事例報告2 IHIにおける副業制度の積極的活用について

講演者
竒二 丈浩
株式会社IHI 人事部 ワーク・ライフ企画グループ 部長
フォーラム名
第118回労働政策フォーラム「副業について考える」(2022年1月21日-25日)

当社は、1853年に創設された「石川島造船所」を起原とし、1960年の播磨造船所との合併や、2007年の社名変更などを経て現在の姿となりました。現在(2021年3月末)の従業員数は、連結で2万9,149人、連結売り上げ収益は1兆1,129億円です。主な事業領域は、資源・エネルギー・環境事業領域、社会基盤・海洋事業領域、産業システム・汎用機械事業領域、航空・宇宙・防衛事業領域の4つです。

当社は、事業を通じて関わる人々の人権を尊重すること、価値創造の原動力となる多様な人材が活躍すること、そして誠実な企業経営によって信頼を獲得することが重要であると考えています。

人材の活躍のためには、社員の個性や価値観を尊重し、モチベーションやエンゲージメントを高めることで、潜在能力が引き出されるような環境づくりが求められます。この一環として、女性従業員、外国籍従業員、障害のある従業員、シニア従業員の活躍推進に加え、育児、介護などとの両立支援やLGBTをはじめとする性的少数者の活躍推進などにも幅広く取り組み、多様なバックグラウンドや経験、異なる視点を持った人材が活躍できる環境を整備しています。

社外での副業・兼業も、従業員がより幅広い視点、経験を身につけるための大きな仕組みの1つだと考えています。

多様な働き方や自律的キャリア形成を目指す

制度導入の背景についてお話しします。当社では従来から、副業・兼業について特段の制限を設けていませんでした。ただ、積極的に活用する取り組みもなく、あまり実例もありませんでした。

しかし社会的には、多様な働き方への対応、従業員の成長やイノベーション促進効果への期待などから、副業・兼業の活用が徐々に見直されていました。新型コロナウイルス感染症の拡大による操業不足対応などによっても、副業・兼業を認める企業が増加してきました。さらに、厚生労働省の副業・兼業の促進に関するガイドラインの改定などにより、企業と従業員が留意すべき事項が明確になってきました。

一方、社内では、多様な人材の活躍が経営上の重要な課題となり、その一環として従業員が幅広い視点や知識・経験を身につけるための機会を提供する必要がありました。さらに副業・兼業を希望する従業員も少しずつ増えてきました。

このような流れを受けて2020年10月に社長から、多様な働き方や自律的キャリア形成を目指し、社内外でのキャリア形成・開発機会の拡大につながる施策を展開するというメッセージが発信されました。これを受け、2021年1月に社内ガイドラインを整備し、副業・兼業の積極的活用に踏み出しました。

多様な経験の獲得のために制限は少なく

ガイドライン整備にあたって議論となったのは、副業・兼業を具体的にどの範囲まで認めるかということでした。端的に言えば、業務請負や委託だけでなく、他社に雇用されるケースを認めるか、あるいは就業時間外のみか、就業時間内も含めて認めるのかということでした。

社内で整理したそれぞれのケースの利点、懸念点についての概略は、シート1のとおりです。会社の業務への影響や労働時間管理などについては、さまざまな議論がありましたが、最終的には多様な視点や知識を得る、あるいは経験を積む機会とするために、時間や副業の形態についての制限はできるだけ少なくすべきだという結論になり、ルールを明確にしたうえで全てのケースについて認めていくこととしました。

なお、制度導入時に想定していた副業・兼業の申請目的とその具体的な対象者イメージは、シート2のとおりです。申請者の視点で考えた場合には、セカンドキャリア形成のきっかけとするケースや、単に副収入を目的とするケースなどもあると思います。会社としての狙いは、「社外での多様な視点や経験の獲得」にありますが、いずれについても制度適用には差はつけないこととしました。

社外兼業制度の名称は「セカンドジョブ制度」

当社では、社外兼業制度を「セカンドジョブ制度」という名前で呼んでいます。また、同時期に社内の新事業や他部門の事業に就業時間の一部を充てる「社内副業」という制度もスタートしました。こちらも自部門の業務だけでは身につきにくい多様な視点や経験などの獲得を目的とした制度です(シート3)。

セカンドジョブ制度申請の目的は、前述のとおり、セカンドキャリア形成、社外での多様な経験などの獲得、副収入の確保などがあると考えています。対象者はパート従業員なども含めた全従業員です。

兼業先での就業時間帯については、原則として制限を設けず、IHIでの就業時間内外のいずれも対応可能としました。ただし、会社の勤務に支障が出る可能性がある場合には、制限することがあります。なお、社会保険などとの関係からIHIで週20時間以上働くことを条件としました。また、兼業先や兼業内容は、健康上の懸念や会社の事業に影響がある場合を除き、原則として制限を設けていません。

社員は競業行為や情報漏洩がないことを誓約する

兼業申請にあたっては、機密情報管理について誓約書の提出を義務づけ、競業行為や情報漏洩がないことを誓約してもらいます。さらに、競業、情報漏洩による事業上の影響については、兼業申請時に上司や担当人事部門の確認に加え、必要に応じて類似の事業を営む事業部門や法務、営業、調達、情報システムなどの関連部門にも確認を取ることとしています。今後は、兼業申請許可時からの状況の変化などを確認するため、最長1年程度で定期的に再申請してもらうことを考えています。

次に、評価及び処遇管理についてです。兼業によって評価が下がるのではないかという従業員の懸念を払拭するため、会社として制度導入時に、評価は会社における能力、行動、成果によって公正に行い、兼業を理由に評価を下げることはないということを宣言しました。

また、管理職全員に対し、部下の意向を最大限尊重するよう要請するとともに、毎年、部下と上司で実施するキャリア面談において、兼業の状況やそれによって得られた成果などについて確認しています。なお、所定就業時間を短縮した場合、原則として当該部分の賃金は調整されます。ただし、その狙いや内容によっては、会社として配慮を行うこともあります。

次に、労働時間管理について、労働時間の通算が必要となる他社雇用時などの際は、厚生労働省のガイドラインに示されている管理モデルに基づくこととしました。具体的には兼業開始前にIHIおよび兼業先における労働時間を確定し、その上限に基づいて業務や労働時間を管理しています。兼業先での労働予定時間を社内の勤務時間管理システムにあらかじめインプットすることで、IHIと兼業先の労働時間を合わせた管理ができるようにしています。

最後に安全衛生・健康管理について、他社での雇用の場合は、兼業先が安全管理を実施しますが、受託業務などについては自己責任となるため、必要に応じて自身で損害保険に加入することを注意喚起しています。また、健康診断・ストレスチェックについては、従来どおり当社にて実施しますが、極端に心身に負担がかかるような業務については、制限を行う可能性があることをあらかじめ通知しています。社会保険、雇用保険は当社で加入を継続することとし、そのために必要な労働時間を勤務することを決まりとしています。

申請者からは好評価

制度導入後の申請許可件数は累計約80件で、従業員の約1%に当たります。年代別に見ると50代が少し多めですが、大きな偏りはないと考えています。

形態別にみると、最も多いのが就業時間外に業務委託などで兼業するケースで、全体の約4分の3を占めています。続いて、就業時間外に他社で雇用されるケースとなります。就業時間内に実施するケースは、業務委託、他社雇用ともあまり発生していません(シート4)。

実際に申請のあった兼業の例はシート5のとおりです。兼業実施者からは、兼業を通じて新たな知見や経験、気づきが得られたという声が多く出ており、かなりポジティブなものでした。

「当たり前のもの」として意識を変えていく

最後に制度の評価と今後の課題についてお話しします。会社としての制度の狙いは、従業員が社外において多様な視点、経験などを獲得し、人材の多様性をもたらすことにありました。兼業申請時には副収入目的とする人も多く見受けられましたが、それらのケースも含め、実際に兼業を実施した従業員からは、社内や現在の担当業務では得られないような気づきが得られたという前向きな声が多く聞かれました。

また、上司からも同様に、兼業をポジティブに捉えて、積極的に後押しするような声が多く見られました。そして、労務管理・健康管理面では、現時点では大きな問題は生じていないと考えています。兼業実施者の平均の時間外労働時間は、社内の平均と比較してやや少ない傾向にあり、ストレスチェックにおいても、兼業実施者のほうが心身のストレス負荷が低い傾向を示す結果となりました。全ての結果が兼業によるものかどうかは、さらに事例を積み重ねて分析する必要がありますが、現時点では、総じてポジティブな結果が得られていると捉えています。

今後はさらに従業員が社外で知識・経験を獲得し、会社に多様性をもたらすことができるようにしていきたいと考えています。具体的には従業員一人ひとりのキャリア形成に寄り添った研修・啓発プログラムを導入することや兼業における課題、対応策、モデルケースを広く共有することを通じて、兼業がより身近で当たり前のものとなるよう意識を変えていきたいと考えています。

プロフィール

竒二 丈浩(きじ・たけひろ)

株式会社IHI 人事部 ワーク・ライフ企画グループ 部長

1998年石川島播磨重工業株式会社(現株式会社IHI)入社。同社において労政、人材開発や航空宇宙事業、技術開発部門等における人事業務を担当。また、(株)IHIエアロスペース、IHI INC.(米国)、IHI Ionbond AG(スイス)など国内外グループ会社において人事・総務関連業務全般やガバナンス等を担当。2019年より労政グループ(現ワーク・ライフ企画グループ)に異動。人事処遇制度改訂や働き方改革、新型コロナウイルス対応、労働組合窓口等を含め、労政・給与・福利厚生・人事システム関連業務を担当。

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