事例報告 高学歴若年女性の入社後の悩み

本日は、「女性」「非正規」「シングル」という三つの属性を持つ人たちの話を中心にご報告させていただきます。まず、女性の非正規雇用者にも、高学歴化の傾向がかなり進んでいるという点を指摘したいと思います。

非正規シングル女性の高学歴化

非正規のシングル女性というのは結構多く、なかでも生活困難を抱えた壮年層が増えているのではないか──。このような仮説のもと、2015年に横浜市男女共同参画推進協会と共同で「非正規職シングル女性の社会的支援に向けたニーズ調査」を実施しました。結婚経験はあるけれど子どもはいない女性も含め、35歳から54歳までの非正規のシングル女性を対象にウェブ調査を行い、261件の有効回答を得ました。回答者の学歴を見ると、大学・大学院卒が53.3%と、他の調査に比べても高くなっています。そのほか、短大・専門学校卒が31.8%で、高等教育機関の卒業者が8割以上という結果になりました(図表1)。

横浜市男女共同参画推進協会が運営する男女共同参画センターでは、若年無業女性の就労支援事業として「ガールズ編しごと準備講座」という、長期のひきこもり等で就労に結びつきにくい女性を対象に、就労に向けて一歩踏み出してもらうための講座を2009年から年2回開催しています。定員は20人で、今までに360人近くの女性が講座を修了しました。

開講前年の2008年に、15歳から39歳の無業のシングル女性に生活状況調査をしたのですが、なかなか就労まで至らない女性たちは、例えば、職場の人間関係が原因で離職したり、精神的ダメージを受けている、親の過干渉あるいは家庭内暴力、学校でのいじめなどの複合的な困難を抱えていることが判明しました。同時に、一歩踏み出して働きたい、仕事をしたいと思っていることも明らかになりました。こうした女性を対象に「ガールズ編しごと準備講座」を開くわけですが、私も以前見学したところ、20人の参加者のうち大卒8人、大学中退2人、短大卒3人という構成で、やはりそこでも、高学歴の傾向が確認されました。

インタビュー調査から見えてきた厳しい現実

2009年から2012年に受講した163人を対象に、郵送による追跡調査を行ったところ、62通の回答がありました。回答者の62.9%が短大・大学進学です。これらの回答のなかで、彼女たちは「自分だけの問題ではないとわかった」「社会の問題だということがわかった」「同じ問題を抱えた人たちとの場が持てて良かった。今後もつながりたい」というようなことを書いており、およそ6割が講座修了後、一旦アルバイトなどの仕事を経験しています。またその後、何らかの形で収入を伴う仕事を継続している人は4割という結果にもなっています。

前述の「非正規職シングル女性の社会的支援に向けたニーズ調査」では、アンケート(ウェブ)調査に加えてインタビュー調査も行いました。横浜、大阪、福岡の3カ所で実施し、福岡では6人がグループインタビューに応じてくれました(図表2)。それによると、大卒4人のうち2人はバブル崩壊の影響を受け、初職から非正規でした。他の2人は正社員で働いていましたが、上司のパワハラや膨大な業務が原因で体調を崩し離職しています。アンケートの自由回答でも、職場の人間関係などから心身の不調を来たして退職し、現在は非正規という不安定な現状が記されています。

また「ガールズ編しごと準備講座」14期の受講者の若年無業女性についても、正社員経験がある人は20人中5人で、就労経験がない人が4人、残りが初職から長期や短期のアルバイトという人たちでした。このように、女性に関する若者問題と就労問題には、職場環境の原因による離職と、そもそも学校卒業時に就職に結びつかないという就労以前の問題があると思います。

正規・非正規の二極化と曖昧な境界線

女性の若者問題では、正規・非正規の二極化が非常に進んでいると言われている一方、前述の非正規シングル女性を対象とした調査結果には、「業務担当は正規雇用と変わらず、責任の重いものばかりなのに低賃金」「仕事の責任は正社員以上だが、給料は短大新卒並み」や、「現在のパートもどんどん内容が変化して、販売から営業のようなことまでさせられて苦痛」というような自由記述が散見され、正規と非正規の職務内容の境界線が非常に曖昧になってきている実態が浮き彫りとなりました。

福岡のインタビュー例をご紹介すると、その人が勤めている会社の正社員は30代の男女が中心で、彼らは会議に出られる。その下に月給制の非正社員がいて、会議には出られない。その下に時給制の非正社員がおり、さらにその下には派遣や契約社員等がいる──。二極化が進む一方、雇用形態が非常に細分化されて、どこからどこまでが正規、非正規なのかがよく分からないという状況が起こっています。

今後のキャリアが見通せない

ここでは、科研(「学校教育の“周縁”の現代的可能性に関する複合的研究」研究分担)で行った大卒女子のアンケート調査についてご紹介させていただきます。3年未満の離職率は24.7%と、全国調査とあまり変わりません。5年未満が42.0%で、現在も就業を継続しているのが約5割(50.6%)となっています。辞めた理由は「働き続けても展望が見えない」が30.0%、「他にやりたいことがある」が17.5%と、47.5%が今後のキャリアを見通せないと思っていることが分かりました。

入社2年目の3人にインタビューしたところ、「総合職と一般職がある場合、一般職はほぼ女性であり、総合職は男性がかなり多くて男女格差がはっきりしている」「女性管理職を見ていると非常に大変そう。実際に部長職の女性は未婚か、結婚していても子どもがいなくて男性並みに働いている。その数も少ないし、自分にはできそうにない」ということを言っています。また入社2年目の感想を尋ねると、「今の部署にこのままいることは想像できないし、他に行きたい部署があるのかも分からない。定年はもとより、30代までこの会社にいることがとても想像できない」などと漏らしていました。インタビューから、働くことの意味や今後のキャリアが見通せないということと、女性活躍推進という名の下で、実際には管理職までの道筋を企業もイメージできていないのではないかということが浮かび上がってきました。

このように、正規・非正規の二極化が進む一方で、その境界線は曖昧であり、正規総合職のなかでも二極化が進んでいます。男性並みに働く女性しか管理職になれず、総合職とは名ばかりの職務にたまっていく女性が増え、仕事の意味や自分の将来を見通せずに仕事を辞めてしまう。そうすると、今の日本社会ではなかなか正社員での再就職は難しく、非正規に吸収されていってしまうのではないかと思っています。

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