事例報告 若者を受け入れる社会に働きかける──中小企業とネットワークをつくる

講演者
高橋 薫
特定非営利活動法人文化学習協同ネットワークみたか若者事業統括
フォーラム名
第94回労働政策フォーラム「若年雇用の質的変化を考える─景気回復下における若年者の働き方の変容─」(2018年1月23日)

私たちの団体は、三鷹、練馬、相模原の3カ所で、地域若者サポートステーションの運営を受託しています。私はそのうち三鷹の担当をしており、この間の流れも一緒に体験してきましたので、これまでの取り組みをご紹介したいと思います。

まず、私が一番強く感じているのは、相談窓口を訪れた若者たちが、その後、本当に社会に出て伸び伸びと、また活き活きと人生を歩んでいっているのだろうかということです。政策のなかでもぜひ、そうした視点を大切にして欲しいと思っています。というのも、実際に就職していった若者たちのほとんどは非正規ですし、苛烈な環境のなかでくじけてしまい、戻ってくることも度々あります。厳しいですが、これが現実だろうと思っています。

就職後もフォローできる関係を

この間、若者支援の現場では、自己啓発やリアルに近い職場体験を含め、いろいろなノウハウを学べる仕組みが洗練されてきました。とはいえ、こうした若者は、新規一括採用に乗れなかった、あるいは就職してもドロップアウトしてしまったという意識が内面化されているため、社会でうまくやっていけるだろうかという強い不安を抱えています。そうした彼らが自分を売り出すような面接に行けるかと言うと、そこに辿り着くまでには長い距離がある。たとえ頑張って面接に臨み、就職できたとしても、また挫折してしまった時には、さらにその溝が広がっていく──。この繰り返しをしている限り、彼らが仕事の現場につながっていくことはとても難しいと考えています。したがって、職場につながったその後も、いろいろな面からフォローができる関係をつくっていくことが、私たちの問題関心の一つにありました。

一方、企業ともこの間、様々なやりとりをさせていただきました。多くのところでは、社員の高齢化が進み、また人手不足による一人当たりの負担が大きくなっている状況で、とても若者を受け入れて教える余裕はないという声もありました。協力したいという気持ちはあっても難しいという企業が多いなか、何とかならないかと考えた時、ネットワークで支えていくという発想に至りました。

ネットワークで支える──若者就労サポートネット会議を開催

まず職場体験につなぎ、就労後も支えていけるように、それができる関係性のなかで仕組みをつくってみようということになり、10人~20人程度の有志──企業の経営者や社員、地域のボランティア、我々のような支援現場の者など──が集まり、毎月「若者就労サポートネット会議」を開くことにしました。この会議では、例えば「この前受け入れた若者がこんなことを言っていて・・」などと社長が悩みを話すと、地域で関わっている人が「あの家には○○のような事情があってね」とか、支援現場からは「以前、面談ではこんなことを言っていましたよ」といった情報が交わされ、ではどうしたら良いかということを皆で話し合います。とても小さくはありますが、社会に出た若者を周囲の人たちが支え合っていくという、この取り組みは5年前に始まり、数年前のNHK「ハートネットTV」という番組でも取り上げていただいたことがあります。

中小企業家同友会との連携──社長同士のつながりを活かして

こうしたなかには、中小企業の経営者団体である中小企業家同友会の会員の方も参加しており、「同友会では毎月、それぞれの地域で社長(会員)さんが集まって例会を開いている。互いの顔や会社の経営状況も知っているので、そこで若者を受け入れる話をできないだろうか」となり、中小企業家同友会との連携が始まりました。東京の中小企業家同友会には約2,100人の会員がいます。現在も、若者を受け入れた社長さんが同友会の例会に出席し、その経験を報告するという会を頻繁に開いています。そのなかで、「この若者は今の職場が合わなかったようだ。職場も受け入れる力が足りなかった。残念だったね」で終わるのではなく、「○○さんの会社ならもっとうまくいくんじゃないか」というように、社長同士の広い人脈やつながりを通じて、別の受け入れ先につなげていく。実際、ものづくりが好きだという若者を、知り合いの金属加工の会社に紹介してもらい、その後、正社員として採用されたケースなどもあります。

若者についても、こうしたネットワークに一人で入っていきにくいという面もありますので、若者同士のグループや居場所をつくっています。そこで出会った若者たちが「あの会社(あの社長さん)、すごくいいよ」みたいな話を互いにしているので、企業家の交流会や勉強会などで、自分たちの体験を話してもらったり、日頃の活動を報告するなど、私たちの取り組みを知っていただく努力をしています。

就労への緩やかな移行の仕組み

最近改めて思うことは、支援されている状態と、そこから手が離れて働いている状態との境界線が曖昧で緩やかな、つまりいつのまにか働いているという移行の形が良いだろうと考えています。それは、支援機関と就労現場とのパートナーシップがどれだけ緊密にとれているかという点がポイントです。ある若者が「サポステの居場所にいると、そのうちどこかにつながっていそう」と言っていましたが、若者に理解ある職場がたくさん増えて、状況によって流動的にネットワークのなかで若者たちがぐるぐる回っていけるシステム──私たちはそれを「うろうろシステム」と名づけていますが──をどのように作っていけるかが重要です。

社会のネットワークに内包した支援の仕組みを

こうした流れのなかで、中小企業家同友会の会員を中心に、弁護士、研究者、若者支援関係者など様々な人たちが参加して、2017年4月に「わかもの就労ネットワーク」というNPOを立ち上げました。いろいろな業界、業種の世界が広がっているわけですが、どの業種に行けばよいか見当もつかない若者もいます。とにかく一度働いてみたいという人もいれば、ITに興味があったり、その業界を通過してきた人も少なからずいる。そこで、もう少し業種別に考えてみようということで、これまで培ってきたネットワークには印刷関連の事業者が多いため、今回は印刷業界の会議を立ち上げようと考えています。じつは、サポートステーションの事業の一環として、居場所のなかでデザインを学ぶワークを開いていたことがありました。印刷会社と連携し、週2日はデザインを学び、他の2日は印刷会社で実際に仕事の体験をするという内容です。仕事といっても過去にその会社が手がけた仕事なので、約6カ月の期間に、実際の仕事と同じ内容を自分のペースで徐々に負荷をかけていくことができます。また、連携する企業の現場で、さらに体験を重ねたり、場合によっては双方の合意によってアルバイトとしての経験を積むこともできます。結果的に、ネットワークのなかの企業で長く働いていけるようになれば良いと考えながら、今も試行錯誤しているところです。

このように、若者を支援するシステムを、社会のネットワークに内包する仕組みが必要です。

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