事例報告 日立のテレワーク活用、そして新たな働き方へ

講演者
近藤 恭子
株式会社日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 エンプロイーリレーション部 働き方改革グループ 部長代理
フォーラム名
第110回労働政策フォーラム「テレワークをめぐる課題」(2020年9月29日)

テレワーク活用が進んだのはここ最近

日立のテレワークの歴史は比較的古く、制度を導入したのは約20年前です。テレワークの活用が一気に進んだのはここ最近であり、一つは、2016年に全社を挙げて働き方改革を始めた時であり、もう一つが新型コロナウイルスの感染が拡大した今年(2020年)と言えます。

2016年に、「日立ワーク・ライフ・イノベーション」と称し、働き方改革を始めました。社会イノベーション事業をグローバル展開するなか、働き方改革を、多様な人財が多様な価値観を持って生き生きと働き、大きな成果を上げるための働き方の構築と考えました(シート1)。多様な人財が、場所や時間によらず、最大の成果を上げることができるよう環境整備を進めてきており、そのベースが、IT環境の整備と在宅勤務・サテライトオフィス勤務に関する制度改定、そしてオフィス整備です。

在宅・サテライト勤務はほぼ全員が対象

IT環境の整備では、職場の自分の席から離れても仕事ができるよう、ノートパソコンなどの端末を整備しました。パソコンにはデータを記録せず、万が一パソコンを紛失してもセキュリティ面で安全に仕事ができるようにしました。社内の無線LAN環境も整え、ノートパソコンなどの端末を持ち、社内のどこでも仕事がしやすい環境づくりも行いました。

在宅勤務・サテライトオフィス勤務制度では、育児や介護に関わる社員だけでなく、広い範囲で対象者を設定しています。管理職、管理職手前の裁量労働勤務適用者に加え、上司が必要と認めた人も対象としており、ほぼ全員に近い人が対象者になり得る制度となっています。これらの勤務を行うに当たって、月何回まで、何時間の出社が必要という制限はなく、事前に上司の承認を得れば利用できる柔軟な制度となっています。

感染拡大後は9割が在宅勤務

働き方改革を始めた2016年以降、サテライトオフィスも拡充してきました。利用者は右肩上がりで、月当たり延べ7万人を超える人の利用がありました(日立製作所以外の日立グループ会社の利用者も含んだ人数。COVID-19前の2019年末までの数値)。シート2のグラフは、国内(日立製作所)で実際に在宅勤務をしている人がどれぐらいいたかを示したものです。社員アンケートの結果が基になっていますが、COVID-19前に週1回以上の在宅勤務を行っていたと回答した社員は6%にとどまりました。制度上は広く対象としているものの、実際は育児、介護などの事情を持つ社員に利用が限定されていました。感染拡大を受け、3月末、全社一斉に原則出社から原則在宅勤務へ切り替えました。すると、右側の円グラフですが、週1回以上在宅勤務をしていると回答した社員の割合は91%まで上がりました。

在宅勤務に満足する社員が約半分を占める

4月から7月にかけての在宅勤務の実施状況を見ると、5月に緊急事態宣言が解除されてからも、東京をはじめとした4都県では7割、全国でも5割の社員が在宅勤務を実施しています。全社一斉に長期にわたって在宅勤務を行うことは、日立にとって初めての経験でした。そのなかで社員がどのように考えているかを把握したいと考え、5月から6月にかけ、在宅勤務に関する従業員サーベイを実施しました。その結果をまとめたところ、在宅勤務について「満足している」と回答した人が約半分を占め、今後の希望について、約半分が「在宅勤務を行いたい」と回答しました。

在宅勤務中の業務効率についても質問したところ、「効率が上がった」と「効率が下がった」がほぼ同率の結果となりました。上がったと回答した人の理由を見ると、「なくなった通勤時間の有効活用」や、「仕事に集中できる」などが挙がりました。一方、効率が下がった理由としては、「IT環境」についての回答が最も多く挙がりました。出社を前提としたIT環境の下、大勢の社員が急遽リモートで社内ネットワークにアクセスすることになり、パソコンの反応速度が遅くなるなどの課題が浮かび上がってきました。この他にも、対面で話ができないというコミュニケーションの課題や、自宅が仕事をしやすい環境にない、押印や紙のために出社しなければならないという課題も挙げられました。

元に戻さず新しい働き方を追求

これらの結果を踏まえ、三つの区分に整理し、対応を進めることとしました。一つはIT環境の整備、二つ目は役割の明確化として、人に仕事を割り当てるのではなく、仕事に人をアサインしていくジョブ型への転換を加速させること。三つ目がコミュニケーション活性化です。

2021年4月から、在宅勤務活用を標準とした新たな働き方を始めることを予定しています(シート3)。これまでは、原則出社から原則在宅勤務に切り替えたことに対し、手当や環境整備など、ある意味臨時的な対応を行ってきましたが、2021年4月の正式適用に向け、規則や労働組合との協定など、必要な対応を行っていきます。

2021年に新たに行うことにした社員への支援もあります。在宅勤務の社員や出社している社員、いずれに対しても新たに発生している諸経費への補助として手当を支給しています。また、在宅勤務に当たって必要なモニター、椅子などの費用への補助も行っています。在宅勤務が長期化するなか、社員の心身の健康維持を目的として、産業医などによるリモート相談窓口を設置しました。

日立は、たとえCOVID-19が終息したとしても、国内における働き方を全て元に戻すのではなく、在宅勤務の良い点も踏まえながら、新たな働き方、そしてジョブ型マネジメントを推進していきます。

プロフィール

近藤 恭子(こんどう・きょうこ)

株式会社日立製作所 人財統括本部 人事勤労本部 エンプロイーリレーション部 働き方改革グループ 部長代理

2000年、日立製作所に入社。一貫して人事勤労業務を担当。通信事業部門の労務業務、コーポレートでの組合員層給与制度立案、昇降機事業部門での海外を含めた人事業務を経験。組合員層の勤務・給与業務の経験が長い。2017年よりコーポレートで働き方改革を担当。

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