事例報告 アニメーターの働き方の課題

亜細亜堂は埼玉県にあるアニメ会社で、70人前後の従業員が働いています。主に『忍たま乱太郎』などを制作しており、基本的に下請け会社ですが、最近、元請けの作品も増えてきています。また、亜細亜堂労働組合の結成は2017年7月で、結成して3年が経ちます。松竹、角川、東映、日活などの映画会社の組合が加盟している映画演劇労働組合連合会(以下、映演労連)に労働相談をして、組合を作るに至りました。

他団体の活動や地区労働組合協議会での経験を活かす

私が労働組合を結成しようと思ったきっかけは、当時、業務委託で働いている人たちに対する消費税の扱いが、会社として徹底されていなかったからです。まだまだ分からないことが多いので、いろいろと教わりながら活動しています。東映動画労働組合の本社に伺って団体交渉や春闘に参加するなど、大変良い経験もさせてもらっております。また、映演労連の勧めで、2019年からはさいたま地区労働組合協議会に加入しています。映演労連では、映像に携わる業界の現状を通し、労働組合としての基礎知識などを教わっていますが、さいたま地区労働組合協議会では、地元の様々な業種の方との交流を通して地域活動の大切さや、身近な行政の問題を考える経験をさせてもらっています。

会社との団体交渉は過去2度行いましたが、最近は当労働組合としての活動は停滞ぎみです。業種的な問題かもしれませんが、仕事で忙殺される人が多く、なかなか集会も開けない状態です。結成当初はそれでも頑張って団体交渉をしていましたが、成果がすぐに出ず、組合員がだんだんと減少しています。組合を大きくすることが最大の課題です。

薄給の新人が辞めていく現状

私の業界に対する1番の思いは、入社させた新人を個人事業主扱いにするべきではないということです(シート1)。研修を終えたばかりの若者を一人前のフリーとして契約するので、出来高の少ない新人は月給10万円に遠く及びませんし、保障も一切ありません。せっかく難しい試験を通っても、大半の新人が技量不足ではなく、薄給で辞めていきます。試験に合格すれば個人の席を用意するのに、会社の人間ではないと言うのです。

新人が最初にやる仕事として多いのが、動画の作業です。動画とは、原画(作画でキーになるポーズを書き、動きの設計をする)の次の作業として、絵と絵の間に中割りという絵を入れて動きを完成させ、さらにきれいな線にクリーンアップすることです。動画を経験することで、様々な原画の描写力などを学べるのですが、この単価が、私が就職した35年前からほとんど変わっておらず、今でも1枚200円台の会社が、依然として多いようです。新人が薄給になる原因はここにあると思っています。

最低賃金と同額の水準を

それでは、動画の単価はいくらであるべきなのか(シート2)。これは、国が定める最低賃金額で考えれば良いと思います。2020年10月からの東京の最低賃金は時給1,013円、埼玉で928円です。ただし、雇い主は、地域別最低賃金が同時に適用される場合には、高い方の最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないので、関東近県のアニメ会社は東京の最賃で考えて良いと思います。動画の単価200円台を、中間を取って1枚250円として考えた場合、4枚では1,000円ですので、必ず5枚書けるようでなければ時給1,013円を下回ります。企業の1カ月の平均労働時間が約170時間なので、17万2,210円が月の最低賃金となる計算です。どんな業種の人でも、東京都であればこれ以上稼げない仕事は違法になります。動画では同額を得るには689枚を超えねばなりません。私が就職した当時は、大体300枚、多くても500枚でしたが、今は昔と比べると明らかに絵が細くなり、線も増えている作品が多くなっているので、200枚以上が限度だと思います。

2019年、私は会社の組合の掲示板に、新人の動画の人で月に200枚以上書ければ良いという前提で、動画の単価は、月に約16万円(埼玉の2019年の最低賃金926円×月170時間=15万7,420円を基準としている)がもらえる単価でないといけないとして、それを200枚で割った1枚800円が真っ当な金額だと主張しました。それでも、人によっては1日8時間以上仕事をしないと届かないと思っています。予算がある作品は既に800円の単価でやっているところがあるのかもしれませんが、テレビ作品の全てにおいてこの単価であって欲しいものです。

今まで海外に安く発注するなどしていましたが、海外の人件費も上がってきていると聞きます。動画に限らず、各セクションの単価が安いことは、引き続きJAniCAや、アニメの業界団体である日本動画協会でも調査していただき、現場の人件費、そして制作予算の指針を示していただきたいです。

真っ当な仕事環境が与えられる状態を目指す

最大の問題は、繰り返しになりますが、個人事業主あるいは業務委託には最低保障がなく、あっても5万円以下となること。また、何かあった場合の保険の適用もないことです。そのため、せっかくアニメーターを希望して就職した若者が辞めていってしまうという現実があります。亜細亜堂では2020年、働き方改革関連法の対象に中小企業が入ることを受けて社会保険労務士を雇用しましたが、この現状を容認してしまっている状態で、問題の解決には至っていません。中小のアニメ会社の労働組合だけで対応することにはさすがに限界を感じています。新しく入ってくる人や現在も薄給で仕事をしている人たちに真っ当な仕事環境が与えられる状態にまで、制作費を上げていくという運動への賛同をお願いしたいです。

予算が上がるか否かに関わらず、組合として交渉は続けますが、こういった場で、偽装請負がまかり通る実情をお伝えしたいと思いました。この業界の担い手を、少なくとも国が定めた最低賃金以下にさせないように考えてもらいたいです。

プロフィール

船越 英之(ふなこし・ひでゆき)

亜細亜堂労働組合 委員長

1963年2月生まれ。1985年4月亜細亜堂に入社。初原画はスタジオぴえろ制作の「あんみつ姫」(1986)。その後「きまぐれオレンジロード」(1987)「燃える!お兄さん」(1988) ※共にスタジオぴえろ制作 を経て、日本アニメーション制作「ちびまる子ちゃん」で初の作画監督(1990~)を務める。キャラクターデザインの仕事は「ちびまる子ちゃん」(1995〜)。「さくらももこ劇場コジコジ」(1997〜1999) 共に日本アニメーション制作。「かいけつゾロリ」シリーズ(2004〜)など。2017年7月に亜細亜堂労働組合を結成。

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