事例報告 サイボウズにおけるテレワークの取り組みと課題

講演者
なかむらアサミ
サイボウズ株式会社 チームワーク総研 シニアコンサルタント
フォーラム名
第110回労働政策フォーラム「テレワークをめぐる課題」(2020年9月29日)

サイボウズは23年前にできた会社で、今は日本橋にオフィスがあります。従業員は1,000人弱の中堅企業で、社員の平均年齢は34.6歳です。

私たちはグループウエアと呼ばれるソフトウエアを開発、製造、販売している会社で、メイン事業もそれになります。私たちが扱っているグループウエアソフトは職場で使われているソフトで、スケジュール共有や会議室予約などでお使いいただいているお客様も多いと思います。最近では職場以外にも、例えば大阪府の保健所システムなど、自治体で使われることも増えてきています。大阪府の保健所では、全て電話とファックスと紙で行っていた事務作業をICT化することによって、保健所スタッフの事務の負担軽減を図りました。 私自身はサイボウズで14年働いておりまして、もともと人事にいたのですが、その後、広報、ブランディングを経て、現在、チームワーク総研というところで働き方改革などのノウハウを提供しています。

10年前からテレワークに取り組む

サイボウズは実は10年前からテレワークに取り組んでいます。2010年の8月頃にテレワークを試験導入し、半年ほど経ってから本格導入しました。その1カ月後に東日本大震災が起こり、当時はテレワークといっても「全社員がなかなかできるわけではないよね」と思っていたのですが、リモートデスクトップという形で自宅から決算業務を行えるようにして、無事に3月の決算を締めることができました。こうした経験を経て、「全社員ができる」ということが分かり、そこから加速度的にテレワークの導入が進んでいきました。

当初は厳しい利用条件を設定

始めた頃は、やったことがなかったことなので結構厳しい条件で行っていました。事前申請と上長承認は必須ですし、事後報告でも、この1日、在宅で自分がどういう仕事をしたかということなどを報告する。上司はそれに対して、この人の生産性が落ちなかったかどうかを○×△(まる・ばつ・さんかく)で評価するということを毎回していました。月に4回までという回数制限もありましたし、場所も、「今日はこの辺でやります」ということを事前報告し、その場所で必ず仕事をするといった形で運用していました。

あとでまた詳しくお話ししますが、やはり自分たちがやりやすいように、使いやすいように話し合いを積み重ねてきまして、現在では事前申請や上長承認は不要としています。回数制限もなくしました。唯一残っているのが、共有しているスケジュールに登録することの義務です。「自分は今日、何時から何時までどこで働いています」ということを登録しています。

人材獲得にもつながる

10年間、テレワークをやってきて感じている効果ですが、これは恐らく、皆様が感じているのとほぼ変わりないかなと思っています。一つ目は、BCP(事業継続計画)対策としての導入で、今回のコロナに対してもBCP対策だと思っています。また、最近は自然災害が多くなってきていますが、例えば公共交通機関が止まってしまったときでも、駅で待つ時間を自宅での仕事に充てることができます。精神的負担も下げられます。

もう一つ、私たちがテレワークの効果として感じているのが、人材獲得につながるというところです。例えば、週に1、2回在宅勤務できる方も採用しますよという形で門戸が広げられる。もちろん今働いている社員が、在宅か会社に行くのかを選べることで長く働けるというメリットもありますし、新規採用をするときに、在宅勤務があることで今まで採用対象ではなかった人も採用対象になります。

ほかの効果としては、通勤がなくなることにより体力的・精神的な負担がなくなることも挙げられます。また、テレワークになることで仕事の属人化が抑制されますので、業務フローの見直しにつながるという面も大きなメリットの一つとして挙げられます。それから、1人で仕事をしているわけではありませんので、チームで、離れていながらもやり取りをして仕事をしていくということで、チームに対する意識が強くなるといったメリットもあると思っています。

ペーパーレスの並行は欠かせない

私たちがテレワークを現在まで続けてこられたポイントが幾つかあります。第1として、ペーパーレスを並行して進めるということが欠かせません。紙というのは年々脆弱性が高くなっていると思います。春先の熊本の川の洪水でも、オフィスが流れてしまった会社がありました。しかし、たまたま会計情報や人事情報など仕事に関わる情報を全てクラウド化していたことで、事業を継続できた会社もありました。

テレワークにおいて、メールだけではコミュニケーションが機能しないと感じられているお客様も多いのではないかと思いますが、メールというのは気軽なやり取りをするのに適していないツールです。「ちょっといいですか」ということをメールで送るのは、なかなかはばかられるなかで、ちょっとした話ができるチャットツールというものをメールと併用することで、オフィスと変わりないコミュニケーションができると思っています。

また、オフィスにいるときと同じ情報をオンライン上に載せておくというのが非常に大事です。例えば、それぞれの部署によく来る質問があると思います。出張したいけれど、どういうふうに手続すれば良いのか、名刺を注文したいけれど、どうすれば良いのか──。そうしたよくある質問についてはFAQをオンライン上で載せておいて、しっかりと回答を書いておく。さらに何かあればコミュニケーションするというやり方が、簡単なオンライン化・業務効率化の一つだと思っています。

感情情報の共有も大事

テレワークを進めるに当たって、オンライン上にビジネス情報、仕事に関する情報を載せるというのは皆さん進んできているのではないかと思いますが、もう一つ大事なのは感情情報です。

感情情報もいかにオンラインに載せるかというところが、とても大事になってきます。ちょっとした感情のやり取りで、オフィスだと顔を見てやり取りできたものが、オンラインだとなかなかそれができなくなる。ちょっとした、「良かったね!」とか「ああ、何かちょっとがっかりしちゃったね」とか、そういった感情が共有できない。それにより孤立感が高まる、一体感が薄れた感じがするという声が最近よく、私たちの下にも寄せられます。こうした感情情報をいかにオンラインで共有するかが、テレワークをうまく機能させる一つのコツだと思っています。

当社では「分報」という慣習があります。全員が行っているわけではないのですが、自分が行ったことのログを残すという感覚で、「今こんなことをしています」とか、「これからお昼に行きます」といったことを書いて、そこに皆がチャット的に話をするといったこともしています。

制度、ツール、風土の連携を

今日お聞きになっている方では人事の方も非常に多いと思いますが、私たちがこの10年間テレワークを進めてきて、大事だなと思っていることがあります。組織を変えるためには三つのことが必要だと実感しており、それは「制度」と「ツール」と「風土」です。この三つがうまく回らないと、なかなか組織は変えられない。

制度だけを導入したり、ツールだけを入れてもうまく回らないということはよくある話で、自分たちの風土に合った制度を入れる・つくる、ツールを導入することが必要です。テレワークでは、制度は人事・総務が担当し、ツールは主に情報システムの人が担当することが多いと思います。当然ながら、両者の連携がうまくいかないと、全社員へなかなかうまく伝わらないし、テレワークの風土は根付かない。制度、ツール、風土それぞれを扱う部署の連携が非常に大事になってきます。

最初に、私たちのテレワークも10年かけて様々に変わってきたとお話ししましたが、テレワークの制度というのは、一度つくったからといって変えてはいけないということにしてしまうと、全く根付かないものになる。テレワーク制度の面白さは、「ここ、うまくいかなかったね」とか、「何かここ、すごくやりにくかったね」という社員の声を聴いて、一つひとつ自分たちに合った制度に変えていくところにあります。

情報はオープンに

もう一つの継続のポイントとして、情報をオープンにすることが挙げられます。大事なのは、私たちは自分の周りにはたくさん情報があるんだということを皆が知っている時代だということです。

以前は、電話とメールが主で、一定の人同士で情報を共有するだけで仕事がうまくいく時期がありました。ただ、今は、自分の知らない情報が周りにたくさんあるということを知っているので、自分のところの情報が限られてしまうと、情報が来ていないことに対して不満に思ってしまう傾向が高い。ですので、こうした疑義を生まないように、情報を共有する。私の知っている情報はこうで、皆さんの知っている情報はこうなので、こういう情報がお互いありますねと。そこに対して、では、どういう解答を出していこうかと考えるところで、お互いの情報を持ち寄る形で、知を生産していく。以前は情報を持っていることが、権力や自分の地位などに直結していましたが、もはやそういうことではなく、変な不満や疑義を生まない「情報をオープンにする」コミュニケーションが非常に大事になってきます。

雑談でコミュニケーションを補完

私たちが以前から行っている慣習に、「ザツダン」というのがあります。ワン・オン・ワンを今されている企業も多いかと思いますが、ワン・オン・ワンというと、ティーチングやコーチングなどといったカウンセリングのスキルも要るのではないかと思われがちです。サイボウズでは、ワン・オン・ワンではなく、まさに雑談をしています。例えば、自分の上長と会議室を取って30分間雑談するというのが慣習としてあり、これをほぼ全社員で回しています。テレワークになっても、テレビ会議をつないで雑談を行っていて、ここが本当にいろいろな意味で情報を共有したり、円滑にコミュニケーションを図る一つの役割になっていると思っています。ですので、マネジャーの仕事として一日雑談をしていましたということもあり得ます。

最近よくいただくお悩みの一つに、マネジャーから「大変だ」という声が上がる、というお話があります。テレワークをしているなかで、どうやってメンバーを評価すれば良いか、どうやってチームのコミュニケーションをうまくとっていけば良いかと悩んでいるマネジャーが増えています。一つ言えるのは、マネジャーに全てを背負わせるのは非常に酷だということです。役割がただでさえ多いなかで、テレワークのコミュニケーションの様々な問題を全部マネジャーに解決させようというのは負荷が大きい。全て背負わせるのではなく、皆でまさに情報を共有し合って考えていくという、「背負わないマネジメント」が大事になってくると思っています。

ニューノーマルな人材育成の考案が課題

最後に、私たちが現在、課題だと思っていることをお話しします。今、課題だと思っているのは、やはりリアルに勝る情報量はないということです。五感で感じる情報が取れないことによって、今後、人材育成はどのように変わるのか。

当社でも4月入社の新入社員にはオンラインで全て研修を行いました。現在もオンラインで仕事をしている状態が続いています。中途社員にもオンラインで研修を行って、オンライン中心で仕事をしていますが、新たな、いわゆるニューノーマルな人材育成を考えていく必要性に駆られている。普段なら、何かちょっと不安そうな顔をしていたら周りの人が「どうしたの?」と声をかけられるところが、顔が見えないので、「大丈夫? 不安じゃない?」などと声をかけに行かないといけない。それで、新たな仕事が一つ増えると思ってしまうマネジャーもいるので、そうした面での問題点をどうするかという課題は出てきています。

もう一つは、やはりテレワークになると、発信がうまくできる人にとっては気持ちよく仕事ができていても、ちょっと忙しくなって今日1日何も発信できませんでしたとなった時に、「あの人、大丈夫?」と思ってしまう。営業で新規案件が取れた時に、オフィスにいれば「取れた!頑張った!」と周りに言えるのが、テレワークだとその都度「今日は取れました」とテキストで書かないといけない。それも見た人だけがぽつりぽつりと反応する。感情の共有をオンラインで行うのが大事と話しましたが、私たちもここはまだ試行錯誤しているところがあります。このあたりはぜひ皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

プロフィール

なかむらアサミ(なかむら・あさみ)

サイボウズ株式会社 チームワーク総研 シニアコンサルタント

法政大学大学院経営学研究科キャリアデザイン学専攻修了。経営学修士。教育、IT企業で人事を担当し、2006年サイボウズ株式会社に「離職率が高い(とは知らず)」入社。人事、広報、ブランディングを担当し、現在は、小学生から社会人まで幅広い層にチームワークを教える活動をしている。サイボウズがチームワークと言い始めた当初から一貫してチームワークに関する活動に携わり、研修実績も多数。青山学院大学社会情報学部 ワークショップデザイナー育成プログラム26期生。

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