事例報告③ お客さまの一生の思い出を創る会社になる

講演者
稲益 健二
株式会社武蔵境自動車教習所新規事業開発室長
フォーラム名
第82回労働政策フォーラム「女性活躍新法と企業の対応:働き方改革と管理職の役割」(2015年12月15日)

平成26年は過去最高の入所者に

当教習所の設立は1960年で今年55周年を迎えました。社員数は約130人で、うち女性が56人で4割強を占めています。経営理念は「共尊共栄」で、社員はもちろん、お客さま、地域への活動など、全てこれがベースになっています。

当所の取り組みをご紹介する前に、市場背景をご説明したいと思います。シート1をご覧下さい。平成元年には都内の免許取得人口が27万8,000人いらっしゃいました。それが徐々に減ってきて、平成26年には都内で免許を取得した人は半分以下の12万2,000人になっています。このように、業界全体で見ると右肩下がりの状態なのですが、当所は平成元年が4,567人のお客さまに来ていただいていたのに対し、平成26年は過去最高の6,916人に来ていただき、業界トップスリーの業績を残しています。今年はさらにこの実績を塗りかえる勢いで推移しています。

出る釘は伸ばす

経営における重点項目は、①ES(社員満足)②CS(顧客満足)③地域社会貢献─の3点が大きな柱になっています。社員が満足していなければ、お客さまに良いサービス・教習・接客を提供できないとの考え方の下、特に社員満足を重要視しています。何をもって社員満足を高めるかについては、年間の功労者やダントツ社員を表彰したり、教育や人材育成を充実させることに重きを置いています。一人ひとりになるべく多くの光を当てる経営を心掛けています。

人材育成の仕組みはシート2のとおり。中心に人事理念を明記したうえで、その周りに活動内容を列挙しています。「出る釘は伸ばす」という人事理念は少し変わっていると思われるかも知れませんが、これは性別、経験、年齢等、全て関係なく、前向きでやる気のある社員を育成して、どんどん機会を与えていこうといった考え方を表しているものです。

毎朝10分の全部署合同朝礼を実施

では、具体的にどういった人材育成に取り組んでいるかというと、様々な外部研修やOff-JT、OJTを展開しています。なかでも特に力を入れているのが10分間の朝礼です。以前は各部署に分かれて部・署長が連絡や報告をするといった場に過ぎませんでした。一方的に伝えるため、誰も聞いていないような状態だったのです。

それを約4年前に、全部署合同で10分という貴重な朝の時間に集中して行うことに変えました。この10分間を1週間に直すと50分、年間では40~50時間になります。教育でこれだけの時間を割こうとしたら、中小の一教習所ではなかなか難しい。ですが、この10分間を毎日取り組んでいくことで、それが可能になるわけです。2、3日集中して勉強しても知識等の吸収は可能だと思うのですが、やはり毎日の朝礼で実践していくものが財産になると思っています。

加点主義でお互いの長所を見る

朝礼の具体的な内容について2、3取り上げると、互いに向かい合ってお互いの長所を褒め合う「褒め褒めリレー」や、小冊子を使って仲間やお客さまに対する感謝の気持ちを伝え合ったり、前日の業務の中で気づいたことを発表し合うことなどを行っています。

こうした活動を行う背景には、教習所の「検定」の仕組みがあります。教習所に通われた経験のある人はご存知かと思いますが、教習所の検定は100点満点からの減点方式で行われます。後ろを確認していないとかウインカーを出してないとかマイナスしていくわけです。これを毎日やっていると、一種の職業病になってしまい、日々の行動自体も他人のマイナスにばかり目が行くようになって、あら探しをしてしまいます。職場でも仲間同士の悪いところに目が行ってしまうのです。それは経営理念に相反することになるので、お互いの良いところを加点主義で見ていくことに切り替えました。すると、教習の中でもお客さまの良いところに気づくようになります。

なお、朝礼の内容ではありませんが、「ありがとうカード」という、社員が互いの良いところを伝え合う取り組みも行っています。どんどん仲間同士からお客さまにまで拡大してきて、今では教習に来てくださるお客さまに対し、インストラクターが毎時間、良かったところや感謝の気持ちなどを手書きで記入して渡しています。毎月、8,000~1万枚が飛び交っている状況です。

教育業からサービス業への転換を

平成元年、現会長の髙橋が社長に就任しました。その時の第一声は「今日から、教育業を廃業してサービス業に変わります」。これが当所の意識改革の始まりです。教習所というと、非常に良くないイメージを持っている人も少なくないと思います。当所も例外ではなく、対応の良くない教習所でした。

それを「教官と教習生」ではなく、「インストラクターとお客さま」の目線で様々な意識改革を行うことにしました。例えば、運転ができない人がいたら、以前は「あの教習生、何度言ってもできない」というような会話がありましたが、今は一切そういったことはありません。全ての責任の矛先を自分に向けるようなサービスを展開しています。

このほか、教習所業界という狭い枠の中で井の中の蛙になってしまわないよう、サービス業を中心とする異業種の取り組みについて、毎月、勉強会も開いています。

女性の視点で新しいサービスを展開

サービスの内容を見ると、女性の視点で生まれたものが多いことがわかります。インストラクターは今や二輪の教習を担当する女性もいますし、手話チームを立ち上げて、耳の聞こえないお客さまに対応する人もいます。将来的には外国人にも対応できるよう、英語の勉強会なども開いています。こうしたことに取り組もうとするインストラクターのほとんどが女性です。

サービスの向上は、インストラクターだけにとどまりません。受付スタッフも、どうしたらお客さまに喜んでいただけるかを常に考え、新しいサービスを提供しています。少し高額なVIPプランを設定したり、待ち時間にネイルケアやマッサージをしたり、卒業アルバムを作成するなど、全て女性スタッフが考えています。

地域社会貢献にも女性社員を抜擢

最後に、地域社会貢献の取り組みについてお話します。教習所はやはり地域の人々の協力があってこそ経営ができると考えています。このため、日頃の感謝の思いを込めて、教習所から武蔵境駅周辺の毎朝の清掃に加え、教習所を開放して子供の安全教室や花火大会、フリーマーケット、餅つき大会等、年間を通じていろいろなイベントを開いています。当所では、女性管理職はまだ少ないですが、こうしたイベントのリーダーや、前述した施策のプロジェクトリーダーに、女性社員を抜擢していて、それがより良いサービスや活動の誕生に繋がっているのだと思っています。

プロフィール

稲益 健二(いなます・けんじ)

(株)武蔵境自動車教習所新規事業開発室長

1999年株式会社武蔵境自動車教習所入社。教習指導員資格を取得後、教習及び技能検定業務に従事。副管理者として教習指導員の教養を担当後、営業企画課長として、商品企画・各種イベント企画・広報・集客業務を担当。少子化で厳しい状況の中で、全国千数百ある自動車教習所において毎年全国ベスト5に入る業績を残す。現在は、新規事業開発室を新設し、ホスピタリティやおもてなしの精神を生かして、より地域に必要とされる事業拡大に励んでいる。

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