場がなかったのですが、若い学生さんたちがそういう場をつくってくれたというわけです。

今年は11名を受け入れましたが、現場の声を聞くと、人数的にはこれが手いっぱいのようです。来月(8月)中、4人、3人、4人の3グループに分けてやっていきますが、これ以上の人数はちょっと難しいと思います。そのかわり中身をもう少し充実させていきたい。管工機材業界というのは、皆さんが生活する上で、衣食住の住の分野ではどうしても欠かせない業界なのですが、一般に知られていません。そういう業界を、若い人たちにどんどん知ってもらいたい。そのためにどのようなアクションを起こしていったらいいのか、その辺りが一つの課題になってきます。

それと同時に、世の中に出ていく若い人たちに、インターンシップを通して社会に出る、自分の人生を考える、夢を持ってその夢にチャレンジする、そういう場を提供できるのではないかという気がしていますので、そちらで何か充実させていければと考えているところです。ただ、今後心配なのは、現場の人たち、当社は65歳になると大体離れていってしまいますので、そう長い期間、今の人たちがいてくれるわけではありません。それから先のことも同時に考えていかなくてはならないということで課題がたくさんあります。

蔭山 インターンシップが、非常にブームになってきたという話がありまして、セミナーをやっても、応募者数がかなり右肩上がりで伸びてきている。これは非常にありがたいと思っております。

インターンシップの一つの目的には、雇用のミスマッチの解消があるかと思いますので、やりたい仕事にチャレンジをしていただくというスタンスをとっております。つまり、150人を受け入れすると、極端な話、150テーマぐらいを用意し、好きな仕事に応募してもらう。人数が多い場合はそこから選んでいくというステップを踏んでいるわけですが、学生が希望するテーマに偏りがあります。例えば、マーケティングや広報、宣伝のような仕事には何十倍という応募がある一方、経理や資材、購買などはどれも非常に重要な仕事なのですが、学生から見えない仕事には応募が非常に少ない。よくも悪くもテーマにこだわりがあって、マーケティングをやりたい大学生に、経理をやったらどうか、と話をしてみても、どうしても他のテーマに移せないと言われます。これが非常に大きな悩みになっています。

ですから、我々も機会をつくり、さまざまな仕事のおもしろさ、例えば経理や資材など、なかなか見えにくいところのおもしろさもPRをしております。学生さんがもっと幅広い興味を持っていただくと、より良いインターンシップの機会が増えてくるのではないかと思っております。

諏訪 先ほど学生のお2人にご発言いただきましたが、短い時間で割愛したところもあったと思いますので、補足的にご発言をお願いしたいと思います。

登嶋 初めは舞い上がってインターンを受けていましたが、だんだん長くいると疑問などが私なりに見えてきました。インターンとアルバイトの違いが一番大きいと思うのは、インターンシップのときは一つの仕事を小分けにしてやらせていただきました。まず仕事があって、何から始めていいのかわからなかった私に、「これを何時までにやってごらん。やり終わったら私に見せてね。」と指示を受ける繰り返しでした。アルバイトではそういった感じではなく、「これをやって下さい。」と期限も言われません。ファイルリングが主な仕事でしたが、与えられた仕事を自分でスケジューリングしてこなしていくという感じでした。また、現在、週3日、同じ会社でアルバイトをしていますが、夏休みになると、2週間ほどは月曜日から金曜日まで毎日出社しないと終わらないほど仕事が貯まってしまいました。

ですから、インターンシップのときは本当に優遇させていただいていたと思います。社内の昇格試験では、人事部だけではなく、ほかの部署からもお手伝いに来ていましたので、そういった方々との接点も多かったです。しかし、アルバイトになると、自分の部署から出ない日々が多く、この企業が何をやっているのかが見えにくくなってしまったと思います。

木村 民間と中央官庁などの行政機関で、どちらが待遇がよかったかということですが、率直に申し上げると、民間企業の方が優遇されていたと感じます。行政機関では、データ入力やコピーとりを丸一日したことがあり、周囲から「君が来てくれて仕事が早く終わりそうだ」などと言われたこともありましたが、もう少し違う仕事をさせていただきたかったというのが正直な感想です。

諏訪 ありがとうございました。もうひと言ずつ、今度はパネラーのお三方にだけお願いします。大学あるいは企業という立場から、他の関係方面に対して、インターンシップをめぐって今後どんな点に気をつけていったらいいか、どんなサービス、あるいは配慮をしてほしいかといった要望についてお話しいただこうと思います。

佐々木 インターンシップをさせていただくときに、どのようにプログラムをつくっていくか、どのように学生を受け入れたらいいのかという相談を受けて、我々も一緒に検討しながらプログラムを立てているところです。その際に、受け入れる側にとってインターンシップにどのような意味、利点があるのかを探されるのが、おそらく一番大変なところであろうと思っています。

それぞれの事情がある中で、我々は受け入れ企業、受け入れ機関にできるだけ合わせた形でプログラムを組んでいくようにしたいと思っています。やはり学生たちの職業に対する意識というのはまだ未分化なところがあり、仕事と大学の学業自体がきれいに分類され、リンクされているわけではないものですから、ご提示いただく内容、あるいは仕事のイメージにおいて、社会人側が思っているものと学生が思っているものとのギャップがまだ非常に大きい。社会の中で1つずつ区切られている業務と、学生たちが学習している内容、あるいはイメージできるものとをうまく連携させていく工夫について、我々もまだよくわからないところがありますが、検討していかなければいけないと感じております。

行政機関についても、かなり手探りの状態だろうと思います。旗振り役である人事関係の方と、実際の受入現場とのギャップが大きい。学生たちが実習するのは現場ですので、「人事に言われて受け入れたものの、ほんとうは迷惑」あるいは、「どうしていいのか全然わからない」という現場の声がある中で、非常にご苦労して受け入れていただいているということはよく承知しております。我々が現場の方と直接プログラムを組むことがなかなかできませんので、どうしても人事の方とご相談をすることになります。そうすると、実際行った学生と現場の体制にやや乖離しているものがあったり、これも反省・改善が求められるところだと思っております。特に行政機関の場合は、役割がはっきりしているところがあり、我々も、ルールを越えて現場の方とお話しすることが難しい仕組みがあるような気がいたします。

高橋 大学の先生方にお願いしたいのは、インターンシップに学生を出していただくことはいいのですが、橋本産業がどんな会社なのか、そのあたりを押さえずに、行ってこいというところが見受けられます。これは少しおかしいと思います。その企業はどういう業態で、どういう商売をしているのか、それすらわからない。ひどいケースになりますと、ホームページをちょっと見て、インターンシップの志望動機を作文して送ってくる。これでは何にもなりません。やはりその企業に行って自分は何をやりたいのか、一体何を得てくるのか、そういうところをしっかりと指導していただきたいと思います。その上で、我々が出すプログラムがその学生に合っているのかどうか、きちんとチェックしていただきたい。合っていなければお断りされてもいいと思います。

それと、行政側にお願いしたいことは、最近、「ジョブカフェ」が動き出したようですが、聞くところによりますと、各県・地方によってはバラバラに動いている。新卒だけでなく、フリーターも含めていろいろご指導されている。フリーターに対してインターンシップと似たようなことをしておられるようですが、どれだけ効果が出ているのか、その辺りの効果測定もきちんとやっていただきたいし、きちんとしたフォローを目に見える形で出していただきたい。

ジョブカフェの話をしたのは、私もハローワークとのおつき合いをさせていただいている関係上、そういう話を聞くからです。ジョブカフェに行くフリーターの人たちも、やはり不満を持っている。あるジョブカフェでは、天下りしてくる人の机をどこに置くかを最初に考えたなどという話を聞きましたが、こういう発想はおかしいですね。真剣味がない。若年者の雇用対策をしっかり見据えてやっていっていただきたいと願います。

蔭山 まず大学に対する提案から申し上げますと、インターンシップはやはり「気づき」の場だと思います。いろいろなことを経験して学ぶということが大事ですが、そこで、自分の強みや弱みがわかったり、自分が何を勉強しなくてはいけないのか考える、そういう場にしていただきたいと思っています。学生を見ていますと、インターンシップで燃え尽きてしまう人が結構多いのです。インターンシップが終わって、ああ終わった、あと夏休みで遊ぼうかという人も結構いる。事前の教育も大切ですが、インターンシップ後のフォローはより大事ではないかと思っています。要は、インターンシップで気づいたことを大学生活の中でどのように実践していくのか、そこが一番の成長につながるのではないか。その部分は企業として関われないところもありますので、まさに産学連携でフォロー教育みたいなことを考えていければいいと思っております。

行政に対しては、やや抽象的になりますが、基本的に学生と企業、あるいは大学の3つが「 Win-Win 」の関係にならなくてはいけないと思っています。とりわけ学生に対しては、偏差値教育みたいな形で、インターンシップを受けなきゃいけない、あるいは受けないと就職できない、そういう型にはめてしまうと、学生の良い部分をなくしてしまう。あくまでも学生の自主性をつぶさないように取り組みをしていただきたい。

それとインターンシップも、今はまだ過渡期だと思いますので、いろいろなビジネスだとか、インターンシップの形があってもいいのではないか、あまり可能性をつぶさないようにしていただきたいと思います。

質疑応答

質問者 立命館大学でインターンシップを担当しております教員です。大学としてインターンシップで何をなすべきかという一番中心にあるのは、諏訪先生もご指摘のとおり、より良い学生をいかに鍛えて送り出すのかということに尽きようかと思います。

おそらく今後は人間的にも、学力的にも、さらには専門性においても、学部生のみならず大学院生も視野に入れていかないと今後の日本のインターンシップの展開というのは語れないのではないかと思います。また、カリキュラムとの関係から、学部生は3カ月以上開校期間中の対応が難しいということで夏休み中に集中するわけですが、院生であれば現状でも大学としてはかなり柔軟に対応する可能性があります。

ということで、先進的な取り組みをされております松下電器で、既に進んでいる理工系だけでなく、いわゆる文科系の学生を含めて、大学院生のインターンシップ、欧米の「コープ・エデュケーション」について、この辺りを視野に含めた方針を検討されておられるかどうか、お聞かせ願いたいと思います。

蔭山 我々のインターンシップの受け入れは、先ほどご説明したように大学2年生以上ということですので、上は修士あるいはドクターの方も数名受け入れております。ただ、枠組みとしては学部生がやっているものと同じですので、どうしても夏休みの3週間という形になっています。個別で受け入れるかどうか、具体的な検討はしておりません。

ただ、文科系の大学院の方については、採用という面でも最近非常に増えてきています。知的財産権や法務など、やはり専門知識に対してニーズが高まっていますので、その辺りはうまくやっていく方法があるのではないかとは思います。

質問者 松下電器が採用型のインターンシップの最先端を走っているということは広く知られるところですが、今日はお話が出ていませんので伺いたいと思います。

蔭山 やはりこの問題は避けて通れないと思っておりました。我々は97年からインターンシップを始めまして、先ほどご説明したように、4年前から、「ウォーミングアップ・プログラム」という、通常のインターンシップから一歩踏み出した活動をしております。具体的には、就職対象の大学3年生あるいは修士1年生の最後の春休みを利用して、2週間、自分がやりたいところで仕事をしてもらいます。過去4年間、実際に3期生まで入ってきていますが、通常の学生と比べると圧倒的に退職率が低いというデータが出ています。やはりミスマッチを防ぐという意味では非常に効果があったのでないかと思っています。

先ほどの悪い例に出ていましたが、インターンシップを就職に結びつけることが悪いことなのか、あるいはインターンシップが青田買いにつながるのではないか、そこが一番大きな問題になっていると思います。この点はきちんと議論をしていく必要があるのではないかと思います。個人的には、やはり就職活動の時期をもっと多様化していいのではないかと考えます。これは前倒しということではなくて、後ろ倒しも含めて、4年生、あるいは修士2年生の夏休み、あるいは秋とか、そういったところでうまく夏休みのインターンシップと絡めていくと、学生にとっても企業にとっても、いい就職活動につながるのではないかと思います。

ただ、全体として一番大切なことは、やはり学生に選択権を持たせるということです。春の2週間、ウォーミングアップ・プログラムを実施しておりますが、いろいろなご指摘のある中で、年々工夫をこらしております。結果のフィードバックや次の選考は4月以降ということで、完全に切り離して決して縛らないよう、非常に気を遣いながらやっております。学生が会社の仕事をいろいろ見て経験した結果、本当にやりたい仕事なのか、もし他の企業がよければどうぞ行ってください、そういうスタンスで実施してきたことは、ぜひご理解いただきたいと思います。

質問者 日本インターンシップ学会の関係者です。まず、佐々木先生に海外でのインターンシップにはどのような形があるのかをお聞きしたい。

それから橋本産業の高橋さんはキャリアカウンセラー的な指導方法をしておられるように感じましたが、他企業で御社がやられているようなキャリアカウンセラー的なインターンシップができるのかどうか、参考までにお伺いしたい。

蔭山さんには、OJTを担当する方は何人ぐらいで、どのような方でしょうか。それから、春のインターンシップで大体何%ぐらいが採用に直結したかということと、インターンシップとして受け入れた方の離職率についても教えていただきたいと思います。

佐々木 海外でのインターンシップについては、もともと国際分野は選考などにより人数を非常に限定しているので、実際に海外に出ていく学生は20名弱と思います。3つぐらいのパターンがあり、1つはJETROやJICAの海外事務所のような行政法人系の現地事務所、次が日本企業の海外事務所や海外支店。それから、地域の現地企業、例えばドイツやシアトルでもやっておりますが、その3つのパターンで海外に出しております。

開拓方法はいろいろありまして、我々が直接アプローチしていくパターンもあります。これは学生の希望で、この地域のこういう仕事をやりたいといったときに一緒に探し直接アタックするという例で、多くの部分を占めております。それから、教員やOBなどのネットワークを使いご紹介いただくパターン。それから、いろいろなネットワークを既に持っているところを中心に、その地域で現地企業をご紹介いただくパターン。例えば、ドイツですと日独協会、シアトルは多少分野を限定しておりますが、そちらを取りまとめている機関と我々が既に連携を持っており、そこから現地企業をご紹介いただくというパターンです。

高橋 私の場合は、採用という立場から若い人たちと接触していますので、社会に出て働こうという段階で未熟だと思う部分がある学生については、カウンセリングをします。インターンシップが終わった後もいろいろ相談に乗ったり、カウンセリングの時間をとるということを実際やっています。

もう一つ、インターンシップとは全然関係のない若い人たちが口コミでやってきて、いろいろ相談に乗ってほしいと言われます。今年、既に4人抱えており、そのうちまだ内定をもらっていない大学4年生が1人います。悩みを抱えている学生たちが腹を割って話をしてくれば、できるだけ相談に乗っています。

果たして、他の企業でインターンシップの学生にキャリアカウンセラーの方たちが相談に乗っているかどうかは皆目、見当がつきません。ある意味で、私は非常にわがままなことをやっているのかもしれません。

蔭山 OJTはどういう人が指導しているかということですが、基本的には、入社3、4年ぐらいである程度仕事ができる段階になった人から30歳半ばぐらいまで、若手社員を中心に指導する形になっています。OJTのやり方としては、1人ずつテーマを決めて、3週間の中で勉強していきます。また、一緒に会議に出たり、時には営業活動に出たりして、指導員の仕事を体験することもやっております。しっかり指導できるということ、そして松下電器のファンになってもらうということも含めて、指導員には職場のエースを投入しているといってよいかと思います。

春のウォーミング・アップ・プログラムから、何%ぐらい実際に採用に結びついているかというご質問についてですが、毎年、文系職種に限定して大体100名規模で採用しておりますが、その半分をこのプログラムから採用しており、今年で4年目になります。

離職率については、私の知っている限り、過去150人ぐらいが入社したなかで辞めたのは、私が聞いている限りでは多分2人だと思います。2人とも法務の方で、ちょうどロースクールが開校になりそちらで勉強したいという非常に前向きなものでした。仕事のミスマッチというよりも、むしろ勉強して、もう1度松下に帰ってこいという形で送り出したつもりでいます。そういった意味では、ミスマッチは今のところ顕在化していないと思っています。

質問者 高橋さんと蔭山さんに、長期インターンシップについての考え方をお伺いします。大学のキャリアセンターで実務をしているのですが、学生や企業の方とお話しする機会が多く、もう少し長くインターンシップをやってみたかったという声をたくさん聞いております。

労働政策研究・研修機構が2001年に、大学と職業に関する日本とヨーロッパにおける12カ国の比較調査を発表されていますが、日本は一番入学年齢が若く卒業年齢も若い、他国に比べると圧倒的に就職教育が脆弱であるということと、大学を休学してまで長期インターンシップに行ったのは、日本では2、3%ですが、ヨーロッパでは50%ぐらいです。この調査研究報告書では、日本においても長期のインターンシップを導入していくべきではないかと書かれていましたが、そのあたりについて社内で検討されているのかどうか、教えていただきたいと思います。

高橋 長期インターンシップについては社内では全然考えていません。これが正直なところです。というのは、やはり非常に負担が大きいからです。人件費、光熱費、その他資料づくり、そういうものを考えると、おそらく2週間が妥当ではないかと思います。少なくても仕事を覚えたと実感をもつには1カ月は必要だろうと、ある大学のインターンシップを担当している先生とも話したことがあります。ただ、1カ月のインターンシップを当社が受けられるかといったら、やはり受けられないと思います。我々は営業の締め日によって動いており、そのなかで儲けを出さなくてはいけない。生産性が上がらない月もあります。そのような時にインターンシップを1カ月受け入れて良いのかという問題も出てきます。それでは他の月ならどうかということを詰めていくと、とてもじゃないが受け入れることは難しいという結論に行き着きます。

個人的には、社会人になる前の若い人たちには、自分自身を見つめる時間や人生を考える時間が必要だと思いますし、世の中にいろいろな業界や企業があることを知って欲しいと思います。そのようなチャンスをできるだけ多く作ってあげたいという気持ちがありますので、長期インターンシップは是非やりたいと思うのですが、以上のように実際問題として難しいところです。

蔭山 インターンシップの期間については、我々も非常に悩みながらやっているのが実情です。現場の指導員からは、やはり2週間では何も教え切れない、できれば1カ月欲しいという声があります。学生に聞きますと、当然2週間は短過ぎるという声がある一方、1カ月となると長い。つまり、せっかくの夏休みを丸々全部インターンシップに使ってしまうことに対しては、やはり若干抵抗を持っている学生が多いのではないかということで、現在は中間をとって3週間にしております。

技術系の共同研究など産学連携の中には、インターンシップ的な活動の例が幾つかあると思いますが、松下電器全体の人事制度として、長期インターンシップについては現在のところまだ考えておりません。当面は、やはり産学連携を進めていく中で、個別に対応している段階かと考えております。

高橋 インターンシップのマッチング会というものがありますが、この中には、半年や1年ぐらいでないと困るという企業も現実にあります。これはどのような会社かというとIT関係です。プログラムを一緒に考えていこうという姿勢のある企業は、2週間や1カ月のインターンシップではとても無理です。ですから逆に2週間や1カ月を希望する学生たちは全部はじかれていました。もちろん、週に2回でも3回でもいいから時間のあるときに来て、一緒にプログラムを考えていこうという姿勢で取り組んでいる企業もありますので、そういう企業がこれからどんどん出てくれば、また長期のインターンシップも違ったパターンで増えていくのではないかと思います。

諏訪 私からは1点だけお話しさせていただきます。長期のインターンシップという問題は、現在、すぐに日本で実行することは大変難しいと思いますが、中長期的には大事な課題だろうと思います。そのためにはインフラストラクチャーを整えないといけません。

例えば、イギリスの大学では、入学許可を得た後の1年間を充電期間として権利を与え、学生は外国で勉強するなど好きなことに充てることができると聞いています。日本では、その年に入学や入社をしないと翌年また試験を受けなければいけませんから、世界を放浪したり長期のインターンシップに参加していたら翌年の入試や採用試験に受かりません。そんな余裕がないのです。また、アメリカの場合、1年間のインターンシップを実施している大学は5年制で卒業させることを最初から決めています。先進国の中で、20代の就職率というのは、正規雇用型で30%か40%ぐらいだという国が多くあります。つまり、皆が一緒に、ある年齢で輪切りになって学卒後すぐに実社会へ進んでいくわけではありません。皆と一緒でないと、当人にとって後で大きなコストになるのが日本社会です。私立大学の場合、休学中も一定の授業料を払い続けなければなりません。長期にインターンシップを受けるといってもなかなか難しいものがあります。

アメリカ型のサマー・ジョブを入れようと思っても、アメリカみたいに長い夏季休暇でないと難しい。アメリカでは5月中に授業が終わり、6~8月の三ヶ月間は丸々休みです。しかも、学期中でなく一年間の学業を終える時期に受けるわけですから、サマー・ジョブを心おきなく経験できるわけです。このように3カ月も夏休みがあれば、例えば2カ月のサマー・ジョブに参加し、残り1カ月は遊ぶことができます。ところが、日本の大学は最近、夏休みがどんどん短くなってきております。例えば私の大学の試験の最終日は今年は8月2日、私の娘が行っている大学は8月6日だそうです。このように、ただせわしなくなるのは如何なものでしょうか。日本は、インフラとしての「ゆとり」という問題を改めて考えないと難しいのかもしれません。

日本のインターンシップの期間の短さは、何か文化と関係あるのかと外国人に言われたときに、それは日本の年休の取り方によく似ていると答えました。ILOの条約では、最低限3週間の年休を与えなくてはいけない。しかもこの3週間は、原則全部まとめて付与すること、分割する場合も2週間と1週間にすることになっております。ですから、日本はそれを批准できません。日本は有休の取得単位を1日どころか、場合によっては半日、最近は1時間という話も出ています。こういう国でのインターンシップのパターンをどうしていったらいいのか。インターンシップのために日本的慣行を変えろと言っても無理ですから、別の形で考えなくてはならないのかと、皆様の議論を伺って思ったところです。