パネリストからの報告1 株式会社髙島屋 事例紹介

今回のテーマは改正育児・介護休業法ですが、2025年4月、10月に控えている法改正に対して、当社ではまさに今が検討と準備の山場を迎えています。当社では、育児と仕事の両立支援について、約40年前から取り組みを続けています。その地道な取り組みの歴史や、その結果、今どういうことが起きているのかをお伝えしたいと思います。

従業員の約7割~8割が女性

株式会社髙島屋単体ですが、現在、直雇用では約7,000人弱の従業員がいます。そのうち、5,000人弱が女性で、約7割~8割が女性の従業員となっています。雇用形態は、一般的に正社員と呼ばれている雇用形態については半分強、そのほか、月給制の契約社員、パート社員、そして最近シェアが伸びているのが定年後再雇用の雇用区分になっています。

正社員に限ると、男女比は女性が約56%、男性が約44%となり、今、正社員だけでみても女性が多い会社となっています。その背景に平均勤続年数があり、こちらも女性が長く、女性の平均勤続年数は27年近くになっています。昔から女性が長かったわけではなく、いろいろな取り組みの中で男女が逆転しました。

両立支援の取り組みは雇用機会均等法以前から

DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の取り組みの変遷の歴史について、簡単に紹介します。ダイバーシティという言葉を使い始めたのは、10年ほど前ですが、その基本的な取り組みである女性の活躍、育児、介護などとの両立支援の取り組みについては、長い時間をかけて取り組んできました。

均等法以前から男女同一の条件での雇用や登用などを行っており、1979年、東証一部上場企業初の女性重役も当社から生まれたという歴史を持っています。そして、この均等法時代から育児や介護との両立支援も始まりました。

当社のデータでは、1991年の女性の正社員の平均勤続年数が約6年という記録が当時残っています。その後、両立支援から活躍支援、そして、男性も含めたワーク・ライフ・バランス支援と取り組みの幅を広げていき、2017年に、ダイバーシティ推進室が設置されました。

そして、DE&Iに関する各種表彰もいただいています。もともとは育児との両立支援が強みではありましたが、そこから女性活躍、近年では健康経営、LGBTQへの取り組みも一定の評価をいただけるようになってきています。

先ほど、女性の平均勤続年数が男性より長いと申し上げましたが、こういった取り組みを続けているなかで、2011年に女性の正社員数が男性を上回り、その3年後、平均勤続年数が男性を上回るようになりました。

育児休職は、勤続1年以上の社員を対象に3歳まで利用可能

次に、当社の育児両立関連の各種制度を簡単に紹介します。今回取り上げているものについては、雇用区分にかかわらず利用できるものになっています。

育児休職については、勤続1年以上の者を対象に、子の年齢が3歳まで使えることになっています。法対応で2回の分割取得も可能になっています。利用者のほとんどが女性ですが、男性の取得の促進を目指した、連続14日間以内は有給となる制度を作っています。

出生時育休についても、14日までは有給で、合わせると男性は28日間取得することができます。

そのほか、リザーブ休暇という、失効した年次有給休暇を積み立てて利用し、育児、介護、看護のために使えるものがあります。

スクールイベント休暇は孫のためにも使える

特徴的なものとしてスクールイベント休暇があります。こちらが珍しいのは、子どもだけではなく孫のためにも使えるというところで、幼稚園、保育園、小学校までの行事に参加するために利用できます。有給で、日数は年次有給休暇外の扱いです。

介護休暇・看護休暇の日数は、法を上回る形で年間15日まで使えるようになっています。

再雇用制度については、結婚、出産、育児、傷病、配偶者の転勤、介護などで円満退職した者については再雇用できる制度があります。

この後、詳しくお話ししますが、日曜日や祝日に出社する従業員のための社内臨時保育の実施のほか、経済的支援にも取り組んでいます。

育児のための勤務制度は9パターン用意

先ほどもお伝えしましたが、1986年から育児との両立支援制度は時代に合わせ拡充をしてきており、育児休職制度は、最初は満1歳までのところを順次、2歳、3歳と段階を踏んで拡張しています。

短時間勤務などの育児のための勤務制度についても、1991年に法に先駆けて導入していますが、最初は2パターン、4歳までだったところを、少しずつパターンの数を増やし、利用できる年齢も引き上げています。現在は9パターンで、基本は小学校4年生に達するまでですが、一部パターンについては中学校就学まで利用できるようになっています。

1991年の女性の平均勤続年数が約6.2年だったのが、現在約27年までになったのは、育児との両立で辞めざるを得なかった社員が、今は育児のために辞めるということがほぼなくなり、新卒で入社した後、そのまま長く働いている方が今やマジョリティとなったことを示した数値だと思っています。

普段は短時間だがフルタイムの日も設定しているのが特徴的

育児のための勤務制度について、9パターンあると申し上げました。詳しく説明すると、まずA~Eの1日の労働時間別に5パターンあります。それに加え特徴的なのが、FA、FC、FDというパターンです。基本のパターンはA、C、Dで、それぞれ5時間(A)、6時間(D)、6時間45分(C)という短い勤務をしながら、フルタイム(7時間35分)の日も設定できるパターンです。

普段は短時間勤務だけれど、フルタイム勤務できる日はフルタイムにするという意味で、フルタイムのFをとって、FA(Aの5時間とフルタイム勤務)、FC(Cの6時間45分とフルタイム勤務)、FD(Dの6時間とフルタイム勤務)というパターンになります。

育児勤務Eパターンというのもあり、フルタイム勤務になりますが、百貨店はどうしても営業時間に勤務時間が縛られ、早番、中番、遅番というシフトの動きをしているのですが、始終業時間を固定するパターンになります。

この10年間でF勤務を選ぶ社員が増加

近年の当社の育児短時間勤務の利用状況について、2015年と2024年を比較すると、フルタイムと掛け合わせて利用ができるF勤務は、2015年には約4分の1程度の利用率だったのが、いまでは半数近くの人がF勤務を選ぶようになっています。

一番人気があるのは、Aという一番短く働くパターンですが、このAパターンを選ぶ従業員も減ってきています。この背景については、子どもが生まれたら一番短い時間で期限いっぱいまで働くという典型的なパターンから、働ける時は働きたいというニーズに変わったことや、実際に出産年齢自体が当社でも高年齢化していて、一定のキャリアを積み上げてから育児のフェーズに入る人が増えており、より仕事にコミットしたい人が増えてきていることがあります。

本人たちの意欲が変化しているところもありますし、会社としても継続就業・両立支援から、一層の活躍支援へのフェーズに約10年前から進化させ、F勤務のようなパターンを取り入れています。

それ以外にも、活躍支援という意味ではサポートやマネジメントの工夫、働き方の多様化とさまざまな側面からサポートしています。

育児勤務利用者を集めたキャリア講座を実施

次に育児勤務者メンター制度を紹介したいと思います。これは年に1回、育児勤務利用者を集めて、先輩社員とのパネルディスカッションなどを行います。育児の不安の共有だけでなく、この会社で何をやっていきたいのかというキャリアに軸を置いた講座になります。

実際に参加者が、その後フルタイムの復帰を前倒ししたり、勤務パターンを長いほうに変更し、マネジメント職に登用されるなど、非常に多様な効果につながっています。

空いた会議室を利用し、日祝の社内臨時保育を実施

百貨店ですので、日曜・祝日は仕事があり、むしろ忙しい時期です。一方で、育児中の従業員にとって悩ましいのは、一般的な保育所や学童保育は、日曜・祝日は閉まっていることです。

このジレンマがとても大きく、従業員からのニーズも多かった繁忙時の日曜・祝日に限定した臨時の保育所を社内に開設しています。日曜・祝日は店舗内で社内会議が行われることは原則ないため、社内の会議室を臨時の保育場所として活用しています。

これは単純に、その預け先の確保というセーフティーネットという意味合いももちろんあります。しかし、育児をしながら働く者にとって、特に百貨店で考えると、日曜日や祝日は忙しく、売り上げが取れる時期ですし、能力開発の最大のチャンスの時期でもあります。そういった時に仕事ができるということが、やはり活躍機会確保や活躍支援になると当社としては位置づけています。

男性育休の取得は5年間連続で100%を達成

男性育休については、連続14日間の有給の制度を2007年につくりました。男性が少しでも取りやすいように導入した制度ですが、制度を入れただけではなかなか取得は進みません。導入した年は取得率が高かったのですが、その後ずっと取得率は低迷していました。2020年に社長が100%取得宣言をし、事務局も細やかなフォローを始め、ようやく2020年に100%を達成し、その後5年間、100%を達成し続けています。

最初の頃は平均取得日数も少なかったのですが、少しずつ伸びており、14日間だけではなく、1年や半年や3カ月、長期で取る社員も本当に少しずつですが、出てきました。何より嬉しいのは、特に事務局から声をかけなくても、自発的にほとんどの社員が取るようになったことです。社内の意識改革には、2020年の社長の宣言がとても大きかったと思っています。

ここ10年で女性の管理職は3割、経営層は2割程度に増加

本日は一部の紹介になりましたが、約10年間の女性活躍の数値の変化としては、少しずつ成果が出てきています。女性管理職比率については、現在34%で、部長職や経営層についても27%まで上がってきました。

育児勤務制度については、制度利用者の管理職登用も進めています。

女性活躍推進に向けては、何か特別な施策をやってきたというよりも、やはり現場からの声や労働組合との対話を重ねながら、一つひとつ取り組んだ結果としての現在の数字なのかと思っています。

プロフィール

三田 理恵(みた・りえ)

株式会社髙島屋 人事部 ダイバーシティ推進室 室長

1999年株式会社髙島屋入社。新宿店食料品売場、パリ研修生を経て人事部へ。新卒採用・各種研修企画運営実務を担当後、グループ子会社である東神開発株式会社に出向し人事業務全般を担当。髙島屋へ復職後は人事部にて各種制度企画運営を担当、2度の育児休職を経て2019年より現職。国家資格キャリアコンサルタント。厚生労働省委託事業検討委員会の委員を複数回務める。