事例報告 フルリモートワークの実践例

講演者
中川 祥太
株式会社キャスター 代表取締役
フォーラム名
第110回労働政策フォーラム「テレワークをめぐる課題」(2020年9月29日)

創業からフルリモートワーク

当社の最大の特徴は、全国に700人以上いる「メンバー(正社員、契約社員、業務委託などを含む全メンバー)」が、フルリモートワークをしており、1度もどこにも出勤しないで仕事ができるという形態を取っているところです。恐らく、全国で、また、世界で最大サイズのフルリモートワークを行っている会社かと思います。

もともと「リモートワークを当たり前にする」というミッションを掲げて創業した会社で、現在もリモートワークを徹底しています。創業は2014年9月ですが、当時でもリモートワークを導入していた会社はIT関係でもごく一部で、しかも週に1度や月に数回という会社がほとんどでした。当社は最初からフルリモートワーク前提で全国から次々と人を雇っていきました。

リモートワーカーを派遣するサービスも開始

展開しているサービスはシート1のとおりです。1番上段にある「CASTER BIZ(キャスタービズ)」は、サービス立ち上げ当初はオンライン秘書という名称で、オンラインで中小企業向けに、バックオフィスの業務や秘書業務を受託するサービスとしてスタートしました。時間が経つにつれ専門的な業務も要望されるようになり、経理、採用、人事・労務、最近ではマーケティング、コンサルティングの事業、「在宅派遣」などにも展開しています。

「在宅派遣」はリモートワーカーを派遣するサービスで、国内初ですが、2015年から行っています。リモートワークの求人サイトも展開しており、リモートワークに関わるものなら全てやってしまおうというような形で総合人材サービスを展開しているような状況です。

シート1 サービス一覧

リモートワークのポイントとして生産管理など

当社のリモートワークの取り組みを簡単に紹介します。リモートワークと言っても、いくつかのフェーズがあります。今までリモートワークをしていなかった人たちがフェーズ1です。今回のコロナのようなタイミングで1度実施してみたという状況になっているのがフェーズ2で、それをもう元には戻さないという方向性で、定常的に実施を始めているものをフェーズ3。そして、会社に誰も行かないことを前提として、全員が常時仕事をできるようになったものがフェーズ4。最後は従業員がそれに応じて自らの行動パターンを変え始める状態で、これをフェーズ5と呼んでいます。当社は完全にフェーズ5の状態です。多くの会社は恐らく、フェーズ2と3の間あたりにいらっしゃるのではないかと捉えています。

リモートワークのポイントとしては、三つのことが必要だと捉えています。「セキュリティ」、「ファシリティ」、「生産管理・成果管理」です。「生産管理・成果管理」についてだけ簡単に説明しますと、プロセスの可視化、成果の可視化がされていない会社が非常に多い。それをできるようにすることが非常に重要なポイントになります。

過去のタスクとキャスト情報をマッチング

では、当社で生産管理・成果管理をどのように行っているかですが、「Workforce(ワークフォース)」という自社開発したシステムで、社内の業務の何を、誰が、どのように、どれくらいの時間をかけて行ったのかというプロセス全てをトラッキングしています。これにより、この人がどれくらいのタスク量を何時間でさばいたかということが、全て数字でわかる。また、これを利用して、この作業が速い人にこの作業を振るなどといったマッチングも行っています。

「Workforce(ワークフォース)」についてもう少し説明すると、シート2の左側に「過去のタスク状況」、右側に「キャスト情報」と書いてあります。左側の「過去のタスク状況」は、どこのお客さまからで、どういう業務で、どういう内容で、どれくらいの難易度だったかなどの情報です。右側の「キャスト情報」は、キャストの実際に働ける時間、働いていた時間、今後働きたい時間や、タスクをこなした後のアウトプットの質をデータベース化したものです。仕事の見積りや依頼が来た時に両者のマッチングをかけます。可視化され、マッチングがかけられるようなものであれば、正直何でも良いと考えていますので、各社のいろいろなやり方で生産管理をどうするか、解決策を探れば良いと捉えています。

オンラインアシスタントと呼ばれる職種では、タスクが長くても2時間などの単位で切れるので、比較的分かりやすくタスク管理ができるのですが、プロセスの長い仕事では管理が難しい部分があります。そういった時は、半期に1回、目標設定と評価を行って成果を確認し、最終的な生産性を測る仕組みで補っています(シート3)。

シート2 リモートワークにおける生産管理・成果管理
シート3 リモートワークにおける生産管理・成果管理

フルリモートでも高いセキュリティレベル

「セキュリティ」では、当社はもともとBPOと呼ばれるビジネス・プロセス・アウトソーシングの企業と捉えていますので、そこに準拠したものをリモートワークでどのように提供していくかが重要だと考えています。

私自身も10年近くBPOの業界にいますので、業界のスタンダードをどうクリアするかという視点でセキュリティを組んでいます。一般的な企業と同様だと思いますが、段階を分けてセキュリティの構築を行っています。シート4の左側が、オフラインとわれわれが呼んでいる、物理的なやり方でセキュリティを担保する方法です。右側が当社のセキュリティで、それを似たような形で再現しています。ちなみに当社はISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)とプライバシーマークの両方を取得していますが、フルリモートワークでも取得ができるレベルまでセキュリティレベルを高めています。

その一例として、「Last Pass(ラストパス)」というパスワード管理ソフトを紹介します。シート5の左側が一般的なオフィス環境です。aのところにあるように、物理的なクローズド環境で、鍵のかかるキャビネットのなかに書類等を入れることで管理している会社が多いと思います。当社では、全てグーグルドライブやDropbox(ドロップボックス)といったクラウドサービスのなかに保管していますし、そのURLに対してアクセスできる人をそもそも制限しています。さらに、その鍵を持っている人自体を「Last Pass(ラストパス)」で、誰が、いつ、どのように開けたか把握できるデータを全て持っています。パスワードも目に見えない暗号化共有という形で共有しています。どのようにすれば全てのプロセスをデジタル化できるかという考えで、置き換えていくのが非常に重要です。

シート4 リモートワークにおけるセキュリティ
シート5 リモートワークにおけるファシリティ

社内オペレーションもオンラインで

当社では約50種類のクラウドツールを利用しながら、オペレーションを構築しています。オフィスにあるタイムカードの打刻のようなことも全てクラウド上のソフトウエアで行えるようになっています。全てオンラインで行うことを前提に社内オペレーションの体制を組むことが重要です。

おかげさまで今、47都道府県中、46都道府県に社員がいる状況となっています。唯一、島根県だけがいない状況ですが、何とか47都道府県を制覇したいと考えています(笑)。今日のようなお話は、スライド共有サービスの「SpeakerDeck(スピーカーデック)」でも公開していますので、興味がありましたら、そちらもご覧いただければと思います。

(本内容は、2020年9月時点の情報です)

プロフィール

中川 祥太(なかがわ・しょうた)

株式会社キャスター 代表取締役

ネット広告代理店のオプト社、ソウルドアウト社を経て、イー・ガーディアン社に入社。大阪営業所立ち上げ、ソーシャルメディア関連事業を担当。ソーシャルリスクの専門家として、各種テレビメディアへの出演、連載を持つ。その後、新設された事業企画部立ち上げの過程でクラウドソーシングと出会う。日本の市場におけるオンラインワーカーの発展途上な環境にもどかしさを覚え、28歳で起業を決意。2014年9月に株式会社キャスターを創業。2020年9月に一般社団法人リモートワーカー協会を設立。

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