事例報告 これからの能力開発・キャリア形成

当社は1840年の創業以来、人々が安全・安心で快適に暮らすことができる社会の実現に向け、常に進取の精神で技術開発や新市場への参入に挑戦しています。幕末には西洋建築、明治時代には鉄道等のインフラ整備、戦後の高度成長期においては地震国における超高層ビルや原子力発電所の建設など、その時代に求められる建設技術をいち早く開発し、顧客のニーズに応えてきました。現状の連結売上高は約2兆円で、そのうち海外比率は23%、連結従業員数は約1万8,000人です。

少子高齢化や人口減少、また直近では新型コロナウイルスの感染拡大やデジタル化の進展など、複雑性や不確実性が高まる社会において、ますます多様化するニーズに応えていきたいと考えています。

タレントマネジメントシステムと「まなび」の仕組みづくりが課題に

当社のビジネスは建設プロジェクトが中心で、国内外の1,000を超えるプロジェクト全てにおいて、単品生産を行っています。ものづくりという点ではメーカーと共通しますが、毎回違うものをつくっていること、規模が大きく、工期も長いものが多いということが特徴ではないかと思っています。こうしたことを前提としつつ、いわゆるVUCA(非常に複雑で先行きが見えにくい)という時代のなか、自律的な社員が集まって、お互いに高め合う組織にどう変革するかということが課題と考えています。

こうした意識から、ここ数年、二つの点に注力してまいりました。一つは、タレントマネジメントシステムの導入、もう一つは、これからの「まなび」に向けた仕組みづくりです(シート1)。社員一人ひとりの多彩な経験や意欲、適性、能力をどのようにきめ細かく把握するか。そして、それをもとに、どのように自律的にキャリア開発を支援するかを考えてきました。

研修の在り方についても、今まで通りで良いのか、どのように変化させていけば良いか考えてきました。コンテンツもいろいろ整備してきましたが、それだけでなく、社員自身に変わる必要があるという気づきを持ってもらうことも重要です。同僚や上司、部下とのコミュニケーションの促進に向けて、物理的に集まる場所、バーチャルな場所を含めた、"場"の形成が重要だと感じています。

中長期キャリア目標登録制度で社員のキャリア目標を把握

このような背景から、2020年より新たに、中長期キャリア目標登録制度を導入しました(シート2)。これはタレントマネジメントシステムという、研修の受講や管理の仕組みを、2020年6月に導入した新たなパッケージソフト上で行います。

実は、過去数十年にわたって自己申告制度を運用してきたのですが、今般、これと併用する形で新たに中長期キャリア目標登録制度をつくっています。自己申告制度は、担当の職務や仕事量、難易度、本人の意欲や満足度、直近の異動希望など、どこの部署に行きたいか、何をしたいかといったことを毎年定点的に調査しているものです。これは本人と人事の間で確認しているもので、システムには情報を登録していますが、職場の上司には非公開という形で運用しています。

中長期キャリア目標登録制度も、自己申告制度と同じシステムに情報を登録する形で進めていますが、情報は職場の上司にも公開しています。内容は中長期のキャリア目標ということで、社員本人がキャリアを通じて何を達成したいか、3年~10年後の間に自分がどういった姿になりたいかなどを登録します。併せて、将来就いてみたい職務や展望、そのために自分はどのような自己研鑽をしていきたいかについても登録してもらっています。

登録情報をもとに中長期キャリアについての面談を設ける

フローはシート3の通りで、自己申告登録は6月に行い、1カ月遅れの7月に中長期のキャリア目標登録制度の登録を開始しています。初めての制度なので、そもそもキャリアとは何だろうという素朴なところから社員の理解を促すために、動画資料を載せるなどして進めた結果、国内事業所の社員の約9割にあたる7,000人ほどの社員が登録してくれました。そして、これをもとに、9月の評価面談時には中長期のキャリアについても面談する場を設けました。今後もこういったことを定期的に実施しようと考えています。

また、今まで行っていた、人事部や部署の人事担当とのキャリアについての面談も、このシステムの情報を確認しつつ、フォローアップもしていこうということで運用しています。

社員や上司、人事の立場での課題を認識

導入した結果、社員本人、上司、人事、それぞれの立場での課題が浮き彫りとなりました。

まず社員本人については、登録した内容を見てみると、自分自身のキャリアについてこれまで主体的に深く考える機会があった社員もいれば、そうした機会が少なかった社員もいたということが分かりました。いかに自分自身に向き合うか、自分はこの会社で本当は何を達成したいかということを、なかなか考えずにきた社員もいたのかなと思います。

上司については、中長期キャリア目標登録制度で共有された部下の情報をもとに、どのように育成していったら良いかという課題があります。部下の相談相手やコーチ役となることは、これまでの評価者としての役割と少し変わってきますので、そのためのスキル等の学び直しも必要なのではないかと思っています。また、育成する立場になることで、そもそも自分自身のキャリア観がどこまで確立できているのかということが改めて問い直されることになると思います。

人事部としては、社員の登録率が高かったことは嬉しいことなのですが、一方で、この新しいキャリアを考えるためのコンテンツや情報をどのように提供していくべきか、登録されたデータをどのように活用していくか。人材育成はもちろんのこと、社員の配置や業務とのマッチングにもつないでいけるかということを、課題として認識しています。

若手の即戦力化とその後の成長を促す施策が重要に

これからの能力開発については、大きく二つの課題があると考えています。一つ目が、若手の即戦力化です。一つひとつが異なる建設プロジェクトや不動産の開発プロジェクトにおいて、どうやって若手を育てていくか。働き方改革も意識すると、ワーク・ライフ・バランスを考えながら職場でのOJTの質と量をどのように確保するかが重要です。また、研修は昨年からオンラインに急速に移行していますが、やはりそれだけでは無理で、集合研修とオンラインをどのように組み合わせるかといった、いわゆるOFF-JTのやり方も課題だと思っています。

二つ目は、社員が一人前になった後を見据えた施策についても検討していく必要があるという点です。人生100年時代のなかで、生涯を通じて自分をアップグレードしていくことが重要ですが、そのために会社は何ができるのか。社員にそのことに気付いてもらうために、どのように促したら良いかを考えております。加えて、こうした問題意識を共有する"場"の形成や、コミュニケーションの促進も重要だと思います。

この数年、研修メニューを拡充してきましたが、メニューを作る分だけ運営側の負担は増えますし、社員も研修は会社が与えてくれるものという受動的な認識を持ってしまいます。いかに能動的な形にしていくか、場合によっては、社内だけではなくて、社外にあるものも使っていく必要があると思っています。また、必ずしも研修コンテンツにこだわらなくても、今は「まなび」のための気づきの機会はいろいろあるのではないかと思うので、このあたりをどのように進めるかということも、課題として改めて認識しています。

プロフィール

北野 正一郎(きたの・しょういちろう)

鹿島建設株式会社 人事部企画グループ長

1994年鹿島入社。建設現場管理(事務全般)、人事(採用、研修等)、不動産開発事業、海外留学(MBA取得)を経て2013年秘書室戦略企画チームに配属。中長期戦略の策定・推進に関わる中、タレントマネジメントシステムの導入検討や次世代リーダーを対象とした新研修施設の企画に関与し、2018年から現職。現在は人材開発と組織開発の連携をテーマに、各種人事施策を企画立案・推進中。プライベートでは2児の父。2000年代前半から育児休業や育児フレックス勤務等を活用し、妻と育児・家事を分担している。

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