基調講演 育児・介護休業法の改正について──男性の育児休業取得促進等

講演者
古瀬 陽子
厚生労働省 雇用環境・均等局 職業生活両立課長
フォーラム名
第116回労働政策フォーラム「男性の育児休業」(2021年10月8日-11日)

仕事と生活の両立をめぐる現状

出産後にまだ半分の女性が辞めている

最初に、仕事と生活の両立をめぐる現状をデータで示したいと思います。シート1の左側の図は、第1子が生まれる前後で仕事を辞めずに続けている女性の割合です。出産前に仕事をしていた女性のうち、仕事を辞めずに続けている女性の割合は長らく4割前後だったのですが、直近の数字では5割を超えており、上昇傾向にあります。

ただ、裏返して言えば、まだ半分は辞めているということになります。なぜ、妊娠・出産を機に退職したかという理由を、右側の図でみると、複数回答で最も多かったのは、「仕事を続けたかったが、両立の難しさで辞めた」で4割超となっています。具体的にその内容を尋ねると、「気力・体力がもたなかった」「勤務先に両立を支援する雰囲気がなかった」「制度を利用できそうになかった」といった回答があがりました。

育児休業の取得率では男女に大きな差

次に、シート2の1番左のグラフをご覧ください。これによると、日本の夫の1日あたりの家事・育児関連時間は1時間程度で、国際的にみても低い水準となっています。一方、その右側のグラフをみると、夫の平日の家事・育児時間が長いほど、妻の出産前後の継続就業率が高くなっており、また、第2子以降の出生割合も高くなるというデータがみてとれます。

ところが、わが国の育児休業の取得率は、男女で大きな差があります(シート3)。2021年7月に公表したデータでは、男性は12.65%で、これまでに比べると上昇はしましたが、女性と比べるとまだまだ大きな開きがあります。

また、取得期間をみても、女性は6カ月以上の取得が9割近くとなっていますが、男性では5日未満が36%で、8割の人が1カ月未満の取得となっています(シート4)。

男性は利用したいのに希望がかなわない

では、なぜ、男性の取得率が低いのでしょうか。シート5にあるように、育児のための休暇・休業を希望していた男性労働者のうち、育児休業制度の利用を希望していたのにできなかったという人の割合は、約4割にのぼります。男性も育児休業を取りたいのだけれども、その希望が十分かなっていないという現状が読み取れます。

また、男性が育児休業を利用しなかった理由についてみると、「収入を減らしたくなかったから」、「職場が育児休業制度を取得しづらい雰囲気だったから、または会社や上司、職場の育児休業取得への理解がなかったから」、「自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから」、「残業が多い等、業務が繁忙であったから」といった内容が多くなっています。

改正前の制度でも、子どもが原則1歳になるまで、保育所に入れないなどの場合は最長2歳まで、育児休業の取得が可能となっています。小学校に上がるまでの子どもの看護休暇については年5日、子どもが2人以上の場合は年に10日まで取得できます。3歳、または小学校就学前の子どもがいる労働者が請求した場合の、所定外労働、時間外労働、深夜業の制限もありますし、また、3歳までの子がいる労働者の短時間勤務の措置も講じており、こうした内容によって、育児と仕事との両立に関する制度は充実化が図られてきました。

しかし、先ほど説明したとおり、実際の育児休業取得率や取得期間には男女で大きな差があり、男性も育児休業制度を利用したいと思っているけれども、その希望が十分かなっていないという状況にあったわけです。

労働政策審議会の建議

審議会で出生直後に取得しやすい枠組みを検討

男性が育児休業を取得しない理由として、業務の都合や、職場の雰囲気などがあげられていたことから、業務との調整がある程度しやすく、柔軟で利用しやすい制度、また、育児休業の申出をしやすい職場環境の整備が必要となります。また、実際に育児休業を取得した男性の多くは、子の出生直後の時期に取得をしており、この時期の取得ニーズが高くなっているということが言えます。

このため、労働政策審議会での検討では、育児のスタート時期でもある、子どもの出生直後の時期の休業の取得について、現行の育児休業よりも柔軟で取得しやすい枠組みを設けるということが考えられました。

また、育児休業に関して、個別の周知や働きかけなどの取り組みがある場合は、そうでない場合に比べて、育休を取得して継続就業する割合が高くなる一方で、そうした企業からの働きかけがなかったという男性労働者が6割いたとの調査結果もあり、育児休業が取得しやすい環境の整備のためには、事業主による労働者への個別の働きかけや環境整備を進めることが有効、とされました。

育児休業を分割取得できるようにすべきと指摘

さらに、子どもが生まれた直後だけではなく、その後も、夫婦交代でそれぞれまとまった期間の休業を取得するということも考えると、育児休業を分割して取得できるようにすべきとの指摘や、企業に育児休業の取得率の公表を促すこと、そして、雇用形態にかかわらず休業を取得しやすくしていくことが重要といった指摘が審議会で出されました。

こうした取り組みによって、男性の育児休業取得を促進することは、休業を取得したいという男性の希望をかなえるとともに、第1子出産前後で女性の約半数が退職をしているという現状のなかで、女性の雇用継続にも資すると言えます。

また、夫の家事・育児時間が長いほど、妻の継続就業率や第2子以降の出生割合が高くなるというデータを紹介しましたが、男性が子どもの出生直後に休業取得をして主体的に家事・育児にかかわる、そして、その後の家事・育児につなげるということは、女性の雇用継続、あるいは夫婦が希望する数の子どもを持つということにもつながります。このような趣旨で、審議会の建議をふまえて育児・介護休業法の改正が行われました。

育児・介護休業法改正の概要

制度周知や意向確認も義務付け

シート6が、改正法の全体像になります。1と2に書かれている項目が改正の柱であり、男性の育児休業取得促進のために、子どもの出生直後に取得しやすい枠組みをこれまでの制度に上乗せをして創設することにしました。

また、育児休業を取得しやすい雇用環境整備と、妊娠や出産等の申出をした男女労働者に対する個別の制度周知、休業の意向確認の措置を義務付けました。

このほかの主な内容としては、通常の育児休業について、2回まで分割取得を可能としたほか、1,000人超の企業について、育児休業取得状況の公表を義務付けました。有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件も緩和しました。施行は、2022年4月から段階的に行われます。

「産後パパ育休」で8週間以内に4週間まで取得可能

制度改正の内容を詳しく説明していきたいと思います。まずは、1つ目の柱である、男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設についてです(シート7)。

この新しい制度は、法令的には出生時育児休業という名称ですが、より分かりやすい通称として、「産後パパ育休」と名づけました。今後この名称で広めていきたいと考えています。具体的には、まず、子の出生後8週間以内に4週間まで取得が可能となっています。子どもの出生後8週以内は、出産した女性は産後休業の期間中になりますので、この新制度の対象は主に男性ですが、女性も、養子の場合などは対象になります。

申出期限については、現行制度では原則1カ月前までとなっていますが、時期が短いことに鑑み、原則休業の2週間前までとしています。

ただし、職場環境の整備などについて、今回の制度見直しで求められる義務を上回る取り組みの実施を労使協定で定めている場合は、申出期限を1カ月前までとしてよいということにしています。どういったことを労使協定で定めておけばよいのかについては、①育児休業に関する定量的な目標を設定し、事業主の育児休業の取得の促進に関する方針を周知すること②1カ月前までに申出が円滑に行われるようにするための相談体制の整備、研修の実施などの職場環境の整備、労働者の配置その他の措置のうち、複数講ずること③労働者に休業取得の個別の働きかけを行うだけでなく、取得の意向について個別に把握するための取り組みを行うこと──の全てを定めることとしています。

分割して2回取得可能となったことで1歳までに計4回取得が可能

分割取得については、現行制度では、育児休業の分割取得は原則としてできませんが、新制度では、分割して2回まで取得することが可能です。通常の育児休業についても、今回の改正で分割取得を最大2回まで可能にしました。それによって、合計して、1歳までに4回まで取得が可能となります。

休業中の就業については、現行制度では、休業期間中に、あらかじめ予定をして就業することはできないことになっていますが、業務の都合で育休が取得できないという声が多かったこともあり、新制度ではここを柔軟にし、休業中でもあらかじめ予定を立てて働くことを可能にすることで取得しやすくしています。

具体的には、新制度では、労働者の意に反したものとならないよう、労使協定を締結していることを前提とし、さらに個別の労働者と事業主が合意をした範囲内で、事前に調整をしたうえで休業中の就労を可能としています。

これらの改正にあわせて、この産後パパ育休を取得した場合も、育児休業給付の対象になるようにしました。

休業中の就労は労働者から条件を申し出

この休業中の就労についてさらに詳しく説明すると、就労開始までの具体的な手続きの流れとしては、まず、労働者が就業してもよい場合に、事業主にいつなら就業可能か、また、何日であればテレワークを活用して就業が可能かなど、日時や就業場所などについて、労働者から労働条件を申し出ます。

次に、事業主のほうから、労働者の申し出た条件の範囲内で、候補日・時間を提示し、もし事業主が希望する日時がなければ、その旨を提示します。そして、労働者がそれに同意し、最後に事業主が同意を得た旨を労働者に通知するといった流れになっています。

また、育休中は休業することが基本になりますので、就業が可能なのは、休業期間中の労働日の半分まで、また、労働時間の半分までという上限を設けています。

環境整備として研修など選択して取り組むことを義務化

次に、2つ目の柱である、育児休業を取得しやすい雇用環境整備と、労働者への個別の周知・意向確認の措置の義務づけについて詳しく説明します。

新たに事業主に義務づけることとした措置が2点あります(シート8)。1つは、「育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の義務付け」です。現行では、研修等の取得しやすい環境整備について、特段の規定はありませんが、今般の改正で、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の措置として、研修や相談窓口設置など、複数の選択肢のなかから、いずれかの措置を選択して取り組むことが義務になりました。

もう1つの「妊娠・出産等の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け」ですが、労働者への個別の周知については、これまでは努力義務となっていましたが、個別の周知・意向確認の措置が義務となります。すなわち、育児、妊娠・出産等の事実について、労働者が申し出た場合、事業主は労働者に対して、個別に制度について周知をするとともに、これらの制度を取得するかどうか、意向確認を行わなければなりません。

また、2022年10月からは、新制度の産後パパ育休の制度が施行されますので、この新制度も含めて個別の周知の措置を行うことが必要となります。周知の方法については、面談での説明、書面による情報提供などのなかからいずれかを選ぶということにしています。

なお、指針においてはこの取得の意向確認をする際に、休業の取得を控えさせるような形での周知・意向確認は認められないということを定めています。

従業員1,000人超の企業は取得状況の公表を義務に

さきほど触れたとおり、現行の育児休業について、これまで分割できなかったものが、分割して2回まで取得が可能となります(シート9)。

育児休業の取得の状況の公表の義務付けについては、これまで、「プラチナくるみん」を取得している企業のみ、取得状況を公表することとされていましたが、公表義務を強化して、従業員1,000人超の企業を対象として、取得状況の公表を義務付けることにしました。

さらに、有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和は、育児休業ではこれまで①引き続き雇用された期間が1年以上②1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかでない──の2つの要件がありましたが、このうち①について、無期雇用者と同様の取り扱いとして、労使協定の締結により除外可能としました。②の要件は、引き続き残ります。

シート10は、ここまでの説明を図にしたものです。保育所に入所できない等の場合の育児休業の延長について、これまでは開始時点が子が1歳時点と1歳6カ月時点に固定されていましたが、開始時点を柔軟にすることによって、子が1歳から1歳6カ月、1歳6カ月から2歳までの途中でもそれぞれ交代が可能となります。

産後パパ育休の意図等

1つ留意点として申し上げたいのが、今回の新しく設けられた産後パパ育休については、出生後8週以内に利用できる、より取得しやすい柔軟な休み方の枠組みとして、これまでの制度に上乗せをして創設をしたものだということです。男性は生後8週までしか育児休業を取得できないというようなことでは全くありませんので、その点、誤解のないようにお願いいたします。

今回改正した指針においても、短期はもとより、1カ月以上の長期の休業を希望する労働者が希望するとおり申出をし、取得できるように配慮すること、という内容が盛り込まれています。

繰り返しになりますが、この産後パパ育休のうちに、夫婦での家事・育児を立ち上げていただき、その後の夫婦での家事・育児につなげていく、そして、生後8週経過後も、通常の育児休業を夫婦交代で取得をするなどしていただきたいと考えています。

周知・意向確認義務は2022年の4月から施行

施行に向けたスケジュールは、周知・意向確認義務が2022年4月から、出生時育児休業制度、現行の育児休業の分割については、2022年10月から施行することとしています。

また、取得率の公表については、2023年4月からになりますが、施行前までに、対象企業においては取得状況を把握していただく必要があります。

中小企業には好事例やリーフレットなどで支援

中小企業への支援については、審議会の建議においても、派遣等による代替要員の確保や、業務体制の整備等に対する取り組み支援などを行うことが適当とされており、相談対応、好事例の周知、活用しやすいリーフレットの資料の提供などがあげられているところです。

また、中小企業のための育児・介護支援プラン導入支援事業として、専門家であるプランナーが個別に支援を行っています。この支援は無料で、また、今すぐ育休予定の従業員がいるわけではないという場合でも、将来に向けた備えの取り組みに対しても支援が可能です。

引き続き中小企業を助成金でも支援

仕事と家庭の両立支援については両立支援等助成金を設けています。出生時両立支援コースでは、男性が育児休業を取得しやすい雇用環境整備に取り組み、中小企業の場合、出生後8週以内に開始をする連続5日以上の育児休業を取得した男性労働者が生じた場合に支給します。

また、育児休業等支援コースとして、円滑な育児休業の取得、職場復帰のための取り組みを行う中小事業主にも支援をしているところです。2022年度は、改正法の施行に伴い内容が変わる見込みですが、引き続き、中小事業主を助成金という形でも支援していきたいと考えています。

今般の改正については、現在、SNSや分かりやすいリーフレットなどを用いて周知を行っているところです。引き続き工夫をしながら周知を行っていきたいと考えています。男性の育児休業取得促進、また、男女問わず、ワーク・ライフ・バランスの取れた働き方ができる職場環境や社会の実現に向けて、皆様のご理解、ご協力をお願いいたします。

(※本講演の内容は、フォーラム開催後に確定した部分について、更新した内容を掲載している。)

プロフィール

古瀬 陽子(ふるせ・ようこ)

厚生労働省 雇用環境・均等局 職業生活両立課長

1994年労働省入省。大臣官房、女性局、2001年内閣府政策統括官(経済財政運営担当)付参事官室、2011年厚生労働省労働基準局、東京労働局、内閣府男女共同参画局推進課長などを経て2021年7月から現職。

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