基調報告「急速に普及しつつあるインターンシップ」
日本的インターンシップはどこまで広がってきたか

開催日:平成16年7月23日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料


法政大学 大学院政策科学研究科 教授 諏訪 康雄

私は、おそらく日本の研究者の中では、比較的早くからインターンシップの問題にかかわってきた者の 1人だと思っています。そういう立場から、ご報告をさせていただき、後のディスカッションの導入部分にもさせていただきます。

急速に広がるインターンシップ

最初に、図1(PDF:34KB)のグラフをごらんいただけますでしょうか。これは私のゼミナール学生たちがインターンシップの問題をずっと追いかけており、東京六大学の各大学から約 200人を対象に( 99年は若干少ないですが)、ほぼ各大学同数ずつの学生意識を調査をしたものです。 1999年と 2003年の調査結果をみると、わずか4年間で、何とインターンシップに対する認知度が上がったことでしょうか。主として文科系を中心に調査をしましたが、調査対象の中に理科系の方も多少入っております。グラフの一番上が全学部の男女で、「インターンに応募した」、あるいは「検討している」人たちですが、99年時にはわずか 3.8%と、学生の大部分はおよそ興味がありませんでした。

先ほど紹介されたように、三省合同の報告書が出たのが97年ですから、それから 2年、しかも 97年はかの有名な就職協定がなくなった年でして、インターンシップも随分広がったのではないかと思ったところ、残念なことにまだ 4%足らずでありました。しかも、これは東京六大学ですから、日本の大学の中ではインターンシップ環境は相対的に高いと言っていいだろうと思います。そういう点からするともっと高くてよさそうなのに、わずか 4%です。それが4年後、昨年( 2003年)の調査では 31%まで跳ね上がっておりまして、今や学生の 3人に 1人は、少なくとも六大学の学生の場合には、インターンシップに関心をもっています。図1(PDF:34KB)をご覧いただきますと、上から 4番目の文系女子でインターンに関心がある人たちが、99年時には3%であったのが 35%に跳ね上がっております。女性の就職状況は以前も厳しく、この間により厳しくなったのかもしれませんが、急激な変化です。

この変化は何なのかと考えますと、やはりこの間における日本の就職戦線における変化、キャリアという言葉が一挙に世間に広がった、インターンシップという言葉が説明をしなくてもわかるようになったという底流における大きな変化を示しているように思っております。さらに一番下のところでご覧ください。文系女子学生の下級生、1、2年生でインターンに応募することを検討している人たちを見ますと、99年には 2%であったのが 35%まで跳ね上がっております。これまで実感的に捉えてきたインターンへの関心の高まりが、見事に数字であらわれているように思われます。 

インターンシップ経験者の割合

先ほど 30%を超える学生がインターンシップに関心があると言っていましたが、では実際に経験したのはどれぐらいでしょうか。図2(PDF:34KB)に よれば、99年のときは、全学部男女で 1%、100人に 1人しか経験をしておりませんでした。現在は6.5%でありますから、15人に 1人ぐらいに上がってまいりました。アメリカでは7割ぐらいが経験するとよく言われておりますから、それに比べるとずっと低いのですが、わずか 4年間に 5倍以上に跳ね上がっております。もっと驚くべきことは、下から2番目、文系女子の上級生、3、4年生で「インターン経験あり」が、わずか 1%であったのが 12%に跳ね上がっていることです。インターンシップも女性が引っ張っているといった流れがあるのかもしれないと思われます。

もっとも、下級生のインターン経験が少ないというところに見られますように、インターンシップは主として 3年生を中心に行われていることがこの調査結果からもわかるわけで、全学部の男女で 6.5%だからといって少ないと見るよりは、上級生の数字で見たほうがいいのかもしれません。そうすると、東京六大学の学生は、文科系の場合で1割です。実は、理科系は省いてありまして、文系男女の数字(各々 6.2と 5.9)が全学部で結果的に 6.5になっているのは、理科系は以前からインターンシップがずっと盛んであり、そういう数字が後ろに隠れているからです。

さて、このインターンシップに関する意識で、もう一つおもしろい数字があります。インターンシップは、現在、3社受けて1社に受かるかどうかの狭き門でして、応募したからといって必ずしもインターンシップを受けられるわけではありません。名門企業、ブランド企業の場合には、何十倍、何百倍というケースもあるわけです。それを幾つかの別の指標とかけ合わせて見たのが、図3(PDF:35KB)の数字です。

期待する年収と勉強時間の関連性

グラフ 図3(PDF:35KB) の一番上が、インターンを受けて実際に合格した人たちで、この人たちは 30歳になったときに、年収 690万円ぐらいもらえると思っております。一般の場合よりやや大きな数字だろうと思えます。それに対して、応募したけれども落選してしまったという人は 720万円ぐらいですから、自分に対する評価がやや甘いというか、野心的な人たちです。応募したことのない人は、これが圧倒的大部分ではありますが、650万円ぐらいと言っておりまして、統計的な誤差の範囲でそう大きな違いはありません。しかし、実はおもしろいのは勉強時間です。

調査時点の前 1週間でどれぐらい勉強したか。インターン合格者は 850分、応募したけど落選した者は 642分、応募したことのない者は 542分であります。先ほど橋本産業さんが、インターンをやった人が内定を早くもらっているというのは、インターンを受けたということも要因になっているのでしょうが、どうもインターンに興味を持ってその選考に通過していくような人たちというのは、実は学校の勉強を比較的よくやっている人たちなのです。これは初めて出た調査結果かもしれませんが、おもしろいデータだと見ています。

インターンシップの沿革

そこで、以下、インターンシップの沿革について、次のディスカッションのために確認をしておこうと思います。

インターンシップは、学校と職業の境界に生まれた制度です。学校教育と職業とが直結している場合、例えば医学の世界は最も早く始まり、インターンシップという言葉はもともと医学などで最もよく使われておりました。例を挙げますと、医師・看護師の医療教育分野、船員の遠洋航海実習、理系教育の工場実習や農場実習、あるいは教員養成分野の教育実習、これらはみんなインターンシップでして、このように実習的な現場を経験するということがあったわけです。

伝統的インターンシップの特色

この伝統的インターンシップの特色は何かといいますと、きちんと学校教育体系に組み込まれていること、それから、学校教育の仕上げの時期に置かれていることです。例えば、船員実習では一番最後に遠洋航海があるのが通常ですし、それから、学校附属の施設、大学病院、付設農場、付属学校などでインターンシップが行われ、あるいは提携施設で行われるのが一般的でありました。それから、インターンシップの特色はOJTであるという点です。教室で集合教育をやるのではなくて、個別に少ない人数ごとに指導員がついて指導を受けるOJTです。そして、しばしばこれには先輩たちが協力しており、附属病院であれば先輩医師が、農場であれば先輩の技師が、遠洋航海でも先輩の人たちがいろいろと助けたりするといったように、OB、OGなどの先輩が面倒を見ることが少なくありません。教員の教育実習などでも同様でしたが、このような形態で進んできました。

最近のインターンシップの特徴

もうおわかりのように、最近のインターンシップは随分違うわけです。第一に、文科系、社会科学系で急速に伸びているように、必ずしも本来の教育体系に組み込まれておりません。しかも、企業などの主導がかなり多い。それから、学校教育の最後ではなくて中途の時期、休みの期間などに行われるという点も随分違います。それから、附属施設や提携施設ばかりでなく、広く分散していろいろなところで行われております。

そして、OJTとして現場の個別指導が期待されているというところは一緒ですが、必ずしもきちんとなされておらず、ビジネス・ゲームもやらせていたり、自分たちだけで議論をさせてこれで終わりなどというインターンシップもなくはないというのが問題点です。それから、OB、OGなど先輩が必ずしも関わるわけではないということも特徴的かもしれないと思っております。

さらに、最近の特色を申し上げますと、実習教育から遠い存在だった文系、とりわけ社会科学系学生の間で急速に広まっているということです。また、教育の手段として、学校が後追いで注目し始めたという側面もあります。

企業の場合は、最近、採用の手段としてかなりの注目を集めているということもご存じのとおりです。また一部では、人材サービスが介在をして、インターンシップ・ビジネスなども生まれております。それから、企業の厳選採用の動きや学生の就職不安の広がりなどが背景にあります。事実、先ほどの調査でも、早期化・長期化がみられ、それから自分は内定がもらえないのではないかという不安は非常に高いものがありました。

良いインターンシップ

そこで、良いインターンシップとは何なのか。学校教師としての希望を申し上げておきますと、まず第1に、教育訓練の基本に忠実であるということ。今日は良い例のお話を聞いているわけですが、教育訓練の体系に組み込むか、組み込めないまでも教育訓練の基本を踏まえてなされている。 2番目は学校教育では無理な現場実習がいろいろな形であって、現場の雰囲気や現場の人と接することができるということ。3番目は、学校教育では困難なOJT型であるということ。日本の学校教育は教員に対する学生の人数比率が非常に高いというのが特徴でありまして、アメリカのリベラルアーツカレッジの一流校の場合は、教師1人につき学生が 8人とか 9人という比率ですが、日本の私立大学の場合は、専任教員1人につき学生は 50人、60人というのが一般的であります。大教室に集めて、一挙に集合教育をするというやり方で、それが持つ問題点が多々指摘されてきています。それに対してインターンシップは、現場で、1人の社員がごく少ない人の面倒を見る。場合によっては、1対1で指導する。先ほどの高橋部長のお話もそうでしたが、こうしたOJTの基本をしっかりと踏まえていらっしゃいます。

日本では人材はどこで育っているか?これまで多くは企業で、実務をこなしながら育ってきたわけです。どうやって育ててきたか?OJTで育ててきたのです。大学教育は典型的なOff−JTでして、Off−JTの限界を踏まえて社会教育をしようと思うならば、OJT型でやらざるを得ません。インターンシップこそOJTのはしりであり、これを学校教育の中に連接していただけるというすばらしい成果を期待できるものです。

そして、インターンシップを通じて、学生・生徒と教員の双方が社会を学ぶことができるということも重要です。先ほど佐々木先生のお話の中にありましたように、実は学校教師はインターンシップに対してあまり理解がなかった。ところが、今まで反対したり懐疑的な人たちがインターンシップの効果を認識しはじめているということで、インターンシップへの対応を通じて、学校教師自身も社会を知っていくわけです。私自身も、大学で職業キャリア論という科目を、何度も手を挙げて教えたいと申し出たけれどなかなか認めてもらえませんでしたが、数年前から担当することになりました。まさしくこうした科目で学ぶのは学生だけではなくて、実は教員も多くのことを学んでいます。

また、蔭山さんのお話にもありましたように、企業のインターンシップ指導者も、実は教えることでみずから学ぶのです。部下が入ってこない若手は、後輩を育てるということがなかなか経験できません。ところが、人に教えるというのは一番いい勉強です。自分がやっていることを意識的にとらえて、わかりやすく説明をするというのは大変な効果があります。したがって、インターンシップを広く実践することによって、現場の若手の力が伸びる可能性があります。

悪いインターンシップ

では、悪いインターンシップはあるのか。残念ながらございます。悪い例とは、第 1に教育訓練の視点に欠けているもの。教育訓練とは何かというのがわかっていない現場に出しますと、現場は余分な者がやってきたといってただ迷惑顔をする。一室に閉じ込めてビデオを見せて、その後はビジネス・ゲームなどをさせ、そのレポートを書かかせてインターンシップです、などという例もあります。それから、現場にあまり出さないで集合研修をしたり、独習ばかりをさせているのも、よろしくないと思っております。

3番目、OJTとしての個別指導になっていないのも実は問題です。OJTは大変手間がかかりますが、それを通じて学生たちが急速に伸びますし、また教える側も勉強になるはずです。これをしなければ、双方にとってのメリットがほとんど発揮できなくなるわけです。4点目、学生・生徒も教員も社会を学ばないといったインターンシップのやり方が、残念ながらないわけではなく、決していい例だとは言えないと思っています。

そして、最後に、企業現場も教えることで自ら学ぶ機会となっていない。これがありませんと、現場は迷惑顔をするばかりです。私自身が、昔、教育実習を受けに行ったとき、指導教員から最初に「正直迷惑だ」と言われたのを思い出します。その後、親身に指導していただきましたが、悪いインターンシップというのは言葉どおり、ほんとうに迷惑だという形でなされ続ける場合だろうと思います。

もっと悪いインターンシップ

もっと悪いインターンシップも残念ながらございます。インターンシップとは名ばかりで、単なるアルバイトにすぎない。あるいは無給か、それに近い報酬でアルバイト代わりに使おうとする。実はインターンシップと言ったほうが優秀な人が来るわけで、会社がそういう形でインターンシップを乱用いたしますと、大変よろしくない結果になるのではないかと懸念しております。また、全くの青田刈り、採用手段となってしまっている例もなくはありませんで、これもいろいろな問題を抱えていると思っています。

最後にコンプライアンス(法令順守)に欠けるものがあります。恐るべきことにタダ働きがあったり、セクハラがあったり、また、度胸をつけるためといって違法行為に近いことをさせるような例があったりするそうです。こうしたものをできるだけ淘汰して、よいインターンシップを日本にどう広めるかが大事だと思っています。

キャリア意識と勉強態度

最近の調査では、キャリア意識と勉強態度を尋ねてみましたが、図12(PDF:26KB)に見られますように、長期勤続、転職志向、独立開業ということで、左側が週当たりの勉強時間、右側が 30歳時点の年収予測です。ごらんのように、長期勤続志望の学生が一番勉強していないで、年収予測は慎ましい。それに対して、独立開業組が一番勉強していて、かつ収入も多く得られると思っている。企業は長期勤続志向の人だけを採用すると、実は困った人材をつかむことになるかもしれないというグラフです。

これからのインターンシップ

そこで、これからのインターンシップですが、学校教育と社会現場との境界面を広げる必要性は大きく、インターンシップは重要であります。とりわけ学校教育体系にどこまで実習的な訓練を導入するか、これが学校にとってとりわけ重要な課題だと思っております。他方、厳選採用の流れの中では、「採用過程」としてのインターンシップも、アメリカのサマー・ジョブのように日本でもこれからさらに広がって、一般化していくのではないかと思っております。また、通年インターンシップ(その間、大学へは行かないでインターンシップに専念する)も取り入れられていくかもしれません。

インターンシップとキャリア教育

最後に、インターンシップとキャリア教育という関係です。キャリア教育の一環として、広義のインターンシップは不可欠です。そのような意味においては、学校教育体系の最終段階だけでなくて、中途段階においても社会との接点を広める必要があり、小学校から大学、大学院まで、子供や青年たちの発達段階や経験に応じたインターンシップ・プログラムが、これから要請されていくのではないかと思っているところでございます。

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