基調講演 若年雇用の質的変化を踏まえた若年雇用対策の現状と展望

講演者
伊藤 正史
厚生労働省人材開発統括官付参事官(若年者・キャリア形成支援担当)
フォーラム名
第94回労働政策フォーラム「若年雇用の質的変化を考える─景気回復下における若年者の働き方の変容─」(2018年1月23日)

統計から見えにくい若者の存在

まず、若者を取り巻く雇用の現状と課題を確認したいと思います。若年労働力人口(15~34歳)は2008年に2,000万人を下回るとともに、総労働力人口に占める割合が30%を下回り、2016年時点で1,720万人(25.8%)と減少傾向が続いています。学歴別に見ると、高卒就職者数と大卒就職者数が逆転した1998年以降、大卒が大幅に伸びて高卒は大幅に減少。現在は大卒就職者約43万人、高卒就職者20万人弱となっています。ただし一年齢人口が100万人強ですから、この統計には含まれていない専修学校卒就職者、あるいは中退者などの、様々な若者が存在しているという点に留意が必要です。

「世代効果の補正」が大きな政策課題に

若者労働市場における最も特徴的な雇用慣行として、新卒一括採用が挙げられます。学校から社会への円滑な移動の基盤であると同時に、世代という捉え方をした場合、卒業時の経済環境により受けた影響がその後も残存しやすいという側面もあります。新規学卒者の求人倍率を見ると、概ね1993年から2004年までの就職氷河期と、2011年から14年までのリーマン・ショックの時期での落ち込みが大きく、こうした「世代効果の補正」が今、政策的に大きな課題となっています。

雇用環境が好転する現在、高卒と大卒の就職率はどちらも100%に近づいていますが、それとは裏腹に一定数の未就職卒業者が存在することも事実です。希望する就職に至らず、不本意ながら留年をしたり他の選択をするなど、就職実現に向け困難を抱えている層が存在しているということをご認識いただければと思います。

世代効果または履歴効果の補正という意味で、現在私どもが注力していることは、卒業後3年以内の既卒者については、職業経験が十分でなかったとしても新卒と同じ扱いで募集や採用の対象とするという取り組みです。これにより新卒扱いでの募集の対象とする企業が増え、相当程度定着してきていますが、採用についてはまだまだ少ないのが現状です。

労働条件に起因する早期離職が増加

新卒労働市場について語る時、必ずその議論の対象となる若者の早期(就職後3年以内の)離職については、現在高卒で約4割、大卒で約3割となっており、特に1年以内の離職率が高くなっています。かつては若者の職業意識上の問題による安易な離職という見方が多く、今日でもそのような側面は一定残っていると思われますが、実際の離職理由を把握したところ、労働条件面等に起因した離職が相当程度あることが判りました。こうしたことを踏まえ、就職前の段階での様々な情報制約による、ある種のミスマッチが離職の一因になっているのではないかといった議論も進めているところです。

近年の経済状況の好転下で若年失業率は大幅に改善していますが、特に不本意な非正規という観点から見ると、他の指標ほど劇的には改善しておりません。さらに今、大きな問題意識を持っているのが、就職氷河期世代の就労状況です。若年層の不安定就労については比較的順調に改善してきていますが、就職氷河期に相当する現在30代後半から40代前半の不安定就労層、そして無業者については必ずしも減少していない、ということが直近データから確認されています。

若者雇用促進法の制定

次に、2015年に制定された若者雇用促進法についてご説明させていただきます。それまでの雇用対策法制の枠組みにおいては、雇用の実現に課題を抱えているとされる高齢者や障害者、女性といった対象者別の雇用対策法が整備されていました。一方、若者については、全体としてパフォーマンスが高いことから、一般対策を丁寧に運用することで対応が十分可能であるという基本認識が長年あったわけですが、就職氷河期世代の問題等が顕在化するなかで、政府を挙げての取り組みが必要ということになり、2003年に「若者自立・挑戦プラン」が策定されました。そして今般の若者雇用促進法の制定については、若者の非正規雇用問題の顕在化や社会的議論を踏まえた支援強化の必要性の高まりが、いわば閾値を超えたがために、法制化に至ったものと、私自身認識をしているところです。

若者労働市場の「見える化」を

若者雇用促進法は、①職業情報の積極的な提供、②ハローワークにおける求人不受理、③ユースエール認定制度、の三本柱から成り立っています。

全体を通して同法が企図するところは、若者労働市場がより効果的に機能する前提となる、正確な情報の流通を促進していくことです。「ポジ情報」をしっかり市場へ発信させるとともに、問題のある事業所の求人をブロックすることで、新卒等若者労働市場の「見える化」を進めていく──。

施行から概ね2年前後という段階ですが、「職業情報の積極的な提供」については、昨年ハローワークの学卒求人を点検するなかで、99%の学卒求人で同規定が履行され、残りのほとんども是正している状況です。「ハローワークにおける求人不受理」については、労働基準法、雇用機会均等法、育児・介護休業法等に関わる違反求人の不受理というものですが、昨年の一定時点で約200事業所がその対象になっていました。さらに、若者の採用・育成に積極的に取り組み、一定条件を満たす「ユースエール認定企業」については、直近で全国約300社が認定対象になっています。こうした若者雇用に熱心な中小企業を今後、どのように開拓し、その情報を流通させていくかが大きな課題だと考えています。

これまでの支援との相乗効果を発揮して

以前から取り組んでいる若者の就職支援対策については、対象を「新卒者等」と「フリーター等」に大きく二分することができます。前者は全国の「新卒応援ハローワーク」が中心となり、後者は「わかものハローワーク」等が中心となって、キャリアコンサルタント資格などを備えた専門家を配置し、担当制のきめ細かな個別支援を行っています。

「新卒応援ハローワーク」では全国ネットワークを活かし、大学等での専攻分野以外または地元以外の就職という視野も含め、丁寧に就職を支援していますが、大卒就職希望者のなかに、かつての高卒就職希望者に類した課題を抱えた若者も相当数いるであろうということを前提とし、これまでにハローワークが培ってきたノウハウや職業適性検査なども活用したキャリア支援を行っています。今後は、若者雇用促進法と相まって、これらの支援を一層強化すべきものと考えています。

氷河期世代の正社員就職を強力支援

今後の重要な課題として、若年期に正社員就職に至らず、十分な職業経験を積めないまま30代半ばを超えて離転職を繰り返しているような、就職氷河期世代を含めた不安定就労状態にある方々への支援が挙げられます。こうした「長期不安定雇用者」に対する正社員化を強力に支援する必要があるという認識に立ち、厚生労働省では「就職氷河期世代等正社員就職実現プラン」を策定しました。非正規のなかでも特に「長期不安定雇用者」は、安定した就職を実現するのが困難であろうことから、「わかものハローワーク」等において情報提供から職業訓練、トライアル雇用などを個々の対象者ごとにパッケージ化して集中的に支援することとしています。それとともに、ニートや若者の自立支援の拠点である全国各地の地域若者サポートステーションにおいて、40代前半層に対するモデル的な支援活動のメニューを盛り込み、よりきめ細かな事業展開を行うこととしております。

若者雇用対策の方向性──雇用の質的側面により着目した対策を

近年、若者の雇用改善が進み、代表的な統計を見てもパフォーマンスが上がっているため、「若者雇用問題は大きな山を越したのではないか」などという声がないわけではありません。それに対し、本日のテーマである若者雇用の質的な課題、または統計上見えにくい課題や実相について、各方面の協力を得ながら可能な限り抽出し、質的側面により着目した雇用対策を展開していくことが、私ども行政のミッションだと考えています。

政府方針でも課題を明示

政府の「ニッポン一億総活躍プラン」の中でも、非正規雇用の若者等を対象とした正社員就職支援の強化、および中退者やニート、引きこもりなど、より重篤な課題を抱えた若者に対する切れ目ない自立支援の取り組みの強化が謳われており、同プランに基づいて「サポステ」事業では、一旦途絶された高校等との連携によるアウトリーチ型の支援プログラムに、別の形で改めて着手しているという点もご報告したいと思います。

さらに2017年に取りまとめられた「働き方改革実行計画」の中でも、若者雇用全体に関わる課題として、高校中退者等に対する支援の充実と、若者が希望する地域で働けるような環境整備の提供という観点から、地域限定正社員などの雇用形態での採用活動の普及といった方向性も示されています。

今後の施策展開に向けた問題意識

現在、私どもは、働き方改革やワーク・ライフ・バランスという観点で若者雇用対策のブラッシュアップを目指しております。生き方・生活の基盤という意味では、前述のとおり希望する地域においてキャリア展望が見えるような働き方の実現が、まさに質的観点から非常に重要な課題であると認識しています。さらに、「人生100年時代」における若者雇用──初職選択とそのための学卒市場──の意味づけの明確化が求められている。職業選択のスタート地点としての重要性を再評価した上で、同時に履歴効果が補正可能な、時間軸を伴った施策展開が必要ではないか、というのがマクロから見た問題意識です。

そして、より実務的な課題にも言及するならば、支援メニューは様々あるけれど、関係者に十分行き届いていないのではないかという反省もあります。したがって、中央と各地域でそれぞれ施策が行き届くような効果的な広報活動が非常に重要です。

また、支援対象者の抱える課題が多様化するなか、各支援機関の専門性の向上とネットワークの一層の稠密化を図っていくことが必要であり、労働市場への円滑な移行を考えた場合、とりわけ学校教育との連携が重要だと考えています。

企業については、採用・雇用の受け皿であると同時に、例えば職場体験の機会提供など、若者雇用に関わる支援のリソースとしても大変貴重であるため、こうした企業の協力をどのように得ていくのか、という課題もあります。

さらに、各施策の目標管理・パフォーマンス管理についても、よりきめ細かくあらなければならない。雇用対策ですので、最終的には就職・正社員就職という結果で成果が測られることは避けようがありませんが、より困難な課題を抱える若者にアプローチをする場合は、支援の段階を一つずつ上がっていく各プロセスについて、きめ細かく評価していくような仕組みが重要ではないか、という問題意識を持っています。

このように、学校卒業時のマッチンクだけにとどまらず、長いキャリアという時間軸のなかで、これからの我が国の産業活動と社会を支える若者の長期的かつダイナミックな人材育成の観点から、我々が既に持っている多様な職業訓練やキャリア支援の政策手段を有効に活用しながら、より効果的な若者雇用対策を展開していくことが、私どもの使命だと考えています。

若者雇用対策の15年を振り返って

「若者自立・挑戦プラン」が策定された翌年の2004年、厚生労働省に初の若者雇用対策にかかる本格的な組織として若年者雇用対策室が整備され、私自身、その初代室長を務めさせていただいた後も、若者やキャリアに関わる業務に主に従事してまいりました。そうした個人的立場から幾つか申し上げますと、まず、この15年間をどう総括し得るかということです。元々多くの個々人の関心であった若者の雇用問題が、自立プラン以降の様々な取り組みなどを通じ、社会的また労働市場政策上の極めて根幹的な課題だというコンセンサスが得られ、さらに法制化を含め若者雇用推進を安定的・継続的に行う基盤が構築されてきました。

個の存在と社会的課題の発見の歴史

さらに個人的な見解を加えるならば、この15年間は、若者雇用をめぐる社会的課題や、支援を必要とする一人ひとりの存在の発見の歴史ではなかったのか、と感じています。ニートなどがその典型ですが、これら個々の要支援対象者は既存統計では把握しづらく、存在として見えにくい。そうした人たちの存在と、総体としての社会的課題を発見し、それに順次アプローチをしてきたのがこの15年間だった。では逆に、なぜそうした存在が発見されたのか──。それは行政の努力だけではなく、学識の世界が既存データを掘り下げ、または諸外国の経験や知見を取り入れ、見えにくい存在をデータやエピソードを通じて明らかにしてきたこと、さらに支援現場の関係者によって支援対象者の実相と有効なアプローチの事例発見が重ねられてきた成果だと考えています。そして行政、学識者、支援者のコミュニケーションを通じて各々が認識を深め、ファクトに基づく施策展開を通じ、社会的課題としての重要性を明らかにしてきたプロセスが、この15年間だったと思うのです。

関係機関のネットワークづくりが重要

そうした認識のもとで、例えば、地域若者サポートステーション、子ども・若者育成支援推進法、キャリアコンサルタントの国家資格化なども、直接、間接に、このテーマに関わる制度化であり、支援メニューは相当整備されてきました。ただ、要支援者層が抱える困難は、課題の多様性と複雑さにその本質の一つがあります。それに対し、各々に対応する代表的な制度があって、行政的にはそれぞれの主たる目的に応じた成果が求められるという側面がある。

こうした「デマケ」の考え方と、包括的・統合的アプローチとの間には、時にはコンフリクトを起こしかねない要素があります。それらをいわば「アウフヘーベン」する概念や取り組みの一つがネットワークなのですが、それを効果的に機能させるためには、各々の基本的な役割を明確化した上で連携することが大切です。例えば、個人情報を共有するルールを整備する、連絡方法の原則は決めておくなどの基本を定め、どこまで応用するかは互いの信頼関係のなかで運用していく。できればネットワークのハブが必要であり、大きなテーマごとにハブ役をどこが担うかという大枠は整理する。行政の役割とは、こうした施策全体が機能するためのリソースの確保とルール設定であり、さらに、ルールを常にストレッチしていくというスタンスも必要だと再認識しています。


前述のとおり、就職氷河期世代への支援については若者雇用対策の延長線で対応していますが、これは施策効率性という観点や、本来若年期に達成すべき発達課題が未達成というケースが多数であるとの考え方のもとで、一定合理的であると考えています。

ただ同時に、社会通念上の若者を超えた方も同じ窓口や機関で扱うことは、互いにコンフリクトを生じさせるかもしれないという懸念が決してないわけではない。それこそ、学識の力を借りながら、さまざまな施策効果や世代・年齢効果などを峻別、抽出しながら、就職氷河期世代に対する課題と有効なアプローチの明確化を図るとともに、そこで得られたヒントが、直近の「リーマン・ショック」世代にも一部当てはまるかもしれない。そうした普遍化の営みも、ぜひこれから重ねていきたいと思っております。

GET Adobe Acrobat Reader新しいウィンドウ PDF形式のファイルをご覧になるためにはAdobe Acrobat Readerが必要です。バナーのリンク先から最新版をダウンロードしてご利用ください(無償)。