事例報告1 大和証券グループの取組み~多様性をチカラにかえて~
- 講演者
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- 平野 友視
- 株式会社大和証券グループ本社 ダイバーシティ&インクルージョン推進室 室長
- フォーラム名
- 第144回労働政策フォーラム「あらためて女性の働き方を考える─改正女性活躍推進法の施行に向けて─」(2026年2月19日-26日)
- ビジネス・レーバー・トレンド 2026年5月号より転載(2026年4月27日 掲載)
私は2005年に三井住友銀行に入社してリテール部門での企画や融資営業を経験し、その後にアクセンチュアで金融・非金融機関を横断した金融事業の新規参入支援などに携わってきました。2022年に大和証券に入社し、人材開発やダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進を担当し、2023年からはD&I推進室の室長を務めています。当社の経営戦略、人事戦略としてのD&Iについて説明します。
これまでのD&I推進の取り組み
2004年から本格的にD&I推進に取り組み、19時前退社の励行などを導入
当社グループがD&I推進に本格的に取り組み始めたのは2004年からです(シート1)。2004年に就任した社長の鈴木はIR活動で、役員時代に投資家から「女性管理職が少ない。競争力のためにはダイバーシティが必要だ」と散々言われていました。そして実際に社長に就任した際、優秀な女性が出産や育児をきっかけに退職しているのを目の当たりにしたことをきっかけに、矢継ぎ早にさまざまな施策を導入していきました。
そのうちの代表的なものをあげると、女性活躍推進チームの発足、19時前退社励行のスタート、第3子出産祝い金として200万円を支給すること、女性4人を同時に役員へ登用すること、ワークライフバランス推進委員会の設置などです。当時はそれまでの常識とは全く異なる考え方で革新的な施策を導入していたため、現場からは多くの反対がありました。特に19時前退社の励行はそれまでの常識では考えられないもので、当時の副社長以下の経営層からも強い反対がありました。
というのも、この施策はワークライフバランスの観点からではなく、女性と男性を対等な立場にすることを目的としていました。遅くまで残って働く男性と、効率よく働いて早く帰宅する女性とでは、どうしても男性の評価が高くなってしまう。その結果、女性は昇進や昇格を諦め、出産や育児を機に退職してしまう。こうした状況を打破するために導入された制度でした。周囲の反対もあるなか、トップの強いコミットメントと徹底した推進により、1年も経たないうちに常識が変わりました。
その後、社長が日比野、中田と交代していくなかでも、この流れはずっと引き継がれています。2024年から社長を務めている荻野は初代ワークライフバランス推進室長であり、これらの施策を実務的に実現してきた実績もありますので、この流れがしっかりと続いていくのだと思っています。
2022年度から男性社員も2週間以上の育休取得を必須に
当社では女性活躍推進に関する2026年度までの目標を掲げています(シート2)。女性管理職比率は、取り組みを始めた2004年の2.3%から18年かけてようやく20%台に乗せました。また、女性に偏りがちな家事・育児の負担を是正することが重要であると考えた結果、男性の育児休職に関する数値目標も設定しています。
育児休職取得率については、日数の長期化への取り組みとして、2022年度より男性も子どもが生まれてから1年以内に2週間以上の取得を必須としました。これは部室店長等も含め例外はありません。会社全体でジェンダーギャップの解消に向け、カルチャーの変革に取り組んでいます。
この育児休職期間中をきっかけに、偏りなく子育てをする意識が生まれるとよいと思っていますが、実態として、当社内で結婚し、育児をしている女性・男性の残業時間の推移を調査したところ、まだ男性の残業時間が長く、対して女性は短い不均衡な状況が続いています。両者の残業時間が同じく低位推移しているという状況へ向かうことを期待しています。
D&I推進委員会を通して多くの制度が実現
また、当社では「D&I推進委員会」という会議を開催しています。前身は2008年から発足した「ワークライフバランス推進委員会」で、ここまでに何度か名称を変えて2021年度から現在の会議名になりましたが、これまでもずっとワークライフバランスについて経営トップと社員が積極的な議論を行っています。
役員や部室店長から若手社員まで、さまざまな役職、部門の職員がアドバイザーとして参加し、女性活躍推進に限らず、仕事と育児・介護の両立支援、年休取得、時間管理、男性の育児休職取得などの各種施策について議論・検証を実施しています。また、委員会の参加者は、コアのメンバー以外はテーマによって変えており、場合によっては推進が進んでいない部門の役員を呼んで、その原因を分析したり、対策を講じたりもしています。
この委員会のポイントは、経営トップである社長が委員長となって実施しているため、意思決定が早いことです。アドバイザーとして参加している現場社員が伝えた問題提起がその場で取り上げられ、速やかに施策となってアウトプットされるので、良い刺激になりますし、トップの本気度も伝わるので、職場に戻った後の波及効果も絶大だと思います。
委員会でのディスカッションがきっかけとなり、先ほどご説明した男性の育児休職の2週間以上の取得必須化をはじめ、多くの制度が実現されています。
D&I推進の課題
管理職になる自信がない女性であることを理解したうえで見極めて登用を
ここからはD&I推進の課題について一緒に考えたいと思います。まず当社の状況について紹介すると、将来のキャリアに対する管理職手前の層の男女の意識差について、マネージャーとしてのキャリア志向に関して男女別にポジティブ、ネガティブな回答をした比率をまとめました。
男性の回答では、「将来マネージャーになりたい」「どちらかといえば将来マネージャーになりたい」を合わせた、ポジティブな回答率は6割を超えています。その一方で、女性の回答では、ポジティブな回答率は2割程度にとどまり、「わからない」と答えた比率は約4割でした。現状としては、女性管理職であるマネージャーの比率が低いだけでなく、今後マネージャーになることを希望する女性の数も少ないことがわかります。
理由はいろいろあると思いますが、女性のコメントをみていると「自信がない」「家庭・育児と両立できるか不安」というような意見が多くありました。そもそも、女性にだけ事前に、「管理職に登用しようと思うがどうか」と聞くのは不公平になりますが、あらためてどうかと聞かれると、よほどの自信がない限り受けるとは言いづらいのではないでしょうか。
やりたくないと言っている女性が多いので困るというのでは、いつまで経っても女性の管理職は増えません。管理職になる自信がない、不安な女性を登用しないのではなく、それを理解したうえで、経営や上司が人物をしっかりと見極め、覚悟を持って登用し、適切なサポートをすることが必要だと思っています。
若いうちからチャレンジする機会を与えることがマミートラック回避の鍵に
では、女性のキャリアを阻むものは、本人の意識の問題だけなのでしょうか。シート3は、内閣府の調査からの抜粋ですが、上段の円グラフは育児を理由としてキャリアが停滞してしまうマミートラックに陥る人の割合を示しています。左右どちらも総合職の女性を対象としたものですが、産休前に一皮むける、いわゆるチャレンジングな経験がない人では56.8%、経験がある人では34%と、マミートラックに陥る割合が20%も異なることがわかります。ただし、チャレンジングな経験があったとしても34%の人がキャリアの展望を感じられなくなることは大きな課題でしょう。
そこで、実際にマミートラックから脱出できた方に聞いた理由が下段になります。上位4項目である「必要に応じて残業するようにした」「短時間勤務をやめた」「上司からの働きかけがあった」「上司に要望を伝えた」は、すべて職場で解決できることでした。良かれと思って重い仕事を任せない、早く帰ることを促すという言動が、実はマミートラックを助長することになる可能性があることも表していると思います。
ただ、それぞれに環境は異なるので、やはりコミュニケーションが何より重要だと思います。例えば、当社でも上席者との1on1ミーティングを定期的に実施しています。出産・育児の可能性がある女性に、若いうちから積極的にチャレンジする機会を与え、職場に戻ってきてからは積極的なコミュニケーションを通じて心理的安全性の高い環境をつくるということがマミートラック回避の鍵と考えられます。
バイアスや感覚のズレがインクルージョンの阻害要因に
続いて、アンコンシャスバイアスについても簡単に触れておきます。シート4は内閣府の調査結果です。左側は「男性は仕事をして家計を支えるべき」という考えについての設問で、60代男性では6割もの人が「そう思う」と回答しています。女性は20代で36%となっており、年代が上がるほど高くなっています。上司年代の男性と、部下として働いている可能性が高い年代における女性の回答差が大きいことがうかがえます。
右側は、「育児中の女性は重要な仕事を担当すべきでない」という意見についての設問です。グラフをみると「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答している20代女性は14.5%で、逆に言えば85%程度の20代女性は、育児をしていてもしっかりと仕事を任せるべきと考えていることがわかります。一方、上司に多い40代、50代男性はそれぞれ3割前後が任せるべきではないと考えていることが示されています。
この状況でコミュニケーションを取れていなかったとしたら、互いに認識のズレが生まれるのは必然とも言えます。これらのバイアスやズレがインクルージョンの阻害要因となっていることは当社でも起きていると思いますし、皆さんの会社でも起きているのではないでしょうか。
ここでは性別を例として取り上げましたが、それ以外にも年齢、子育て中、療養中の人々、さらには宗教、外国籍の方など、さまざまな主体へのアンコンシャスバイアスがあります。これは誰でも持っているもので、悪意から生まれてくるものではなく無意識に抱いてしまうものですから、仮にアンコンシャスバイアスと指摘されても、責められていると思う必要は全くなく、どこがバイアスだったか聞く耳を持つことが大切だと思います。
課題の克服に向けて
両立支援制度として家事代行サービスなどを法人契約で導入
こういった課題の克服に向けて、当社も試行錯誤を重ねている状況ですが、そうしたなかでの取り組みを紹介します。
まず、年々拡充させていますが、両立支援制度を導入しており、代表的なものとして、ベビーシッター、ベビーサロン、家事代行サービスなどを取り入れています(シート5)。育児を理由として仕事をセーブせざるを得ない状況になったり、キャリアを諦めたりすることなく活躍するためのサポートとして導入しました。法人契約でサービスを導入することで、会社が間に入っている安心感があるというメリットがあります。
しかし、一定の利用者がいる一方、なかなか利用しづらいと考える人も多いという課題が残っています。制度を導入しても、心理的なハードルや利用しづらいカルチャーがあると利用できないものです。これは社会課題でもあると感じていますが、その課題は時間をかけても解決していかなければいけないと思っています。
2014年から男性の育児参画促進の取り組みを推進
また、女性がマミートラックに陥らないようにするためには、家事・育児の負担が女性に偏らないようにする必要がありますし、ジェンダーギャップの解消には、男性の育児参画への意識の醸成は不可欠です。こういった考えから当社では2014年に、育児休職の初めの2週間を「育児サポート休暇」と命名し、給与・賞与を保証し、人事や上席者からの働きかけを強く行うことで、子どもが生まれたら休む文化を醸成しました。その結果、男性の育児休職取得率は2017年以降連続で100%となっています。
一方で、育児休職の取得という面のみを強く推進してしまったため、取得率100%と言いつつも、実際は1日2日のみの取得など、名ばかりの育児休職の取得の発生にもつながってしまったので、2022年からは連続2週間以上の取得を必須化しました。まだ先は長いですが、「妻をサポートして育児をする体制」から、「性別を問わず共に仕事と育児を両立できる」ための環境の整備を充実させるべく、引き続き取り組んでいきます。
妊娠・出産から復職までを包括的に支援するプログラムも導入
ここまで個別の取り組みを紹介しましたが、大枠の取り組みも紹介しますと、当社では社員がライフイベントを迎えた時に輝くほうへ進むための羅針盤でありたいという願いも込めて、妊娠・出産から復職までを包括的に支援する「COMPASS」というプログラムを2025年度より導入しています(シート6)。
ライフイベントを迎えた場合に、どのタイミングでどのような支援や制度を利用することができるのかといったことを体系的にフローで示すことで、上司と部下、性別を問わず、少しでも復職や復職後のキャリア形成、支援に対する不安の払拭につながることを期待しています。
女性だけの研修の実施や健康経営の促進
階層ごとの女性幹部候補育成研修プログラムを設定
当社も含めて、多くの企業で女性だけの研修を実施するのはなぜなのでしょうか。先ほど示したように、女性社員は男性社員に比べてキャリアビジョンが見えにくく、定まっていないという状況があります。そのような女性のために、管理職手前で理想とするキャリアを実現するために必要な考え方や、同世代とのネットワーク構築のための研修を実施することで、目指すべき姿をイメージできるようにしていくことが重要なのではないかと考えています。
当社では、これまでも試行錯誤を重ねてさまざまな女性向けの研修を実施してきましたが、2025年度から女性役員輩出を目指した女性サクセッションプランの一環として、これまでも実施してきたキャリア支援研修である「Daiwa Woman’s Forum」を、階層ごとの女性幹部候補育成研修プログラムとして再構築しました(シート7)。若手層、マネジメント層、エグゼクティブ層の3段階に分け、若手層から役員まで一気通貫のサクセッションプランを策定することで、早期からの戦略的なタレント育成とキャリアパスの可視化、パイプラインの強化を図っています。
女性だけの研修に反対意見があがるのは、なぜ必要なのかの説明が不足しているからだと思っています。そのため当社では、人事担当役員から研修に参加する女性社員の上司に向け、趣旨を事前にしっかり伝えています。研修の意義にとどまらず、上司にお願いしたいこととして、「受講者に対して上司から直接期待感を伝えてほしい」「受講者が業務として研修に参加することについて必要な配慮と周知を行ってほしい」、そして、「受講後には考えを深めた本人としっかりとコミュニケーションを取ってほしい」とお願いしています。
さまざまな社員が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境整備を
多様なチームが力を発揮するためには、それぞれが最大限のパフォーマンスを出せるよう、働き方とカルチャーを見直す必要があるかもしれません。シート8の左側は、当社の働き方やカルチャーの変革に関する取り組み事例です。
事例の1つとして、健康経営の促進について紹介すると、当社では、健康経営に関する指標の1つとして、プレゼンティーイズムの損失割合に関する目標値を設定し、定期的に進捗状況の評価と開示を行っています。プレゼンティーイズムの損失割合とは、何らかの体調トラブルを抱えたまま勤務することによる業務遂行能力、生産性の低下による損失を指しており、わかりやすいたとえとして花粉症があげられます。
症状の重さによっては仕事をするのもしんどい方もいらっしゃるかもしれませんが、当社では全国どの拠点からもオンライン診療による受診が可能で、治療薬の処方を行っています。事例としては瑣末かもしれませんが、このようなことの積み重ねによって、さまざまな社員が安心して働き続け、最大限のパフォーマンスを発揮することができる環境の整備につながっていくと考えています。
制度が活用され効果を発揮しているかは継続的なチェックが必要に
制度をつくるだけであれば、さほど難しくはありません。当社でも制度をつくったものの、利用されずに失敗に終わったことは度々あります。制度はそれを活用し、社員が働きやすいと感じ、ワークライフバランスや女性活躍推進、D&I推進の実現に効果を発揮しているか、また、全社にとって持続可能な環境につながっているのかを継続的にチェックする必要があると思います。
もし、制度利用者が少ない背景に、使いづらい環境があるのであれば、現場、管理職が時間と労力を惜しまないで、その環境を変え、制度を使いやすい環境をつくる努力を続けることが重要だと思います。制度をつくることではなく、使われ、生き続けることにこだわり、これからも現場とともに改善を重ねていきたいと思います。
プロフィール
平野 友視(ひらの・ともみ)
株式会社大和証券グループ本社 ダイバーシティ&インクルージョン推進室 室長
三井住友銀行、アクセンチュア株式会社を経て、2022年大和証券株式会社入社。人事部人材開発課兼ダイバーシティ&インクルージョン推進室所属、2023年より室長を務める。多様な人材が能力を最大限に発揮できる職場環境の構築、人材育成施策の企画・実行、組織の価値観や行動様式の変革に尽力。ジェンダー、年齢、障がい、LGBTQ+、人権等、多様な視点を踏まえ、個性と専門性を最大限に活かす環境整備を推進。企業の成長と社員一人ひとりのやりがいを両立し、多様な強みや個性が活かされる職場づくりの実現に注力。


