事例報告1 日本生命のDiversity & Inclusion──多様な人材の多彩な活躍の推進

講演者
宇田 優香
日本生命保険相互会社 人材開発部 輝き推進室 室長
フォーラム名
第116回労働政策フォーラム「男性の育児休業」(2021年10月8日-11日)

当社の従業員数は約7万6,000人で、そのうちの9割の約6万9,000人が女性です。営業職員数は約5万5,000人で、全国に1,521の営業拠点があり、1人の営業部長が20~50人程度の営業職員を日々マネジメントしています。

当社は株式会社ではなく、相互会社という形態で、共存共栄、相互扶助を理念としています。創業以来大切にしてきたことは、まさに人です。人を支えるのもまた人ということで、中期経営計画でも、人財育成を経営基盤の1つとして位置づけ、社長が座長を務める「人財価値向上プロジェクト」を通じ、多様な人材の多彩な活躍を推進しています。

男性育休100%取得推進取り組みについて

男女ともに活躍できる組織にするため

当社が2013年度から取り組んでいる男性育休100%取得推進取り組みについて紹介します。

当社では、ダイバーシティ推進方針のもと、永きにわたりお客様を支える社会的使命を全うするために、多様な人材が多彩に活躍し、持続的に成長する企業を目指しています。従業員の9割を占める女性の活躍がなくてはならず、ダイバーシティ推進取り組みも女性の活躍推進からスタートしました。

女性活躍推進については、女性が長く働くために両立支援制度の充実から始まり、キャリアを広げるための活躍領域を拡大していきました。2016年に行動計画として、「管理職比率を20%以上、2020年代に30%」という目標を設定し、2020年度初めには、21.2%と目標を達成しました。今後は「女性管理職の比率を2020年代に30%とすることを目指し、女性部長相当職比率を2030年度初めに10%とする」目標も掲げ、管理職候補層の裾野拡大に取り組みつつ、管理職登用後の育成を強化することで、女性のさらなる経営参画を目指しています。

そして、女性活躍推進には男性や管理職を含めた全従業員の意識と働き方を見直していく必要があるという課題認識のもと、男性育休100%取得推進取り組みを始めました。この取り組みの出発点は男女ともに活躍できる組織にすることでした。

8年連続で取得率100%を継続

男性育休100%取得推進取り組みは2013年度から開始し、現在(2021年10月)も8年連続で取得率100%を継続しています。継続のポイントは3つ全てが機能したことにあります。

1つ目はトップのコミットメントです。8年前はまだ男性育休に積極的に取り組んでいる企業は少なかったかと思います。組織や風土を変えるためには一部の人が取得しても意味がなく、100%を実現することが重要だということを繰り返し発信しました。取得期間を1週間程度から始めたのも、対象者全員が取得することにより、意識、組織風土を変えることを目的としたためです。

2つ目は、管理職の意識です。トップが発信しても、対象者本人は本当に育休を取っていいのかと不安になります。仕事の分担や育休前後の引き継ぎも発生するので、管理職が職場におけるサポート体制を構築するよう促しています。また、取得計画は人事部門と共有し、実際に取得するまで人事部門が管理職を通じて徹底フォローしています。

最後に、本人の意識・行動です。ハンドブックや体験談などを社内報やイントラネットで発信し、本人の意識・行動を変える手助けをしています。

これらの取り組みを地道に続けることで、累計で約1,900人の男性が育休を取得しました(シート1)。男性従業員の約4人に1人に相当し、当社で普及のための分岐点と言われる30%に近づいてきたことは、8年間継続してきた意義があったと思っています。

今では取得をすることが当たり前の風土となりましたが、取り組み開始時の現場の反応はかなり厳しいものでした。特に営業現場の責任者を中心に、「育児休業なんて取れるわけがない」という声が多数寄せられました。しかし、男女ともさらに活躍できる会社にするという目的を、経営トップ自ら発信しました。そこから営業現場のキーパーソンが取得することで、サポート体制についての工夫や整備も進み、それを人事部門が発信することにより、営業現場で育休を取得する風土が広がっていきました。

人事部による所属長を巻き込んだフォローアップ

人事部門によるフォローについてご説明します。当社では、年度初めに夏休みなど年間の休暇予定を全従業員が人事部門に報告します。そのなかで当年度中に育休の取得期限を迎える職員と所属長に対し、人事部門から取得予定日の報告を求めています。これに加えて、支社や営業部所属の対象者には、人事部門に在籍する支社長経験者から所属長に個別に連絡することにより、徹底を図っています。そして、取得予定日の3カ月前、1カ月前に人事部門から申請手続きを本人と所属長宛てに案内しています。このように所属長を巻き込みながら、全社で取得へ向けたフォローを行っています。

シート2は、2020年12月にマスメディアから取材を受けた内容について社内発信した事例です。ポイントは、本人の意識・行動の促しに加え、下段の支社長コメントです。現場のトップである支社長のメッセージを社内向けに繰り返し発信することで、現場の管理職が安心して育休を取得できる風土醸成につながると考えています。

効果としてはまず取得者本人の意識が変化

男性育休の効果として、まず取得者本人の意識の変化があげられます。取り組み開始前は会社の方針もなく、育休など考えられなかったという意識から、また子どもが生まれたら育休を取りたい、育児・家事に積極的にかかわろうと思った、早帰りのために業務効率を改善するようになったという変化が見受けられました。

次に、職場における変化です。育休が取りづらい雰囲気や、育児休業をサポートする意識が低いという環境から、男性の育児休業に限らず、全般に休暇や休業を取得しやすい雰囲気になった、所属長を中心に休業中のサポート体制を構築するようになった、といった変化がありました。また、たくさんの女性を部下に持つ営業部長からも、育児との両立への理解が深まり、モチベーション向上や組織強化につながったといった声があがりました。

最後に経営的な視点です。この取り組みをとおして、女性を取り巻く男性や管理職の意識や行動が変わり、女性活躍がさらに促進しただけでなく、優秀人材の確保、採用力の強化といった効果がありました。社外からの評価もいただきました。

新たな男性育休取得推進取り組み

一人ひとりのニーズに合わせた「男性育休+α」

ここからは、フォーラムのテーマでもある今般の法改正を含め、世の中の男性育休に対する動向をふまえた、当社の新たな男性育休取得推進に向けた取り組みについてお話しします。

育児・介護休業法の改正にあたっては、いわゆる男性版産休の新設など、取得率や取得期間に加え、8週以内といった取得時期についても注目されています。当社でも、2013年から男性育休取得推進に向けた取り組みを開始しましたが、さらなる男女双方の働き方理解の促進と、男性職員自身のライフサポートの実現を目指すべく、新たな取り組みとして、「男性育休+α」の運営を今年度(2021年)6月から開始しました。

シート3が当社の新たな男性育休推進の取り組み、「男性育休+α」の内容です。育休取得に際し、①~③のなかから1つ以上を選択し実施する運営を行っています。

1つ目は、育児休業を産後8週以内に取得すること。2つ目は、連続10日以上の育休を取得すること。3つ目は、3カ月間の期間、週に1回曜日を設定し、16時早帰り、または在宅勤務とする育児参画デーを設定することです。育休取得した男性職員へのアンケートなどから、家族構成や共働きの状況などが、世帯ごとにさまざまであることを実感し、より一人ひとりに合った実効的な取得を促進していくため、一律でなく選択制としました。

新たな人事部門によるフォロー

また、2021年度から配偶者の出産予定日を人事部門に報告する運営を新設しました。今般の法改正により、男性版産休と出産直後の休業や情報提供の義務化など、これまで以上に早期に男性職員の状況を把握しておく必要があります。そのなかで、実務面での人事部門によるフォローもより強化して運営しています。強化したポイントは、配偶者の出産予定日の報告です。まず、男性従業員は、年3回の所属長面談時に配偶者の出産予定を報告し、さらに人事部門にも、出産予定日3カ月前に報告するというものです。人事部門はこの報告を受け、本人ならびに所属長へ、男性育休+αの取得予定日を求める案内を行います。その際、家族と対話してもらうことを目的に、育児・家事に向けたハンドブックなどによる情報提供を行っています(シート4)。

運営を開始して、9月で4カ月目となりますが、約200人の職員から取得予定の報告がありました。取得した職員からは、8週以内の取得を意識することによって、出産直後の大変な時期の育児を共有できた、産後うつなどの母体保護への理解が深まったという声や、在宅勤務を活用した育児参画デーの設定により、通勤時間やお昼の時間など、これまで捻出できなかった時間を丸々育児・家事に有効活用でき、子どもと一緒にいる時間が増えて嬉しいといった声も出ています。選択制にすることで、男性職員自身が考え、自発的に行動することを促し、男性職員とその家族のワークライフサポートや、さらなる働き方の変革につなげていきたいと思っています。

「ニッセイ版イクボス」による職場の変革

最後に、管理職の意識・行動改革についても説明します。男性育休取得推進にあたって、管理職の意識行動改革は重要な要素ですが、当社では、「ニッセイ版イクボス」という、管理職が組織のキーパーソンとして、所属レベルで人材育成、環境整備、風土づくりを進めることを通じ、全社としての生産性向上を図る取り組みを推進しています。

一般的なイクボスとは、部下の育児を応援する上司というイメージかと思いますが、「ニッセイ版イクボス」は、もう少し幅広い概念で捉えています。具体的には、管理職が取り組むべき具体的な行動を4つのイクジという形で示しています。もともとの意味である部下のワークライフマネジメントをサポートする「育児」に加えて、次世代育成に注力する「育次」、闊達な組織風土をつくる「育地」、そして、自らも成長する「育自」です。

シート5がイクボス取り組みの全体像ですが、イクボスは年度初めに取り組み宣言を行い、実行状況を部下の意識実態調査やストレスチェックの回答を基にPDCAサイクルを回しています。世の中の変化や人材の多様化に伴い、マネジメントも複雑化していますので、人事部門としては、イクボス向けのマネジメントセミナーやコロナ禍の新たなコミュニケーション機会の創出を目的とした取り組みなどを、毎年試行錯誤しながら実施し、管理職のサポートを進めています。

以上が当社の取り組みの説明です。社会を取り巻く環境は大きく変化し、当社の取り組みもまだまだ道半ばだと思っています。お客様と社会の「今日」にしっかりと寄り添い、安心した「未来」をお届けし続ける企業であるために、これからもできる限りの取り組みを全職員で進めていきたいと考えています。

プロフィール

宇田 優香(うだ・ゆうか)

日本生命保険相互会社 人材開発部 輝き推進室 室長

1997年日本生命保険相互会社入社。大阪阪南支社、アフターサービス組織推進を経て、代理店営業に従事。その後、全国の代理店担当者の育成専管組織の立ち上げを担当、営業担当者の人材育成を担うと共に、現地に育成専門職務を新設する等、人材育成の体系化を推進。2020年より輝き推進室室長としてD&I推進を担当。生命保険会社として、永きにわたりお客様を支える社会的使命を全うするためのダイバーシティ推進に取り組む。一児の母。

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