報告 コロナ下の女性への影響と課題について──「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」報告書より

2021年4月28日に内閣府が公表した「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」報告書に沿って、コロナ下(注1)の女性への影響と課題について報告します。同研究会は、新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」という)による影響が女性に対してさまざまな形で及んでいることが、日本および国際社会でも明らかになってきたなかで、内閣府男女共同参画局として、現状と政策課題を把握し、今後の政策立案につなげることを目的として2020年9月からスタートしました。

女性への影響

DVの相談件数は前年の1.5倍に

まず、コロナ下における女性に対するDV(配偶者暴力)の状況です。シート1をみると、DVの相談件数は前年同期比で1.5倍の水準で推移しています。身体的暴力だけではなく、精神的暴力、経済的暴力が顕在化しました。また、かなり深刻なDVを受けていても、経済的な自立への不安から逃げられない、家にとどまるしかないという人たちがいることや、家庭内の環境の悪化などで居場所を失った女性がSNSを通じて知り合った者から性暴力の被害に遭うといった実態が報告されました。

女性が多い産業、非正規雇用労働者は大きく減少

次に、女性の就業・雇用への影響(シート2)をみると、女性の就業者数・雇用者数は、2020年3~4月にかけて大きく減少し、雇用者数の減少は男性の約2倍にも及びました。

女性の多い産業や非正規雇用労働者に特に大きな影響が及んでいます。シート3では、2020年4月以降の産業別就業者数の増減を示していますが、もともと女性の非正規雇用労働者の割合が高い「宿泊業」「飲食業」「生活、娯楽業」「小売業」などで女性の就業者数が減少しています。また、シート4は女性の非正規雇用労働者の推移を表していますが、2020年3月以降、対前年比で大幅な減少が続いています。ほかにも、シングルマザーの完全失業率への影響の大きさなど、コロナ下で、通常以上に厳しい状況に置かれている女性の状況が明らかになりました。

また、これは男女に限らずですが、仕事におけるコロナ下特有のストレスの状況を職種別にみると、医療従事者、介護従事者、保育士など、いわゆるエッセンシャルワーカーと言われる人たちの値が高いという調査結果が出ています。

また、研究会では、男女間の賃金格差についてのさまざまな要因や、女性が低賃金になりやすい構造的な問題に焦点をあてた議論が行われました。

テレワークにマイナス要素を感じる傾向が

コロナ下では、テレワークの普及が進みましたが、その受け止め方については男女差があることが明らかになりました。

シート5をみると、男性は、「通勤時間分を有意義に使える」「通勤が少なくなりストレスが減る」「家族と一緒の時間が増えてよい」などのプラス要素が高く出ていますが、女性は「家事が増える」「光熱費等の出費が増える」「自分の時間が減ることがストレス」など、マイナス要素が男性に比べて高くなっています(注2)

女性の自殺者数は2020年6月以降毎月増加

続いて、自殺者数の推移について、シート6の左のグラフをみると、自殺者の数はもともと男性のほうが女性よりも多いのですが、2020年の1年間をみると男性が前年より23人減少している一方で、女性は935人増加しています。右のグラフは自殺者数の前年同月差ですが、女性は2020年6月から毎月増加しています。

女性の自殺者数の内訳をみると、特に、主婦、年金・雇用保険等で生活している人(高齢者が多い)、高校生が増加しています。研究会のヒアリングでは、若い女性の支援を行う団体から「もともと崖の近くにいた人がコロナ下で崖のぎりぎりまで追い詰められているように感じる」との報告がありました(注3)

子どものいる女性に一斉休校等による大きな影響が

コロナ下で実施された一斉休校や、家事・育児・介護などの家庭での無償ケアについても、女性への影響が顕著に表れています。

まず、女性の就業率については、シート7にあるように、小学校などが一斉休校となった2020年3月以降、子どものいる女性に大きなマイナスの影響が及び、また、子どもがいる有配偶女性はこの間、非労働力化が進んだことがエビデンスとして明らかになり、失業ではなく、仕事をしないという選択を行っていたことが明らかになっています(注4)

また、シート8は、小学3年生以下の子どもがいる男女が今後の家事・育児に関して望むことについての調査結果(注2)を表したものですが、「配偶者にもっと子どもの世話をしてほしい」、「配偶者にもっと家事をしてほしい」という回答は、女性のほうが男性よりも10ポイント以上高くなっています。一方で、男性は「自分の子どもの世話の時間を増やしたい」の回答は高く出ており、他の調査でもテレワークを継続する男性の家事・育児時間が増加しているなど、男性の家事・育児への参画が進む兆しもみられます。

女性への強い影響の背景と課題

女性への影響の背景

新型コロナが女性に対して強い影響を与えた背景には、感染症の拡大による経済や生活への直接的な影響だけでなく、もともと平時において男女共同参画、ジェンダー平等が進んでこなかったことがあり、これが今般のコロナ下で顕在化しています。

個人の働き方や家族形態が急速に変化している、そして、今や女性の所得は家計の補助ではなくなってきているなか、依然として、高度経済成長期の「正社員の夫と専業主婦の妻」をモデルとした制度や慣行が残っています。このモデル、枠組みに当てはまらない人、例えば、ひとり親や単身の非正規雇用労働者等は増加している、あるいは、このモデル、枠組みのなかで家事・育児を一手に担って、就業調整を行い、短時間就労を選択してきた人たちがいて、そうした女性たちに新型コロナの影響が直撃し、厳しい状況に置かれています。そして、そうした女性たちに十分な経済的基盤がないことが事態の深刻化につながっているのではないか。

また、固定的性別役割分担意識等によって、コロナ下での家事・育児・介護などの無償ケアがさらに女性に集中しています。

コロナを踏まえ男女共同参画の取り組みを加速

それでは、ポストコロナに向けて今後何をしていくべきなのか。まずは、緊急対策としての各種支援策を速やかに実施、強化していくことが重要です。DVや自殺対策の強化、ひとり親家庭への支援強化などを早急に実施していく必要があります。

そのうえで、今般、コロナ下で顕在化した問題とその背景を踏まえ、第1に、男女共同参画の取り組みを推進していくこと。まず政治分野など、意思決定の場における女性の参画を進めること、経済的自立等の女性のエンパワーメントを拡大していくことが重要です。第2に、制度、慣行の見直しを進めていくこと。固定的性別役割分担意識を反映した既存の制度の見直しや、「正社員の夫、専業主婦の妻」をベースとする諸制度に課題、限界があるということをしっかり認識し、個人が意思決定、選択を自由にできる社会環境を整備していく必要があります。第3に、ジェンダー統計・分析の重要性。今回、研究会での議論を進めるなかで、さまざまなデータを収集し、詳細に分析したことで、エビデンスをベースとした政策立案等につなげることができました。データをしっかり収集して、政策立案にいかしていくことが重要です。

終わりに

最後になりますが、新型コロナ対策の中心に女性を位置づけ、そして、ポストコロナに向けて、男女共同参画の取り組みを加速させ、全力で取り組みを進めていきます。


コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会 構成員

大崎 麻子
特定非営利活動法人 Gender Action Platform 理事/関西学院大学総合政策学部客員教授
大竹 文雄
大阪大学大学院経済学研究科教授/新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員
白波瀬 佐和子(座長)
東京大学大学院人文社会系研究科教授
種部 恭子
医療法人社団藤聖会女性クリニック We!TOYAMA 代表/公益社団法人日本産婦人科医会常任理事
筒井 淳也
立命館大学産業社会学部教授
永濱 利廣
株式会社第一生命経済研究所首席エコノミスト
松田 明子
山形県しあわせ子育て応援部長
全国知事会
男女共同参画プロジェクトチームリーダー県
武藤 香織
東京大学医科学研究所公共政策研究分野教授/新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員
山口 慎太郎
東京大学大学院経済学研究科教授
山田 久
株式会社日本総合研究所副理事長

(五十音順、敬称略)

コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会報告書~誰一人取り残さないポストコロナの社会へ~(2021年4月28日)新しいウィンドウ


脚注

  • 注1 ここでは、我が国で新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年以降を「コロナ下」としている。
  • 注2 第9回研究会(2021年3月15日)筒井淳也構成員報告
  • 注3 第7回研究会(2021年2月15日)村木厚子氏(一般社団法人若草プロジェクト)ヒアリング
  • 注4 第11回研究会(2021年4月22日)山口慎太郎構成員報告

プロフィール

矢野 正枝(やの・まさえ)

内閣府 男女共同参画局 調査室長

1997年労働省入省。1998年職業安定局、2003年司法制度改革推進本部事務局、厚生労働省健康局、2009年新潟県産業労働観光部労政雇用課、2019年厚生労働省労働基準局などを経て2020年10月から現職。内閣府男女共同参画局「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」事務局を担当。

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