研究報告2 テレワークは定着するのか?──「働く人の意識調査」結果から

講演者
柿岡 明
日本生産性本部 生産性総合研究センター 上席研究員
フォーラム名
第114回労働政策フォーラム「新型コロナと働き方の変化─就業意識の変化と在宅勤務の動向に注目して─」(2021年3月5日-8日)

当財団は、1955年3月に「生産性向上対策について」の閣議決定に基づいて政府と連携する民間団体として設立され、以来65年以上にわたり、日本の生産性向上運動の担い手として活動してきました。経済界や労働界、学識者が一体となって運営するユニークな組織形態を取っているのが特徴です。日米独のトップ経営者による対話などの国際連携活動を企画・推進する「生産性経営者会議」や、日本の将来を担う公共人材・リーダーシップの涵養に取り組む「日本アカデメイア」の運営なども行っています。

論点

本日は、当財団で実施した「働く人の意識調査」結果をもとに、大きく3点についてお話しします。一つ目は、実は世の中で言われているほど、テレワークは普及していないこと。あえてここでは、テレワーカーは「限られた幸運な人たち」、としておきます。

二つ目は、テレワークを今後普及させるための課題です。特に、自宅の環境改善が大きな課題になっており、ここを解決しない限り、一層のテレワークの普及は難しいと感じます。また、自宅よりもサテライトオフィス等をより活用していくことが重要ではないかと考えています。

三つ目は、今後、どのような形でテレワークが普及し、定着していくのか。一つ目の論点にも関連しますが、テレワークは首都圏の大企業を中心に普及が進んでいて、中小企業では進んでいないというのが現状です。大企業と中小企業の二極化が進むのではないかと考えています。

調査の概要

今回の調査は、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに働く人の意識の現状と変化を捉えること、そして、継続的に定点観測して世の中に発信することを目的として、2020年4月から準備を始め、計4回実施しました。第1回は5月11日~13日で、ちょうど1回目の緊急事態宣言が発出されて1カ月後というタイミング、第2回は7月6日~7日で、緊急事態宣言が解除されて1カ月半後の、世の中が落ち着きを取り戻してきた時期に行いました。第3回は10月5日~7日で、菅政権発足から半月後のコロナ対策と経済活動の両立を模索している時期です。第4回は1月12日~13日で、年末から年始にかけて第3波の感染拡大で2回目の緊急事態宣言を発出せざるを得ないという時期に行いました。調査対象は、自営業者を除く、20歳以上で会社・団体に勤めている1,100人に回答してもらいました。なお、総務省の労働力調査に基づいて、性別、年代別にサンプルを割り付け、回答者の分布を日本の雇用者の縮図に沿う形にしています。

調査を設計するうえでは、社会へのメッセージの伝わりやすさを重視し、単純集計・クロス集計だけで理解できるような簡潔な設問と選択肢で構成し、「どちらともいえない」などの中立的な選択肢はできるだけ使わないようにしています。

テレワークの実施状況

7月以降のテレワーク実施率は2割にとどまる

はじめに、テレワークの実施状況についてみていきます。そもそもテレワークとは、在宅勤務やサテライトオフィス勤務、それから、喫茶店や図書館等の一般的な場所を利用するモバイルワークが当てはまります。この三つを総称してテレワークと定義づけています。

シート1の上のグラフでは、雇用者全体のテレワークの実施率を示しています。5月の調査結果をみると、31.5%がテレワークを実施しています。これが7月になると20.2%と約10ポイント低下して、その後、10月、1月とも約2割の実施率になっていきます。2020年5月の時点では、新型コロナというものの実態がよく分からなかったこともあり、企業もやや無理をしてテレワークを実施していたのが実情で、テレワーカーとはいっても自宅待機に近い方も含まれていたのではないかと思います。そうした方が7月の時点では離脱して、テレワークに適した職種・業務担当者のみが残ったのではないかと考えています。

2回目の緊急事態宣言が出た1月でも、テレワークの実施率は約2割にとどまっていて、世の中で話題になっているほど、テレワークを行っている人は多くありません。とは言っても、テレワーク人口は雇用者全体からみると2割で、推計1,200万人いますので、一部のテレワークに関する産業が盛り上がるというのも納得できる部分かと思います。

首都圏とそれ以外の地域で実施率に格差

勤務地1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)とそれ以外の地域のテレワークの実施率には、大きな差があります。シート1の下のグラフをみると、1月の結果では、1都3県の実施率は32.7%となっているのに対して、それ以外の地域は14.6%となっており、1都3県の方が高くなっています。

1月の調査は、1都3県に2回目の緊急事態宣言が先行して出された直後の時期と重なっているのですが、実施率が高い理由は、必ずしも宣言が出たからということではないでしょう。7月と10月の結果をみると、もともと1都3県の実施率は3割前後で推移しており、宣言のある・なしよりも、大企業の本社が首都圏に多く立地していることが原因ではないかと考えています。

テレワーカーとは誰のことか

対面性の高い業種・職種でのテレワーク実施率は低い

続いて、テレワーカーとは一体誰なのかということで、業種別と職種別の結果をみてみます。シート2をみると、業種別では情報通信業が一番実施率が高くなっていて、毎回非常に高い結果が出ています。一方、小売業や飲食サービス業、医療、福祉といった対面性が求められるような産業では、実施率は必ずしも高くないという結果になっています。

職種別では、管理的な仕事、専門的・技術的な仕事、事務的な仕事では、毎回テレワークの実施率が高いです。販売の仕事、サービスの仕事といった対面性の高い仕事では実施率は低く、生産工程の仕事、輸送関係の仕事など、いわゆるブルーカラーの実施率も非常に低くなっており、業種・職種によって大きな差があるということが分かります。

企業規模間、正規雇用と非正規雇用の間でも格差

シート3では勤め先の従業員規模別と雇用形態別の結果を示しています。従業員規模別の直近の結果をみると、100人以下の企業では14%前後、1,001人以上の企業では38%を超えています。毎回の調査でも、100人以下と1,001人以上では20ポイント前後の差が生じており、従業員規模による格差が大きいということが分かります。

雇用形態別でみると、正社員・正職員と比較して、パート、アルバイト、契約社員、派遣社員といった非正規雇用の実施率はかなり低くなっています。直近の結果では正社員・正職員が29%であるのに対し、パート、アルバイトが約8%、契約社員が約18%、派遣社員が約14%と低い水準です。

これらの結果からも確認できるように、総じてテレワーカーというのは、特定の業種・職種や大企業、そして首都圏勤務、正規雇用が中心で、それ以外はテレワークの世界からは少し外れている状況です。働く場所、仕事の内容によってテレワークの風景というのはかなり違って見えるのではないかと思います。

テレワークの課題

テレワークに適した自宅の環境整備が大きな課題に

では、テレワークを普及させていくためには何が課題となるのか。シート4は、テレワークの課題について複数回答で質問した結果を示しています。5月の調査の段階では、職場に行かないと閲覧できない資料・データがあるという課題に対して50%近い回答がありましたが、調査を重ねるにつれてだんだん低下していきました。その他、Web会議などのテレワーク用ツールの使い勝手や情報セキュリティ対策も、解決に向かっているようです。

一方で、今一番大きな問題は、自宅の机や椅子、照明等の物理的環境の整備や、テレワークに適した部屋がないという自宅の課題です。テレワークの普及が進む首都圏の住宅事情を考えると、自宅の問題を解決するのはなかなか難しいと思います。これは、短期的に解決できる問題ではないので、今後は自宅以外の選択肢の一つとして、サテライトオフィスの普及が進むことに期待したいと思っています。

テレワーカーは成果や業績に対する評価に比重を置くことを求める

テレワークには、労務管理上の課題も出てきます。シート5の左側のグラフをみると、例えば、テレワークが長引くに従って、従業員は、仕事の成果や仕事ぶりが適切に評価されるのか、オフィス勤務者と公平に評価されるのかといった、評価関係の不安感が非常に強いことが課題になっています。

一方で、調査を重ねるなかで、そもそも働く人たちは、人事評価をどのようにしてほしいと考えているのか、疑問に持つようになりました。そこで、10月調査からは、人事評価の比重について、「成果や業績」「仕事を行う能力」「仕事振りや態度」の項目において、全体を10とした際にどのぐらいの比重で評価をしてもらいたいか尋ねました。その結果はシート5の右側のグラフですが、雇用者全体ではおおよそ三つの要素をバランス良く見た評価を望んでいることがわかります。これを、テレワークの有無別にみると、非テレワーカーに対して、テレワーカーは「成果や業績」で評価をしてほしいという比重が高くなります。他方で、「仕事振りや態度」に関しては、テレワーカーでは低くなっていますが、それでも一定の比重を占めていることがわかります。テレワーカーですから、仕事ぶりを見ることは難しいですが、それでもそこを見てほしいという気持ちがあるということもテレワーカーの本音だと思います。

テレワークは定着するのか

非テレワーカーの6割はコロナ収束後のテレワークの普及に懐疑的

それでは、今後、テレワークは定着するのか。まず、テレワーカーにコロナ禍収束後もテレワークを行いたいか聞いたところ(シート6)、直近の1月の調査では、7割以上がテレワークの継続を望んでいました。これまでの調査で過去最多となっており、このまま続けたいという気持ちが強いことが分かります。

一方、シート6の右側のグラフは、コロナ収束後に起こり得る様々な社会変化の一つとして、テレワークは普及するか尋ねています。テレワーカーと非テレワーカー別にみたところ、テレワーカーは、テレワークの普及が起こり得る、あるいは、どちらかと言えば起こり得ると回答した割合が合わせて8割前後となりました。一方、非テレワーカーでは、6割以上が、テレワークの普及は起こり得ない、または、どちらかと言えば起こり得ないと回答しており、懐疑的な意見が多数を占めています。非テレワーカーが雇用者の8割程と圧倒的な多数派ですので、新型コロナ収束後、テレワークの普及を後退させるような圧力になると考えられます。首都圏の大企業では普及率の高さから、普及を後押ししようという意見も強いと思いますが、中小企業ではテレワークがメジャーではないので、普及は今後も停滞するのではないかと推測しています。

ここまでみてきたとおり、テレワークをしている人は決して多数派ではありません。だからといって、テレワークが重要でないということではなく、コロナ禍の下では健康・命を守る大切な取り組みとなりますので、ぜひテレワークができる人は行ってほしいと考えています。また、本格的に定着させるためには、やはりサテライトオフィスの活用や、評価のあり方も含めて、働き方の再設計が必要になってくると考えています。

プロフィール

柿岡 明(かきおか・あきら)

日本生産性本部 生産性総合研究センター 上席研究員

1963年愛知県生まれ。中央大学法学部政治学科卒業。(社)社会経済国民会議(現・日本生産性本部)入職。外国人労働者問題、行政評価、メンタルヘルス、ワーク・ライフ・バランス、生産性分析、顧客満足度など、主に調査研究業務を担当。2020年5月から「働く人の意識に関する調査」を担当し、4回の調査レポートをまとめた。その他、2014~18年、社会人インターンシップ事業「大人の武者修行」を企画・運営。

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