事例報告2 中間支援組織の取り組み

講演者
河村 暁子
東京ボランティア・市民活動センター主任
フォーラム名
第84回労働政策フォーラム「シングルマザーの就業と経済的自立」(2016年3月16日)

本日は、東京ボランティア・市民活動センターについて簡単にご紹介した後に、本センターが企業やNPOと一緒に取り組んだ二つのひとり親就労支援プロジェクトをご報告し、最後に、中間支援組の役割についてお伝えしたいと思います。

東京ボランティア・市民活動センターは、様々な社会課題を解決するために、支援が必要な人や団体と、支援をしたい人や団体をつなぎ、その活動を支援することを使命(ミッション)としています。

そのために、相談や研修、ネットワーキング・イベントの開催など、様々な事業を行っていますが、その時々の社会課題を解決するために、関係団体を集めて協働プロジェクトを立ち上げたり、災害時には、災害ボランティア・センターとしても機能しています。

本センターは1981年に設立され、社会福祉法人 東京都社会福祉協議会が運営しています。社会福祉協議会は全国の区市町村に設置されており、福祉施設や福祉団体が会員組織になっていますので、本センターは、こうした社会福祉協議会の持つ福祉関係者の全国的なネットワークとともに、企業やNPOなどの民間のネットワークも持ちながら、様々な事業を展開しています。

また、本センターは中間支援組織ということになるのですが、ひとり親支援の関係では、母子生活支援施設のような福祉施設や、女性シェルター、または当事者団体など、直接ひとり親家庭を「支援している団体」があります。一方で、民間企業やそこで働く社員の人たち、または一般市民や学校など、「支援をしたい人たち」がいます。両者をつなぎ、その活動が順調に進んでいくのを支援するのがボランティア・センターやNPOセンターといった中間支援組織ということになります。

本センターに民間企業から多くの相談が寄せられたのは1990年頃でした。当時は、日本の大企業が海外に進出し、「企業もコミュニティの一員であり、積極的に貢献しなければならない」ということを学び、「日本国内では何ができるだろうか」という相談が寄せられました。多くの企業が、環境保護やメセナ(文化・芸術の支援)などに力を入れていたのですが、「ボランティアは個人の自由意思に基づくものなので、企業として強制することはできない」という考え方から、企業は社員たちにボランティア情報を提供したり、ボランティア休暇制度を作るなどの側面的支援を行いました。しかし、その後、ボランティアをする社員の数はそれほど増えませんでした。

ITボランティア・プログラム

ところが、21世紀になると、外資系企業が次々と本センターを訪れるようになります。日本マイクロソフト株式会社(以下、「マイクロソフト社」)は、「本業のITを活かした社会貢献をしたい」ということでしたので、当時、大きな社会課題となっていたDV被害者や母子家庭への支援を提案させていただきました。

2001年にDV防止法が施行され、多くの母親たちが子どもを連れて家を飛び出すのですが、公的な施設だけでは足りず、民間のシェルターが増えていました。そして、行政はDV被害者の相談や保護に取り組むのに精一杯で、母親たちの自立支援や就労支援までは手が回らない状況でした。一方、母親たちが安定した事務職に就くためには、ワードやエクセル、メールなどが必須の時代になっていました。そこで、母親たちの就労に役立ててもらうために、基本的なITスキルを企業ボランティアが教えるという企画が生まれたのです。

マイクロソフト社からは、運営資金とソフトウェアが提供されたのですが、都内15カ所の施設やシェルターの中でパソコン教室を開催するためには、たくさんのPCやプリンターも必要となり、マイクロソフト社が日本ヒューレット・パッカード株式会社(以下、「日本ヒューレット・パッカード」)に働きかけてくれました。そして、マイクロソフト社や日本ヒューレット・パッカードと本センターの三者協働による「ITボランティア・プログラム」がスタートしたのです。

多くの企業人ボランティアの参加

本プログラムに参加した女性たちは一般のパソコン教室に行くお金がなかったり、加害者に見つかることを恐れて外に出たくなかったため、彼女たちが生活している施設やシェルターの中でパソコン教室を開催しました。そして、ITを教えるのは企業で働いている女性がよいだろうということで、第1期20人のボランティアを募集したところ、5大紙が取り上げ、マイクロソフト社や日本ヒューレット・パッカードの社員も含め300人を超える応募がありました。また、パソコンやインターネットの安全な環境を整えるボランティアも募集したところ、男性のIT技術者が50人以上集まってきてくれたのです。

こうした多くのボランティアの参加によって、年4回の「ITカフェ」という就労支援イベントも実施することができました。人材ビジネスの会社で働くボランティアによる就労講座、化粧品メーカーのボランティアによるハンドマッサージやメイクアップ講座、外資系企業からの就活スーツのプレゼントなど、ボランティアの人たちが働いている企業も応援してくださり、支援の輪がどんどん大きくなっていきました。

本プログラムには、年間約300人のひとり親(女性)が参加しましたが、ITスキルを身に付けたということだけでなく、そのことが自信になったり、ボランティアたちとの温かい交流を通して、社会に出ていく勇気を持つことができたようです。

このプログラムはその後、全国女性会館協議会と全国シェルターネットに受け継がれ、各地に広がっていきました。そして、東京では、ボランティアたちがその後も脈々と活動を続けており、今年で15年目になります。現在までに、3,000人以上の方々にITスキルを教えました。以上が、本センターが初めて取り組んだひとり親就労支援プロジェクトです。

ゴールドマン・サックス・ギブズ・コミュニティ支援プログラム

次に、現在取り組んでいる「ゴールドマン・サックス・ギブズ・コミュニティ支援プログラム」をご紹介します。世界的な金融機関であるゴールドマン・サックスも2001年に本センターにいらして、「社員がボランティア活動できるところを紹介してほしい」というご相談がありました。そこで、都内の母子生活支援施設や児童養護施設、ひとり親支援のNPOなど、様々な団体をご紹介したのですが、こうした施設・団体に行った社員の方々が、子どもたちの貧困問題の深刻さに気づき、その解決のために何か支援をしたいと再びご相談があったのです。

そこで、本センターと協働して、子どもへの貧困連鎖の防止のための三つのプロジェクトを立ち上げることになりました。

一つ目は「進学支援プロジェクト」です。これは母子生活支援施設や児童養護施設などで暮らしている子どもたちの大学進学を支援するもので、4年間の授業料全額と生活費も援助するという大型の奨学金です。そして、ただ、お金を出すだけではなく、施設のアフターケアと本センターのケースワーカー、そしてゴールドマン・サックスの役員・社員による伴走的な支援を行っています。東京都社会福祉協議会が運営している西脇基金では、児童養護施設から大学や短大、専門学校などに進学する全ての子どもに対して、毎月2万円の学費を援助していますが、本プロジェクトが始まった2010年と今を比較すると、西脇基金の新規応募者数が2倍に増えています。こうした高等教育への進学率の急増に対して、西脇基金の原資を切り崩して運用しなければならない状況になっており、奨学金を確保することが大きな課題となっています。

2番目の「ひとり親就労支援プロジェクト」も2010年にスタートし、今年で6年目になります。2年前から一般財団法人東京都ひとり親家庭福祉協議会と共催して取り組んでいます。本プロジェクトは、ひとり親のキャリアアップを支援することで、子育てや子どもの進学を間接的に支援しようというものです。

3番目は、「プロボノ・プロジェクト」と言って、プロフェッショナルな人たちによるボランティア活動です。ゴールドマン・サックスは、経営、法律、広報、人事などの専門家集団です。こうした方々がチームになって、子どもやひとり親を支援する団体の組織強化に取り組みました。プロボノ・チームは各団体の課題を分析し、解決策を提案します。そして、それを実現するための助成金も提供するというプロジェクトです。

そして、「進学支援プロジェクト」と「ひとり親就労支援プロジェクト」には、それぞれアドバイザリー委員会が設けられ、東京都のひとり親支援や児童養護の担当者や、施設長、NPO、研究者、民間企業の役員の方々で構成されています。半年ごとに開かれる委員会では、第三者評価機関のNPO法人ETIC.(エティック)が、各プロジェクトの成果や課題を報告し、アドバイザリー委員からの助言を受けながら、改善を図っています。

ひとり親就労支援プロジェクトの企画と成果

当初、ひとり親就労支援プロジェクトの対象は誰なのかを議論しました。生活保護を受けているひとり親の方たちは、施設サービスや就労相談などの行政の支援が受けられます。しかし、不安定な就労をしながら子育てをしている方たちには十分な支援がありません。また、本プロジェクトの限られた時間や資金の中でできる支援を考えると、全く働いた経験がないという方ではなく、ある程度仕事の経験がある方を対象とし、その方々のキャリアアップに取り組むことにしました。具体的には、都内在住また在勤で、18歳未満の子どもがいて、年収が(ひとり親の男性もいることを考慮して)400万円以下の方としています。しかし、参加者の多くが年収100万~250万です。また、過去1年以内に週20時間以上、そして、6カ月以上同じ職場で働いたことも条件に入れました。第6期は30人定員のところに、100人を超える方々が応募しています。

具体的な支援内容は、まず、就労アドバイザーによる個別面談を月に1回、計8回行い、「3カ年のキャリアアップ計画」をつくります。そして、参加者が約1年間のプロジェクト終了後も、自分の力でキャリアアップを続けられるように、毎回、アドバイザーが課題を与え、参加者が調べたり、考えたりすることによって、「キャリアアップ基礎力」を身に付けていきます。そして、この計画に基づき、資格取得が必要であれば、上限20万円まで助成しますし、そのための託児・保育料は上限18万円まで助成します。さらに、子どもの塾代を1年間限定で15万円出しています。

成果については、第三者評価機関であるNPO法人ETIC.の資料(当日の配付資料)をご参照いただきたいのですが、本プロジェクトに参加した6カ月後に「キャリアップの基礎力」が身に付いたと回答している方がほとんどでした。特に、将来を見通す力や計画性を習得したという結果が出ています。一方、周りの人に支援を求める力が比較的弱いという課題も挙がっています。さらに、プロジェクト開始1年後に追跡調査をしたところ、まだ、資格取得のために通学中の方が半数近くいますが、参加した当初と比べて収入がアップした人や、正社員になったり、非常勤から嘱託職員になるなど、雇用形態が向上した人が半数以上いることが判りました。

ちょうど1年前の2015年3月に、ゴールドマン・サックスにおいて行政・企業・施設・NPO・学識経験者・メディアを集めて、本プログラムの中間報告をしました。その後、参加していた企業や財団、大学から、「子どもたちの奨学金を作りたい」とか、「ひとり親を支援したい」という相談が本センターにあり、いろいろな支援事業が始まっています。また、行政も、児童養護施設の子どもたちや生活困窮世帯の学習支援や進学支援に本格的に取り組むようになってきました。

中間支援という役割

中間支援組織の役割は、支援が必要な人たちと支援できる人たちをつなぐことです。しかし、両者の間には様々なミス・コミュニケーションや文化の違いもありますので、その調整を行うことも必要となります。また、大きな企業が支援したいという時に、小さな一つの団体だけだとインパクトが小さすぎます。そこで、複数の団体のネットワークを作って企業とつなぎます。また、ひとり親支援団体が様々な支援を必要としていれば、複数の企業やNPOとつなぐことによって、多彩な支援ができるようになります。あるいは、民間セクターと行政セクターの橋渡しをする、広く社会に支援を呼びかける、ということも中間支援組織の担うべき役割だと考えています。

今後は、ひとり親支援に取り組むNPOや施設のネットワークができて、その中に、外部の支援とつながるようなコーディネート機能を持つことができれば、より多くの支援を継続的に集めていけるのではないでしょうか。私たち中間支援組織はこうした社会課題ごとのネットワークづくりやコーディネーターの育成に力を入れていきたいと考えています。

プロフィール

河村 暁子(かわむら・あきこ)

東京ボランティア・市民活動センター主任

1989年から東京ボランティア・市民活動センターに勤務し、青少年のボランティア活動や市民学習、コーディネーター研修、海外事業などを担当した後、2001年から企業各社と社会課題に取り組むプロジェクトを次々と実施し、現在に至る。1991年から1年間、米国ミネソタ州ミネアポリス市のホームレスシェルターで子どもたちの教育とレクリエーションプログラムに参加。高校時代にも1年間、米国ペンシルバニア州に交換留学し、早稲田大学第一文学部社会学科に進学。大学時代に障害のある人のボランティアをし、地域福祉やコミュニティ・ケアに関心を持つ。

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