報告 ドイツにおける青少年失業対策の概要と課題
教育から職業へ—欧米諸国の若年就業支援政策の展開—

開催日:平成16年2月19日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料

坂野 慎二 国立教育政策研究所 総括研究官

労働政策研究・研修機構から、青少年失業者に対する支援プログラムの調査依頼を受け、2003年の6月にドイツに調査に行きました。今回はその失業者対策の部分と、学校システムの中での職業指導あるいは支援の2つについて、お話をさせていただきたいと思います。

Ⅰ 職業訓練・労働市場に参入するまでの職業指導・職業支援

1.ドイツの教育・訓練制度

(1)教育制度の概要

まず、ドイツの学校制度についですが、皆様にお配りの資料「ドイツにおける青少年失業対策の概要と課題」の2ページ目に「図1ドイツの学校体系図」が出ております。基礎学校が4年間、これは小学校にあたる部分ですが、その上からが3つに分かれています。1つが、ハウプトシューレ、主幹学校と訳されますが、その上のいわゆるデュアルシステムに主に進んでいく者たちのための学校です。その隣に実科学校というのがあります。これは一般に中堅技術者の養成のための学校ととらえられておりました。就業年限はあわせて10年間で、多くの者は同じようにデュアルシステムに進んでおります。今回の対象のデュアルシステム、いわゆる「企業と学校の2つの場所での職業訓練制度」ということになりますが、ここに進んでいくのが主にハウプトシューレと実科学校を卒業した者たちということになります。

図の右のほうにギムナジウム、その上にギムナジウム上級段階というのがあります。これは図では分けて書いてありますが、実際には9年間の通しです。ですから、ギムナジウムに入った子供は、多くの場合9年間そのままギムナジウムで学んで大学入学資格をとり大学に入るということになります。

(2)普通教育学校から職業教育・訓練制度へ

資料の3ページに、「図2 就職までの主な経路」がありますが、中等段階Ⅰ、Ⅱ、さらにその上という形に整理をしたものです。ドイツの場合、資格社会というふうによく言われておりますが、学校を出る段階の資格で区分をしてみますと、大体4つぐらいに分かれております。9年制のギムナジウムに進んだ若者たちは、中等段階Ⅰが終わってもほとんどそのままギムナジウム上級段階に進みます。このギムナジウム上級段階は、日本の戦前の旧制高等学校をイメージしていただくとよろしいかと思いますが、ここでリベラルアーツを学び、その後、大学に入って専門の道に進みそれぞれの学問領域に進んでいく。

従来、ギムナジウムに行き、その後、大学へというのが基本になっていたんですが、ギムナジウム上級段階を終わってそのまま大学にという若者は実はあまり多くない。その途中で、男性ですと兵役とか市民義務のボランティアをやる者たちがいますし、大学に行かないで職業訓練、デュアルシステムのほうに進むという者たちも少なからずいます。2割くらいの若者たちがギムナジウム上級段階から職業訓練のほうにコース変更しております。

次に、前期中等教育を実科学校で修了した場合、あるいはそれと同等の資格をとって修了した場合、図2で矢印が3つ出ておりますように、主にデュアルシステム、あるいは職業基礎教育学年という形の職業訓練に進んでいく。また、一部の者は専門上級学校に進み専門大学に進む資格をとります。

その次が、ハウプトシューレ修了証。ハウプトシューレに進んで普通に勉強していれば一応修了証、卒業が可能となります。ところが、実際には落第が頻繁に行われ、卒業のレベルに達していない場合には、ハウプトシューレの修了証なしということになります。これが10%弱いるんです。日本の場合、中学校を出られないということは基本的にありえない。中学校を出て高校の入試に合格すれば高校に進むという形になるわけですが、ドイツの場合は逆に出口評価です。学校を出る段階で、極端な言い方をしますと、ハウプトシューレに進んでいても、能力があればギムナジウム上級段階に行くことも可能です。図2では矢印は書いてありませんが、その資格をとれば、ハウプトシューレからギムナジウム上級段階にも行ける。ギムナジウムに進んでも授業についていけない場合には、ハウプトシューレ修了証なしということになります。在籍している学校と資格が必ずしも対応していないんですが、基本としては学校の種類ごとの修了証をとっていくという形になります。繰り返しますが、ハウプトシューレと実科学校を出た者は、そのほとんどの者がデュアルシステムに進んでいくということです。

補足しますが、表1で、第9学年のハウプトシューレを修了した者は大体60%、職業教育諸学校を含めると80%、さらに公務員も含めると90%近い者が職業訓練に進む。残りの10%ぐらいの者が、例えば成績がよい場合には普通教育学校、ここでは多くの場合は実科学校に移っていくわけです。

次に、表2の10年修了者のところで見ますと、ハウプトシューレ、実科学校、総合制学校全部ひっくるめた数で、54%がデュアルシステム、職業教育諸学校が22%、公務員が10%となっていますので、大体8割から9割ぐらいは職業訓練に進んでいることがわかる。そのほかに実科学校の修了者の15%ぐらいの者が普通教育学校、ここでいえばギムナジウムの上級段階に進学している。

最後に表3、ギムナジウムの修了者、13学年の修了者ですが、注目していただきたいのは、デュアルシステムの職業訓練に進んでいる者が約2割、とりわけ女性が多い。公務員もおりますし、直接大学に進んでいる者が34、35%ぐらい。男性の多くは兵役等のいわゆる市民義務を行っていることがわかります。進路が多様な形で、かなり流動的になっているということがご理解いただけると思います。

2.普通教育学校における職業指導と職業選択

(1)職業準備教育としての労働科

普通教育学校における職業指導についてご説明させていただきます。資料4ページの(1)のところが省いてあるんですが、簡単に申しますと、ハウプトシューレを中心に労働科というのがあります。1969年、学校から職場への移行を円滑にするために、「労働科」で職業準備をやろうということが連邦レベルで決められました。

実際の実施は各州ですが、ある州の総合制学校では労働科という形で、5年生ぐらいから週に2時間から3時間、職業準備の指導をしている。日本でも新しい学習指導要領で、総合的学習の時間等でこうした体験をやるということですけれども、時間にしてみるとかなり違いがあります。ただ、これは全部が職業指導とか、進路選択をやっているのではなくて、技術とか経済とか家政とか、従来の教科の内容も含めた上での時間ということでご理解ください。

もう1つドイツで特徴的なのが、こうした職業準備教育を全員がやっているのかというと、答えは否です。全員ではありません。主にハウプトシューレや実科学校といった学校を出てデュアルシステムに進む者たちが対象です。したがって、ギムナジウムに進んでいる者の中には、こうした機会がないままにギムナジウムを修了するということもあります。ただし、幾つかの州ではギムナジウムの全員が、後で述べます職場訪問とか企業実習をやりなさいという形の指導をしております。

(2)職場訪問と企業実習

日本でも、職場体験あるいはインターンシップという形で、生徒が企業でいろんな経験をするということをやっております。九州大学の吉本先生等の調査等にもありますが、中学生の場合で1日からせいぜい3日間です。高校生でも長くてせいぜい1週間、事前・事後指導を除くと実質的には3日ぐらいまでのところが多い。例外はありますが、1日から3日ぐらいの、いわゆるお試し体験をやっているというのが日本で言われているインターンシップです。

それに対しドイツでは多くの場合、卒業の前の学年、9学年で卒業であれば8学年、中学校2年の段階で企業実習あるいは職場訪問をやる。これは2週間から3週間が基本です。ただ、ヘッセン州では10学年で卒業なんですが、8学年から9学年の2ヵ年にわたって企業実習をやっている。それぞれ2週間で10日間、合計20日間企業に張りつく形になります。8学年ではまず働く場を知る、9学年はいわば自分の進路を見つけるための準備という位置づけの違いを持たせております。

ただし、2ヵ年にわたって実習をする州はまだ少ないので、実際には1度だけ、2週間とか3週間、企業に行くという形が行われている。その場合でも、必ずしも自分の好ましい職場に行けるかどうかわからない。例えば将来、大工の仕事をしたいといったときに、そういった職場を見つけられるかどうかわからないわけです。

さらに、この企業実習等で日本とドイツで大きく違うのは、こうした職場を、学校はもちろん手伝いますけれども、生徒自身が探してくるということです。日本の場合は、学校の先生が企業を回って全部アレンジして、その中から生徒たちに選びなさいという形が普通ですけが、ドイツの場合は実習企業自体が職探しの1つであるということで、自分で探してくるのが建前です。もちろん自分たちだけでは無理な場合もありますので、アドバイスはしますが、原則は自分で探して、交渉して、行かせてもらうという形をとる。このあたりの意識のつくり方というのは、日本とは対照的なのではないでしょうか。

(3)職業選択−学校と職業情報センターとの連携

次に、そうした職業準備教育として実際の職業を探す場合にどうするのか、というのが職業選択です。日本では学校の先生が進路指導等の形でやるのが普通ですが、ドイツの場合には労働局、労働省系列の職業情報センター(Berufs Informations Zentrum、通称BIZ)が対応します。

簡単に申しますと、生徒が職場体験等に行く前にBIZの担当者が学校に2回出向いて、職業にどんな領域のものがあるか、どんなことをやっているのかということを説明します。ここで生徒たちはBIZの職員と顔つなぎをして、自分で職場開拓をしようといったときに、この職員に相談するといったシステムです。実際の職業選択については、もちろん学校側もサポートはしますが、このBIZの職員がかなり大きな力を持っている。

3.デュアルシステムによる職業訓練

(1)デュアルシステムの概要

デュアルシステムとは何か。簡単に申しますと、職業学校と企業の職業訓練の2つの場で職業教育訓練を行って、商工会議所等の行う試験に合格をすれば、職人あるいは専門労働者として働くことができるというシステムです(「図3 デュアルシステムの制度的枠組み」)。

「図4 職業学校と企業内訓練の比較」(5ページ)に、職業学校と訓練する企業の立場についての簡単なまとめがありますが、生徒は職業学校の生徒であり、訓練企業では訓練生になる。職業学校で教えるのは学校の教員であり、訓練企業で教えるのは訓練指導員、これが手工業の場合であれば、いわゆるマイスターということです。

基本的には、週の3日は企業に行って訓練指導員のもとでさまざまな技能を磨く、2日は職業学校へ行って理論的な部分についての付加をする、あるいは一般教育をさらに深めるということをするわけです。

(2)職業訓練の状況

このデュアルシステムに入るところが最初の労働市場ということが言えます。この訓練企業をどうやって探すのかで、その人の将来がかなり左右されてきます。例えば、幸運にも大企業に訓練席を見つけることができれば、訓練が終わって多くの場合はその企業にとどまります。逆に、自分の思った企業あるいは職種を見つけられなければ、どこか他を探さなければならない。場合によったら職種も変更しなければならない。実はこの段階で地域的あるいは職種のミスマッチが起こっております(表6「ドイツ全体での訓練席需給」、表7「職業領域毎の訓練席過不足数」、表8「1999~2002年の職業教育法及び手工業規則による職業訓練席の変化」)。

職業訓練は全部の企業がやっているのかというと、実はそうではありません。表9「企業規模別職業訓練実施企業」を見ていただくと、500人以上の大企業は8割以上がこの職業訓練席を提供しています。しかし、1−9人のいわゆる手工業等の小企業においては半分ぐらいしか提供していないということが、おわかりいただけるかと思います。

この点が非常に問題になっておりまして、訓練席が足りないといったときに、すべての企業が提供してないというのは不公平だ、全部の企業が出すべきだということが与党SPD(社会民主党)から出されております。実は、70年代に訓練席が足りなくなったとき、同じような議論がなされております。前回のときは、会議所等が自主的に訓練席を増やすという形で一応玉虫色の決着をしたんですが、今のシュレーダー政権は強制割り当てにしようという法案の準備をしており、それに対して会議所等は反対をしております。

簡単に見ていきますけれども、表10~表13に「訓練生の属性」が入っております。よく話で出てくるのが「ウ.国籍」なんですが、実際に外国人の方はどれぐらいいるのか、後で表をごらんいただければと思います。

次に表12「イ.年齢」ですが、現在、訓練生全体の平均が19歳ぐらいに伸びてきています。学校で落第をしているということもありますが、例えばギムナジウムを出てから職業訓練を受けるとか、1度始めたけれども途中でやめてしまい、また受け直す若者が多いということで、開始の平均年齢もかなり高くなっております。その訓練を途中でやめるのがどれぐらいいるかというと、大体25%ぐらいです(表14「職業訓練契約解約率」)。

また、企業で行う職業訓練の費用はすべて企業持ち、職業学校のほうは学校持ちという形になります。例えば実際に使う道具その他についても、企業が全部準備をして訓練生に提供します(表15「1年間の訓練費用合計」)。

訓練期間中に給与は出るのかという質問をよくいただくんですが、給与という名目ではなく手当を出しております。以前、調べましたら、2002年で旧西ドイツ地域では600ユーロ、平均7万円強ぐらいの手当を出しています。訓練の年限が上がれば、その額も少しずつ上がっていきます。

4.訓練の修了と雇用支援

(1)職業訓練終了試験

職業訓練が終わった段階の試験でどれぐらい合格しているかというと、9割近い者が合格している(表16「職業分野毎の訓練終了試験合格者」)。逆に言いますと、企業にとっては、合格しないといつまで訓練生ということになりますので負担が大きくなるわけです。会議所等の決めた訓練規則に従って技能を教えていかないと、1年間あるいは半年間、余計に訓練しなければならないということになります。

Ⅱ 青少年・若年者失業対策

1.失業と労働行政

(1)労働行政の組織

1998年に経済省と労働省が統合して経済労働省になり、その外局という形で連邦雇用庁がありました。これがいわば労働行政の元締めです。私が元の原稿を書いたのは2003年9月ですけれども、12月に法改正が行われ04年の1月1日から連邦雇用エージェンシーという名前で現業化されております。雇用エージェンシーになって何が変わったのか、私もまだきちんと調べてないのですが、要は現業をやるところはできるだけ切り離していくというのがドイツの流れのようです。その下にあるのが10の地域にある州労働局、さらに下に全体で179の地区に労働局がおかれています。この中に、先ほどのBIZ(職業情報センター)が入っております。

(2)ドイツ統一以降の失業状況

実際にどれぐらいの失業者がいるのかというので、表19「ドイツの失業者数と失業率」では青少年だけではなくて、全体の失業者と失業率が記載されています。大体10%ぐらい、その下の表21に「25歳未満の失業者数と失業率」が書いてあります。

(3)青少年・若年者失業対策

実際にドイツの連邦政府がどういった失業対策をやっているのか。先ほどの表19、21を見ていただくと、96、7年は非常に雇用状況が悪くなりました。というのも、90年に東西ドイツの統一があったわけですが、その後の5年間はいわゆる東ブームで旧東ドイツ地域に新しく投資をして工場をつくることが盛んに行われた。ところが、実際にやってみますと、インフラが進んでおらず投資効率があまりよくない。さらに、東ヨーロッパ諸国が近くなってそっちのほうが労働力も安いということになり、90年代半ばになると、旧東ドイツ地域の雇用状況が非常に悪くなりました。

その救済策は従来から臨時的にやっていたんですが、98年に連邦政府の政権交代があり社会民主党が与党になって、そのときに“JUMP”という、若年者失業に対するプログラムを打ち出した。これは選挙中の公約でして、逆に言いますと、失業問題が非常に大きな社会問題だったということがご理解いただけるかと思います。その後の流れは13ページに簡単にまとめてあります。

(4)連邦政府の失業対策費用

表22「連邦政府の失業対策費用」(13ページ)に書かれているのがJUMPプログラム等の中身ですけれども、実際にはJUMPプログラムというのは、それまでのさまざまな失業者支援事業の中の1つのプログラムにすぎないということです。

(5)青少年・若年者失業対策の根拠法令

実際にそれまでやっていた失業者対策と何が違うのか。とりわけ旧東ドイツの雇用状況が悪いというのがまず1つです。しかも企業自体の数が足りないので、訓練席等がつくれないという社会的な状況がありましたので、国が訓練席をつくるというのが支援策の主なものです。

もう1つは、旧東ドイツ地域では学校資格を持っている者でも訓練席が探せない。親自身がリストラに遭っているような状態で雇ってくれるところがないといったときに、従来のプログラムではその子供たちを救えない。例えば大学入学資格を持っている子供が、お金がないからすぐ職業訓練を受けたいといったときでも、そういった訓練席が探せない。それを助けるためのプログラムとして、このJUMPがつくられたということになります。具体的な中身は15ページに書いております。

2.緊急プログラム

(1)JUMPの経緯と枠組み

98年に従来の雇用促進法が社会法典第3巻という形になったんですが、それに組み込まれた数が表23「社会法典第3巻施策別対象者数」(14ページ)です。そのほかにJUMPという形で、トータルで20%ぐらいのお金を注ぎ込んで、若者の失業対策を行っています。

具体的にどんな人がターゲットかといいますと、1つは従来からある学校修了資格を持っていない者、それから旧東ドイツで訓練席等を見つけられない者、あるいは訓練を途中でやめてしまった者を対象としたプログラムです。表25(16ページ)に、実際につくり出された訓練席が書かれております。

(2)JUMP参加者の属性

17ページ、先ほどのだれがターゲットになっているのか。JUMPプログラムを担当している連邦雇用庁の労働市場職業研究所の方からいただいた資料(表28-1「JUMP参加者の属性」)ですが、地域では旧東ドイツ地域があがっております。次に性別でいうと女性、国籍でいうと外国籍の人があがっている。さらに、従来型の学校修了証なしのほかに、ハウプトシューレや大学入学資格を持っているような人たちも含めたプログラムだということが、これを見ていただくとわかるかと思います。

3.JUMPの実際例

(1)JUMP施策具体例

こうした失業政策をやる場合には、従来は労働局がプログラムをつくるというのがドイツのやり方であったわけですが、実はこのJUMPプログラム等では、民間企業にプログラムの運営等を全部委託するということがなされております。

19ページをごらんください。聞き取りですけれども、インフォボクス社という社団法人が設立されており、そこがプログラムの企画や実施をやっております。具体的には、訓練席を見つけられなかった子供たちを40人集めて実習席を20つくり、半分の子供たちは勉強し、残りの半分の子供たちはそこで働く、これをローテーションでやるという形をとります。これは正規の職業訓練ではなくて、例えば7ヵ月間、遅刻をしないできちんと働くといった労働者としての心構えを培うというのが主な意図です。それが終わったときに証明書を出してあげる。その結果、実際に職業訓練席をとるときに、自分はこういったことができますということが証明できる。こうした形で、職業訓練席を見つけられない子供についても対策がとられています。

Ⅲ ドイツの青少年・若年者失業政策の特色と課題

(1)2段階的労働市場

日本とドイツで何がどう違うのか。21ページの(1)ですが、まず労働市場が2段階的になっている。まずハウプトシューレや実科学校を出て、デュアルシステムの職業訓練席を探すときに、第1段階の労働市場が形成されております。当然、学業成績のいい者は有利な訓練席を見つけることができる。逆に学校修了証がない者は、希望する職種が見つからずほかに訓練席を見つけることになるんですが、興味が持てなくてやめてしまう。

第2段階は、職業訓練を終えた後の実際の職人、専門労働者としての労働市場です。大企業は第1の訓練席の段階でかなりのスクリーニングをやっておりますから、職業訓練の段階で訓練席をとらないと、なかなかそこには残れない。逆に中小の場合には、大企業で訓練をやり、ある程度の技能を身につけた者を引き抜くということをよくやっている。自分たちで養成した者をあまり再雇用しない傾向があります。大企業ですと、そのまま定着する割合が大体8割を超えているんですが、中小企業ですと5割を切っております。

(2)職業資格制度と職業能力

従来、大卒者が少ないときというのは、まさに製造業の国、ドイツの中核を占めるのがこの訓練システムであった。さらに継続的な訓練を行って、マイスターになっていくというのがいわば理想形として考えられていた。しかし、大学卒業者等が増えてきますと、訓練を出てマイスターになったとしても、将来的な展望が持てるだろうか、構造変革によってかなりあやしくなってきている。

(3)職業準備教育・職業選択能力の開発

先ほど申しましたように、職業準備教育や職業選択能力の開発については、労働局の関係のBIZの職員が非常に大きな力を持っているということをご理解いただければと思います。

(4)ドイツの労働行政の課題

ドイツの青少年・若年者を対象とする課題というと、まず国の関与には限界があるということです。この第1段階、第2段階はまさに労働市場ですので、景気が悪くなると訓練席は減り、訓練席を見つけられない若者が増えてきます。90年代以降がまさにそういった状況になっております。

2つ目は、雇用対策についての対費用効果はどうなのか。JUMPプログラム等についてはどういった形で評価がなされたかというと、その後で就職した率が具体的な指標になっている。実は、この指標開発があまり進んでおりません。これらは税金を投与するわけですから、当然測定されなければならないわけです。

次に3つ目、まさにドイツ特有の問題ですが、職業資格による労働市場の細分化・硬直化という問題があります。デュアルシステムの中で、大体370種類ぐらいの職種がありますが、この個別化された労働市場というのは、構造変革を行うときには逆にネックになってきます。例えば、ある資格を持っていても、異なった資格に転換していくときに、どれぐらい意味があるのかということが当然課題になってきます。実際にあった話ですけれども、ある分野で人が余っているという噂が出てしまうと、そこで訓練を受ける者が減ります。ところが、彼らが出る段階では今度は足りないといったタイムラグを起こすことが間々あります。こうした細かく分かれている職種による職業資格というのはどうなのか。とりわけEU統合の中で労働者の移動が激しくなってくると、かなりの部分が不利になるのではないか、という議論がドイツでもなされております。

小杉】 坂野先生、どうもありがとうございました。それでは次に藤田先生、よろしくお願いいたします。