事例紹介2 NPOの取組 社会貢献活動の実践から

講演者
手塚 明美
認定NPO法人 藤沢市民活動推進機構 理事長
フォーラム名
第127回労働政策フォーラム「企業で働く人の社会貢献活動と生涯キャリア」(2023年9月23日-27日)

花王の田中さんの事例紹介で、言葉が通じない、というお話がありましたが、私どもも実は同じ感覚を持っています。同じ地球上に住んでいるのにどうして通じないのかと。ただ、皆さんがそれぞれ話し合い、対面できるところがあれば、きっと分かり合えるはずだとずっと考えています。

街のことを考える人の多さを目の当たりに

私は若い時から少しずつ地域の活動を進めて、今に至ります。大学の建築学科を出て、住宅メーカーに就職しましたが、街というのは、建物ではなくそこに住んでいる人達、行き交う市民の皆さんが作るんじゃないかと思うようになり、人材のほうに目を向け、子育てもしていましたので、地域活動、町内会やPTAの活動、役所の係などを継続的に行っていました。

たまたま神奈川県で国民体育大会があり、藤沢市で活動をしている人達を一同に集めて国体を応援するという少し大きなイベントがありました。そこで「こんなに街のことを考えている人たちがいるんだ」ということをあらためて目の当たりにして、衝撃を受けました。その時に、子ども会やPTAだけではない、学校に行けない子ども達を支えるアプローチをしたいと個人的に思っていたので、市民でもできることはないかと見回したところ、特定非営利活動促進法ができるという情報を受け、そのあたりからNPOの世界に入ってきました。

行政を補完する活動や、小さい活動団体を支える

藤沢を中心に、神奈川県を拠点に仕事や活動をしています。田中さんの事例紹介の中で中間NPOというお話がありましたが、そういう応援をする立ち位置の組織を作りました。行政の単年度の計画ではなかなかできないことなどを私どもが実施したり、皆さんと協力関係を保ち、しっかりとネットワークを組まないと小さな市民活動団体はすぐに解散の憂き目にもあいますので、そこを支える活動をしています。

活動を始めてもう20年以上経ちますが、その間、大学でボランティア論やNPO論の講義もやらせていただき、多様な年代の方と交流を持つことができました。大規模な自然災害復興支援も神戸や東北、熊本や広島、岡山でも行い、最近、神奈川県で支援団体を設立しました。

なかなか稼ぐというところまでは届きませんが、それでも長く続けられているのは、「街を作るのは市民じゃないか」という思いが私の根底にあるからで、いろんな方と協力関係を保ち今に至ります。

日本人の6割以上は「社会の役に立ちたい」と思っている

社会への貢献意識をどれくらいの人が持っていて、実践しているかについて、内閣府の「社会意識に関する世論調査」(2022年12月)をみると、6割以上(64.3%)の人たちが社会の一員として社会のために役立ちたいと思っています(シート1)。日本という国の国民性は素晴らしいなと私はいつも思っています。

そして、どういう時に、この割合が上がったり下がったりするか、時系列で見てみました。何か困ったことがたくさん起こった時に「役立ちたい」という意識が高まるのかと思っていたのですが、数字が上がるのは、経済的に少し陰りが見えた時、例えばバブルの崩壊や、リーマンショックの直後で、決して阪神淡路大震災(1995年)や、東日本大震災(2011年)の頃ではありませんでした。経済的な価値感が変化した瞬間に、社会への貢献について少し考えたほうがいいかなと思っているようなイメージを、個人的には持っています。

街の課題にアクションを起こしたいと思う人も少なくない

この割合を男女別にみると、男性が66.5%、女性が62.4%で、男性のほうが高い。実は、社会に貢献したいという気持ちは男性のほうが高い(シート2)。

男性はなぜこんなに高いかというと、貢献内容の回答(複数回答)として、今日のテーマにもある「自分の職業を通して」という回答割合が非常に高い。もちろん、経済的な価値を高めるのは社会貢献の第一歩で、その部分が大きいのはごく当然のことだと思います。しかし、それと同等に、「環境」や「社会福祉」の分野などの回答が続きます(シート3)。やはり、街の課題に対して、自分がアクションを起こそうと思っている人がこんなにもいる。それをきちんと受け止める仕組みが世の中にあったほうがいいと、私は考えています。

ずっと同じ会社で仕事をするという日本型の社会システムが、そろそろ終わりに近づいている気がしています。そんななか、働き方改革やワーク・ライフ・バランスで自分の働き方を自分で決めるようになってきています。特に若い人の就職観はずいぶん変わりました。私が40代、50代だった頃に比べたら、もうとてつもなく自分で決めるタイミングが増えたと感じます。

会社にボランティア休暇の制度があるそうですが、調べてみると、やはり導入しているところは少ない。しかし、制度がなくてもボランティアをしたいという人もたくさんいる。制度があっても、面倒くさいから使わないでやっている、という人も実はいます。情報がきちんと届けば、やりたいという人はたくさんいると思います。参加した理由も、社会の役に立ちたい、自己啓発や自らの成長につながる、などがあがっています。自分自身で自分の生き方を考える時代が来ているとつくづく感じ、とても頼もしい時代に入ってきたな、まだまだ未来は明るい、と私は考えています。

やはり一番重要なのはきちんとした丁寧な対話

私が企業との活動で印象に残った事例が「日本パートナーシップ大賞」です。NPOと企業のパートナーシップ推進を目的に、2002年に発足したもので、この時に調査員として、企業がNPOとタッグを組んで実施している事例を調査しました。きちんとした対話、丁寧なコミュニケーションがやはり一番重要だと実感しました。

企業とNPOがお付き合いするためには、丁寧に日本語を使う。そして意味の分からないことはしっかりとそこで解決する、引き延ばししない、ということがとてもいい事例を作り上げていることを、10年近く経験してきました。

本当に一緒にやろう、課題を解決しようとしたら、会話を惜しまない、一生懸命話し合うということを、ぜひ実践していただけたらと、心から思っています。

企業の皆さんと小さな変化を起こしたい

いろいろな方が協力しながら活動しているのは、とてもうれしいです。企業の皆さんにも、「社会貢献活動はいろんなことがあるけど面白いよ」と感じていただけるような活動に、ぜひ一度足を踏み入れていただけたらと思っています。小さな変化を皆さんで起こしたいと思っています。未来は明るいと最初に言いましたが、その明るさを皆さんでぜひ、安定的に灯していただけたらいいなと、心から思っています。

プロフィール

手塚 明美(てづか・あけみ)

認定NPO法人 藤沢市民活動推進機構 理事長

大学卒業後、住宅メーカー設計部に所属。地域活動や社会教育活動に継続的に参加。1998年NPOの支援を通じたまちづくり団体を設立。現在、神奈川県のみならず非営利組織の経営や運営に関する支援を中心に、人材育成支援組織や財政的支援のための財団の設立にかかわる。教育活動として大学等の講師を務める。また、大規模自然災害復興支援にも長くかかわり、2022年には神奈川県災害復興支援団体を設立した。1951年群馬県高崎市生まれ、神奈川県藤沢市在住。