報告2 AI新時代のビジネス、組織、働き方

本日は、AIがビジネス、組織、働き方をどう変えていくのかについてお話をします。

AIが超速で進化している

ついにビジネスの平場にAIが降りてきました。そしてものすごいスピードで進化しています(シート1)。最初は幼稚園児レベルからスタートし、小学生レベル、優秀な高校生のレベルと進化していき、2025年に発表されたGPT-5では、推論の能力を獲得したのではないかと多くの人が言うようになってきました。また2025年はAIエージェント元年とも言われています。AIエージェントは複数の仕事をこなしてくれますが、それができるようになってきているのが2025年ということです。

さらに、今年の1月4日にイーロン・マスク氏は、「2026年はSingularity(技術的特異点)の年」と発言しています。マスク氏は機械の能力が人間の能力を超えるので、そこからの世界のあり方は変わるとこれまでも説明されてきましたが、もうその時代にすでに突入していると言ったのです。

何が起こるかまだわからないですが、大きな変化が続くと思われます。ちなみに、さまざまなタスクに対して人間と同様の知識や能力を持ち、独自の学習や問題解決ができるAGI(汎用人工知能)も2027年に開発されるのではないかと言われていましたが、少し開発が遅れていて、最近では2028年には開発されるのではないかと研究者やAI関係の事業家も言っています。

AGIが開発されたらAI自体が優秀なAI研究者として、365日24時間AI研究を行うようになりますから、人間の知能を超えたASI(人工超知能)まで一息に近づくのではないかと言われています。

AIの影響を最も受けるのはホワイトカラーワーカー

では、仕事の現場はどうなるのでしょうか。ご存じのとおり、生成AIやAIエージェントを使って最も影響を受けるのは、圧倒的にホワイトカラーワークの人たちです。

先ほど戸田さんの研究報告の中に、「ロースキルの人材のほうがAIによる効果を実感していない」ということがありましたが、そのとおりだと思います。いわゆる肉体労働といった手や体を使って行う仕事がロースキルの労働者の仕事に分類されることが多いですが、その労働者たちの仕事にはまだAIがあまり影響を与えていない。

しかし、パソコンに向かって仕事をしている、私を含めたいわゆるホワイトカラーワークの人の仕事は、AIがやってくれることが増えてきます。そういうことから、ホワイトカラーワークの人がとても影響を受けると思います。

シート2では、ホワイトカラーワーカーの仕事の基本形を、10段階で表してみました。ホワイトカラーの仕事はまず、物事を観察して、どうしてこんなことが起きているのか仮説を立てます。その仮説を検証するために、調査と分析を行い、出てきた結果を組み合わせて企画にします。いくつか企画案をつくったら、どれがいいのかメリットやデメリットを検討し、選択、つまり意思決定をします。そして、実行し結果がでたら、結果に対して責任を持つというふうに進んでいると思います。

このうち、AIが得意なことと人間が得意なことを分けるとシート3のようになると思います。「観察する」と「仮説を立てる」は人間が得意なことだと思います。データだけではなく、現実の空間を観察することもあります。例えば、「お客さんが怒っていてこの場の空気がとても悪い」「今日はなんで課長は機嫌が悪いのか」といったところは、AIには考えることができないと思います。

調査、分析などホワイトカラーワークの仕事のほとんどがAIの得意分野

しかし、「調査する」「分析する」「組み合わせる」「企画にする」「検討する」といった作業は、全部AIが得意だと思います。そのうえで、「選択する」ところはAIにできないとは思いませんが、「選択する」までをAIに任せたら、リスクもあるし、納得できないといった理由で、今のところ「選択する」は人が行う仕事として残りそうです。

「実行する」については、現在はクラウド上にあるAIが実行できることは限られていますが、アメリカや中国ではロボットの研究が進んでいますので、AIを搭載したロボットが職場に導入されたら、「実行する」も機械がやってくれるかもしれません。

そうなると、「実行する」も365日24時間働いてくれるAIに任せたほうが良いとなりそうです。最後、「結果に責任を持つ」のは、人間が行うことになります。AIに謝られても誰も嬉しくないので、そこは人間の仕事として残りそうです。このようにAIが得意な仕事が増えていくことが予想されるのです。

この仕事のモデルは、人間が仕事をする場合の仕事モデルをそのままにしたうえで、どこがAIが得意なのかを検討したものです。この先はもっと変わると思います。依頼したらAIがいろんなことをやってアウトプットを出してくれますが、いったいどのようなステップを踏むのか、人間にはわからない、もしくは人間とは全然違うやり方をする可能性がありそうです。

現在の業務プロセスというのは、人間だったらこのやり方が最も効率が良いという形で作られているわけですが、AIがそのやり方でやるかどうかわからないわけです。現在、私たちは人間のために最適化されたプロセスは変えないで、そのプロセスのどの部分をAIに任せるのかという視点でAI活用を考えていますが、もう間もなく、結果がでるのであればAIのやり方でいいよねとなると思います。

人間はAIにできない部分だけに介入していくようになる

つまり、AIに最適化された業務プロセスをAI自体が新規に設計します。シート4の右側の図のように、人間が最初の指示さえ出したら、どのようにやるかはわからないけれどもAIが成果を出してくれる。そのなかで、AIが苦手な部分だけピンポイントで人間がサポートしたり、介入したりする、ということになるのではないでしょうか。そして、この変化が起きることはほぼ必然だと思います。

そのため、働き方や役割がこれまでと変わっていくと思います(シート5)。まず、2つのAIによって知的生産性が向上していきます。1つはルーティンワークの自動化です。人間がやらなくてもいいような面白くない仕事をAIに任せていくことで生産性が上がっていくと思います。2つめは、自分が考えることについて、AIをパートナーにしてブラッシュアップしていく。自分自身のパートナーとしてAIを使うということが起きてくると思います。AIと壁打ちしたうえで提案をするので、初手のレベルが高いということが起きるわけです。この2つの方向から私たちの生産性はとても上がっていくと思います。

仕事を複数人で分割する必要がなくなり、プロフェッショナルが増える

それで何が起こるのかというと、プロフェッショナルとして働く人が増えてくる。これまでは、業務が増えたら1人で対応できなくなるので、担当者を増やして対応していましたが、AIを活用することで大量の仕事を複数人で分割する必要性は縮小していきます。そして、誰もがAIをパートナーにして、他の人とは違う仕事をすることになります。誰かと同じ仕事はAIに担当してもらえばよくなるので、誰もが他の人と違う仕事をしていく。その分野の専門家としてプロフェッショナルワークをしていくようになっていきます。

その時に問題が起こるのが、意思決定権の分散化です。現場の業務スピードが爆速で向上すると言っているわけですから、ボトルネックはマネージャーなどの意思決定が遅いこと、という事態が起こり得るわけです。意思決定の遅さがボトルネックになるとすると、これはやっぱり現場に権限委譲するしかないということになります。現場で決めて現場で試すといったことをきちんと設計できてない組織では、AIを活用したら企業価値の向上のスピードが速くなったということをあまり実感できないのではないでしょうか。

管理職の役割も変化する

そして、その後に起きるのは管理職の役割の変化です。現在の管理職は自分の知見で若い人たちを導くことや、メンバーのやっていることの是か非かを判断することが仕事ですが、AI時代の働き方は管理職からすると、「自分の時はそういうふうにやってなかった」「いったい何をやっているのかわからない」「そのやり方で本当にいいのかどうかわからない」ということが起こると思います。

そのため、意思決定や、良し悪しの判断の軸をいつまでも管理職が持てるかどうかわからない。ですから、マネージャーの役割は、メンバーよりも知見があるので、メンバーの行動の善し悪しを判断するということではなく、メンバーが試行錯誤することをサポートしていくという、部下のアウトプットの最大化をサポートする役割が主になります。

すべてがAIによって行われるビジネスモデルを考えていく必要がある

さらに言うと、より上位層の役割も変わると思います(シート6)。先ほどお話ししたように、AIはAIのやり方でビジネス効率を上げていく可能性があるわけですから、全部AIがやるビジネスモデルだったらどんなふうにビジネスが変わっていくのかという、ゼロベースで考える必要が出てくると。すべてがAIによって行われるビジネスモデルやビジネスプロセスを設計する仕事を、より上位層の人が考えていかないといけないと思います。

それから、AIだけでいろんな仕事ができるとなったときに、AIが仕事をするところに人間が干渉してAIの仕事がストップすることや、逆に人間が仕事しているところをAIが邪魔してくるみたいなことが起きて、お互いストレスフルにならないようにする、これも大事だと思います。

AIと人間がシームレスに協働できる。お互いを邪魔しないようなことができるワークプレイスが必要です。これはリアルのワークプレイスだけではなく、クラウド上のワークプレイスもそうだと思いますが、そういうものをきちんとつくっていかなければなりません。

「AI人的資本」という考え方で組織構築を

また、「AI人的資本」という新たな概念で組織をつくっていくことを考えないといけない。「人的資本経営」は、2020年頃から日本で言われている言葉で、人こそが価値創造の源泉、人にもっと投資をして、人が価値をつくる能力をもっと増やしていきましょうという考え方です。でも、価値創造の源泉が人だけではなくなりそうです。AIもいろいろできます。

従来はピラミッドの一番下の「人間の労働力」だけを指して、人的資本と言ってきました(シート7)。これからは、まず「AI協働力」が生まれます。人間がAIを使ってもっと早く対応できる、あるいはAIによって拡張された人間の労働力と言ってもいいと思いますが、単に人が単独で行うことよりも、もっとレベルが高いことができるようになります。価値創造の源泉に「AI協働力」も加わってくるということです。

そして、「AI労働力」も見逃せません。AIが単独で自律的に動くなかで価値創造することも可能になってきているわけです。この3つをもって、価値創造のための資本という時代になります。

日本はAIを活用し人手の要らない会社になれるかが問われる

今までの人事部は、価値創造の資本として生身の人について考えていればよかったのですが、それだけではなく、AIという労働力、AIという価値創造の担い手も含めて、われわれはどんなリソースをどんなふうに企業の中に持ち込むのかを考えなくてはいけない。AI的資本経営に関して、日本では必然性があると思っています(シート8)。

日本は世界に先駆けて労働力人口が減っていく時代にすでに入っています。今のところ多くの会社で労働力不足と言われていますが、日本でこれから労働力が増えていくという試算は、どんなにがんばっても成立しないわけですから、人手が要らない会社になっていくしかないわけです。そして、タイミングよくAI新時代が始まっています。徹底的にAIを活用し、労働力のいらない会社に変化していく必要があるということです。

Do More With Lessという言葉があります。これはより多くのことをより少ない人の力でやろうよという意味ですが、日本企業の経営においてはとても大事な考え方になってくると思います。

設立10年以内で10億ドル以上の価値がある企業を「ユニコーン企業」と言いますが、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏は「そのうち、10人ユニコーン企業、1人ユニコーン企業が必ず生まれるようになる」と予想しています。実際、ニューヨークの動画生成AI企業「Runway」の社長は従業員が100人を超えないように管理していると発言していて、少数精鋭で企業価値を高めています。

これまでは企業が大きくなると、従業員数も増えてきましたが、AI時代には、従業員の数で企業のサイズを測ることは意味がなくなっていく可能性があります。先ほど言ったとおり、より多くのことをより少ない人数でやる、Do More With Less、これは是か非ではなく、必然の未来であると思います。実際にアメリカではテック企業を中心に雇用人数の横ばい化が始まっています(シート9)。

西海岸の有名大学のコンピューターサイエンスの学部や大学院を卒業しても就職先がなく、エアコンを取り付け、水道を修理するといった業種に高学歴の人が入ってくるというニュースもありました。ブルーカラーミリオネアと言われましたが、そのほうが最終的に稼げる仕事になりつつあるということです。日本は労働市場の流動性はとても低いので、まだこんな変化が起きることを誰も実感できていませんが、きっとこういう話がいつか出てくると思います。

まず、機械にできることは機械に任せて「人ならでは」の仕事を増やす

では、AI人的資本経営を取り組んでいくとして、どんな組織能力が必要になるのでしょうか(シート10)。まず個人のレベルでやらなければいけないのは、機械にできることは機械に任せていき、「人ならでは」の仕事量を増やしていくということです。機械にできるのに、人がまだまだやっている仕事が日本の企業の中にたくさんあります。それは全部機械に任せて、人ならではの仕事量を増やしていく力が大事です。

それから、AI協働力については、AIをきちんと使いこなすオペレーションの力、あるいはAIの助けを借りて自分の考えをアップデートする力が必要になります。つまり、AIの使い方に慣れていくということです。

最後、AI労働力について、AI単独で何か価値創造してもらおうと思ったら、AIにいったい何をしてもらいたいのか、やってもらいたい価値をきちんと伝える力、あるいはAIの推論や構造把握が間違っていることを指導できる力が必要になります。AIを育てていく力、ということです。

最初の力がヒューマンスキル、あとの2つがデジタルスキルだとして、必要なスキルを高めていくリスキリングの力、継続学習力も必要になります。

組織レベルでは個人を学習させ続ける仕掛けをつくる

では組織レベルでは何が必要か。1つは変化に対応できるように、人々に学習し続けさせること、学習することが嫌ではない個人を生み出す仕掛けが必要です。それから、なくなる仕事や人手が要らなくなる仕事は必ず出てきますから、必要な場所に必要な人材を配置し直せるというような柔軟性が必要です。

逆に言うと、なくなる仕事に就いていた人たちには何をやってもらうのか。どうやって活躍してもらうのか。そういったことも考える必要があります。これは個人が企画することではなく、会社が企画することだと思っています。

先ほど、一人ひとりがプロフェッショナルになって、人とは違う仕事に取り組むという話をしました。ですから、今まで以上に多様な人材を信頼し、個の力を恃む、こういうことが必要になってきます。そして、この会社や仲間が好きだということが働くときのモチベーションになり得ると思いますから、エモーションに働きかけて感動を生み出すことができる会社にならなくてはいけません。さらに、どのAIに何をやらせるのか、正しくAIに投資する選択眼も必要だと思います。

AIが「やりたくないこと」をしてくれるなか、個人は「やりたいこと」を持てるか

個人の側にもこの時代に適応していくことを求めなくてはいけないと思っています(シート11)。できるAIと共存するためには、自分がやりたくないことを機械に任せるために機械を操作していく力が必要です。一方、AIが自分の嫌いなこと、苦手なことをやってくれるとなった時に、「あなたは何が好きなのか」が問われます。何をやっていたら楽しいのか、やりたいことを持っているのかが問われていると思います。

最後は、人ならではの力についてです。人間が嫌々やっている、どうでもいい仕事などは全部AIにやってもらったほうがいい、そのほうがクオリティが高い、という時代が来ます。そのとき、人には卓越した仕事しか求められなくなります。では、何の分野で、どうやったら卓越と言える仕事ができるのでしょうか。

それは、やはり、心から好きで、自分の得意なことで、何時間でも没頭して、どれほどでも努力できる、というような、そういう領域だけになるのではないでしょうか。そうでなければ、AIではなく「あなた」にやってもらう理由も、AIよりもよいパフォーマンスができる理由もないでしょう。働く一人ひとりが、こういったことを考えて何の仕事をするのか、どうやって生きるのかを考える時代になっていくと考えます。

プロフィール

石原 直子(いしはら・なおこ)

株式会社エクサウィザーズ はたらくAI&DX研究所 所長

銀行、コンサルティング会社を経て2001年からリクルートワークス研究所に参画。人材マネジメント領域の研究に従事し、2015年から2020年まで機関誌『Works』編集長、2017年から2022年まで人事研究センター長を務めた。2022年4月、株式会社エクサウィザーズに転じ、はたらくAI&DX研究所所長に就任。専門はタレントマネジメント、ダイバーシティマネジメント、日本型雇用システム、組織変革など。共著書に『女性が活躍する会社』(日経文庫)がある。近年は、デジタル変革に必要なリスキリングの研究などに注力する。

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。