政策報告 キャリア形成支援政策と企業内キャリアコンサルティング

講演者
松瀨 貴裕
厚生労働省人材開発統括官若年者・キャリア形成支援担当参事官付キャリア形成支援室長
フォーラム名
第95回労働政策フォーラム「企業内キャリアコンサルティングの現在と未来」(2018年2月16日)名古屋開催

私からは、主に国の政策を中心にお話をさせていただきます。最初に、キャリア形成支援施策の経緯についてお話します。

国として初めて、「キャリア」という言葉を政策に盛り込んだのは、平成13年の「第7次職業能力開発基本計画」です。バブル経済が崩壊して10年近くが経過したころで、企業と従業員の関係が大きく変わった時期でもあります。この頃を境に、組織の外に出ても食べていけるような人材が結集することでもっと強い組織になれる、ひとりひとりの従業員が強くならないと経営全体としても強くなれない、というように、求める社員像が切り替わったのではないかと思います。

キャリア形成支援政策のポイントは、ひとりひとりの労働者をもっと強くしていくことで、労働市場を有効に機能させるためのインフラ整備を進めていくことではないかと、考えております。

キャリアコンサルタントの国家資格化

キャリアコンサルタントという言葉を法律に初めて盛り込んだのが、平成27年10月の職業能力開発促進法の改正です。第10条の3では、事業主は、従業員に対してキャリアコンサルティングの機会の確保を求めています。罰則はありませんが、国として企業にキャリアコンサルティングの機会の確保を求めることを、明確に打ち出しました。

平成28年度から5年計画で進められている「第10次職業能力開発基本計画」では、キャリアコンサルタントについて、継続的な質の保証を図りつつ計画的に養成を進めるとあります。これを受けて、平成28年4月、国家資格のキャリアコンサルタントが生まれました。

人づくり革命、生産性革命でもキャリア開発

平成29年末に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」では、人づくり革命、生産性革命、そのいずれにおいても、キャリア開発を進めていくことが明記されています。政府がキャリアコンサルティング、キャリアコンサルタント制度を推進していくなか、もっとも重点を置いているのが、企業内キャリアコンサルティングです。

また、人生100年時代構想会議でもテーマとなりましたが、人生100年とすると、これまでシニアと言われていた人たちは、まだ人生の真ん中に位置することになります。そうすると、セカンドキャリアに向けた施策が必要となってきます。学び直しへの支援や、キャリアの再構築となります。そのカギとなるのが、キャリアコンサルティングです。

キャリアコンサルタントの登録状況

平成28年4月からスタートした国家資格のキャリアコンサルタント登録制度の施行状況について、ご報告いたします。

制度発足以降、登録者数は順調に増えています。直近の平成30年1月の数字でみると、3万2,000人を超えています。試験の状況(第1回~第6回)をみると、学科試験の受験者数は、約2,000人。合格者はその半分ぐらいです。

一方、実技試験では、受験者数は2,000人超、合格者数は1,000人台の半ばで、推移しています。このため、学科試験の合格率は5~6割、実技試験の合格率は6~7割となります。受験者属性ごとの合格率の差はあまりみられません。

セルフ・キャリアドックとは

セルフ・キャリアドックは、企業の人材育成ビジョン・方針を明らかにし、それに基づきキャリア研修とキャリアコンサルティングなどを組み合わせて、体系的・定期的に実施するもので、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する取り組みです。現在政府は、その普及に力を入れています。平成28年度と29年度の2年間、セルフ・キャリアドック導入支援事業を実施しました。協力企業は本日お越しの伊藤忠商事様を含めて14社でした。

セルフ・キャリアドックで期待される効果としては、新規採用者では職場定着、育児・介護休業者では職場復帰、中堅社員では職業人生の後半戦に向けてキャリアの再構築、そしてシニア社員はキャリアの棚卸しや目標の再設定などが挙げられます。これらの方々に、キャリア意識を高めていただくことで、組織の活性化につながります。

導入支援事業において、今後の普及に向けての提言もなされました。まずは、中小企業への普及支援があげられます。中小企業では、キャリアコンサルタントの認知度が低く、社外キャリアコンサルタント調達の費用の問題があります。次に、キャリアコンサルタントの資質向上が挙げられます。キャリアコンサルタント自身も、どんどん資質向上を図っていく必要があります。企業経営に資するような活躍をしてもらう必要があるので、組織とのコミュニケーションが重要となってきます。チーム支援のノウハウについても、これからはキャリアコンサルタント全体として蓄積していく必要があります。

平成30年度のキャリア施策

平成30年度の施策のうち、キャリア関連で主なものをご紹介します。1つ目がセルフ・キャリアドック普及拡大加速化事業です。導入支援事業は一定の成果をあげましたが、企業内キャリアコンサルティングは、まだ、十分に浸透している段階とはいえません。そこで、普及に向けてもう一押しする施策が、セルフ・キャリアドック普及拡大加速化事業です。東京、大阪の2箇所に拠点を設け、キャリアコンサルタントを配置して、企業への普及を図るとともに、在職中の若者に対するキャリアコンサルティングの提供の機会を設け、職場定着促進、キャリア支援につなげていきます。

2つ目が、グッドキャリア企業アワードです。平成28年度から始まりまして、本年度で2回目となります。大賞が大臣表彰、イノベーション賞が統括官表彰となります。このグッドキャリア企業アワードは、大企業でなければ受賞できないというものではありません。中堅・中小でも、きちんとした取り組みをしているところは、評価させていただいています。

キャリアコンサルタントに望むこと

キャリアコンサルタント登録制度がスタートして2年近くが経過しました。制度自体は順調に推移していますが、これからは、キャリアコンサルタントが本当に役に立つことを、社会に示していく段階に入ってきたと思います。これからは、キャリアコンサルティングのコアのスキル、人の話を聞くことが、これまで以上に重要となります。また、キャリアコンサルタントが企業の中で活躍できるか、組織内でコミュニケーションがとれるか、課題を解決できるか、こうしたことが、より一層、求められてきます。

キャリアコンサルティングの理論やツールは、日々、進化しています。最新の理論やツールを使って、さらに成果を上げていく。こういうことが、キャリアコンサルタントに求められてきます。そのためには、自己研鑽、継続学習が必要となります。どうか、継続学習を続けていただき、よりすばらしいキャリアコンサルタントになっていただき、世の中をもっと明るく、より良いものにしていただければと思います。

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