事例報告1 亜細亜大学 事例報告

講演者
福井 太郎
亜細亜大学キャリアセンター 主幹
フォーラム名
第108回労働政策フォーラム「若者の離職と職場定着について考える」(2020年2月13日)

本学は、法人名を学校法人亜細亜学園といい、東京都武蔵野市にあります。2019年5月1日現在の学生数は6,823人で、社会科学系の5学部7学科、また、アジア・国際経営戦略研究科、経済学研究科、法学研究科の3研究科からなる大学院を設置しています。

進路支援あるいは就職活動支援を行っているキャリアセンターですが、2019年10月に事務組織の改編があり、従来所管業務を行っていた「キャリア支援課」を「キャリアセンター」に改称しました。現在は課外活動などの学生生活を支援する学生センターと一緒になり、2センターの体制で、学生支援にかかる部署として集約した学生部に属しています(シート1)。

キャリアセンターは管理職を含む8人の職員がおり、職員以外に1日2~3人程度のキャリアカウンセラーが常駐して、学生の相談に従事しています。本学の中長期計画を実現するため、アクションプランとして重点目標を掲げて取り組んでいます。 年間の相談件数は、一時的な窓口相談を除いて、約4,600件近くにのぼります。

本学が行っている就職活動、就職年次生を対象とした支援プログラムですが、他大学とそれほど大きな違いはありません。(シート2)。

2年間の就職状況を紹介すると、毎年約1,500人前後の卒業生がおり、そのなかで就職あるいは大学院などに進学する学生が1,200人~1,300人おります(シート3)。進路決定率は84%~85%程度になります。なお、卒業生総数が、2018年度は前年度に比べ100人ほど減少していますが、これは新学部を設置する関係などで入学定員を抑制したことが理由です。

はじめて卒業生にアンケートを実施

それでは今回のテーマに添って、新卒生のその後の職場での定着状況について、お話ししたいと思います。今回、キャリアセンターの1スタッフとして、キャリアセンターの行事などの利用頻度が高い卒業生を対象に、調査をしてみようと思いました。具体的には、キャリアセンターのスタッフが主導し行っている連続プログラムのなかにグループガイダンスがあり、それに参加した学生を対象にしました。正直に言いますと、卒業後の定着度を探るようなアンケートは、今まで実施したことはありませんでした。そのため、どれだけ卒業生との連絡がとれるのか、また、どういったカテゴリーの卒業生を調査対象として抽出してヒアリング・アンケートしたらよいのかを迷いました。

シート4が、ちょうど3~4年前に実施したときのグループガイダンスの内容です。1クラス15人ほどで行い、1回90分の内容です。学生には最低5回は参加してもらいたいと考え、自己理解から履歴書など応募書類の作成まで、就職活動の準備を整えてもらおうと取り組みました。実際、参加回数の上限を設定しなかったので、就職活動が解禁する3月までに、9回ほど実施することになりました。

他者との関わりや自己開示などを大切にしながら支援

学生を支援するうえで大切にしたことがあります。それは、まずは「他者との関わり」、つまり「チームワークの重要性」です(シート5)。就職活動はどうしても孤独になりがちですが、仕事をするうえでは複数の人と関わることになりますので、孤独を打破できるような環境をつくるのも一つの役目だと思いました。

次に「自己開示への努力」です。これは1点目に関連するのですが、今は個を大切にする時代です。高校までの受験対策では、個別指導という形態が非常に増えています。しかし、採用選考では集団面接や集団討議なども多く、集団のなかでの自己開示を促すことが大切になります。そのきっかけが作れるようなプログラムにしたいと思っておりました。

最後が「報告・連絡・相談」です。社会人としては当たり前なのですが、私が就職支援を担当して感じたことは、この報告・連絡・相談をしてくれる学生はほぼ100%、進路が決まっています。「今さら大学でこれを重視するか」と思われがちですが、その大切さに気づかずにいる学生が多く、就職活動のなかでこの点でつまずき、苦戦を強いられることがないようにしなければならないと思いました。そして、何よりも「社会人になることの意義」に自問自答してもらえればと考えました。

こうしたことは、本学の建学精神(シート6)につながっているものです。

学生たちには、この精神を掲げて社会に出て行ってもらいたいと思って取り組んでおります。

働いているイメージを思い浮かべられるか

また、進路選択をするうえで重要なこととして、学生には、職業興味あるいは職業適性、価値観と照らし合わせることを伝えています。言わば、働いている自分のイメージを思い浮かべられるか、です(シート7)。

特に3年後の自分の働くイメージができているかということを考えながら、職業選択し、進路を決めてもらいたいです。最近は売り手市場ということもあり、1人の学生が複数社から内定をもらうことも少なくありません。そのなかで、自分の働く姿がイメージできるかを大切にしながら、(自分の)立ち位置とそれほど遠くない未来との間に線を引いてみることで、決断することの大切さを知ってもらいたいと強く感じています。なお、実際に就職準備セミナー、グループガイダンスに参加した学生から寄せられた感想は、シート8のとおりです。また、準備セミナーの参加者の進路決定状況はシート9(セミナー参加者の進路決定状況)のとおりとなっています。受講者は2017年度が185人、2018年度が141人で、進路決定率はそれぞれ96.8%、95.7%です。

35人の卒業生からアンケートを回収

さて、冒頭で触れたアンケートを実施するにあたって、グループガイダンスに参加した卒業生に連絡するのは、初めてのことでした。まして、私が担当していなかった卒業生も含め、どの程度、連絡がつくものかが大変不安でした。しかしながら、シート10のとおりの回答を得ることができました(35通を回収)。ちなみに、回答してくれた卒業生は1人を除き、新卒として勤めた職場に定着しているとわかり、安堵しました。なお、離職した1人は、すぐに転職し、前向きに今の仕事に取り組んでおりました。

回答してもらった学生のカテゴリーは、シート11・12のとおりです。勤務先の業種や従業員規模はバラバラです。職種や雇用形態には大きな偏りはありません。ただ、一般職の割合が少し高いと思うかもしれませんが、これは回答者の割合に比較的女性が多かったことが要因と理解しています。

離職を考えている人は入社前の条件と違ったケースの方が多い

調査結果を見ていくと、「いまの職場でしばらく勤務する予定ですか」という質問に対して、「続ける予定」と答えた卒業生が64.7%、「迷っている」が35.3%で、迷っている卒業生のうち「1年以内に退職しようか迷っている」という卒業生が8.8%いました(シート13)。

岩脇先生の研究報告でもお話がありましたが、私も学生に対して、入社前に確認した内容と実際の労働条件が一致していたか聞いてみました。全回答者と離職者・離職を考えている者の間で、回答割合は「給料」と「労働時間(残業等)」については、それほど差はありませんでしたが、「仕事内容」については、離職者・離職を考えている者では「聞いていたのと違った」(46.2%)が「聞いていたとおりだった」(38.5%)を上回っていました(シート14)。また、離職者・離職を考えている者の方が、「確認していない」の割合が全回答者の割合よりも高くなっていました。

次に、入社して大切だと思ったことも聞きました。辞めようと迷っていると答えた数人と連絡をとることができたのですが、共通して挙げられたキーワードが四つありました(シート15)。

一つ目は「マンツーマン指導などの育成(社員教育)」です。例えば、配属当時に業務についてマンツーマンで指導してもらえる職場だったか聞いたところ、同じ企業なのに、同期の友達は配属先では指導があった一方、指導してもらえるはずの先輩が退職してしまったとか、不在だったという事由から、教育を受ける機会に恵まれずに不安やストレスを抱えたということでした。

二つ目は「同期との結束(社員間のコミュニケーション)」です。単に同期がいるから良いということではなく、同じ目線で話ができること、情報交換ができることで、励まし合える環境であることが、非常に重要だと話してくれた卒業生が印象に残っています。

三つ目が「職業興味・適性・価値観」で、就職活動の点でも触れましたが、仕事では大切なことだと改めて感じているところです。例えば、一つのパッケージを何度も何度も繰り返してつくる仕事があったとして、満足のいくものをつくりたいと、楽しく夢中になって取り組める卒業生もいれば、その仕事が辛くて仕方がないと思う者もおり、人によって受け取り方が全然違うのが実際のところだからです。

最後が、「目標とする先輩がいること」で、自分の成長を考えたときに目標となる存在がいることが大きいようで、モチベーションアップにもつながっていることでした。やはり配属先の部署や上司によって生じる温度差の影響が、非常に大きいことが確認できました。

大学生活の充実と職業生活につながり

まとめになりますが、今回のアンケートとヒアリングでは、どの卒業生も、ゼミや部活動など、何らかの形で学生生活を充実させていたことがわかりました。また、就職活動という、いわゆる人生の通過儀礼に対して前向きに取り組み、一つひとつ不安や不明な点をクリアにしてきたということでした。改めて学生から社会人へと変わる意識改革ができていたことを確認することができました。

今後の課題としては、大学生活の充実と職業生活にはつながりがあると感じられたこともあり、4年間という短い大学生活を有意義に過ごすために、進路選択までの大学生活のロードマップを描いてもらうことが、結果的にネガティブな早期離職を減らすことにつながるのではないかと感じております。

プロフィール

福井 太郎(ふくい・たろう)

亜細亜大学キャリアセンター 主幹

1990年学校法人亜細亜学園入職。就職支援部門のほか、教学・研究支援部門での業務に従事。現在、キャリアセンターにてキャリア支援、就職支援プログラムの企画運営や相談業務を行うほか、授業内でグループワーク等を実施。

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