パネル報告3 企業内キャリアコンサルティングの実践から

講演者
宮地 夕紀子
慶應義塾大学政策・メディア研究科特別研究講師
フォーラム名
第95回労働政策フォーラム「企業内キャリアコンサルティングの現在と未来」(2018年2月16日)名古屋開催

私は大学に所属していますが、学外活動として、企業内キャリアコンサルティング、カウンセリング、相談業務をお引き受けしています。今日は、そちらの実践活動から、報告させていただきます。

社外専門家として相談にあたる

現在、社外の専門家として、企業内キャリアコンサルティングに関わっています。そのため、本人や上司、あるいは、人事部からのリクエストによる相談対応が中心です。名称は、「社員相談室」、「キャリアカウンセリングルーム」など、さまざまです。

キャリアコンサルティングをはじめるとき、どこから入っていくか、考えました。当時、キャリアコンサルティングは、世の中にありましたが、企業で一般化している状況ではありませんでした。そうした状況下、いきなり、「キャリア相談をやります」といっても、相談に訪れる人はいません。

最初は、健康管理の社員相談から入っていきました。ただ、相談に来るのは、必ずしも、メンタルに問題がある方だけではありません。部下の不適応行動に悩むマネージャーからの相談もありました。ここで5、6年が過ぎた頃から、健康管理とは別に独立したキャリアカウンセリングルームで、お仕事させていただいています。

相談内容は仕事からプライベートまで

相談に持ち込まれるのは、仕事のこと、今後のキャリアのこと、職場や上司、顧客との人間関係、仕事と家庭のことなど、幅広い内容に及びます。

例えば、復職後、2年が経過しているが、100%の状態で戻れる自信がないのでフォローしてほしいという人事から依頼。あるいは、プライベートが入り混じったものでは、妻に先立たれ父子家庭になったので、残業を断らざるをえないが、職場で疎外感を感じるケース。キャリア関連では、今の仕事が合っていないので、社内にほかの仕事はないのか。やりたい仕事ではないので、モチベーションが出てこないといった相談が寄せられます。

外部カウンセラーとして気をつけること

外部カウンセラーとして、留意している点があります。ひとつは、相談テーマを狭めないことです。「キャリア」と言った瞬間、身構える人もいます。相談窓口の敷居はなるべく低くするよう、心がけています。

また、上司など第三者の介入があったほうがいい場合もあります。何らかの介入があったほうが、本人の利益になる場合、本人同意の上、調整を図ることもあります。

それから、社内関係者、とくに、担当者や責任者と基本的な方針のすりあわせも必要となります。会社により方針は異なるので、自分の考えと会社の方針が合うように、すりあわせをすることが大事です。

そのほか、上司など関係者の方の巻き込み。キャリア支援担当者と継続的に信頼関係を構築することも重要です。

自分自身で解決していく力を身につける

社外の人間なので、企業における具体的な仕事の内容までは、わかりません。ただ、わからないなりに、質問することで、個別の事象に対して、その人がどうやって対応していけるのか。自分自身で解決する力を学習してもらい、それを引き出していく。抽象的に申し上げるなら、キャリアカウンセリングは、クライアントが、人格発達を通して、個別の課題や問題に対応する力を身につけていくプロセスともいえます。

現実の職場でみると、問題への向き合い方が回避的であったり、物の見方が狭かったり、自分以外の立場からの見え方が欠けているケースがあります。こうした場合、具体的なエピソードを取り上げながら、丁寧に話をしていくことが求められます。

本質的には、その人が成熟する過程で、適応していくのが本筋ではあります。現実には、うまくいくケースばかりではありません。途中、私と話をするのも嫌になって、ドロップアウトしていくこともあります。

自らのキャリアにコミットするマインドを育成

例えば復職支援の場面では、本質的な解決にまだ至っていない状況であっても、とりあえず片をつけざるを得ないということもあります。正直、現場に戻して100%大丈夫かと言われると首を傾げてしまう状態でも、会社には雇用責任があるのだし、と現場へ押し出さざるを得ないということもあるでしょう。しかし本当はそうではなく、彼らがひとり立ちして、自分のキャリアをつくっていく。自らのキャリアにコミットするマインドを育てる。これが最終目標なのです。簡単に申し上げましたが、これは、とても大変なことです。

クライアントが会社や職場で、「最近、すこし変わったね」「言っていることがすこし前向きになったね」など、変化していく姿を見せていくために、自分にできることは何か。日々、それを考えながら、活動しております。

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