事例報告3 新型コロナと働き方の変化──働き方改革の取り組み

講演者
眞鍋 裕人
エーザイ株式会社 人財開発本部 労務政策部 部長
フォーラム名
第114回労働政策フォーラム「新型コロナと働き方の変化─就業意識の変化と在宅勤務の動向に注目して─」(2021年3月5日-8日)

2020年から当社で取り組んでいる働き方改革について紹介します。初めに会社の概要を簡単に紹介します。設立は1941年で、事業内容は医薬品の研究開発、製造、販売です。売上収益は6,400億円強、当期利益は400億円規模で、従業員数は連結グローバルで約1万1,000人、個別で約3,000人です。

働き方改革の取り組み

自らの能力・ライフスタイルに応じた働き方の選択について議論

直近の働き方改革関連での取り組みですが、まず、シート1の内容が書かれている文書を、昨年春の労使協議で労働組合に提示しました。新型コロナ問題が顕在化し始めた時期でしたが、この時はまだ緊急事態宣言が発出される前であり、いわゆるニューノーマルに強く焦点が当たっている状況ではありませんでした。

当社の働き方改革の目指すところとして、「社員が主体性を最大限発揮できる働き方を実現し、エンゲージメント向上とアウトプットの最大化による労働生産性の向上」としています。しかしながら現時点では、長時間労働是正や休日・休暇取得推進等の労働投入効率化を中心とした「働き方改革フェーズⅠ」にとどまっており、真の目的達成に向けて早期に「働き方改革フェーズⅡ」に移行したいと表明しました(シート2)。

「働き方改革フェーズⅡ」では、これまでの新卒一括採用や長期終身雇用を前提としたメンバーシップ型の日本型雇用システムを見直し、年齢や勤続によらず、多様な選択肢から自らの能力やライフスタイルに応じて働き方を選択することや、職務や勤務地限定など、仕事と働く場所、時間も自ら選択するジョブ型やフリーランス契約の導入など、メンバーシップ型とジョブ型の複線型の働き方について、幅広い観点から労使で議論を深めていくことを目指しています。

つまり、自らが働き方を選択できる働きやすい環境を整備していくものの、社員の自律化が大前提にあり、人事報酬制度も抜本的な改革を行うとの宣言となっています。それを絵にしたものの一つが、シート3になります。年齢によらず、多様な選択肢から、自らの能力・ライフスタイルに応じて働き方を選択するとした一方で、従来の新卒一括採用や年功序列、終身雇用前提のメンバーシップ型からの変革が必要であると強調しています。

自己裁量を高める労働時間制への移行

自己創造型労働時間制への移行協議を開始

次に、2020年9月に労働組合に申し入れた働き方改革フェーズⅡの具体的な事項を紹介したいと思います。

繰り返しになりますが、2020年春の労使協議以降、新型コロナウイルスの感染拡大、緊急事態宣言を挟んでテレワークの常態化、ニューノーマルへの移行の必要性が強まり、勤務形態、人事報酬等において当面対処すべき事項を9月に労働組合に提案しました。シート4は、昨年春の労使協議での「働き方改革フェーズⅡ」への移行表明から、その延長線上にこの提案があることを示したものです。

提案の具体的な内容がシート5になります。オーナーシップに満ちた人財が、業務遂行の手段や方法、時間配分などを自ら考え判断する自己創造型労働時間制への移行協議を開始するという内容です。

その一つ目は、「フレックスタイム制から裁量労働制への移行」で、現在、筑波研究所(茨城県)の創薬部門のみに導入している専門業務型裁量労働制を拡充することや、管理・事業スタッフへの企画業務型裁量労働制の新設に取り組むことを打ち出しました。

高プロ制度は自律人財の勤務形態に最適

二つ目は、「高度プロフェッショナル制度導入の検討」になります。高プロ制度は、国が当初検討していたホワイトカラー・エグゼンプションから大きく制限が加わって、正直、使い勝手の悪いものになっていると思います。国が制度内容を見直してくれるのを期待していることもあり、導入の検討を盛り込みました。現状の内容では難しいですが、自律人財の勤務形態としては最適と考えており、前向きに検討したいと考えています。

三つ目は、「標準時間労働制からフレックスタイム制への移行」です。これは工場の製造ラインの一部に残っている標準労働時間制をフレックスタイムに移行させるもので、労使協議を開始することにしています。

自宅勤務制度の利用制限を撤廃

自己裁量を高める就労環境整備の大きな2項目として、勤務形態の拡充を提案しています。これは、コロナ禍を経て、在宅勤務制度やフレックスタイム制度の制限を限りなくなくすもので、提案後、直ちに労使合意に至り、昨年10月に導入されています。シート6にあるように、一つ目は「自宅勤務制度の拡充」で、これまで週1回の利用、また、1日の利用時間も所定就業時間である7時間50分に限定していましたが、その制限を撤廃しました。ただ、この機に自宅勤務制度の適用除外事項を明記することにしました。この内容については後で説明します。

二つ目は、「フレックスタイム制におけるコアタイムの廃止」です。従来は午前11時半~午後1時半をコアタイムとし、組織メンバーが集える時間をわずかながら確保していましたが、廃止しました。なお、有給休暇取得との関係を明確にするため、1日3時間以上の勤務を必須としました。1週間くらい1日24時間働いて、その後は勤務しないということが理論上は考えられますので、社員の健康配慮上もこのような形にしました。

自宅勤務制度についてもう少し詳細にお話しすると、シート7が主な規定になります。利用日制限は撤廃し、勤務場所については、自宅以外では単身赴任者の配偶者宅や要介護者宅も認めています。適用除外は、36協定など労働時間の上限を守れない人、勤務時間を不正申告するなど自己管理ができない人、あるいは、成果が出ない人と記載しました。現時点では、自宅勤務利用を個人の権利にするというのは時期尚早だと思っています。また、コロナ禍ではあくまでも自宅勤務を推奨していますが、制度としては事業所勤務との併用を認めることにしています。

単身赴任者の配偶者宅や介護家族宅での自宅勤務を可能

ここで、自宅勤務制度導入・拡充の歴史について紹介しますと、国が掲げた1億総活躍社会の実現についての労働組合との話し合いの契機として、育児・介護の勤務支援に限定した自宅勤務制度を2017年10月に導入しました。その後、これを効果的に活用することで生産性の向上やイノベーションの創出、さらにはより充実した仕事と生活の両立を目指す「ワーク・ライフ・ベスト」の実現を図ること等を目的として段階的に拡充させていきました。

導入から1年後の2018年10月には適用対象者をフレックスタイム制や裁量労働制の適用者に大きく拡大し、勤務場所も、自宅のほか、単身赴任者の配偶者宅、介護家族宅での勤務も可能にしました。また利用時間帯も、平日の標準勤務時間は午前8時半~午後5時10分ですが、午前5時~午後10時へ拡大することも併せて行っています。そして先ほど説明したとおり、2020年10月からは週1回まで、就業時間7時間50分内という利用限度を廃止しました。なお、外勤、事業場外みなし労働制を適用する社員については、2020年4月から自宅勤務を含めたモバイル勤務制度を整備しています。

PCログ情報を本人・上司が確認できるシステムを3月に導入予定

シート8は、近い将来、取り組むものを示しています。上の部分に書かれている勤務形態関連手当等の再構築については、事業所勤務前提の手当などについて見直しを図るというものです。現在行っている春季労使協議のなかで、制度改廃案を労働組合に提示したいと考えています。

下の方は周辺環境整備についてですが、PCログ情報を本人および上司が確認できるシステムをこの3月に導入します。また、生産現場以外の社員、すなわちリモート勤務可能な社員に社用携帯電話を昨年11月から配付しています。以上が2020年9月に労働組合に提案して、自宅勤務制度の拡充など一部10月から実施している内容になります。

社員の自律化やキャリア構築などが今後の検討課題

最後に、今後の検討に当たっての視点、留意事項を挙げてみました(シート9)。本日のフォーラムのテーマは「新型コロナと働き方の変化」ですが、大きく捉えて、自らの会社の事業、経営活動を見極めて、そして会社の存続・成長と従業員の仕事を通じての成長と幸福感、これを両立させていくための取り組みが大変重要ではないかと私自身は考えています。

1番目に取り上げているのが「社員の自律化、キャリア構築、労働者移動のしくみ」です。自己裁量を高める勤務形態、裁量労働制をはじめとして、より社員自身が自律化するような勤務形態を整備していかなければなりません。さらには、個人のキャリア構築に焦点を当てた副業制度の導入、あるいは、研修のあり方も含めて人と人とのつながりを保つ仕組みづくりは絶えず考えていきたいと思っています。

2番目が、「ジョブ型、フリーランス契約等の多様な形態の模索」です。社員の自律化を前提とすると、社員と会社の対等な関係というのは必要になってくると思います。昔ながらのいわゆる従属的な考え方ではなく、対等な関係構築に向けたあらゆる仕組みを整えることが必要ではないかと思います。

3番目は、「年功序列・終身雇用色彩の排除、エイジフリー検討」を挙げました。いま述べた1番目、2番目が進むと、おのずと仕事/成果の反映、あるいは、期間支払型の報酬体系への移行が必要になってくると考えています。

年齢によらない仕組みの検討が必要

また、4番目に「ダイバーシティ(年齢によらない)なしくみ」を挙げています。当社は2012年に65歳定年制度を導入していますが、現在は70歳まで働ける就労環境を社会的にも構築することが求められています。65歳定年制を入れたときに、一般的に役職定年を50代後半や60歳時に入れる企業も見られましたが、当社はそれを採りませんでした。ただ、一方でそれに伴う副作用も出てきており、いずれにしても年齢によらない仕組みを検討しなければいけないとは考えています。

5番目は、「社員サポートのあり方の再整理」です。従来のいわゆる終身雇用のなかで、社員サポートのあり方が構築されてきましたが、フリンジベネフィットも含めて、新たな働き方のなかで自律と自助という観点、それと互助、共助、公助という観点をいま一度整理したほうがいいのではないかと考えています。新たな形で社員をサポートする仕組みを再構築するような仕組みが必要である、国に頼るところは国に頼るということも明確にしながら進めていきたいと思っています。

6番目は、「競争社会と社会貢献」という言葉を挙げましたが、企業自体とその企業に集う人間の本質、「競争に勝つ」ということと「世の役に立つ」ことの二つが非常に大事だと思っています。企業も、従業員も、それぞれが自問自答し続ける集合体でありたいと考えており、そこに企業と従業員の幸せが宿り続けると私は信じています。

一方で、企業のチーム力を維持する仕組みも必要

テレワーク、ジョブ型雇用の推進は、労働市場の流動化や労働者移動の促進といった社会趨勢に合致していると思いますが、企業として一集団を築くことと逆方向の面があると私は思います。

これからは、どの企業に属しても、自律的に、高い競争力を発揮できるような人財になることが個人に求められてきますが、企業にとっては、その時々に必要な、有能な人財をいかに集められるかが重要になってきます。獲得競争のなかで報酬水準が高騰化すると、結果として報酬格差がより一層拡大し、また、終身雇用の崩壊から報酬形態は年俸制など期間支払型が主流となって、退職金制度の在り方も見直しが必要になると思っています。

企業のチーム力は恐らく弱まるのではないかと思う一方、そうしないように工夫しなければならないと思っています。企業体の足腰の弱さにつながりかねませんし、チーム力を維持するための仕組みやメンバーを残しておく必要もあります。

テレワークは個人が企業にすがり過ぎる結果になるならば、場合によっては廃止することも考えてもよいと思います。集う人財と企業基盤を見極め、そして、人と人のつながりを大切にすることを怠らず、ジョブ型、メンバーシップ型のかじ取りをしっかりしていかなければならないと思っています。

プロフィール

眞鍋 裕人(まなべ・ひろひと)

エーザイ株式会社 人財開発本部 労務政策部 部長(理事)

1987年エーザイ株式会社入社、医薬情報担当者(外勤)として埼玉支店に配属。1年間の外勤活動を経て1988年に人事部に異動。1997年から4年間経営計画部に在籍した後、2001年に再び人事部に異動、2010年より労務政策部部長を拝命(現職)。人事部署でのキャリア前半は、組織改編・人事異動・人事制度運用・給与関連を担当、中盤は人事制度企画関係、現職では労務・給与・福利厚生関連と労働組合の窓口を担当。

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