事例報告3 中小企業における男性育休取得推進 取り組み事例

講演者
松浪 暁子
株式会社コーソル 支援本部 管理部 部長
フォーラム名
第116回労働政策フォーラム「男性の育児休業」(2021年10月8日-11日)

株式会社コーソルは、2004年に事業を開始し、現在18年目のIT企業です。データベースを中心としたITインフラに関する技術サービス、コンサルティングの提供、製品の販売などを行っています。従業員数は現在約150人で、男性が6割、女性が4割とIT業界としては、比較的女性が多めの会社です。

企業理念は、社名の由来になっている「CO-Solutions、共に解決する」です。企業理念を前提として、当社が目指すビジョンは、2つあります。

1つ目は、システムインフラに関して、心あるサービスの会社としてナンバーワンになるということ。もう1つは、コーソルの社員であることが世界一幸せな会社になるということです。お客様だけでなく、社員にとっても働きやすい会社を目指しています。

社員の声を取り入れた取り組み

「共に解決する」姿勢に基づく取り組み

本日は、中小企業における男性育児休業取得推進の取り組み事例についてお話ししますが、前提として、男性の育児休業取得者を増やそうとして取り組んできたわけではありません。共に解決するという姿勢のなかで、対話の時間を大切にし、その時出てきた社員のニーズに対して、会社ができることを取り組んできました。

育児休業の取得率はシート1のとおりです。2021年度は、現時点で男性の育児休業取得率が100%、平均取得日数が58日となっています。まだ社員数も多くないため、毎年の母数が少なく偏りはありますが、さまざまな取り組みを実施してきた結果であると考えています。

社員の声から制度を導入

まず、具体的な取り組みについてお話しします。

「全社員面談」という、全社員が社長と年1回、人事担当と年1回、30分~1時間ほどの1対1の面談を実施しています。会社に対する考えをヒアリングすることで、社内の課題発見や、職場環境の改善を図っています。ヒアリングした内容から、社員のニーズを反映し、具体的には、給与テーブルの見直しや育児支援手当の導入、正社員登用の促進、時間有給休暇取得の制度の導入などを行ってきました。また、体調不良などによる早期退職を防ぐ役割も担っています。そのほかにも社員の声を聞くために、目安箱の導入や、従業員満足度調査を行っています。

次に、育児に関する制度についてです。当社では、育児短時間勤務制度が、子どもが小学校を卒業するまで利用できます。法律では3歳までですが、社員の声を受けて変更いたしました。延べ19人、現時点(2021年10月)では11人の社員がこの制度を利用しています。また、育児により時間制約のある社員が安心して働けるよう、時短勤務によって減る給与額の半分を補填する育児支援手当制度も導入しています。

在宅勤務制度は2017年のトライアル運用を経て、2018年から、育児、介護、傷病などの理由がある社員を中心に利用されてきました。2019年10月時点では、社員全体の15%程度が利用していましたが、コロナ禍に伴い、全従業員が在宅勤務をできる状況となりました。現在検討中ですが、今後も在宅勤務とオフィス勤務を併用するハイブリットな働き方を想定しています。

男性に向けた育休の推進

経験者の話で仕事と育児の両立するイメージを共有

ここまでの制度は、特に男性向けというわけではありません。ここからは当社の男性社員に向けた取り組みを紹介します。

男性社員から、育児休業に関して、興味はあるけれども、実際取るにはどうしたらいいのかという声があがったので、社内で座談会や育児休業セミナーを開催しました。座談会は、実際に育児休業を取得した男性社員によって実施し、その様子を社内報に公開することで、男女ともに育児を両立できるようなイメージを醸成していきました。

また、育児休業セミナーでは、実際に育児休業を取得した男性社員に登壇してもらい、取得までの流れや、制度について説明をしてもらいました。また、どの社員が取得したか分からないといった意見から、社内の育児休業取得者をリストアップして公開することで、話を聞きたい社員が直接気軽に相談できるような環境も整えました。こうした取り組みが、男性自身が育児休業を取れると思えるようになるとともに、育児休業の申出を快く受け入れてくれるような職場環境、風土の醸成につながっていると考えています(シート2)。

実際に取得した社員のコメント

第1子の誕生時に1カ月程度の育児休業を取得し、セミナーで講師も務めた社員は、「育児休業中は初めての子育てで大変だったけれども、育児を経験することでその喜びと苦労を知ることができました。また、妻と共通の認識を持てたことがその後の生活に大きく影響しました。子どもの成長を見守って、一緒に過ごす時間を持てたことは何よりかけがえのないものです」とコメントしました。育児休業を取得することは、男性自身にとっても、とてもよい影響があるのではないかと思っています。

仕事と育児の両立ができる風土へ

ここまでご紹介した取り組みの結果は、シート3のとおりです。

育児休業の取得率は5年前と比較して伸び、一方で、離職率は下がっています。当社では、離職の理由が育児という人はほとんどいないため、一概に男性の育児休業の取得率の向上が離職率の低減につながったとは言い切れませんが、何もしなければ退職につながっていた可能性もあります。そういった意味では非常に効果があったのではないかと捉えています。そして男性であっても仕事と育児を両立できるという風土が育っていると感じています。

社員全員が働きやすい環境を目指す

次は、私たちが考える取り組み推進のポイントについてです。

育児休業取得に限った話ではありませんが、制度があるというだけでは難しいと感じています。シート4にあるように、社員と対話して必要なニーズを把握すること、それを基に制度の導入や、改定をしていくこと、制度が定着するように風土を醸成し、運用していくこと、これらをうまく循環させることによって、社員全員が働きやすい環境をつくっていけると考えています。

一方で、会社が継続的に利益を上げていくためには質の低下というものは避けなければなりません。育児休業取得者自身が業務の可視化や効率化を図って、自分でなくてもできることを増やし、業務を共有していくこと。会社として、誰が抜けても、品質を担保できるような仕組みをつくることも大切だと考えています。お客様に質の高いサービスを継続的に提供していくこと、社員全員にとって働きやすい環境をつくっていくこと、その2つを両立するために、個人と会社の両方が協力して取り組んでいく必要があると思っています。

今後の展望

お互いが協力し合える会社

最後に、今後の課題を3点お話しします。

1つ目は、法改正に伴う仕組みの整備です。今までは風土と雰囲気で取得を推奨してきましたが、今後は育児休業取得を働きかけることが義務となります。誰でも同じように対応できるよう、社内に仕組みを整えていくことが非常に大切だと考えています。

2つ目は、風通しの良い風土を維持することです。ここまで社内で育児休業が浸透したのは、社長や社員同士の距離が近いという、中小企業ならではの利点を生かせたからだと思います。今後、従業員数が増え、企業規模が大きくなっても、社員の声が届く風通しのよさを維持し続けることが大切だと考えています。

3つ目は、ほかのメンバーの納得感です。多くの会社が抱えている課題だと思いますが、休みに入る人の補填というのは、決して容易ではありません。現在も運用していますが、人事評価の仕組みに反映するなど、サポートするメンバーも納得できるような仕組みを整えていくことが大切だと考えています。

今回は、育児についてお話ししてきましたが、育児に限らず、介護や傷病での休職などは誰にでも起こり得ることです。事前にタイミングが分かる育児とは異なり、介護や傷病は突然起こる可能性も高いです。また、長めに休暇を取ってリフレッシュしたい社員もいますし、今後はオフィスと在宅の両方を活用した働き方も増えていきます。そうした個人の置かれている状況や働く環境がさまざまになっても、お互いが協力し合い、それが評価される、そんな会社であり続ける必要があると思っています。

当社は男性の育児休業取得者を増やそうとしたわけではなく、共に解決するという姿勢のなかで、社員との対話を大切にし、さまざまな取り組みを実施してきたことが、このような結果につながっていると思っています。まだまだの部分はたくさんあり、時とともにニーズも変わってくることが想定されます。社会、お客様にクオリティの高いサービスを提供し続けられるよう、これからも社員との対話を大切にし、共に解決していきたいと思っています。

プロフィール

松浪 暁子(まつなみ・さとこ)

株式会社コーソル 支援本部 管理部 部長

大学時代は保育に関する研究を行い、保育士資格も保有。コーソル入社後は、採用、経理、労務、セキュリティ、品質管理推進と幅広く業務に従事。2018年に設立した子会社コーソルカナダの立ち上げにも関与している、管理部門のスペシャリスト。入社15年目の現在、管理部 部長として時短勤務者含む部下6名をまとめつつ、経営に関わるBoardメンバーとして会社の基盤を支えている。キャリアコンサルタント国家資格保有。

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