はじめに
教育から職業へ—欧米諸国の若年就業支援政策の展開—

開催日:平成16年2月19日

※無断転載を禁止します(文責:事務局)

配布資料

小杉礼子 労働政策研究・研修機構 統括研究員

現在、日本では学校から職場への移行というプロセスが大きく崩れて新しい局面に入っている、そういう切羽詰まった段階にいるのではないかと認識しております。

資料のグラフで、最初に失業率ですけれども、これが急激な右上がりになっていて、特に15~19歳、20~24歳という若い層での失業率が非常に高まっています(図「年齢別失業率の推移」)。次は、アルバイト、パートあるいは契約社員等を含めた非正社員の比率をとったものです(図「アルバイト・パート及び正社員比率」)。特にここ1、2年ではアルバイト、パート以外の雇用形態でも増えており、現在、雇用者のうち女性では、15歳から24歳ですと4割が正社員以外の雇用形態になっています。男性でも3割です。就職できない失業者が増え、また就業できたとしても正社員以外の雇用形態で入っている。こういう事態が起こっています。

次は、働いていない、学校に行っていない、家事にもついていない、さらに仕事を探していない若者の比率です(図「非在学・非家事の非労働力の人口に対する比率」)。つまり何をしているのかよくわからない若者たちが増えています。その若者たちを1歳刻みで見たのが図「非在学・非家事の非労働力」です。点線が1995年、実線が2000年の国勢調査ですが、19歳そして23歳のところに山があります。19と23というのは学校を出て1年目のところですが、労働市場が大きく変化する中で学校から職場への移行が円滑に進んでいない状況が端的にあらわれたのが、この何もしてない若者たちの登場です。仕事につけないばかりでなく、仕事を探す行動さえしなくなってしまった。これまで日本が持っていた新規学卒で就職できる、就職させるという仕組みが大きく揺らいだ結果、こういう若者たちを生み出しています。日本の かつてはOECDの文献などでも非常にすぐれた仕組みと言われていたんですが、それが今、大きな変化を迎えていて新しい仕組みをつくらなければならない、こういう段階に来ていると思います。

それに加えて、学歴の問題が絡んでいるのではないか。非労働力では19歳のところがピークだったんですが、失業率を学歴別に見ますと、大学・大学院卒よりは、中・高校卒以下の学歴の人の失業率が圧倒的に高まっています(図「学歴別失業率の推移」)。若年者での傾向にもそういうところがあるのではないかと思われます。

これまで日本とドイツは、失業率でも下位のほうにあり、学校から職場への移行の仕組みが非常にうまくできていて、若者を失業させない国というふうに理解されていました。ほかの国では70年代後半から80年代にかけて若者の失業率が非常に高まりました。それが欧米の多くの国々です(図「各国の若年失業率」)。そこで、多くの国々でさまざまな対策が進んでいるんですが、1つの焦点となっているのが、失業率が非常に高く長期化する傾向のある層、すべての若者ではなく特別なケアが必要な層というのが明らかになってきました。相対的に学歴の低い層、学校を早く離れた層、それから貧困という背景を持っている層、あるいはマイノリティ、そういった労働市場の中で不利な立場の若者たちが長期化する失業者になっている状況が出てきています。

そこで、今回のフォーラムでは、確かに高等教育卒業者の移行にも非常に大きな問題があるんですが、ここでは中等教育レベルで労働市場に出る、あるいは中等教育を中退して労働市場に出る若者たちを中心に議論していきたい。1つには学校教育の段階での職業教育とかキャリア教育の問題。もう1つは、学校を離れた後の支援策です。学校にいる間と学校を離れてから、その両方での就業支援の仕組みを議論しなければならないと思います。

私どもでは2003年度から国際比較に取り組んでおりまして、03年にイギリス、スウェーデンについての報告を行ったんですが、今年はドイツとアメリカについて調べてまいりました。ドイツとアメリカというのは1つの典型であります。ドイツでは“デュアルシステム”ということで、日本と同じように高い評価を受けていた国なんですが、現在、そのデュアルシステムに入れない、あるいはデュアルシステムを終えても就職できないという若者が大きな問題になっていて、デュアルシステムそのものが調整局面に入っているのではないかと思います。

そこで、厚生労働省などが特に注目しておりますのは、“JUMP”というデュアルシステムに入れない、入ってもうまくいかない人たちに対するプログラムです。この辺を中心に、坂野先生からはドイツについてご報告いただきたいと思います。

他方、アメリカでは移行への仕組みとしては、むしろ包括的なものを持たない国として知られてきました。特別にケアが必要な若者に対する対策は行ってきたけれども、全体としての仕組みは持っていなかった。それが90年代に入って、連邦レベルでさまざまな取り組みを行うようになった。このようなアメリカの若者に対する仕組みについては、国際機関でも成果が上がっていると評価されている部分があるんですが、その辺を藤田先生からご紹介いただきたいと思います。それでは、早速、坂野先生からご報告をよろしくお願いいたします。

(文責:事務局)