事例報告2 積水ハウスグループにおける男性育児休業取得促進の取り組みについて

講演者
森本 泰弘
積水ハウス株式会社 ESG経営推進本部 ダイバーシティ推進部 部長
フォーラム名
第116回労働政策フォーラム「男性の育児休業」(2021年10月8日-11日)

積水ハウスは1960年に創立し、従業員数はグループ全体で2万7,000人を超える規模です。大手の住宅メーカーとして、建築工事の請負、施工、設計、監理、その他マンションや、都市開発なども手がけており、累積建築戸数は250万戸を超えます。積水ハウスグループではグローバルビジョンである、「『わが家』を世界一幸せな場所にする」を実現するため、ESG経営のリーディングカンパニーになるという目標を掲げています。そのESGのS(社会)に位置づけられたダイバーシティの推進として、女性活躍の推進、多様な人材の活躍、多様な働き方の推進──の3つの柱を軸に、従業員と企業が共に持続可能な成長を実践できる環境や仕組みづくりに取り組んでいます。男性従業員の育児休業1カ月以上の完全取得は、多様な働き方の推進の一環です。

1カ月以上の育児休業取得までの道のり

完全取得を目指すきっかけ

当社の男性育児休業取得促進の取り組みは2018年度から始まりました。2017年度にすでに取得率は95%ほどでしたが、平均取得日数がわずか2日で、いわゆる名ばかり育休というような状況だったのではないかと思います。このような企業が変貌を遂げたのは、スウェーデンの育児休業を取得する男性、「ラテ・ダッド」がきっかけでした。

2018年5月に、社長の仲井がスウェーデンのストックホルムに行ったとき、ベビーカーを押している親のほとんどがパパだったことに衝撃を受け、その夜に政府関係者に話を聞いたところ、スウェーデンではパパが実質上3カ月の育休を取ることが当たり前であるというような話を受けました。帰国後すぐ、積水ハウスの現状について議論し、1カ月であれば育児休業を取得できるのではないかという結論に至り、2018年7月に、社外に向けて完全取得の宣言をしました。その後、9月1日に運用開始という急ピッチで制度の設計を進めていきました。

新たな制度の導入

取得対象者は、3歳未満の子を持つ積水ハウスグループの従業員で、全員に1カ月以上の育児休業の取得を推進しています(シート1)。経済的な不安も抱える人もいるため、最初の1カ月は会社からお金を出す、有給扱いとしました。これまで女性が育休を取得する際は、会社から給与を出していませんでしたが、このタイミングで男女ともに、最初の1カ月を有給扱いにし、2カ月目以降は育児休業給付金の申請をすることに変更しました。また、大きな特徴として、家庭の事情や会社の都合に合わせて最大で4回の分割取得を可能にしました。

新しいマインドへ意識改革

完全取得を目指すにあたって、一番重要で難しい部分は意識改革でした。運用開始の1カ月後、2018年10月に社内でフォーラムを開催しました。取得対象者およびその上司、約1,900人をウェブでつないで、先ほどのスウェーデンでのエピソード、それから、社長がどういう思いで、男性の育児休業の取得を促しているのかという熱いメッセージを発信しました。さらに、ファザーリング・ジャパンの安藤哲也代表を招き、男性が育休を取得するメリットや意義を、分かりやすくお伝えいただきました。そのほか、各種研修や委員会などでも意義や目的などを浸透させていきました。その結果、従来のマインドから新しいマインドに徐々にシフトしていきました。

当初は、年休も取得が難しいのに育休なんて取れるわけがない、妻が専業主婦なので、私は育休を取るつもりはない、などの声が多くありました。しかし、このフォーラムをとおして、やはり父親が子どもに与える影響や役割は重要であるということ、妻の仕事の有無にかかわらず、育児・家事をシェアすることは家族の未来像に好影響を与えるということ、そして、父親から育児を受ける子どもの権利を勝手に放棄しているのではないかというマインドに変わっていきました。

育休推進を支える制度

管理の効率化のためシステムを導入

当初は制度の設計が急ピッチで、紙のやり取りが多く、取得対象者や管理者の手間が多かったため、システム化をどんどん進めました。特に育休のシステムと以前からある勤怠システムを連携させたことで大きく手間が省けました。また、当初は完全取得に向け、リストを全部チェックして、取得申請しない人に電話やメールをしていましたが、現在は、子どもの2歳の誕生日を過ぎても、計画書を出していない人のパソコンに、自動的にアラートを出すという仕掛けも導入しています。

社内で周知・共有する

運用当初からポータルサイトを開設し、取得のフローや、ガイドブックなどを掲載しています。そして、積水ハウスのイクメンたちというテーマで、さまざまな職種ごとに取得者の事例もあげていきました。取得しづらい職種のイメージがある営業でも、優秀な成績を収めている人がしっかりと育休を取っている事例を紹介し、誰でも頑張れば取得できるということを伝えていきました(シート2)。

そして、ガイドブックも作成しました(シート3)。休業取得者には取得後に、本人とそのパートナーにアンケートをお願いしています。その結果を基に、先輩たちの失敗談や、ママからの感謝だけではなく、ダメ出しエピソードも含めて記載しています。休業を経て得られた学びや気づきを紹介して、いかに男性の育児休業の取得が仕事と家庭に有意義なものであるかということを理解してもらうために作成しています。

さらに、シート4の「積水ハウスのパパたち写真展」というイベントも開催しました。ラテ・ダッドのつながりで、スウェーデン大使館から、一度スウェーデン大使と仲井社長で対談しませんかというお声がけをいただきました。そのとき開催されていた「スウェーデンのパパたち写真展」を見た社長の仲井が、積水ハウスでもやりたいということで実現したのがこのイベントです。普段はバリバリ仕事をしている男性社員が、家に帰ると、子どもを寝かしつけているつもりが、自分が寝かしつけられているというような、ほのぼのとした写真を社内で共有しました。いつも一緒に働いている仲間にも大切な家族がいることを認識することで、職場で助け合いの心が生まれてくるというところも狙っています。今年に引き続き、来年も開催予定です。

家族と職場で休む準備を行う

また、シート5の家族ミーティングシートというツールをご紹介します。育児休業を取得検討するにあたって、この家族ミーティングシートを家に持ち帰り、家族で話し合いをしてもらいます。育児休業をいつ取得したいのか、なぜ取得したいのか、さらには、家事や育児の分担についてこれまでがどうだったのか、育休中はどうしたいのか、育休が明けた後はどうする予定なのかということを家族で話し合って、見える化をしていきます。

これを経て、次はシート6の取得計画書を会社に提出します。取得時期や、一括、分割などの取得パターンを記入したうえで、次は自分の担当業務の引き継ぎについて、上長としっかり面談して、書き込んでいきます。そして、いったん家に持ち帰り、パートナーに見せて、職場で休む準備をしていることを分かってもらい、コメントと署名をもらったうえで、会社に提出するというプロセスを踏んでいます。パートナーにもしっかりと休む準備をしているということを伝えることが重要だと当社は考えています。

産後8週期間内で柔軟な休業日の設定

さらに、2021年4月からオプションを新設しました。産後8週期間内に1日でも育休の取得を希望する方、かつ、その期間内で家族の事情に合わせて1日単位で柔軟に取得したいという方に、このオプションを適用して運用しています。これで産後8週期間における休業取得の柔軟性をアップさせました。

産後8週期間としたのは、この期間は特に、ワンオペ育児などにより、産後うつになってしまう恐れがあるからです。社員およびその家族をしっかりとサポートし、守るという意味でも、産後8週期間中にパパが育児、家事を一緒にすることが重要だということで設定しました。また、育児スキルの習得はスタートが肝心です。ママは出産をしたら、自動的に育児のスキルもインストールされると思っている男性もたまにいますが、ママも子育て初心者で不安だらけです。そこでパパもママも一緒に育児をスタートすることがかなり重要であることを伝えています。

男性育児休業の取得状況

取得状況はシート7のとおりです。運用開始以降、累計で取得対象の男性社員は2,000人を超えました。その中で取得期限を迎えた男性は、約半分の1,052人で、その全員が1カ月以上の育休を取得し、取得率は100%です。

取得完了者の年齢構成は、30代が65%、40代が24%と、30代、40代が多くを占めています。取得パターンについては、4分割が一番多く67.1%、一括取得は5.9%で、もっと伸ばしていきたいと考えています(シート8)。

出生から最初の休業日取得までの期間は、産後8週までに休業を開始する人が23.8%です。現在、4月以降に出産を迎えた男性社員の113人のうち、すでに計画書を提出した人が34人、さらにそのなかで先ほどご紹介した、2021年4月から始まったオプションの、産後8週休の利用申請者が20人、利用率が57.1%と、まずまずの滑り出しかと思いますが、もっと増やすために検討しているところです(シート9)。

男性育児休業に対する評価

アンケートでは取得して良かったと高評価

取得後アンケートについてもご紹介します。取得者本人の総合評価として、良かったという回答が3年連続で9割を超え、2021年は98.4%ということで、かなり高い結果になっています。2021年は、男性育休を部下に取得させた上司に対して、取得させて良かったかどうかも聞いてみたところ、92.3%と、高い数字を出せてよかったと思っています(シート10)。

組織としての協力体制も93%と、高い数字を得ることができ、職場でのコミュニケーションも、5割以上がコミュニケーションを取りやすくなったとする回答を得ています。それから、職場の風土が変わってきたかという問いに対しては、変わってきたという回答が6割から7割と、少しずつ増えてきているように感じています(シート11~13)。

シート14、15は、先日発行した「男性育休白書2021」世代間ギャップ調査の内容と、同じ質問で社内の回答を比較したデータです。世間一般の経営者・役員では、男性の育休取得に賛成か反対かという問いに対して、4人に1人が反対という回答ですが、積水ハウスでは、役員・部長クラスのほとんどが賛成で、世間と積水ハウスのギャップも見られました。2022年4月から始まる、制度の周知と取得の働きかけ義務化についても聞いてみたところ、経営者・役員の4人に1人が必要ないという回答ですが、積水ハウスの役員・部長クラスでは、ほとんどの人が必要と回答しています。ここまで約3年、男性の育児休業取得促進をしてきましたが、こういったマネジメント層の意識改革にもつながっているのではないかと感じています。

育児休業が家庭や仕事に価値をもたらす

最後に、男性の育児休業取得促進がもたらす価値についてお話しします。従業員本人の幸せや、家族の絆を第一に考えて制度の推進を図っていますが、これによって、仕事の見直しや、部下の育成、それから、助け合いの風土の醸成などにもつながっていきました。そういった企業では人材が定着したり、新卒採用でも優秀な人材が入ってきてくれたりなど、ブランド価値の向上にもつながっていくと思います。

また、住宅メーカーですので、育児休業を取得経験した営業や設計、現場監督が自分の経験を盛り込み、子育て世代のお客様に共感を得ながら、いろいろな提案ができるということにもつながっていきます。そして、女性活躍や、少子化対策にもつながっていくだろうと考えています。

あらためて言いますが、積水ハウスグループのグローバルビジョンは、「『わが家』を世界一幸せな場所にする」です。これを実現するためには、まずは従業員、それから、その家族に幸せになってもらいたいということで、これからもダイバーシティを推進していこうと考えています。

プロフィール

森本 泰弘(もりもと・やすひろ)

積水ハウス株式会社 ESG経営推進本部 ダイバーシティ推進部 部長

1997年に積水ハウス株式会社に入社。戸建住宅・賃貸住宅の営業を経て、2001年より広報部でプレスリリースの配信や報道機関からの取材依頼への対応を担当。2012年より総務部で災害対策をはじめ通信環境・機器等の改善を担当。2018年からはダイバーシティ推進部で女性活躍の推進、働き方改革、男性の育休取得促進等を務める。趣味は毎週末のランニング。月に100km走ることも。

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