事例報告③ 生涯現役を目指して 全員参加による職場環境の改善

講演者
小野 貴洋
株式会社テクノスチールダイシン常務取締役
フォーラム名
第90回労働政策フォーラム「生涯現役社会の実現に向けて─高年齢者の活用の実態と課題─」(2017年3月21日)

当社は創業が2001年と比較的新しい会社ですが、本日は、生涯現役を目指した職場環境の改善の取り組みをご報告させていただきます。

企業プロフィール(図表1)にありますとおり、当社の事業内容は、建築用鉄骨製品の製造です。本社を栃木県宇都宮市に置き、工場は同県下野市の下野工場と埼玉県寄居町の寄居工場の2工場体制になっています。下野工場は、国土交通大臣認定の「Mグレード」工場です。従業員数は、ベトナム実習生を含めて63人が働いています。このうち60歳代が12人、定年を超えて働く70歳代も4人いて、最高年齢は76歳です。

図表1 企業プロフィール

事業内容
建築用鉄骨製品の製造 【鉄骨製品加工業】
創業
平成13年
本社
栃木県宇都宮市大曽2丁目2-42
下野工場
栃木県下野市下長田11-4
寄居工場
埼玉県大里郡寄居町大字末野129
国土交通大臣認定
Mグレード工場(下野工場)
資本金
3000万円
従業員
63名(ベトナム実習生を含む)(平成28年9月現在)
月産加工能力
1000トン(下野工場、寄居工場)

参照:配布資料2ページ(PDF:2.6MB)

当社のような小規模の建設業の場合、大手企業と異なり、処遇環境一つとっても決して魅力ある企業とは言えないなか、可能な範囲で改善を行ってきました。しかし2011年~12年に危機的な状況に陥り、根本的な改革なくして企業の存続はないと判断し、大改革に着手しました。

「Hグレード」取得を目標に

本題に入る前に、建設業界について若干ご説明します。図表2のとおり、「Sグレード」の認定工場を持つ建設企業は国内に約20社あります。「Sグレード」とは、国内における全ての建築物の製作が可能ということです。その次の「Hグレード」は国内に約230社あり、超高層ビルを除く全ての建築物の製作が可能な企業です。その後に「Mグレード」「Rグレード」「Jグレード」と続き、その数は国内に約1,550社という状況です。「Mグレード」の認定を受けた当社の現在の目標は、「Hグレード」の取得です。そのために、社員の安定した雇用環境の整備や改善を行い、企業の成長に向けた改革に取り組みました。

図表2 国土交通大臣認定工場

グレード別ピラミッド図

参照:配布資料4ページ(PDF:2.6MB)

課題に挙げたのは、①新たな企業風土の構築、②慢性的な人員不足の解消、③資格保有者の増員、④技術の伝承です。

そこで、「鐵を通じて社会へ貢献」をモットーに、社員の安定した雇用環境整備と地域に誇れる会社構築の未来発展を目指していくという長期ビジョン「アクション2030」を策定しました。この長期ビジョンを達成するために「ターゲット2020」と題して、具体的な見直しを行いました。この中で、「5S活動」の実践・徹底を図りながら、技術者・技能者の育成などにも取り組んでいます。

高齢者の戦力化──定年引き上げと退職金制度の新設

当社で働いている高齢者は非常に元気があり、こうした人たちの雇用環境の改善こそが人員不足の解消、ひいては企業の発展にもつながっていくという考え方の下、高齢者の戦力化に取り組んでいます。

「同じ仕事で65歳までは働きたい」「できるなら生涯現役で頑張りたい」という社員の声を受けて、定年を60歳から70歳に引き上げました。その後は、会社が必要と認めた場合は期間を決めて再雇用することにしました。ただし上限の年齢制限は設けていません。

次に、退職金制度を2015年に新設しました。大手企業では当たり前だと思われるかもしれませんが、当社のような中小企業では退職金制度がない会社も多くあります。こうした制度改善に取り組んだ結果、高齢者の働く環境が変わったばかりでなく、若年者の働く意欲も増したという効果も見られました。

賃金制度についても見直しを行い、60歳まで年次昇給する仕組みに変えました。定年の70歳までは60歳時の基本給を原則として維持します。その後は出勤日数により変わりますが、原則として70歳の基本給と同等の時間給になっています(図表3)。

技能伝承で世代間のコミュニケーションが活発化

当社のような鉄骨業では、溶接の技術が非常に重要なので、高齢者の技術の伝承に取り組みました。具体的には、指導役の熟練工には指導料という報奨金を設けました。さらに、資格取得者には資格手当の制度を設けました。この取り組みにより有資格者が増えただけでなく、それまでにあった高年齢者と若年者の壁がなくなり、コミュニケーションが活発化して明るい職場に変わっていきました。

続いて、作業環境の改善にも着手しました。経営コンサルタントの指導を仰いだり、「5S」を徹底している企業に全社員で見学に行ったりして、「5S」活動の真の目的は、「守ることを決めて、決めたことを守る」ことだと初めて知りました。徹底した「5S」活動の実践を通じて職場環境が変わり、そのプロセスで人が育ち「人づくりの基礎」となるということを実感したのです。当社のような鉄工所の作業現場は乱雑が当たり前ですが、「5S」活動の結果、例えば凹凸のある場所には安全てすりを付けたり、鉄の残材等は高齢者の発案により「ごみステーション」をつくり、地域に寄贈するようになりました。さらに安全衛生委員会を設立し、経験知豊かな高齢者をリーダーとして、若年者に危険な作業や場所を教え、職場全体の安全衛生を改善していくよう活動しています。

高齢者の活用が有資格者や売上の増加に

以上のような取り組みを2014年から行ってきた結果、会社がどのように変化したかといえば、2013年当時は従業員数33人、売上高(年商)15億円でしたが、2015年度には売上が31億円、従業員数も63人とほぼ倍増となりました。またHグレード取得に必要な有資格者の確保についても、ほぼ倍増しています。特に「AW溶接資格」はゼロでしたが、現在は5人が取得するまでになりました(図表4)。

図表4 Hグレード必要資格者の確保

資格者 平成24年度 平成28年度
二級建築士 2名 5名
鉄骨製作管理技術者 1級2名  2級2名 1級7名  2級4名
建築施工管理技士 1級0名  2級2名 1級2名  2級1名
建築鉄骨製品検査技術者 1名 3名
溶接WES資格 2級2名 2級4名
溶接NDI資格 レベル①1名  レベル②0名 レベル①1名  レベル②2名
溶接技能者各種 4名 8名
AW溶接資格 0名 5名

参照:配布資料18ページ(PDF:2.6MB)

当社の場合は、企業存続をかけた取り組みでしたが、高年齢者を活用することで若年者との融合も図ることができ、有資格者の確保や売上高の増加にもつながったと認識しています。まだまだ発展途上ではありますが、真剣に取り組むことで会社が変わるということを強調したいと思います。

プロフィール

小野 貴洋(おの・たかひろ)

株式会社テクノスチールダイシン常務取締役

20代より鉄構業界において、主に営業として従事する。2014年に現職に転職。現在、営業と総務職改善の責任者として従事する。

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