事例報告 コロナ禍での生活困窮者の状況──もやいの活動から

講演者
大西 連
認定NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい 理事長
フォーラム名
第115回労働政策フォーラム「新型コロナによる女性雇用・生活への影響と支援のあり方」(2021年6月25日-29日)

「もやい」は日本国内の貧困問題に取り組む団体として、生活困窮者への相談支援や入居支援、居場所づくりや孤立している人に向けてのコミュニティづくり、生活保護や社会保障制度の提言などを行っています(シート1)。コロナ前は年間約4,000件の生活保護の相談や、入居支援事業として住まいがない方に対して延べ2,400世帯の連帯保証人、800世帯の緊急連絡先を引き受けていました。

新型コロナウイルスの影響

2020年2月以降にコロナ関連の相談が急増

当団体に最初にコロナ関係の相談が来たのは、感染者の報道がされ始めた2020年2月の終わり頃です。大規模イベントの自粛が要請された直後に、イベントの設営、解体、警備などに携わっていた日雇いや契約で働いていた人から、失業してしまったということで相談を受けました。ほかにも、小中高の一斉休校の要請があった際には、シングルマザーの人たちからの相談がありました。1回目の緊急事態宣言が発出された際には、飲食店で働いていた人や営業自粛となったネットカフェなどに寝泊まりしていた人、夜の街で働いていた人からの相談も多く寄せられました。

私たちも今回の相談状況は、場合によってはリーマン・ショック以上の大きな不況、雇用へのインパクトがあるのではないかと考えており、組織のあり方や相談体制を大きく見直して対応しています。相談活動については医師の指示のもとで感染予防を徹底していて、クラスターを起こさないための対策を行うことを大前提としていますが、プラスして、生活が困窮する人がかなり増えることを想定して、事業を増やして対応しています。

東京都庁下での食料品配布人数が300人超に

コロナ禍で拡大して行っている活動の1つに、新宿の東京都庁下で毎週土曜日に行っている食料品の配布と相談会があります。こちらはもともと別の団体が2014年から隔週で行っていましたが、2020年4月以降は当団体も合流して、現在は毎週土曜日に食料品の配布や医療・生活相談など、ワンストップの体制を整えて実施しています(シート2)。

2020年4月時点で訪れる人の数は100人ほどでしたが、徐々に増えて、6月の緊急事態宣言が解除された頃には180人ほどになりました(シート3)。その後、少し落ち着いたのですが、2021年1月くらいに初めて200人を超え、3月以降は300人を超えるのが当たり前の状況になり、5月29日には363人もの人が訪れました。

コロナ前は60人、70人ほどが普通だったので、この1年間でちょっと信じられないような人数が私たちのところに食料品を求めて訪れている状況です。これまでで食料品配布は1.2万人分以上、マスクは1.5万枚分を配布していて、いずれも昨年比2~2.5倍の人数になっています。

また、食料支援としてはほかにも、保証人を引き受けている500世帯へのお米10kgの提供や、野宿者支援団体、外国人支援団体などへの約5トンの物資支援も実施しています。

幅広い人に生活上の困難のリスクが

相談事業については、コロナ禍では例年の1.5倍以上の相談を受けています。不要不急の相談は少し待ってもらうようお願いしているのですが、それでもこれだけ増えているというのは私たちとしてもかなり大きな衝撃があります。相談に来る緊急性の度合いもまちまちで、「所持金が数百円しかない」「家賃滞納により追い出されて野宿に近い」といった状態の人もいれば、「仕事は何とかしているがこのまま貯金が減っていくと生活保護を利用しないといけない」というような状態で相談に来る人もいます。「休業補償などの支援情報を知りたい」といったニーズも増え、本当に幅広い人に生活上の困難のリスクが広がっていることを感じます。

また、入居支援事業については、2020年9月からアパート型のシェルターの運営を開始しています。アパートの部屋を借り上げて、住まいがない人が次の部屋を見つけるまで貸与するというもので、現在は9部屋を導入しています。こうした受け皿は既存の民間施設などでも実施していますが、複数人部屋のところや環境があまり良くないところも多く、若年層や女性は環境やプライバシー確保の面からも、そういった施設を利用することを嫌がる人もいます。また、今までこういった支援を利用したことがない方も多いため、よりアパートに近い環境の場所を提供しています。

政策提言の活動では、例えば私個人としては6月から内閣官房孤独・孤立対策担当室の政策参与に就任するなど、団体・個人としてさまざまな形でこのコロナ禍での困窮や孤独・孤立について発信しています。しかし、発信したことが政策に反映されるまでには、タイムラグがあると感じています。生活保護の制度でいうと、申請時に扶養照会という申請者の家族に対し扶養の有無を問う工程があります。本来なくても良いプロセスだと思いますし、実際に扶養照会されることを嫌がる人もいるので、そのような意見を取り入れて発信していますが、現時点では緩和措置にとどまり、なくなるという認識までには至っていません。そういった面が反映されないもどかしさも感じています。

コロナで増加した相談とその内容

非正規雇用者やワーキングプアに影響が

コロナ禍でどういう人たちが相談に来ているかというと、正社員で働いていた人からの相談はとても少ないです。私たちの支援現場のリアルとしては、ほとんどが非正規で働いていた派遣、契約、パート、アルバイト、日雇い、それから個人事業主だった人たちです。個人事業主といっても、手取りで20万円に届かないような、ワーキングプアと言われる状態の人がとても多くなっています。失業や収入の減少に陥ったり、家族の関係が崩れてそこにいられない、DV・虐待の問題などを抱えていて相談に来るといったケースが多くなっています。

逆説的な言い方をすると、こうした相談は景気が良いときには表に出てこなかった問題です。年収が200万円、300万円の人でも生きていくことはできますが、いろいろな生きづらさやしんどさ、リスクを抱えている人は一定数存在します。そういった人たちが、20万円、30万円の月収を稼げなくなったときに、ほかの支えを持たず、かなりダメージを受けてしまっています。収入の減少によってすぐさま貧困に陥ってしまうような脆弱性が、私たちの支援活動の対象には表れていると思います。

女性や若者の貧困もコロナ禍でより深刻に

今回は女性の雇用が大きなテーマなので、その範疇でお話しすると、私たちの相談現場でも、やはり女性や若者の相談がとても増えています。

まず、通常はホームレス支援に近いような路上での支援について、女性が相談に来ることは多くはありません。厚生労働省が発表している「ホームレスの実態に関する全国調査」では女性のホームレスは5%ほどとなっていますが、炊き出しなど、多くの人が集まる現場にはリスクを感じて行けないという実態が、女性や若者にはあります。

しかし、今回の新宿の東京都庁下の食料品配布に訪れた人のうち、2割弱は女性で、これは私たちにとってかなりショッキングでした。毎回ではないもののお子さんを連れて食料品配布に並ぶ女性もいて、私は10年ほどこうした活動をしていますが、初めてそういった人を見かけましたし、裏を返せば、通常来ない場所にも来ざるを得ないほど追い詰められている状況になっていると感じました。訪れるのは困っている方のなかでもごく一部だと思うので、表に出てこない部分も含めれば、生活が苦しい人は膨大な数が存在しているのではないかと思います。

また、コロナ禍以前では、当団体に相談に来る人のうち20~30代の若者は3割ほどでしたが、コロナ禍の現在は、若年層の相談は全体の4割ほどに増加しています。特にDV・虐待、それも、身体的な暴力だけではなく、精神的、性的、経済的な暴力を含めた、家族やパートナー、元パートナーからの暴力を訴える女性が多くなったと感じます。

テレワークにより家で過ごす時間が増え、これまでは耐えられていた暴力が耐えられなくなったなど、新たに発生したというよりは、もとからの課題がコロナの影響でよりダメージを与えるようになって、困窮につながってしまっています。入居者支援で貸し出しているシェルターも、利用者の多くは女性か若者で、そういった方への支援のニーズは高まっているけれども、受け皿(特に公的な)がなかなか用意できていない現状があると思います。

短期の失業を前提としないセーフティーネットが重要に

ここまでみてきたとおり、コロナによる影響は必ずしも平等ではなく、もともと生活が厳しかった女性、若年層で、非正規雇用や社会的に支えが少ない人、脆弱な立場にいた人により大きなダメージが及んでいるといえます。こうした人たちへの支援制度は重要になってきますが、公的支援にも課題があると感じています。

例えば、働ける年齢の生活保護利用者に関しては、厚生労働省の「被保護者調査」によると、2020年3~12月までの生活保護利用者の増加件数は5,417世帯にとどまっています。これはかなり意外ですが、生活保護制度に対するイメージや不安からそれ以外の制度を利用したり、貯金を崩して耐え忍んだりしているのではないかと推測できます。

また一方で、社会福祉協議会が実施する最大200万円まで貸付可能な緊急小口資金貸付・総合支援資金貸付については、2020年3月25日~2021年6月5日の累計支給件数が229万件に達しています。東日本大震災があった2011年度が約10万件、2019年度は約1万件だったので、これに対し229倍、金額にすると約1兆円が利用されていることになります。

しかし、長期化するコロナ禍で生活状況も改善せず、この貸付でさえも使い切ってしまう人が出ています。おそらく、女性や若者で借りている人も多いでしょう。中長期で低所得者の家計を圧迫する制度は、支援制度といえるのかという課題はあると思います。

コロナが長期化して起こるリスクとしてはシート4にまとめていますが、オリンピック開催後の景気にも注目する必要があります。景気がよくなれば多くの方が労働市場に戻ることができると思いますが、戻る先の労働市場がどういった状況になるのか、現状ではわからない部分もあります。低所得者、非正規労働者はコロナ禍が長引くなかで、既に貯金をはき出してしまっている可能性は高いですし、これが長引けば長引くほど、よりリスクを抱える方が増加します。

そこに対しての支援として、今までのような短期の失業を前提としたセーフティーネットではなくて、その手前のセーフティーネットをどのようにつくっていくかということを、あらためて考えていかなければいけないのではないかと思います。

プロフィール

大西 連(おおにし・れん)

認定NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年、東京うまれ。2010年頃より、生活困窮者支援に携わる。生活保護や社会保障等について発信したり政策提言をおこなっている。著書に『すぐそばにある「貧困」』(2015年ポプラ社)など。ほかに、社会福祉法人いのちの電話理事など。政府のSDGs推進円卓会議構成員、内閣官房孤独・孤立対策室政策参与も務める。

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。