事例報告 新型コロナによる非正規職女性への影響
──横浜市男女共同参画センターの取り組みから

講演者
植野 ルナ
公益財団法人 横浜市男女共同参画推進協会 事業企画課 課長
フォーラム名
第115回労働政策フォーラム「新型コロナによる女性雇用・生活への影響と支援のあり方」(2021年6月25日-29日)

本日は、新型コロナウイルス感染症拡大が非正規雇用の女性に与えた影響について、横浜市男女共同参画センター(以下、センター)の取り組み事例をもとに報告します。

初めに、当協会が管理運営するセンターについて紹介します。協会は、市内にある3つの男女共同参画センターを管理運営する横浜市の外郭団体です。戸塚区にある「男女共同参画センター横浜(通称、フォーラム)」は、1988年にオープンし、3館の中央館に位置づけられています。

センターは、地域の社会資源の1つとして、男女共同参画に関連するさまざまな事業を行っています。なかでも、雇用や就労分野については男女格差が大きいことから、女性に特化した就業支援事業に力を入れています。働く女性、働きたい女性の総合相談窓口「女性としごと応援デスク」を3館で展開しています。ほかにも、女性の起業支援、若年無業女性や非正規雇用で働くシングル女性向けのセミナーや相談会なども実施しています。

就職氷河期世代の非正規職シングル女性の調査

2014年度からシングル女性の調査を開始

2020年度に取り組んだ事業のなかから、3つの事例を紹介します。1つ目が、就職氷河期世代の非正規職シングル女性の調査です。

協会では2014年度から、35歳以上の非正規雇用で働く、子どものいないシングル女性の調査を開始し、その調査結果をもとに支援事業を継続して実施しています。2020年度から国が就職氷河期世代支援に大きな予算をつけたことから、この施策を活用して就職氷河期世代の支援プログラムを開発するために、協会が横浜市から委託を受ける形で、「就職氷河期世代の非正規職シングル女性の調査」を実施しました。

具体的には、2020年10月、就職氷河期世代のシングル女性に対し、正規雇用・非正規雇用合わせて300人にアンケートを実施しました。新型コロナウイルス感染症の仕事への影響を尋ねると、シート1にあるように、正規雇用と非正規雇用で結果に差がみられました。全体では「特に変化はない」との回答がほぼ半数に及んでいますが、非正規雇用者では、労働時間や出勤日の減少、月給の減少といった変化がみられました。

パート・アルバイトでは3割弱が労働時間の減少をあげる

雇用形態別に結果をみたのが、シート2になります。正規雇用では「特に変化はない」が56.6%と、ほかの雇用形態と比べても多いことがわかります。一方、非正規雇用者のなかでもパート・アルバイトでは、「労働時間の減少」が3割弱にのぼり、「月給の減少」はほぼ5人に1人があげています。

また、契約・嘱託、派遣社員でも、「労働時間の減少」や「出勤日の減少」「月給の減少」などの影響を受けている人が2割ずついます。「テレワークの導入」は正規雇用者や契約・嘱託・派遣でみられますが、現場仕事の多いパート・アルバイトではみられません。

非正規の50%は金銭的理由で病院を受診せず

過去1年間に、体調に不調を感じたものの、受診または治療しなかった健康の課題があるかどうかについても尋ね、「ある」と答えた人に受診しなかった理由を尋ねました。正規と非正規では回答にかなりの違いがみられ、特に「金銭的な余裕がないから」の回答割合は、非正規では50%と、2人に1人が回答しています。

これも雇用形態別にみたところ、パート・アルバイトでは「金銭的な余裕がないから」と回答した人が68.4%にのぼりました。コロナの影響により労働時間が減ったり、休業を余儀なくされた非正規雇用の女性たちは、医療へのアクセスがよりしにくくなっているのではないかと思われます。

≪コロナ下≫女性のしごとと暮らし電話相談よこはま

無料で電話相談できる窓口を2021年1月から開設

次に、2つ目の事例です。センターでは、働く女性、働きたい女性に向けて、女性としごと応援デスクという仕事に関する総合相談窓口を3館で展開しています。2020年度、応援デスクでは、新型コロナウイルスの拡大による影響を受けた相談が増加し、解雇や派遣の契約が切られて失業した、労働時間を減らされている、収入の減少、家計が逼迫しているといった相談が増えました。

こうした女性からの相談に対応するため、通話料無料で相談できる窓口として、「≪コロナ下≫女性のしごとと暮らし電話相談よこはま(以下、コロナ下女性相談)」を2021年1月に開設。週2回、火曜日と金曜日に実施し、2021年度も電話相談を継続しています。

コロナの影響で50代就労者の利用が増加

コロナ下女性相談には、1月~5月の間に136件の相談がありました。相談者の年代は50代が最も多く33.8%と3分の1を占め、40代が26.5%と続き、40代と50代で全体の6割を占めています。先ほど紹介した応援デスクでも、2019年度までは30代、40代の利用が最も多かったのですが、2020年度、コロナの影響が大きくなると、50代の就労中の人の利用が増え、かわりに30代の利用が減少するという傾向がみられました。

子育て期の30代が再就職や転職を見合わせている可能性があります。一方、50代で就労中の単身女性や、シングルマザーであるものの、子どもが18歳を超えたので児童扶養手当などひとり親の支援がなくなり、そのなかで仕事が減って困っているといった相談も入ってきています。

相談者の就業状況をみると、非正規雇用の人が29.4%と最も多いのですが、個人事業主・フリーランス(8.8%)や正規雇用(8.1%)からの相談もあります。ダブルワーク・トリプルワークの人からの相談もあります。非正規とフリーランス、派遣とアルバイトの掛け持ちなど、さまざまなパターンでダブルワーク・トリプルワークをしている人からは、そのうち1つあるいは全ての仕事がなくなって困窮しているといった相談が入ってきています。3月に入ってからは、仕事が見つからないといった相談が多く、4月以降もその傾向が続いています。

「シフトが減って貯金取り崩し」などの相談も

コロナ下女性相談に寄せられた相談内容を紹介します。「職場から休業手当は出さないといわれた」「シフトを減らされ、収入が減少。貯金を取り崩しているが、このままでは、生活ができない」「家賃が払えない。ローンが払えない」など、収入が減少して生活に困窮しているとの相談が多く寄せられており、フリーランスの人からは「持続化給付金を受け取ったが、もう底をつく。他の制度はないだろうか」といった相談が多く寄せられています。

高齢の親と同居していたり、自分に持病があるため外で働くのは難しいといった人もおり、「自宅でできる仕事はないか」という問い合わせも多いです。家族からの暴力やモラハラ、家族の自殺未遂などがあるなかで、メンタルがとても落ち込むなどといった相談も多く入っています。

単身女性へ「おこめ券」を配布

3つ目の事例を紹介します。今年3月に、横浜市社会福祉協議会(以下、市社協)との共催で、単身女性に「おこめ券」(5kg分)を配布するという取り組みを行いました(対象1,000人)。もともと市社協では、寄付金を活用して食料品を購入し、コロナの影響を受けて食に困っている学生やひとり親家庭に届けるという取り組みを行っていました。この取り組みを知り、その趣旨に賛同した横浜信用金庫からの寄付があり、おこめ券配布が実現しました。

協会ではこれまで、非正規雇用で働くシングル女性の調査や支援に取り組んできましたが、特にひとり暮らしの女性の貧困率が高く、また、そうした女性はさまざまな支援制度の対象になりにくいことを把握していました。コロナの影響を受けて経済的に困窮している女性が増加するなかで、地域とのつながりも薄く、孤立しがちなひとり暮らしの女性を支援の対象にしようと、市社協と決めました。

また、食料品ではなく、おこめ券を届け、相談窓口や支援窓口を取りまとめた情報紙を同封することで、男女共同参画センターをはじめとする地域資源につながるきっかけをつくることを目指しました。

おこめ券申込者の半数は20代~30代

この取り組みに申し込んだ人ですが、年代としては、10代~80代までと幅広く、20代と30代で半数を占めました。先ほど紹介した電話相談の利用が40代~50代で多いのとは対照的です。どこで知ったかの経路としては、横浜市広報課のLINEアカウントからの配信を見た人が最も多く、日頃支援の届きにくい若年層に情報が届いたことに大きな意味があったと思います。

生活費の状況に困っている人が半数弱

申し込み時に、困っている状況を尋ねると(複数回答)、「食費・交通費・日用品など、生活費に関すること」が47.9%で最も割合が高く、「収入に関すること」が40.4%、「体調・病気など、健康に関すること」が36.2%と続きます。

現在、困っている状況を、自由記述でも回答してもらいました。多く書かれていたことは、まず、収入の減少です。「シフト減で収入が減った」「勤務先の業績が悪化し、給料やボーナスが減った」「在宅勤務になったら一切残業代が支払われなくなった」「休業手当が出ているが、これでは足りない」「もともと低い給料がさらに減ってカツカツです」など。この「生活がカツカツです」という記述はとても多くみられました。

生活費の増加についての記述も多く、「マスクや消毒液といった衛生用品の支出が増加した」「自粛生活やテレワークで光熱水費が増加」「リモートワークでWi-Fi代がとてもかかるが、会社からテレワークの手当がない」といった内容がみられました。「家賃や税金等の負担が変わらない」「収入が減ったのに、市民税や国民健康保険料の額は変わらない」「家賃や生活費を払うと自由なお金はほぼ残らない」「ローンの返済が困難」「奨学金の返済が重い」といった、支出の額が変わらないといった声もとても多かったです。

頼れる人がいない地方から出てきたばかりの女性

そのほかでは、「食費・医療費等を削っている」「夕飯を食べない日をつくって節約している」「1日1.5食にしています」「通院・薬代が高いので、受診をためらう」「歯医者さんの受診を我慢している」といった内容や、「失業・解雇」「仕事が見つからない」「飲食業で失業した」「派遣・契約社員で、いつ雇い止めになるかわからない」「この3月で派遣の契約が終了するが、次がまだ決まらない」「解雇された」などがありました。「年齢的に仕事が見つからない」という記述は50代以上の人でとても多いです。

体調・メンタルの悪化もみられます。「病気療養中だが、コロナで治療がストップ」「自粛生活が続いて、人との交流が減って落ち込む」「鬱っぽくなっている」といった、人との交流が減って寂しい、落ち込むといった記載は若い世代で多く見られました。特に地方から進学や就職で横浜に出てきたばかりの女性では、周囲に頼れる人がいないなかで生活費に困窮し、メンタルに影響が出ている様子がうかがえました。

同封した情報ガイドに感謝の声も

おこめ券を受け取った人から受領の報告を受けたときのアンケートに記された感想も紹介します。「単身女性は行政の支援からいつも取り残されている気がしていたので、取り組みがうれしい」という声や、同封した相談先の情報紙(『"もしも"のための情報ガイド』)が心強く感じたという声をたくさんもらいました。申し込みをするのに簡便な方法を取ったことについて、ストレスフリーだったという感想もありました。

以上、3つの事例を報告しました。年代を問わず、非正規雇用で働く女性への影響がみられています。子育て期にある女性、家族と暮らす女性はケア役割が増大するなかで、減収や失業が家計に大きな影響を与えています。また、非正規で働く単身女性や、ひとり親の支援を受けられない、子どもが大きくなったシングルマザーの人は、さまざまな支援の対象になりにくく、孤立しがちです。協会では引き続き、非正規雇用で働く女性や困窮する女性たちの声に耳を傾け、支援に取り組んでいきたいと思います。

プロフィール

植野 ルナ(うえの・るな)

公益財団法人 横浜市男女共同参画推進協会 事業企画課 課長

2003年入職。女性の就労支援事業、市民協働事業等に携わる。「非正規で働くシングル女性(35~44歳)のニーズ・課題に関するヒアリング調査」(2014年)、「非正規職シングル女性の社会的支援に向けたニーズ調査」(2015年)を企画実施。調査結果を『シングル女性の貧困 非正規職女性の仕事・暮らしと社会的支援』(共編著、明石書店、2017年)にまとめる。2020年より現職。

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